「邪神モッコス」を引き合いに出すまでもなく、ゲームの特典に登場人物の人形を付けたり、キャラクターグッズとしてフィギュアを品揃えするということは、今やあたりまえのこととなりました。
それは「イース」シリーズも例外ではありません。PS2版「イースエターナルストーリーズ」の初回特典ボトルキャップフィギュアや、「ファルコムワールドガイド」付録のリリアヴィネット、アトリエ彩のトレーディングフィギュアは記憶に新しいところでしょう。
実はそれ以前、キャラクターグッズとして「イース」シリーズのフィギュアが盛んに出ていた時期があります。90年代前半、中国地方のガレージキット制作会社、岡山フィギュアエンジニアリング(以下岡山FEと略)が、日本ファルコムのライセンス製品として、日本ファルコム作品の登場人物のフィギュアを制作していました。
今回は、岡山FE製のフィギュア「イーススーパーコレクション」から、初期に発売された六種類を紹介いたします。
(完成図はフィギュアの箱貼付の写真を転載・組立図はフィギュア同梱のもの)
92年3月・税抜4500円
パーツ数7点(頭部・前髪・胴体・左足・両腕・スカート前・スカート後ろ)
「イーススーパーコレクション」の第一弾はリリアです。ファルコムグッズとしても最初となるキャラクターフィギュアです。手を後ろに組み、おすまし顔で立っている姿を立体化しています。
リリアは「イース」シリーズのみならず、日本ファルコムを代表するキャラクターの一人ですので、彼女が最初に立体化されたのは、順当な選択ではあります。岡山FEのイースフィギュアでも、リリアだけは後にこれ以外に三種類が発売されました。
92年8月・税抜4500円
パーツ数6点(頭部・前髪・胴体・右腕・左腕・スカート前)
次に登場したのはフィーナです。おとなしい印象の彼女には珍しく動きのある造型で、風の中はしゃいでいる姿を立体化しています。シリーズ中、パーツ数・造形的にもっとも作りやすいのがこのフィーナでないかと思われます。
97年発売の「ファルコムクラシックス」ではこれの復刻版が、抽選でゲーム購入者500名に配られました。そのせいか、ネットオークションでは比較的見かけます。おそらく、一番数が出回ったものと思われます。
ここで紹介している1/8フィギュアはどれも全高約20センチほどです(写真に写っている100円玉をご参考に)。ついでに、このフィーナを身体測定して8倍してみますと、身長155センチ、スリーサイズは上から68,44,64でした。数値だけ見ると「イースエターナル」と違ってかなり貧弱です...余計なお世話でしたね。
92年10月・税抜4500円
パーツ数6点(頭部・前髪・胴体・両腕・スカート前・スカート後ろ)
シリーズは好評だったようで、二大ヒロインの立体化だけでは終わらず、他の登場人物も立体化されました。元気に伸び上がった姿がいかにもエレナらしい立体化です。
92年11月・税抜4500円
パーツ数9点(頭部・前髪・後髪・ふさ・胴体・フード・右腕・左腕・スカート後ろ)
フィーナがいるなら片割れもということか、レアさまも立体化されています。物憂げにハーモニカを捧げ持つイラストを元にしたと思われますが、こちらは笑みを浮かべた明るい表情になっています。
原形師も、後ろに垂れている長い布の解釈には悩んだようで、肩の所に頭巾と一緒にくっついている形になっています。そのせいか造型は複雑で、パーツ数も9点と多めです。
92年12月・税抜4500円
パーツ数9点(頭部・前髪・胴体・右腕・左腕・剣・盾・膝ガード×2)
一通りヒロインが出そろったところで、ようやく主人公のアドルも立体化されました。剣と盾を手にした立ち姿の立体化ですが、表情にどこかあどけなさが残っています。
剣と盾がある分パーツ数が増えています。特に剣が柄と鐔の、面積のない部分で分割されているので、接着するのが大変そうです。
93年・税抜5500円
パーツ数14点
(頭部・前髪右・前髪左・後髪・ふさ・胴体・右腕・左腕・右足・左足・スカート後ろ・鳩・鳩右足・鳩左足)
シリーズ六番目は、二体目となるリリアです。岡山FEによるイースフィギュアは、これにさらにリリアが二種類続くのですが、そちらは1/6スケールですので、1/8スケールのイースフィギュアはこれが最後となりました。
こちらのリリアは、イメージイラストでも知られる、鳩と戯れる姿を立体化しています。1/8スケールでは最後だからか、造形は1/8スケールでは最も複雑でパーツ数も14点と最も多く、価格も他より1000円高くなっています。その上これまでのシリーズと異なり組立図が簡略化されており、組み立てには相当の腕前が要りそうです。
ここで紹介したフィギュアはどれも未完成品のレジンキャストキット、いわゆる「ガレージキット」です。未完成品ですので、もちろん自分で組み立てて、自分で色を塗らなければなりません。発売当時の定価は5000円前後で、ガレージキットとしては比較的安価な部類に入ります。
