名作になれなかった迷作を探る〜 「イースV さまよえる砂の都 中」

 小説版「イースV」は、原案小説とゲーム同様、二部構成の間にドーマンとの対決を挟むという構成となっています。ところがドーマンとの対決に相当の枚数を割いているので、巻数と同じく実質的に三部構成となっています。上巻はサンドリア到着からケフィンを目撃するまで。下巻はケフィンの欺瞞を暴き、サンドリアに平和が戻るまで。中巻では最後の結晶を求めてドーマンとともにセーベの遺跡に向かうところから、苦難を乗り越えケフィンに行くまでが描かれ、全三巻の中でも怒濤の展開を見せます。


基本データ

ログアウト冒険文庫「イースV さまよえる砂の都 中」

表紙
  • 発行:1996年2月22日
  • 発行所:アスペクト
  • 著者:大場惑(おおばわく)
  • イラスト:池上明子
  • 定価:560円(本体544円)
  • ISBN4-89366-465-4

第五章 王家の墓

心を閉ざすマーシャ

1 贈り物

 ケフィンの遺跡探索を終えると、ドギは村の様子を心配してフェルテに戻っていった。アドルは単身ラムゼンに戻り、マーシャの元を訪ねた。ケフィンについてさらに詳しい話を聞き出そうとしたが、マーシャはかたくなに心を閉ざしており、詳しいことを話そうとはしなかった。しかしマーシャは自分がアドルの味方である証拠として、発火の術が込められた杖を渡した。

2 眠い朝

 翌朝、アドルの元にツェットが現れ、イブール一家がセーベの遺跡に向かったのを受けて、ドーマンも遺跡探索に向かっていると告げた。アドルはラムゼンに来ていたドーマン一行と合流する。

3 遺跡の扉

 イブール一家はすでに遺跡に侵入していた。遺跡内部に詳しいツェットの案内で、ドーマン一行も遺跡に踏み込んでいった。アドルはツェットの素性に疑問を感じる。

4 五つの石橋

 吸血蝙蝠が巣くう通路の先に、五つの石橋が現れた。ツェットによれば橋には落とし穴の仕掛けがあり、落ちれば命はない。同行する水夫が絶命したが、意にも介せぬドーマンの冷淡さにアドルは反感を覚える。

5 別れ道

 橋を渡りきった一行は別れ道に出た。ツェットの提案で、アドルはドーマン達とは別の通路を探索することとなった。アドルが進んだ先には罠だらけの迷宮があった。そこでアドルは、同じく侵入していたナルムの使徒団に襲われる。

6 悪しき者たち

 「賢者の術」でナルム王朝の復活を企む使徒団だけには後れをとってならないと、アドルが先に進むと、イブール一家が守護獣相手に苦戦していた。命からがら逃げ出してきた一家に代わり、アドルは守護獣に挑んだ。

7 迫る獣

 守護獣は翼を持った獅子だった。重傷を負いつつも、マーシャからもらった杖の力で、アドルは守護獣を倒す。

待ち伏せしていたリジェ

8 待ち伏せ

 セーベの遺跡はナルム王朝の墳墓で、守護獣が守っていた王の霊室に、最後の結晶「ニュクス」は置いてあった。アドルは「ニュクス」を回収し、ドーマンを捜していると、テラが結晶を奪いに現れた。今度はリジェが現れ、アドルを邪魔するなとテラに言った。
 イブール一家は、一家をケフィンに連れて行くという約束で、ナルムの使徒団のために結晶を集めていた。邪魔するなという、矛盾するリジェの言葉の真意を計りかねつつ、アドルはドーマンの元へと急いだ。

9 五つの結晶

 通路の先では、ドーマンの私兵とイブール一家が争っていた。ドーマンの私兵を倒し、一家は結晶を渡せと迫ってきた。するとドーマンは呆気なく結晶を渡してしまった。
 一家は五つの結晶をそのまま持ち逃げしようとしたが、そこにリジェが現れ、テラを人質に結晶を要求してきた。アルガはやむなく結晶をナルムの使徒団に明け渡した。ところが今度はドーマンが結晶の前に歩み出て、リジェにねぎらいの言葉をかけた。

10 共謀者たち

 実は「ナルムの使徒団」は、ドーマンが組織したもので、始めから共謀していた。ドーマンはナルム王朝の継承者にあたり、ケフィンから「賢者の術」を奪い、王朝の再興を狙っていたのだ。「賢者の術」の存在をドーマンに吹き込んだのがツェットだった。
 アドルとイブール一家はドーマンに利用されていたに過ぎなかった。ドーマンの命令で、一家は屋敷に監禁され、アドルはテラとともに、遺跡の地下に突き落とされてしまう。


