初心者のためのクインテット入門

 イースシリーズの変遷を語る際、「クインテット」は決して外せないキーワードです。「クインテット」とはソフトハウスの名前なのですが、今回はその作品の魅力と、代表的な作品をご紹介いたします。


クインテット創立

 クインテットは、1989年4月、「イース」オリジナル制作スタッフが中心となって建てたソフトハウスです。初代社長はプログラマーの橋本昌哉氏。当初のメンバーにシナリオ担当の宮崎友好氏がいます。後に「スタートレーダー」のシナリオ担当竹林令子氏や、「英雄伝説II」のメインプログラマー秋葉紀好氏も合流したようです。
 89年というと7月に「ワンダラーズフロムイース」が発売されています。橋本氏が同作品を手がけていたことを考慮すると、相当微妙なタイミングで創立されたものと思われます。
 当時日本ファルコムは「イース」「ソーサリアン」大ヒットの熱気もまだ冷めやらず、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いで支持者が増えた時期でした。なぜそのような人気企業を辞めてまでソフトハウスを興したかについては諸説紛々です。日本ファルコムの待遇が悪かったとか、イースシリーズ以外作らせてくれないので欲求不満になったとか、やけに物騒な噂ばかりが語られていますが真相は不明です。
 ともあれ、以来スーパーファミコンを中心に、今なおゲーマーの間で佳作と語り継がれる作品の数々を世に送り出しました。


クインテットの魅力

 クインテット作品の魅力としてまず挙げられるのは、「破壊と創造」に代表される二面性を中心とした物語です。世界は二面性を備えたもので、それらは対立しながらも表裏一体であり、その関係の上に全てが成り立っているというテーマを、創造を司る存在と破壊を司る存在の対立になぞらえて描いたものが、同社の作品には多いです。
 人間はその対立に翻弄されながらも、未来に向かって生きてゆく存在として描かれています。特に、生きることに伴う痛みとか犠牲というものを、時に残酷すぎるほどはっきりと描写する点は他社の作品と一線を画します。この重いテーマ性はどの作品にも一貫して現れるもので、ここに惹かれるファンが多いです。

「天地創造」 「ガイア幻想紀」
創造主と破壊神の戦い焼死する男

 さらにクインテット作品の面白い点は、「破壊と創造」「二面性」というモチーフが物語のみならず、ゲームシステムにまで色濃く反映されているところです。ここがまさに同社の真骨頂でして、これぞクインテット節、同社の色となっています。
 見方によっては「イース」も同じテーマを扱った作品と言えます。クインテット作品はその延長線上にありますが、物語でもゲーム性でも「イース」をさらに進化させたものとなっています。
 それではクインテットの代表作をいくつか紹介いたしましょう。
(斜体部分は簡単なプロローグ)


アクトレイザー('90 SFC)

アクトレイザータイトル画面

 かつて世界では神と魔王が対立していた。ところが魔王は六匹の魔物によって、神を追いつめることに成功する。傷ついた神は天空城で眠りに就き、永い時をかけて力を取り戻すより他になかった。
 神が目覚めた時、世界はすでに魔王の手に落ち荒れ果てていた。世界に平和を取り戻すため、神は反撃を開始する。

 クインテットの初回作品です。プレイヤーは神となり、人類を導きながら悪魔と戦い、荒廃した世界を復興させていくゲームです。これではSLGの名作「ポピュラス」みたいですが、そこはさすがクインテット、のっけから変わった作品を作っています。
 プレイヤーはまず大地に降り立ち、はびこる魔物どもを掃討しなければなりません。地上に降りると横視点式アクションゲームになり、そこで悪魔と戦うこととなります。

アクションモード クリエイションモード
アクションモードクリエイションモード

 アクション面をクリアすると、一転して「シムシティ」風のSLGになります。魔物が消え大地に人類が現れるので、天空から彼らを導き、文明と文化を育てるのが、神たるプレイヤーの次の仕事です。人口が増えると神も強くなるため、次のアクション面で有利になります。こうして世界を復興させながら、最終的には魔を倒すことが本作の目的です。
 アクションとシミュレーションを取り合わせたゲーム自体珍しいのですが、アクション面で魔物を倒すことが、シミュレーション面で世界を創ることにつながるという味付けも独特で、ここにクインテットの特徴をうかがうことができます。人類を導く神と魔の戦い、というモチーフは「イース」に通じるものがあります。
 SFC発売当初に出た作品だけあって、40万本売れたそうですが、ゲームそのものはアクション面の操作性の悪さとその難易度の高さから、酷評されることもしばしばです。しかしそのユニークなゲーム内容ゆえに、この作品を愛してやまないゲーマーも数多くいます。
 この作品で忘れてならないのは音楽です。作曲は「イース」の楽曲を担当した古代祐三氏。オーケストラを取り入れたBGMの数々は、SFC初期のソフトでも群を抜いてすばらしい、と絶賛されました。


ソウルブレイダー('92 SFC)

ソウルブレイダータイトル画面

 フレイル王国を治めるマグリッド王は、世界を手に入れられるだけの黄金を手にすべく、天才発明家レオを監禁し、悪魔を召還する機械を作らせた。王はそれで悪魔デストールを召還し、世界中の生命と黄金を交換するという契約を結んでしまう。以来、地上から一つ、また一つと命が消え、やがて世界は滅亡した。
 これを嘆いた天空の神は、世界を復興させるべくその弟子を地上に遣わした。生き物の魂を蘇らせる者「ソウルブレイダー」として。

