「イース外伝 滅びしものの幻影」

 「イース外伝 滅びしものの幻影」は、小説オリジナルとして作られた書き下ろし作品で、96年夏に出版されました。作者はシリーズの小説化ではすっかりおなじみの大場惑氏。物語は「ワンダラーズフロムイース」と「イースV」の間の出来事を描いていますが、もちろんゲーム化はされていませんし、ゲームを小説化したというものでもありません。文字通りイースシリーズの世界観を利用した外伝といった作品になっています。あえて言うならば「イース4.2」とでもいうべき作者オリジナルの冒険を扱った作品です。
 一言で言えば、本作はアドルとリリアが再会を果たす話です。再び二人を巡り合わせるのはダルク=ファクトと闇の一族という過去の因縁です。アドルとリリアの熱愛ぶりが描かれるのも、アドル×リリア派のファンにはうれしいところでしょう。


基本データ

ファミ通ゲーム文庫「イース外伝 滅びしものの幻影」

表紙
  • 発行:1996年 7月22日
  • 発行所:株式会社アスキー
  • 著者:大場惑(おおばわく)
  • 挿絵:池上明子
  • 定価:520円(税込)
  • ISBN4-89366-542-1

予備知識

(以下の設定は大場惑氏の小説に準拠)

アドル=クリスティン:シリーズの主人公。赤毛の冒険家。復活を遂げたダルク=ファクトと再び対峙することに。

リリア:本作のヒロイン。「失われし古代王国」の冒険で命を助けられて以来、アドルを想い続けている。今回はその身を案じるあまり大陸に渡る。

ダルク=ファクト:敵役。「失われし古代王国」では「魔」を復活させ、地上で暗躍していたがアドルに斃された。黒真珠の力で蘇り、闇の一族とともにアドルへの復讐を企む。

闇の一族:かつてセルセタを恐怖に陥れた殺戮王アレムの精鋭部隊の末裔。「セルセタの樹海」の冒険でアドルに首領を倒され離散していた。今回はダルク=ファクトと結託して再興を謀っている。

デュレン:神出鬼没の早耳屋(情報屋)。「セルセタの樹海」では何度かアドルに情報を売りつけた。金のためなら誰にでも情報を売りつけるという曲者だが、その内容に偽りはない。

フレア=ラル:ランスの村の医者。「失われし古代王国」ではアドルの手助けを借りてリリアの命を救った。リリアを大陸へと導く。

カーナ:セルセタの樹海を警備する疾風の一族の娘。「セルセタの樹海」ではアドルと協力して闇の一族を追いつめた。不穏な動きを見せる闇の一族の残党を追っている。

ドギ:元盗賊の偉丈夫。怪力を誇る。「失われし古代王国」の冒険以来、相棒としてアドルと行動をともにしている。遭難してアドルとはぐれる。

ルタ=ジェンマ:双子の女神に仕えた神官の末裔の一人。「失われし古代王国」ではアドルの冒険を手助けした。リリアにダルク=ファクト復活とアドルの危機を示唆する。

フィーナ:「魔」を封印した双子の女神の片割れ。「失われし古代王国」のヒロイン。一人の女性としてアドルを愛しているが、女神としての責務を全うするため、アドルと別れて地上を去った。本作では現身で登場しないが、陰からアドルとリリアを見守っている。

「失われし古代王国」:アドル最初の冒険。島国エステリアに700年ぶりに復活した「魔」を、かつて「魔」を封印した双子の女神とそれに仕えた神官の末裔たちと協力して倒すという話。

「セルセタの樹海」:アドルの冒険の一つ。「失われし古代王国」から2年後、セルセタの樹海を舞台に、セルセタ古代文明の復活を狙う闇の一族と戦う話。

「レドモント」:「イースIII」に登場したフェルガナの鉱山都市。

「黒真珠」:古代セルセタ文明の産物。魔力の源である一方、エステリアに復活した「魔」の元凶でもある。

「ロムン帝国」:シリーズの舞台、エウロペ地方の大部分を版図にする大帝国。首都はロムロ。

地理概念図
「滅びしものの幻影」地理概念図


物語の概要

第一章 リリアの旅立ち

悪夢

 セルセタの樹海の冒険から2年後。リリアはバルバドのブルドー診療所で看護婦として働いていた。診療所は連日、リリア目当ての荒くれ漁師たちで賑わっていた。漁師たちは盛んにリリアに言い寄っていたが、当のリリアは今でもアドルのことを想うあまり、誰かと一緒になるということは考えておらず、漁師たちの態度に困惑していた。リリアも縁談が持ち上がるほどの、年頃の女性になっていたのだ。そんな様子を温かく見守るブルドーは、リリアに長期休暇を与え里帰りを勧めた。

