ミーちゃん

文化祭(POPCOM'90/11)

 「イース」を語る際、しばしば岩崎美奈子女史の名前が挙がります。岩崎女史は「イースエターナル」シリーズのキャラデザを担当された方で、旧来のイースフリークには特に「ミーちゃん」として知られています。


伝説の投稿娘

 「ミーちゃん」(ME-CHAN)は岩崎女史のペンネームです。同女史はプロデビュー以前の89年から93年まで投稿イラスト職人として活躍しており、この名前で「POPCOM」「テクノポリス」といった当時のパソゲー雑誌の読者イラストコーナーに数々のイースイラストを投稿していました。
 絵を描き始めたきっかけは、兄上に遊ばせてもらった「イースI」「イースII」のマニュアルイラストやヴィジュアルに魅せられてのことでした。現在ゲーム業界で活躍しているイラストレーターには、イースに魅せられてイラストを描き始めた方も多いのですが、岩崎女史はその筆頭に挙げられます。

クリスマスパーティのひとこま(POPCOM'90/01) みじゅぎリリアさん他二名(POPCOM'90/09)
ゲームとは違った豊かな表情を見せるおなじみの面々。当時のファンから女史が人気を得たのも無理はない。

 投稿イラストを年代順に見てみると、当初のイラストは都築和彦氏(「イースII」マニュアルイラスト等)の絵にそっくりでしたが、田中久仁彦氏の作とおぼしき公式イラストが広まると、次はこちらのタッチを採り入れた絵が増えてきます。デッサン、構図、背景などの画力はもちろん、模写の技量は特に巧みなものと思われます。
 高水準の技量に裏打ちされたそのイラストはかわいらしく、イースシリーズの登場人物達を魅力たっぷりに生き生きと描いたものが多く、同作品への並ならぬ愛情がありありと伺えます。そんな作風が、ゲーム中では決して見られない、贔屓の登場人物の様々な表情を見たいというファンの欲求と合致したのか、アマチュアであったにもかかわらず、瞬く間に読者の絶大な人気を得るに至ります。ですから往時のイースフリークにとっては、ある意味「準公式絵師」とも言える存在でした。

祝イースIII発売(テクノポリス'89/10)
ごく初期の投稿イラスト。「イースII」マニュアルの都築和彦氏のタッチによく似ている。

アニメ化ばんざい(テクノポリス'89/12) 今回はマジメに描いてみた(POPCOM'90/05)
初期の絵柄の変遷(左・89年12月号掲載 右・90年5月号掲載) 都築風から公式イラスト風に。


「ミーちゃん」から「岩崎美奈子」へ〜個性の模索

オリジナルだ!(POPCOM'91/01)
初のオリジナル絵。イラストレーター「岩崎美奈子」への大きな転機だったのかも。

 一方で独自性の獲得は重要な課題だったようです。やがてオリジナルキャラクターのイラストも投稿するようになっていったのですが、「テクノポリス」のイラスト批評コーナーでは「巧すぎてソツがなさすぎる」と、個性の乏しさを指摘されており、あまりに万人向けな絵柄は逆に歯ごたえのなさに転じる恐れもある、と厳しい評価をされたこともありました。この言葉がきっかけとなったのかはわかりませんが、その後はイースイラストであっても絵柄が変わっていきました。個性を模索していたのかもしれません。

看守さん(テクノポリス'91/10) エレナさん(POPCOM'92/5)
91年10月号掲載のオリジナル絵と92年5月号掲載のエレナさん。この頃から絵柄が相当に変化していく。

 アマチュア時代から、絵を描く仕事をしたかったと語る彼女ですが、念願かなって93年日本ファルコムに入社します。そこで「白き魔女」のイメージイラストや「イースV」のキャラデザなどを手がけ、98年の「イースエターナル」にもスタッフとして参加します。

英雄伝説IIIイメージイラスト イースVヒロインズ

 好きな作品を作ったソフトハウスに入り、好きな作品に制作者として参加するというのはいかにもファン冥利に尽きるようですが、より自由な創作環境を求めたのか、98年末には日本ファルコムを離れ、以来フリーランスのイラストレーターとして活動しています(「イースIIエターナル」には外注として参加している)。フリーになってからの代表的な仕事として講談社ホワイトハート文庫「足のない獅子」シリーズ(作・駒崎優)の挿絵、ゲームソフト「グランドスラム風の探索者」シリーズ(制作・グルッポワン)や「ルーンファクトリー」(発売・MMV)のキャラデザなどがあります。

クイーンズ・ガード扉絵
「クイーンズ・ガード」(2002年3月発行)扉絵。絵柄の変化は今なお続く。

 現在の岩崎女史の絵柄は「ミーちゃん」のそれとはがらりと変わっています。特に90年代後半、アトラスの「女神転生」シリーズに傾倒していた時期があり、それが以降の絵柄に大きな影響を与えています。同人誌を作ったり、アンソロジー集に寄稿していたりもしますので、そちらで知ったという方も多いのではないでしょうか。
 「ミーちゃん」時代を知る旧来のイースフリークには「昔の絵柄の方がよかった」という人も多いです。確かに昔の方が万人受けしたかもしれません。しかし個性という点に関していえば、現在の方がずっと進歩したように思われます。

「イースII」イメージイラスト 「イースIIエターナル」イメージイラスト
新旧比較(左・1991年制作 右・2000年制作)。同じでもあるし違ってもいる。

 自分の作風を求めて歩み続けるのが絵師というものならば、岩崎女史はまだその途中にあるように思われます。ともあれ、これからも素敵なイラストを数多く描かれることを期待して止みません。


参考サイト

「岩崎美奈子専題」〜「巴洛亜灯塔 Beacon of Balloa」内 小虎さん
URI:http://falcombob.yikuu.com/f_iwasaki.htm(中文)

この場を借りて同サイト管理人小虎さんにお礼申し上げます。

文頭に戻る目次に戻るトップページに戻るおまけを見る