第六章 王族の血

冷える地下水路でテラにマントを与えるアドル

1 闇の中のふたり

 アドルとテラが落ちたのは、墳墓の下の貯水池だった。二人は協力して出口を捜すことにした。何かと世話を焼いてくれるアドルにテラは戸惑った。

2 地下水路

 地下水路を探し歩くうち、二人の前にトピィが現れた。トピィの案内で二人は脱出に成功したが、怪我でアドルは気を失ってしまう。

3 遺跡の秘密

 気が付くとアドルはサラバットの小屋に担ぎ込まれていた。テラは一家を救出にサンドリアに向かっていた。一連の事件に、サラバットは五百年前と変わりがないと嘆いた。
 五百年前のケフィンでは、ケフィン王が善政を敷いていた。国土を狙うナルム王に対しても、「賢者の術」でナルム川の治水工事を手伝い、友好関係を結ぼうとしていた。墳墓の地下水路や貯水池は治水用の施設で、工事のありさまは「ナルムの竜退治」伝説となっている。
 ところが、「賢者の術」はかえってナルム王の野心を煽った。ナルム王に嫌気が差し、ケフィン王はさまよえる都こと王都隠蔽計画を持ち上げたが、「賢者の術」による勢力拡大を唱えるケフィンのガトー公一派は、これを潔しとせず、ケフィン王と対立した。
 ガトー公は隠蔽計画を阻止しようとしたが失敗し、ケフィンを逐われることになった。ケフィン王の背後には、ジャビルという強力な秘賢者が控えており、裏の実権を握っていた。ガトー公一派が破れたのもそのためだとサラバットは語った。

4 惨禍のラムゼン

 ラムゼンはナルムの使徒団により壊滅していた。グートによればマーシャは使徒団に連れ去られたという。アドルとグートは使徒団の船を振り切り、ナルム川を下ってサンドリアに急行した。

5 川の神様

 ナルムの使徒団はサンドリアにも手を伸ばしていたが、ニーナは無事だった。ニーナに様子を尋ねると、症状はさらにひどくなり、頭の中で年配の男がささやきかける声まで聞こえてくると言った。
 イブール一家を救出にドーマンの屋敷に向かうとアドルが告げると、ニーナは川の神様の知恵を借りることを提案する。川の神様とはトピィのことだった。

6 汚れた水

 トピィたち魚人はナルム川を汚したドーマンを恨んでいた。トピィの案内で、アドルは下水路からドーマン邸への侵入を試みる。

イブール一家救出

7 謎の部屋

 下水路はドーマン邸の実験室に繋がっていた。ドーマンは独自に「賢者の術」の研究を重ねていたのだ。テラと合流したアドルは、ドーマンとリジェの密談を盗聴し、使徒団本拠地の島で、ケフィンへの通路を開くための「月光の儀式」が行われることを知る。
 ドーマン一行が出払うのを見計らい、二人はイブール一家を救出した。一家はドーマンを阻止すべく早速島に向かった。テラはアドルに惹かれ始めていた。

8 市庁舎

 一度ニーナの家に戻ったアドルは、グートにニーナの番を任せると、島に渡るため港で船を捜した。船はことごとく焼き払われ、使える船は残っていなかったが、市庁舎に非常用の船があるという話を聞きつけ、市庁舎に向かった。
 市庁舎を占拠した使徒団を退け、アドルは一室に監禁されていたマルセリアス市長を救助した。

9 反撃

 アドルと市長は隠し通路で、捕らえられた警備兵たちが閉じこめられている部屋に向かい、救助する。アドルは警備兵たちと協力して使徒団を打ち破り、市庁舎を解放した。

10 砦の島

 市庁舎の船で、アドルは使徒団の本拠地キルプ島に潜入する。中では一足先に渡っていたイブール一家が使徒団を相手に暴れていた。アドルと一家は共闘してドーマンの元へと急いだ。

11 危険な秘術

 ドーマンの元へと続く通路は、強固な装甲を備えた機械の巨人兵により守られていた。この装甲はドーマンの研究の副産物だった。苦戦したが、アドルは巨人兵の弱点に気が付き、これを撃破する。

錬金術で変身するドーマン

12 狂気の王

 ドーマンの元にたどり着いたアドルは投降を呼びかけたが、ドーマンは聞き入れなかった。ドーマンは自ら戦うべく金色の液体を飲み、強大な狂獣に変身する。
 島に連行され、その場に引き出されていたマーシャは、その術を使ってはいけないと訴えた。ドーマンが飲んだ液体は、術を完成させるのに必要な「賢者の石」なしに飲んだ場合、何が起こるか分からないというのだ。
 変身したドーマンの力は圧倒的で、マーシャの助勢を得ながらも、アドルは苦境に立たされる。ところが万事休すというときに、突如ドーマンの肉体は異変をきたし、爆散してしまった。ドーマンはここに滅んだのだ。

結晶の力でケフィンに行くリジェ

13 ケフィンへ

 ドーマンを倒したところに、リジェとその腹心グリッドが現れた。リジェもケフィンに行くため、ドーマンを利用していたにすぎなかった。その目的はケフィン王朝を地上に復興させること。リジェは「月光の儀式」を執り行うべく、結晶を奪い去り砦の屋上へ向かった。
 そこへなぜか、来なきゃいけないような気がしたからと、ニーナが現れた。一行はリジェの後を追った。
 「月光の儀式」により開かれた道で、リジェはケフィンへ行ってしまう。リジェを追うようにして、なぜかニーナまでケフィンに行ってしまった。そこでケフィンへの道は閉ざされ、残された一行は愕然としたが、アドルはニーナの土笛が落ちているのを発見する。