 故郷ランスの村に戻る前日、リリアは不吉な夢を見た。アドルが正体不明の男に倒されるという悪夢に、リリアはアドルの安否を気遣い不安になる。翌日。ランスの村へと向かうリリアの前に、早耳屋(情報屋)のデュレンが現れた。

 デュレンはアドルの消息にまつわる情報を握っており、リリアはそれを買うことにした。デュレンの情報によれば、アドルとドギはレドモントでの冒険を終えた後、海路ロムン帝国の首都ロムロを目指す途中で遭難し、アドルだけが行方不明になっているという。夢のこともあり、リリアはアドルに会いたい思いをさらに募らせた。

 デュレンと別れたリリアの前に、今度はルタ=ジェンマが現れた。ルタもリリア同様、アドルが倒される夢を見ていた。ルタは夢に現れる正体不明の男はダルク=ファクトであると述べ、ファクトが復活してアドルへの復讐を企んでいる可能性を指摘した。

 不安になったリリアは、廃坑に安置されている双子の女神像にアドルの無事を祈ることにした。女神像は何も言わなかったが、その願いを聞き入れたかのように、リリアに不思議な木の葉を託した。

 久しぶりにランスの村の実家に戻ったリリアを待っていたのは、つっけんどんな態度の実母バノアだった。境遇の変化か歳のせいか、バノアは盛んに愚痴をこぼすようになっていた。さらにいまだ風来坊のアドルを想い続けるリリアに呆れ、とげとげしい言葉さえ浴びせた。
 翌日、リリアは恩人である医者フレア=ラルの元を訪ねた。フレアはリリアが持っていた不思議な木の葉が、大陸にあるセルセタ地方のロダの木のものであると言い、さらにセルセタに寄ってみろという女神のお告げでないかと言った。

 翌日、リリアはフレアの薬草の買い出しに同行してプロマロックに向かっていた。バノアの元にいても気が滅入るだけだったし、木の葉のお告げのこともあれば、何よりアドルのことが気がかりだったのだ。フレアはリリアにアドルを追ってみてはどうかと進言した。
 二人がプロマロックのある食堂で食事をしていると、謎の男たちが強盗に現れた。そこにカーナが現れ大立ち回りを演じると、謎の男たちは去っていった。
 カーナによれば、謎の男たちの正体は樹海を逐われた闇の一族の残党で、最近は海賊として勢力を伸ばしているという。カーナはその残党狩りをしながら本拠地を探っていた。元々森に住んでいた闇の一族が急に海賊になったことに、カーナは何か理由があるとにらんでいた。
 リリアがアドルを探していることをカーナに告げると、カーナは途中まで同行することを申し出た。

 翌日、リリアとカーナはプロマロックを出発した。リリアは思いがけず大冒険に出ることになってしまったが、これも双子の女神の導きと割り切り、前途に胸を高鳴らせた。

カーナと同行するリリア

第二章 流されてまた災難

 アドルとドギはレドモントを出発して、海路ロムン帝国の首都ロムロを目指していたが、遭難して孤島にたどり着いていた。半年後、孤島から脱出したのはいいものの、嵐で再び遭難し、二人はバラバラに陸に流されてしまっていた。

 アドルは漂着した漁村で目を覚ますなり、多数の村人から覚えのない借金の返済を迫られた。話によれば数日前、村に「ロドル=クリスティン」なる人物が現れ、アドルの弟を騙り村人から金を借りたまま姿をくらましたのだという。ロドルと自分は全く関係がないと弁明しても村人は信じてくれず、結局ロドルの尻ぬぐいをする羽目になってしまった。
 アドルが漂着したのはレドモンドの遙か西、ペリエという田舎の漁村だった。アドルはこんなところでも自分の名前が知れ渡っていたことを不審に思ったが、それはロドルが現れる数日前に、デュレンがこの村でアドルのことを訊き回っていたかららしい。アドルは東に向かったロドルを追うことにした。

