大場惑氏の「イースIV」が全三巻で、発表時期にばらつきがあることは前回述べました。「ログアウト」誌で「序章」が終了した後、作者は小説版「イース」「イースII」を同誌に連載します。小説版「イースIV」の本編こと「樹海に沈みし魔宮」はこれら「イース」「イースII」に続く小説化で、文庫本書き下ろしとして出版されています。
「序章」の連載終了(93年4月)から「樹海に沈みし魔宮上巻」の出版(94年8月)までは1年以上間が空いていまして、その間にゲーム「イースIV」の発売(93年末)を挟む格好になっています。
そのため「序章」と本編とゲームの設定にはやや食い違いがあります。登場する街の名前はゲームと相当異なっています。「序章」が描かれた段階では、設定資料にも街の名前が明示されていなかったため、自分で勝手に名前を付けるしかなかったが、「序章」を生かすかたちで本編を小説化した結果、街の名前がゲームと異なってしまった、と作者はあとがきで述べています。また、セルセタの地理はネタバレになるとして、ソフトハウスが詳細を明かしてくれなかったため、セルセタの地形が「序章」と本編とでは若干異なってしまったとも告白しています。
|
グルーダは森で捕まえた若い男を城の地下室に連れてきた。そこにいた有翼人(エルディール)は男を「獣母」に与えた。有翼人の羽根はその心を映しだすかのように灰色に染まっていた。
エステリアでの冒険から2年。冒険家アドル=クリスティンは再びプロマロックを訪れた。
プロマロックにはロムン帝国の軍隊が進駐していた。アドルがプロマロックを訪れたのはその動きを気にしてのことだった。
アドルは酒場でデュレンと名乗る早耳屋(情報屋)に声を掛けられた。デュレンはセルセタの異変の証拠として、瓶詰めの手紙を売りつけて去っていく。文字が読めず、担がれたと激怒するアドルの前に、フレア=ラルが現れる。
フレアは万能薬の材料セルセタの花を求めてセルセタを目指していた。フレアは瓶詰めの手紙が、セルセタの異変を訴えた救いを求める手紙であり、差出人がラパロの村娘リーザであることを指摘する。アドルはフレアと共にセルセタに行くことにした。
注:「序章」にはリーザが手紙を流してから半月後にアドルの手に渡ったとあるが、ここではなぜか三ヶ月後になっている。
ロムン部隊は国境の砦に移動していた。アドルはフレアとともに国境の町キャスナンへと向かった。
アドルは単身ラパロを目指すことにしたが、国境の砦が気がかりだった。アドルはロムン兵達が娘一人を取り囲んでいるのを目撃する。しかし娘はあっという間にロムン兵を叩きのめしてしまった。娘は風の村リブロットのカーナと名乗った。
アドルはカーナから異変について聞き出そうとした。魔物の出没は認めたものの、それ以上は明かそうとしなかった。ラパロへ行きたいのなら自力でリブロットまで来いと言い残し、カーナは去っていった。一人残されたアドルはロムン兵に捕まってしまう。
アドルは砦に拘留され、クレリアの剣と鎧を取り上げられた。部隊に取り入っていたデュレンの計らいで、将軍レオと面会したが怒りを買ってしまう。ロムン部隊はアドルを置き去りにしてセルセタに移動したが、デュレンの機転でアドルは脱出する。
注:アドルが最初からクレリアの武具を手にしているのはPCエンジン版と同じ。
アドルは砦を抜け、セルセタの樹海を一望できる場所に来ると、リブロットとおぼしき場所を見定めて樹海へと向かっていった。
樹海の入り口には古代セルセタの遺跡があったが、ロムン部隊に荒らされていた。アドルはセルセタには黄金の都があったというデュレンの話を思い出す。
そこにグルーダ、バミー、ガディスが現れ、アドルに襲いかかってきた。三人の目当ては死体らしい。アドルがガディスの攻撃を退けると、三人は引き揚げていった。
魔物を退けつつ、樹海の底の泥沼の中をもがきながらアドルは進んでいった。
泥沼を抜けると、今度はおびただしい数の蛇が襲ってきた。苦戦しているところにカーナが現れ、窮地を脱する。
カーナは樹海警備隊のリーダーで、行方不明の副隊長レムノスを探していた。セルセタでは魔物による行方不明事件が多発しており、背後に魔物を操っている者がいるらしい。アドルが遺跡で会った三人組の事を話すと、カーナはそれは闇の一族ではないかと答えた。
リブロットにはすでにフレアが来ていた。フレアは荒らされる前に遺跡を訪れており、「セルセタに災い及ぶとき言告げの湖怒りに染まる。濁するのを待たず五忠臣を呼べ。」と書かれた碑文があったとアドルに話す。
長老を含め村人は余所者に口を開かず、詳しい話は聞けずじまいだった。アドルは装備を立て直すと、カーナの案内でラパロを目指した。
リブロットは樹海の道を管理していた。数年おきには道順を全て変えてしまう。外敵と内部の敵を欺くためだという。内部の敵とは度々村々を襲う闇の一族に他ならないが、異変は一族だけではとうていなしえないことだとカーナは言う。
途中、アドルとカーナはレムノスを探すため、村はずれの廃坑へと足を踏み入れた。その奥で巨大な蜘蛛の魔物を倒した二人は、その体内からレムノスを救出する。レムノスは、三人組に襲われて、城で翼の生えた男に魔物にされたと口にして気を失う。
注:プロローグで描かれたのはレムノスが魔物にされるところ。
レムノス救出で村人の信頼を得たアドルは、リブロットの長老との面会を許される。アドルがレムノスの言う有翼人について尋ねると、長老は聖域の城に有翼人の末裔が住んでいることを認めたが、有翼人が黒幕でないかと言ったのが長老の逆鱗に触れ、詳しい話を聞き損ねる。
ラパロを目指す道すがら、アドルはカーナから古代セルセタの伝説を聞き出す。かつて有翼人と人類が共存していたこと。人類繁栄の陰で有翼人が衰退していったこと。殺戮王アレムが有翼人の高度な文明を利用しようとしたこと。その近衛兵が闇の一族の始祖であること。レファンスと五忠臣がアレムを打ち倒し、有翼人とともに黄金の都を作ったこと。五忠臣の子孫達がセルセタを樹海の底に沈めたこと。
別れ際二人は共闘を約束し、カーナはアドルに連絡用の呼子を手渡した。