第七章 理想郷への道

行き倒れ直前でアドルに救出されるドギ

1 つかのまの平穏

 ドーマンの敗北により、サンドリアは一応の平穏を取り戻したが、ケフィンの封陣が完全に解けた今、災厄はさらに深刻になりつつあった。手がかりを失いサンドリアをうろつくうち、アドルはイブール一家と再会する。
 アルガはケフィン行きをあきらめていなかった。曰く、結晶以外にもケフィンに行ける方法があるのでないかと。手がかりを求め、アドルはマーシャに会うことにした。

2 もうひとつの道

 コボルドに命じてケフィン遺跡の塔をふさいでいた「誰か」とは、他ならぬマーシャだった。マーシャによれば、その塔からもケフィンに行けるらしい。マーシャはアドルに呼び笛を渡し、後で自分も行くからと、先に遺跡に行くよう頼んだ。二人を盗み聞きしていたテラは、アルガに報告に行く。
 アドルが辞した後、マーシャはこっそり家を出た。ところがツェットに目撃されており、尾行されていることには気付かなかった。

3 失意の男

 アドルは、砂漠がラムゼンのすぐそばまで迫っているのを見て驚愕する。這々の体で砂嵐を越えてきた男に駆け寄ると、それはやつれたドギだった。
 ドギによれば、フェルテは砂に埋もれ、村人は離散し、行方も生死も知れないという。自分が村人を励ましたばかりに、村人は逃げる機会を失ってしまったと、ドギは自責の念に駆られていた。砂漠で村人を捜すと言い張るドギを見殺しにするわけにもいかず、アドルはしばらくドギににつきあうことにした。

フォレスタを蘇生させるマーシャ

4 よく似たふたり

 「封陣」がなくなったため、氷漬けのフォレスタも息を吹き返していた。ジャビルを倒すべく、マーシャはフォレスタを連れてケフィンに向かおうとする。
 フォレスタによれば、ケフィンは地上を離れた当初から、地上に悪影響を及ぼしていた。フォレスタの父オーウェルを始めとする、ジャビルによってケフィンを追われた者は地上への影響を食い止めるべく、「封陣」でケフィンを封じようとした。
 ところがケフィンでの復権を狙うガトー公にとって、ケフィンへの道を閉ざしてしまう「封陣」は不都合なものだった。「封陣」を阻止しようと、ガトー公自らフォレスタの前に現れたが、「ルミナス」の暴走により、ガトー公は絶命し、フォレスタは氷漬けになってしまったのだ。
 ところがマーシャの前に尾行していたツェットが現れ、フォレスタの身柄を奪っていった。

5 砂に埋もれた村

 砂に埋もれたフェルテに到着したアドルとドギは、井戸を掘り起こす。そこにイブール一家が立ち寄り、自分たちもケフィンの遺跡に行くとアドルに告げた。

6 様変わりした光景

 アドルとドギはべーウィン族の村の跡地に行った。ドギは跡地で休んでいたイブール一家から、ムハーバとエフィが無事らしいことを聞き出すと、アドルと別れ、村人捜しに出発した。残された一行はケフィンの遺跡に向かうが、そこもあらかた砂に埋もれていた。

7 犬笛

 アドルの提案で、一行は砂に埋もれた遺跡の入り口を掘り出すことにしたが、作業は難航した。テラがアドルの犬笛を吹き鳴らしてみると、遺跡に住んでいたコボルドの群れが現れた。

金色の舟でケフィンに向かう一行

8 ケフィンへの扉

 コボルドの協力で入り口はすぐに姿を現した。コボルドの許しを得て塔に入ると、てっぺんには金色の舟があった。一行が乗った途端、舟は空を飛んでケフィンへと進んでいった。
 一方、マーシャは、ツェットがフォレスタを連れ、ラムゼンの森から同様にケフィンに向かうのを目撃する。


解説

 小説版「イースV」は、ログアウト冒険文庫用の書き下ろし作品として、半年を費やして執筆されています。ゲーム本編はボリュームが少ないと言われていながらも、小説版は全三巻の堂々たるボリュームで、ゲーム本編の物足りなさとは無縁の読み応えです。
 大場惑氏のこれまでの小説版との大きな違いは、「イースIV」のように既存作品を小説化したものではなく、ゲーム本編と同時進行で書かれたものであることです。
 小説版はゲームとの同時発売を目指して書かれまして、それゆえの苦労もあったようです。上巻のあとがきによれば、ゲームの画面がない状態で執筆を始めたため、冒険世界のイメージ作りにかなり苦労したそうです。また、ゲームの仕様が固まるまで執筆を待つわけにはいかず、「見切り発車的に」設定を固めてから書き始めたため、ゲームとは枝葉でだいぶ違いがでたと述べています。原案小説のあらすじが採用されたのも「見切り発車」ゆえでしょう。
 確かにあらすじはゲームとは大きく異なってしまいましたが、皮肉なことに、ある意味そのおかげで、小説版はゲーム以上に出来がよくなったと言ってもよいでしょう。

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