 ロドルは行く先々で悪さを働いており、アドルは行く先々でその尻ぬぐいをさせられた。話によればロドルは金を騙し取りながら東の港町マルセラを目指しているらしかったが、その金を使っているという気配はなかった。アドルは何者かがロドルを使って自分を陥れようとしているのでないかと勘ぐった。

 ペリエを出て十日、マルセラの手前にあるビクトールという街で、アドルはロドルが何かを企んで、広場に大人を呼び集めているという情報をつかんだ。アドルはその広場でロドルを待ち伏せすることにした。

ロドル=クリスティン

 広場に現れたロドルはアドルとそっくりだった。ロドルがアドルの冒険の資金を集めるという名目で演説をすると、集まっていた大人たちは何かに操られるかのように、次々とロドルに金を差し出した。
 そこにアドルが飛び出した。逃げるロドルを追跡すると、その先では黒ずくめの男が待っていた。ロドルは男に集めた金を手渡しともに逃げようとしたが、男は金を受け取ると、ロドルを裏切り一人逃げていった。
 ロドルは黒真珠に操られ、別人に変身していただけだった。アドルがロドルの黒真珠を破壊すると、ロドルは正気を取り戻し元の少年の姿になった。ロドルだった少年によれば、黒真珠を拾ったのは少年が住むアルム村で、それから先のことは覚えていないという。黒真珠が事件と関わっていることを知ったアドルは、背後にあるものを追って、少年とともにアルムに行くことにした。

第三章 長寿村の秘密

 アルムはペリエの北にある。ところがロムン軍による通行規制が敷かれたため、容易に先へと進めなくなっていた。二十日かけてペリエへ戻ったところで、今度はアルムへの道が通行止めとなっていた。ロドルだった少年ことニムは、夜を待って抜け道でこっそりアルムに行こうとアドルに提案した。
 いったんペリエに引き返した二人はデュレンと遭遇した。デュレンの情報によれば、ロムン軍は皇帝の命を承け、不老長寿の秘法を求めて伝説の長寿村を探しに来たのだという。また、デュレンはリリアがアドルを追いかけてきているかもしれないことを伝えた。アドルは急にリリアのことが心配になりだした。

 夜になり、二人は抜け道でアルムを目指した。ところがすんでのところでロムン兵に見つかってしまい、アドルは捕らえられた。

 アドルは牢屋がわり、アルムの涸れ井戸に閉じこめられた。兵士たちの会話によれば、間もなくロムン軍は長寿村の捜索のため、村を出発するらしい。ニムの手回しもあり、アドルは二晩かけて涸れ井戸から脱出した。

 ニムはアドルを黒真珠があった場所に案内した。悪霊が出るというので村人の多くは近づこうとしないらしい。そこでアドルは、誰かに殺された痕跡のある人骨と、その人物が身につけていた黒真珠付の腕輪を発見した。ニムが拾った黒真珠はこの人物のものらしい。アドルはこの人物が長寿村から来てここで殺されたと推理し、長寿村を探しに行くことにした。

 ロムン軍に先を越されては何かと厄介になる。原野を進むこと数日、アドルはロムン軍を出し抜き、ついに長寿村にたどりついた。

 アドルはゴルジと名乗る老人に出迎えられ、長寿村に足を踏み入れた。村に住んでいるのは相当な高齢者ばかりで、みな黒真珠を身につけていた。
 ところが来て早々、アドルは村人の葬式に参列させられた。最近村では立て続けに村人が亡くなっており、暗い雰囲気に包まれていた。

 その夜、ささやかな歓迎の宴が開かれた。宴の後、ゴルジはアドルに村に来た理由を尋ねた。黒真珠の悪用を企む者がいることと、ロムン軍が村の捜索に乗り出していることを伝えると、ゴルジは深刻な顔つきになった。さらに村の秘密に触れる話になるとゴルジは言葉を濁した。
 アドルがまどろんでいると、ゴルジの妻イドラが現れた。村の秘密を知られたからには生かしておけぬとアドルを殺そうとしたが、ゴルジに制止された。ゴルジはもはやこれまでと、村の秘密を語り出した。

