「イース」シリーズを小説化したのは、以前紹介した飛火野耀氏だけではありません。他には大場惑氏が知られています。
大場惑氏はSF作家です。大学在籍中に創作活動を始め、1982年ナムコに入社し、仕事の傍ら商業誌デビューを果たしました。4年ほどナムコに勤めた後退社し、専業作家となっています。基本的にはSF作家なのですが、「イース」を皮切りにゲームの小説化も数々手がけています。変わったところでは元社員だった縁か、ナムコのSFC用シミュレーションゲーム「ミリティア」の脚本なども書いています。
同氏はアスキーのTRPG専門誌「ログアウト」(現在休刊)に「イースIV序章 翼あるものの肖像」を連載したことがきっかけとなり、その後イースシリーズの小説化を手がけることとなります。今回から何度かに分けて同氏の小説版「イースIV」を紹介いたします。
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舞台はセルセタ地方。高原の村ラパロに住む娘リーザは、聖域の城の主エルディールの世話にあたっている。それは一部の者を除き秘密のことだった。リーザはエルディールに憧れのような感情を抱いており、城通いを楽しみにしていた。そしてまたその日もエルディールの住まう城へと向かった。
エルディールは有翼人である。聖域の城にたった一人で住んでいた。リーザは城に着くなりエルディールの食事を整え、城の掃除をするのが常だった。それはリーザなりの誠意と敬意の証であり、またエルディールもそんなリーザを温かく見守っていた。
ふとしたきっかけで、エルディールはリーザに自分が最後の有翼人であることを明かす。リーザは彼の孤独を知り涙した。
三人のならず者がラパロを目指していた。知恵者の首領グルーダ、妖艶な女魔術師バミー、怪力自慢の戦士ガディス。三人は闇の一族の者だった。一族は樹海周縁部の不毛の地を転々とし、略奪で糊口をしのぐため、セルセタの民に忌み嫌われていた。
グルーダは世界征服を企み、城に眠る「古代超文明の大いなる力」を狙い、城主エルディールに接近しようとしていた。
リーザはいつものように聖域の城に向かったが、三人組に監視されていることには気付かなかった。三人組は催眠術でリーザから城の合い鍵を手に入れると、聖域の城へと忍び込んだ。
聖域の城でグルーダはエルディールと遭遇する。外部との接触に飢えていたエルディールは、グルーダに興味を抱き歓待する。
エルディールは以前と異なり、しきりに外の世界に興味を示すようになっていた。村に帰ったリーザは、祖父である長老にエルディールを城から連れ出すよう懇願したが、長老は聞き入れなかった。その理由はセルセタの伝説にある。長老はセルセタの伝説を語り出した。
グルーダはエルディールの懐柔に時間を掛けていた。その計画はセルセタの伝説と大いに関係があった。グルーダはバミーとガディスにセルセタの伝説を語り出す。
遙か昔。セルセタの地では有翼人が高度な文明を築いていた。人間と有翼人は平和裡に共存し、両者の交流は人間に文明の発達をもたらしたが、有翼人は自ら人間と交流を断ち衰退していった。
やがてセルセタに殺戮王アレムが現れる。アレムは恐怖と圧政でセルセタ支配を強めた。国は乱れ人心は荒んでいった。このときアレムの編成した精鋭部隊が闇の一族の始祖である。
アレム台頭と時を同じくして、英雄レファンスが生まれた。レファンスは長じてアレム打倒を決意する。レファンスには武芸や知略に長ける五人の仲間がいた。タリム、ミーユ、ラディー、スラノ、トリエ。レファンスはこの五忠臣と共に、蜂起の機会を伺っていた。
アレムは戦争に有翼人の文明を利用することを思いつき、自ら軍隊を率いて有翼人の街を占領する。アレムは有翼人に「古代超文明の大いなる力」の引き渡しを迫ったが、その悪用を恐れた有翼人は要求を拒んだ。これを知ったレファンスと五忠臣は奇襲をかけ、ついにアレムを討ち取った。
アレム亡き後、民衆に憎まれていた精鋭部隊は辺境に落ちのびていった。セルセタの民と闇の一族との反目の理由である。
レファンスは民衆の支持のもと王位に就く。有翼人もこれを祝福し「古代超文明の大いなる力」をレファンスに与えた。人間と有翼人は協力しあい、国を立て直し、堅固な城塞都市を築き上げた。セルセタは泰平の世を迎えた。
その後レファンスは、セルセタに危機が訪れた時の準備を整えて息を引き取った。
それから数百年後。ロムン帝国がセルセタを脅かした時、五忠臣の子孫達は「古代超文明の大いなる力」で城塞都市を樹海の底に沈めてしまった。人々は樹海に残されたわずかな土地に住むようになり、有翼人も聖域の城へと移り住んだ。
そしてさらに時が経ち、かつての記憶は人々から忘れ去られていった。
