「太陽の神殿」と「イースI」の関係

 PC88の頃からゲームに親しんでいる古参のゲーマーにはよく知られていることですが、「イースI」は同じく日本ファルコムから発売された「アステカII太陽の神殿」(以下「太陽の神殿」と略)というAVGが下敷きとなっています。今回はその証拠をご覧に入れます。
 ちなみに「太陽の神殿」は、中米にあるマヤ文明の遺跡チチェン・イツァーを舞台に、古代文明の秘宝「太陽の鍵」を捜すAVGです。発売は1986年。「イースI」の前年でした。


両目のマスク

両目のマスク マスクオブアイズ

 「イースI」に登場するアイテムの一つ「マスクオブアイズ」。使うと敵が見えなくなるかわり、隠された入り口が見えるようになります。これをかぶってボスキャラと戦ったりと、変則プレイのお供となっていますが、これはもともと「太陽の神殿」に登場したアイテム「両目のマスク」が元ネタです。
 「太陽の神殿」では「高僧の墓」に安置された高僧の遺体がかぶっているのをむしり取ります。効果は「イースI」とほぼ同じ、ちょっと細工をすると見えなかったものが見えるようになります。
 PCエンジン版「イースIV」では「太陽の仮面」と同じ仮面ということなのか、重要アイテムとして再利用されていますが、果たしてこの出典が「太陽の神殿」であったことを知っていたかどうかは謎です。
 ついでに。実際のマヤ文明の遺跡からは、翡翠で作られた仮面がいくつか出土しています。「太陽の神殿」に登場する仮面も実物に従って、翡翠のモザイクでできているようです。しかしドット絵を見る限り、「イースI」に登場する「マスクオブアイズ」は、マヤ文明のものとはだいぶ異なるようです。


金の台座

金の台座を落とす 金の台座を拾う

 同じく「イースI」には「金の台座」というアイテムが登場します。ゲームでは開始早々、速攻で池から拾い上げてピムに2000Gで売りつけ、序盤の展開を楽にするためにあるようなアイテムでした。これももとは「太陽の神殿」に登場した重要アイテムです。
 「太陽の神殿」ではカスティーリョの宝物庫に置かれていまして、各種アイテムを拾うために必要となります。このアイテムを持った状態で、南の池で「黄金の鏡」を洗っていると、「金の台座」を落としてしまうという罠が仕掛けられています。
 実は「イースI」に登場する「金の台座」はこれのパロディです。その証拠に「太陽の神殿」の件の池と、「イースI」に登場する池は形が似ていまして、オリジナルに至っては台座を落とした位置と拾える位置まで一緒です。「太陽の神殿」で主人公が落とした金の台座を、「イースI」でアドルが拾ったというわけです。

南の池 エステリアの池

 スーパーファミコン(SFCと略)版「イースIV」では「金の台座」が古代都市復活に必要なアイテムとなっています。「マスクオブアイズ」同様、「太陽の神殿」に由来するこれらの冗談アイテムが、どちらも「IV」において、古代文明復活にまつわる重要アイテムとなってしまったのは、偶然にしてもよくできた話です。ちなみにファミコンとMSX2版の「太陽の神殿」を発売したのは、SFC版「イースIV」のトンキンハウスこと東京書籍でした。いっそ「太陽の仮面」も、オリジナルに敬意を表して「太陽の鍵」とでもしてしまった方が洒落が利いていてよかったかもしれません。
 ちなみにこの「金の台座」。ゲームでの説明によれば高さ4センチ程度で、上にのせられるのは10数センチ程度のものだけ。意外に小さかったんですね。


Templo del Sol

「太陽の神殿」オープニング ハーモニカ返還

 PCエンジン版「イースI・II」以来、レアにハーモニカを返したときに演奏してくれる曲はオープニング曲『Feena』と相場が決まってしまいました。しかしオリジナルのパソコン版でレアが演奏するのは「太陽の神殿」のオープニング曲『Templo del Sol』です。こんなところにも「太陽の神殿」にまつわるお遊びが隠れていたのです。そのせいか、今でもレアが『Feena』を演奏するのに違和感を覚える人もいるとかいないとか。


ゲームシステム

「太陽の神殿」フィールド画面 「イースI」フィールド画面

 「イースI」が「太陽の神殿」から受け継いだ一番のものは、そのゲームシステムです。「イースI」はトップビュー(見下ろし視点)のARPGです。その原型は「太陽の神殿」にありました。
 「太陽の神殿」はチップキャラを動かして俯瞰視点の広いフィールド上を移動し、建物の中に入ればその内部の様子がグラフィックで表示され、アイコンでコマンドを選ぶというAVGです。86年の発売当時、このような形のAVGは珍しく、非常に斬新なものでした。
 「太陽の神殿」「イースI」両作のメインプログラマーは、どちらも同じ橋本昌哉さんです。当時橋本さんには、PC88でフルカラー高速スクロール技術を使用したゲームを作りたいという願望があったようです。そこで「太陽の神殿」のスタイルを下敷きに画面スクロールするアドベンチャーゲームを作ろうというところから、「イースI」の企画は始まっています。当時の「プログラマー」は、現在で言うところの「ゲームデザイナー」とほぼ同義でした。専業のデザイナーではなく、プログラマーがゲームの方向を決めていた時代です。
 当時の日本ファルコム社長・加藤正幸さんは、後にインタビューで「『太陽の神殿』のシステムを使ってRPGを作ろうと思ったのがイースなんです」と語っています。この発言は、橋本さんが「イースI」を立ち上げた経緯を、社長の視点から捉えたものでしょう。

 「太陽の神殿」と「イースI」。これら数々のお遊びは、メインプログラマーが同じだったからこそできたことです。もしそれぞれ違う人がプログラムを担当していたら、「イースI」は今ともほんのちょっと違う作品になっていたかもしれません。

 「太陽の神殿」のオリジナル版はプロジェクトEGGにラインナップされています。ですので現在でも比較的容易に手に入れて遊ぶことができます。また、セガサターン版「ファルコムクラシックスII」にもリメイク版が収められています。こちらは演出が強化された他、88版をベースにより遊びやすく改良された好移植となっています。


主要参考文献

「イース通史I」 2019年 岩崎啓眞
「イース通史PLUS」 2020年 岩崎啓眞
「イースIV冒険ガイドブック」 1994年 月刊PCエンジン編集部 小学館

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