 1年ほど前まで、長寿村では30人ほどの村人が平和に暮らしていた。ところがある日、村の「ご神体」こと巨大な黒真珠が黒ずくめの衣装の男たちに奪われて以来、村人が相次いで亡くなり、今や4人を残すのみとなっていた。村人の長寿は巨大な黒真珠の魔力のおかげだったのだ。
 アドルが発見した人骨は、ご神体を取り戻そうと村を出て、逆に返り討ちにあった村人のものだった。アドルは村のためご神体を取り戻すことを約束した。
 ところが翌朝、村は炎に包まれた。行く先を絶望視した老人たちが、証拠隠滅を兼ね心中を図ったのだ。アドルは村を滅ぼしてしまったことと、村を救えなかった無念さに駆られていた。
 村への道を封じてからアドルは村を後にした。村の平和を奪った黒ずくめの男たちに怒りを覚えながら。

第四章 悪霊の住む森

洞窟に乗り込むアドル

 アドルはニムが言っていた悪霊のことが気になっていた。ニムによれば悪霊はアルムの西の隣村に出没しているらしい。ロムン兵の追跡を振り切りつつ、アドルはペリエから西を目指して進んでいった。
 道中アドルはデュレンと再会した。デュレンはアドルに、西の宿場町デミタスの北にあるツーム村に悪霊が出ているという情報を売りつけた。

 ツームの悪霊は、一年ほど前から森の泉に住み着いているらしい。村に実害はなかったが、アドルが悪霊退治を申し出ると村長は快諾した。
 悪霊に会った人々の体験はまちまちで、アドルはその正体をつかみかねていた。翌朝、アドルがとりあえず件の泉に近づいてみると、苦しそうな様子のリリアが現れた。手をさしのべると、リリアは異形に姿を変えアドルに襲いかかってきた。なすすべもなくアドルは気を失ってしまった。

 気が付くとアドルはカーナに助けられていた。カーナによればアドルは泉で溺れていたという。どうやらアドルは悪霊に幻影を見せられ、泉に引きずり込まれたらしい。
 ここでアドルはカーナが少し前までリリアと一緒にいたことを知った。アドルがビクトールでロドルに追いついた頃、二人はその東のマルセラに到着し、リリアはアドルを追ってさらに東のレドモントに向かったというのだ。
 リリアと別れたカーナは、単身闇の一族の残党を追っていた。そしてツーム近辺で残党が森に入っていくのを目撃し、ここに来ていた。二人は互いの情報を付き合わせ、悪霊の正体とは闇の一族で、この森に本拠地を構え、盗み出した黒真珠を操り人々を森から遠ざけていると推理した。そこで森に張り込んで残党の動きを見張ることにした。

 張り込むうち、カーナは残党が潜んでいる洞窟を見つけた。その中にアドルは黒ずくめの男たちと、自分が倒したはずのダルク=ファクトがいるのを認めた。ダルク=ファクトは闇の一族と結託して黒真珠の力で蘇り、捲土重来(けんどちょうらい)を期していたのだ。
 その手始めがアドルへの復讐だった。ダルク=ファクトはアドルの前に現れ、二度の遭難を始めとするアドルの災難は全て自分が仕組んだ罠だと豪語した。その言葉にアドルは動揺を隠せなかったが、ダルク=ファクトを倒すべく、その依り代である黒真珠に斬りかかっていった。しかし闇の一族も一斉にアドルに襲いかかってきた。

 混乱に乗じ、黒真珠は闇の一族により洞窟外に持ち去られた。カーナが後を追って出て行くと、洞窟内にはアドルとダルク=ファクトが残された。暗闇の中で苦戦を強いられたものの、双子の女神の加護を得て、アドルはかろうじてダルク=ファクトを退けた。