各フィギュアは顔の造型を見る限り、「ワンダラーズ」前後に描かれた、田中久仁彦氏の手になるとおぼしき公式イラストを元にしたようです。とはいえ単にイラストを立体化したというものではなく、表情や仕草に工夫が見られまして、各人物の「らしさ」がよく出ており、なかなかがんばっている造型です。ただし、レジンの経年変化か当時の型抜き技術の問題か、パーツのすりあわせはよくありません。
借り組みしたフィーナさんを横から拝見。これぐらいの溝はあたりまえ。
岡山FE製の日本ファルコム物フィギュアは「イース」シリーズ以外にも、「英雄伝説I」「英雄伝説II」「英雄伝説III」「ぽっぷるメイル」「ブランディッシュ」から、主にヒロインが立体化されていました。変わったところでは「英雄伝説II」のレイシア、「ブランディッシュ3」のアンバーといった、あまり目立たない人物のフィギュアも発売されています。ついでに、なぜか「風の伝説ザナドゥ」の人物は立体化されていません。
そもそもガレージキットそのものが大量生産品ではないため、発売当初から品薄気味だったようですが、これらイースフィギュアは90年代中盤にはすでに製造終了となっていました。現在はもちろん全部絶版です。現在入手しようとするならば、小売店の店頭在庫を地道に探すか、ネットオークションで見つけるかのどちらかでしょう。ちなみに岡山FEの直営店「VOLTAGE」にもすでに在庫はないとのことです。
ネットオークションでは時に二万円以上もの値段が付いていることがあります。完成品ならいざ知らず、もともとの定価は五千円程度です。造型は飽くまで、「五千円にしては出来がいい」という程度でしかありません。五千円ならば間違いなく入手する価値がありますが、これが二万三万となると果たして疑問です。よほど欲しいのならば止めはしませんが、ネットオークションで入手しようとするならば、それを頭の片隅に置いておくことをお勧めします。
これ以前にも、ガレージキット制作会社の草分け海洋堂が「夢幻戦士ヴァリス」(86年・日本テレネット)の主人公、麻生優子のフィギュアを出していましたが、それを考慮してもこの岡山FE製「イース」シリーズフィギュアは、ゲームキャラの立体化ではごく初期のものにあたります。この当時、ゲームの登場人物はようやく、魅力ある個性を持った存在として認知されつつありました。
もちろん以前にも、個性的な人物が登場するゲームはありましたが、それはごく少数派で、飽くまでゲームの登場人物は「主人公」「敵」「住人」といった記号の域を出ないものでした。
ところが80年代後半、技術の進歩によりゲームでも、それまでにない作り込まれた人物描写が可能となりました。凝ったシナリオで人物の性格や背景などが描かれ、凝ったグラフィックやイラストで人物の風貌が描かれるようになるに至り、登場人物に思い入れて肩入れするという行為、今で言うところの「萌え」や「妄想」ということが、ゲームでも可能になったのです。
「イース」はその先駆けに当たります。この当時誰だったか、「イース」シリーズをはじめ「エメドラ」など、個性を持った人物が物語を繰り広げるRPGを「アイドルRPG」と称していましたが、言い得て妙の表現です。
「イース」シリーズの登場人物がフィギュアになったのはそうした時代です。物語重視作品の先駆けとなった「イース」がこういう展開をしたのは必然だったのかもしれません。ゲームキャラは「アイドル」だけに文字通り、人形も作り得るようになったのです。
ただし、この当時完成品の販売は一般的ではなく、未完成品のガレージキットを売るにとどまっていました。当時フィギュアという趣味はまだまだ敷居が高く、完成品を売るとしたらそれこそ万単位の値段になったのです。そうした事情もあってか、日本ファルコム物のフィギュアは90年代中盤に一度断絶します。その頃の日本ファルコムはリニューアル路線一路で、立体化できるような新しい人物を生み出せなかったことも大きかったかもしれません。
それとは裏腹に、やがてアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」のキャラ物フィギュアや、「SPAWN」などのアメコミキャラのブリスターパックフィギュアを中心としたブームなどを経て、フィギュアは一般的なものになっていきます。今や完成品のヴィネットやフィギュアは、食玩やガチャガチャでも入手できるようになりました。
先述のモッコス...でなく(そういやKOS-MOSも元は田中久仁彦氏のデザインでした)、件の特典ボトルキャップフィギュアや、リリヴィネはそのブームの延長線上にありまして、日本ファルコム物フィギュアも、最近はゲームセンターのプライズフィギュアにまで進出することとなりました。
今でこそ一般的になったゲームキャラのフィギュアですが、ブームの遙か前、ゲームキャラの立体化が盛んになり始めたその当初に、「イース」シリーズはすでにフィギュアを出していたというお話でした。