ラパロの村人は聖域の城に住む有翼人の世話をしてきたが、やがてそれも途絶えた。有翼人は再び人間との交わりを断って城に閉じこもるようになっていった。「超古代文明の大いなる力」が人間の手に渡る危険が高まってきたのだ。
そして、グルーダが狙っているのもまた、その力だったのだ。
エルディールに取り入ったグルーダは、バミー・ガディスとともに「古代超文明の大いなる力」を手に入れる準備を始めた。城の一角には武器庫があり、古代文明の所産である強力な武器が山積みになっていたが、それはグルーダの求めるものではなかった。
闇の一族はエルディールに秘密で、「古代超文明の大いなる力」が安置されているらしい部屋に侵入を試みたが、中の球体に跳ね返され手こずっていた。そこにエルディールが現れる。エルディールはグルーダの挑発に乗り、自らその部屋に入っていった。
部屋から出てきたエルディールは邪悪な存在として覚醒し、「古代超文明の大いなる力」の復活を目論む。部屋の中にあったものは「古代超文明の大いなる力」ではない。力は強力な封印とともにいまだ樹海の底に眠っている。封印を解くためにはセルセタを混乱に陥れなければならない。そのためにエルディールは恐ろしい作戦を提案する。
リーザは久方ぶりに城を訪れたが、変わり果てたエルディールの冷たい言葉に悲嘆する。城で三人組と遭遇したリーザは、その目的を探るべく城の地下室に忍び込み、麻袋に詰められた人間の死体を目撃する。しかしエルディールに危害が及ぶのを何より厭ったリーザは、三人組のことを誰にも打ち明けようとはしなかった。
ラパロの村では住民が行方不明になっていた。リーザの父ロドリゴは、樹海に広がる不穏な動きに不安を隠せないでいた。
ロドリゴを始めとするラパロの村の男達は、空飛ぶ魔物が村人をさらって逃げていくのを目撃する。行方不明事件の原因はこの魔物だったのだ。
エルディール達は魔物を操り村人をさらわせ、その死体を城の地下室にいる「獣母」によって魔物に変えていた。エルディールの作戦とは、村人を魔物に変えてセルセタを襲わせることだった。
魔物の出現に村は緊張に包まれていたが、長老は思うところあって、リーザを連れて村から出かけていった。
ロドリゴは魔物と戦うため、大量に武器を用意することにした。ロドリゴは魔物の動きに危機感を募らせる。
リーザと長老は樹海を横目に冠山を目指した。長老の目的は冠山に囲まれた「言告げの湖」の色を確認することだった。湖の色が真っ白になっていた。それは凶兆で、セルセタに危機が迫っていることを示すものだった。
長老はこれからの事態に備えて、大河の村ガザールに寄り道することに決めた。その途中火を噴く魔物に襲われた。危機一髪という時にカーナという娘が現れ二人を救出する。
カーナは風の村リブロットの樹海警備隊リーダーである。カーナの案内でガザールに着いた二人は、そこでもラパロと同様の事件が起きていることを知る。長老はガザールの大長老と話をするため、リーザは一人先にラパロに戻ることとなった。
リーザはエルディールを心配して城に向かった。城は魔物の巣窟と化していた。リーザは三人組がエルディールをそそのかしていることを確信する。エルディールが地下室で魔物を操っているのを目撃したリーザは悲しみ余って城から駆けだした。もはや自分にはどうすることもできない。「セルセタを踏み荒らす魔物を倒す力と知恵を貸し与えてくださいませ。」 リーザは救いを求める手紙を小瓶に詰め、川の流れに託したのだった。
リーザは無事にラパロの村に帰り着き、旅のあらましを皆に語って聞かせたが、城の中での出来事と手紙のことは秘密にしておいた。リーザの手紙がアドル=クリスティンの手に渡るのはこの半月後である。
著者・大場惑氏
大場惑氏による小説版「イースIV」は「序章 翼あるものの肖像」と「樹海に沈みし魔宮」上下巻の全三巻から成っていまして、いずれもアスペクトのログアウト冒険文庫より刊行されています。
「序章」は「ログアウト」誌第1号から6号(92年6月〜93年4月)に連載された後、単行本としてゲーム発売前に刊行されていますが、「樹海に沈みし魔宮」は文庫書き下ろしとしてゲーム発売後に刊行されています。このように発表時期や発表形態も異なっており、厳密には別個の作品なのですが、「樹海に沈みし魔宮」は「序章」の続きになっているので、全三巻と見なしてもよいでしょう。
文字通り「序章」ではリーザを主役として「イースIV」本編以前の物語を描いています。ゲーム発売前の限られた資料と情報規制の中で書かれたものなので、ゲーム本編には触れていませんが、セルセタ古代史については一章を割いて詳細に記述しています。
そこにはPCエンジン版にのみ登場する「殺戮王アレム」の名前が出てきます。作者は執筆に当たってゲームの設定資料を手に入れていたようですが、果たして日本ファルコムの原案にアレムの名があったのか、それとも入手したのがPCE版の設定資料だったのかは定かでありません。