 カーナに起こされてアドルは目が覚めた。アドルは洞窟の中で三日間昏倒していたらしい。安否が気になってカーナが探しに来たのだ。
 この場ではいったん退けたものの、ダルク=ファクトを完全に倒したわけではなかった。カーナにによれば、闇の一族は黒真珠とともに、ペリエに停泊してある船に移動したらしい。アドルは黒真珠を破壊すべくペリエに向かった。

第5章 待ち伏せ波止場

復活したダルク=ファクト

 リリアはビクトールにいたが、まだアドルに会えないでいた。マルセラでカーナと別れた後レドモントまで行ってみたもののアドルはいなかった。アドルを探しながらマルセラまで戻ってきたところで、ロドル騒動の噂を聞きつけビクトールまで来たものの、ここでも会えなかった。ビクトールから西はロムン軍により封鎖されており、そこから先へは進めなかった。
 アドルのことが心配ではあったが、リリアは旅を続けるかどうかで思案していた。アドルを探すなら西に向かうしかなかったが、時間も懐具合も差し迫っていたのだ。そこにドギが現れたのをきっかけに、リリアは海路西のデミタスに行くことにした。
 ところが、乗ったデミタス行きの船が、黒ずくめの男たちに乗っ取られてしまった。黒ずくめの男たちは乗客の中にリリアがいるのを認めるとその身柄を拘束した。どういうわけか、黒ずくめの男たちはリリアを探していたのだ。

 カーナとともにデミタスに戻ったアドルを待っていたのはデュレンだった。デュレンによれば、ダルク=ファクトと結託した闇の一族は、本格的な海上進出をにらんで船の調達を企んでいるらしい。アドルはデュレンから闇の一族の本拠地が、アドルが最初に流れ着いた小島の近くにあるという情報を買い取った。ダルク=ファクトがその魔力で本拠地の小島を隠蔽しているという話に、アドルは驚きを隠せなかった。
 今すぐにでもダルク=ファクトを倒しに行くと息巻くアドルを見て思うところあったのか、デュレンはビクトールまでの同行を願い出た。

 アドルとデュレンはペリエでカーナと合流した。カーナによれば、一族の船は東に向けて出航していた。デュレンは船はビクトールに向かっていると断言した。三人も漁船を調達しビクトールに向かった。ビクトールに着くなり、デュレンは二人と別れて去っていった。
 ビクトールには調査隊のロムン軍が集結し、町は物々しい雰囲気に包まれていた。そして日が沈む頃、港にロムンの軍艦が入港してきた。

 どうやらデュレンはロムン軍の動向をつかんでおり、闇の一族にビクトールに軍艦が来るという情報を流していたらしい。ところがその力が侮れないものと見るや、ロムン軍に警戒の必要性を訴えようとした。それがデュレンが急遽ビクトールに向かった理由らしい。相手を選ばないデュレンのやり方にアドルとカーナは呆れ果てた。
 やがてどこからともなく闇の一族の船が現れ、あっという間に軍艦を乗っ取ってしまった。軍艦を乗っ取った闇の一族は、集結したロムン兵めがけて砲撃を始めた。
 アドルとカーナはダルク=ファクトと闇の一族の陰謀を阻止すべく軍艦に潜入した。カーナは艦内で火薬を見つけ、軍艦爆破の準備を始めた。アドルはダルク=ファクトと再び相まみえたが、ダルク=ファクトはアドルの前に人質となっていたリリアを引き出し、その命と引き替えに投降を呼びかけた。

 リリアを人質に取られ、アドルは反撃できなかった。アドルは黒ずくめの男たちにいいように嬲られ続けた。
 ダルク=ファクトがとどめを刺そうというとき、アドルの胸の内に双子の女神の片割れフィーナの励ましの声が聞こえてきた。それをきっかけにアドルは反撃に転じた。カーナに合図を送り軍艦を爆破するとともに、ダルク=ファクトの黒真珠を破壊すると、リリアを連れて船から脱出した。轟音とともに軍艦は粉々に砕け散り、闇の一族とダルク=ファクトの野望も潰えたのだ。
 そしてリリアとアドルは、抱擁と接吻を交わして再会を喜び合った。

再会したリリアとアドル

 ビクトールのロムン軍は突然の海賊騒ぎに混乱していた。デュレンは責任が自分の身に及ぶのを恐れ、ビクトールから姿を消していた。カーナは洋上にある闇の一族の本拠地を叩く準備のため、セルセタに引き上げていった。
 そんな外の騒ぎをよそに、アドルとリリアは甘い時間を過ごしていた。リリアは二日間アドルに付き添って怪我の手当をした。愛しいアドルと楽しい時間を過ごせたと、リリアは満足してプロマロックへと帰って行った。そしてアドルも、ドギが待っているというマルセラ目指して冒険を再開するのである。


解説

 本作は実質的に「イースIV」です。「イースII」の相手役リリアや「イースI」の敵役ダルク=ファクトの再登場が示すとおり、本作は新しい冒険を扱っていながら、実際には前作の人気キャラのその後を描いた話になっています。登場人物の大半は前作に登場した面々で、むしろ前作の人物を再登場させることに主眼が置かれています。物語は基本的に前作(特に「イースI・II」)を再利用して作られていますので、その点ではゲーム版「イースIV」と変わるところはありません。
 あとがきによれば執筆にあたり、アドルの新しい冒険を読みたいという読者の反響があったようですが、当時「イースVI」はまだ影も形もありませんでした。そこで「先の話を勝手にでっち上げるわけにもいかず」このような体裁にしたのだそうです。読者は従来のシリーズを知っているという前提で書かれていますので、シリーズを全く知らない人が読んでも理解できるかどうかは定かでありません。

 とはいえ、従来のシリーズを知る読者が読んでも満足できる内容かどうかは、人によって大いに分かれるのではないかと思われます。登場人物の再利用はゲーム「イースIV」最大の問題点で、その踏み絵となりうる部分でした。そしてそれは、リリアとダルク=ファクトの再登場を大きな柱とする本作も同じです。SFC版のアドルを追いかけてくるリリアやPCE版のジーク=ファクトが賛否両論を巻き起こしたことを考えると、本作がいかなる評価を受けるかは想像に難くありません。
 また、アドルとリリアが相思相愛というのも相当に意見が分かれると思われます。誰と誰をくっつけるかという「カップリング」は、飽くまでファンめいめいの好みの問題でしかないのですが、想像の余地を狭めるカップリングの「公式見解」ができることを嫌う故、ファンの中には、ライセンス承諾を得た「日本ファルコム公認商品」でおおっぴらにそういうことをやられるのを嫌う人もいるのです。
 本作は実質的に「イースIV」です。作者による小説版「イースIV」よりも「イースIV」らしいかもしれません。「イースIV」のような雰囲気が好きな方ならばそれなりに楽しめることでしょうが、苦手な方には耐えられないと思われます。前作の登場人物を出しても、ファンが喜ぶとは限りません。むしろファンだから嫌うこともあるのです。

 物語の細部は詰めの甘さが目立ちます。例えば、本作では狂言回し的に登場するデュレンですが、同じ作者が以前手がけた小説版「イースIV」では、闇の一族と相打ちになって死んでいます。そのデュレンがなぜまだ生きているかについての説明は全くありません。
 また、作者の小説版「イースI」では、ダルク=ファクトは銀の剣で心臓を突き刺されて倒されており、黒真珠など手にしたこともなかったはずなのですが、本作ではいつの間にか、黒真珠を破壊されて倒されたことになっています。「イースII」最後の敵、ダームと混同したのでしょう。
 こうした詰めの甘さは作者にとっては些細なものであっても、ファンの目にはそれが致命的な「原作への理解と敬意の欠如」と映ります。忠実にもかかわらず大場版イースの評価が全体的に低いのは、こうした部分も大きいのかもしれません。細部に細かい矛盾が生じているとは作者の弁ですが、荒井が一読した限り、矛盾させる必要のないところで無用の矛盾を作っているようにも見えます。

 本作はこんな具合に意見が分かれそうな内容なのですが、ファンの間でも大きく話題になることはありませんでした。96年7月の発売当時、イースシリーズの勢いはすでに衰えており、見向きするファンも少なくなっていたからだと思われます。もっとも、それはある意味この作品にとっては幸いだったかもしれません。
 物語自体は構成がすっきりしていることもあって、読みやすくわかりやすいものになっています。現在はもちろん絶版で、探すのは少々難しいようです。

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