 次に紹介するのはクインテット初のARPGです。プレイヤーは神の弟子。人類の欲望ゆえに滅亡した世界を復活させるべく、神の命をうけ悪魔と戦うという内容です。
 戦闘システムは剣を振ったり、自分の周囲を浮遊する「ソウル」が発する魔法の力を利用したりと、「イース」の頃よりアクション性の高いものとなっています。
 主人公が降り立った大地には最初何もなく、魔物を吐き出す「巣」が随所にあるのみです。魔物を倒して巣を封印するごとに、何もなかった場所に人間や建物などが出現し、世界が復活していきます。しかも魔物の巣を封印しているうち、クリアに必要な経験値まで貯まってしまうというおまけ付き。ここがこの作品の味噌です。ARPGではとかく単調になりがちな戦闘を、上手に「創造と破壊」のモチーフに絡めて退屈させない作りになっています。

復興前 復興後
これがこうなる

 物語も見逃せません。天才発明家レオとその娘リーサ、レオの飼い犬ターボ、人魚の女王、山の精霊、人形のマリー、マグリッド王、魔王デストールなどなど、出てくる人物は人だけに限らず、彼らの織りなす少々ほろ苦い物語は、単純な善と悪の物語とは全く異なる感想を胸に残すことでしょう。音楽も元「ゴダイゴ」のタケカワユキヒデ氏を起用するなど、力が入っています。

マグリッド王
後悔するマグリッド王

 このように出来は非常にいいのですが、そのぱっとしない外見で損をしたタイトルです。特にパッケージアートがかなり地味で、それで売り上げを落としたとも噂されています。「アクトレイザー」ともども、激安ワゴンセールの常連でした。

ソウルブレイダー箱絵
こういうパッケージ


ガイア幻想紀('93 SFC)

ガイア幻想紀タイトル画面

 遙か昔、古代文明を担った人類は、進化を促す彗星の力を使い様々な生物を生みだしていた。しかし「魔物」を生みだしたことにより滅亡の危機に瀕すると、最後の望みを託して「光と闇の戦士」を作り出した。
 遙かな時が流れた頃。探検家オールマンの息子、テムは平凡な暮らしを営んでいた。ところが少女カレンとの出会いをきっかけに、自らの出生の秘密と世界の謎に迫る冒険に旅立つことになる。

 「ガイア幻想紀」はクインテットの代表作とも言えるARPGです。キャラデザに「ポーの一族」「11人いる!」などで知られる少女漫画家萩尾望都氏、シナリオにSF作家の大原まり子氏を迎えています。
 主人公のテム少年は、消息を絶った探検家の父オールマンの導きで、友達のロブ、モリス、エリック、城の姫君でおてんば娘のカレン、ちょっとおしゃまな少女リリィ達と、世界の遺跡を巡る冒険の旅に出ます。
 物語自体は、様々な危険やロマンスを経験して少年達が成長していく様を描いたちょっぴり切ないジュヴナイルですが、一時の存在にすぎない人間が、進化と輪廻の渦の中で必死に生き抜く様を描いたシナリオが、物語に重みを与えています。

真っ赤なウソ 戦士フリーダン 果てない命
カレンとの出会い戦士フリーダン果てない命

 ゲームシステムは「ソウルブレイダー」からさらに進化しています。豊富なアクションは言わずもがな、訳あってテムは戦士に変身することができます。テムの時と戦士の時と使える特技が違うので、それを駆使して罠をかいくぐり、ダンジョンを攻略していきます。ダンジョンを攻略すれば自動的にレベルアップする仕組みなので、プレイヤーは経験値稼ぎに煩わされることなく謎解きを堪能することができます。操作性も至って良好。爽快なアクション戦闘が楽しめます。

髪がなびく
なびくのにも意味がある

 本作の売りは五感に訴える謎解きです。風のある場所では髪がなびき、滝に近づけば轟音がするという芸の細かさ。この小さな変化さえ、謎解き上ちゃんと意味があるので、プレイヤーはテムの感覚を想像し、画面上のわずかな変化を感じ取らなければなりません。
 発売された時期は93年末。「ドラゴンクエストI・II」「ロマンシング・サガ2」「イースIV ザ・ドーン・オブ・イース」といったビッグタイトルに隠れた感は否めませんが、名作として今なお評価の高い一本です。


天地創造('95 SFC)

天地創造タイトル画面

 かつてこの星では光と闇が争っていた。二つの力はぶつかりあい、星に進化と退化、発展と衰退をもたらした末、地表から全てを消し去り、お互い永い眠りに就いていた。
 「地裏」にある小さな村、クリスタルホルム。いたずら好きの少年アークは毎日を自由気ままに過ごしていたが、ひょんなことがきっかけで、村の外に旅立つことになる。それは世界の運命を左右する冒険の始まりだったのだ。

 クインテットARPGの集大成とも言える作品がこの「天地創造」です。地表の裏の世界「地裏」にある村クリスタルホルム一番の暴れん坊少年アークは、村の掟を破り禁断の小箱に手を触れたがため、まさに天地創造の謎と陰謀を巡る大冒険に旅立つこととなります。
 アークは世界と生物を復活させ、さらに都市を発展させながら冒険をしていくのですが、その途中「これでいいのだろうか?」と思わせる場面に幾度となく出くわします。繁栄とは何か、生命とは何か。そして生きることとは。この作品でも、創造主と破壊神の対立に翻弄されつつ、強くたくましく生きる生命の姿が描かれます。

地裏フィールド 大陸復活 焦げたアーク
地裏フィールドマップ大陸復活デモ実況つきアクション戦闘システム

 「天地創造」はクインテット最後のSFC作品だけあって、それまで培ってきた技術が惜しみなく投入されています。SFCの拡大縮小機能を駆使して奥行きを表現した地裏フィールドマップ、8Mもの容量を費やした復活デモのグラフィックスは発売当時話題になりました。アクション戦闘システムはさらに進化し、豊富なアクションを簡単操作で繰り出せるのはもちろんのこと、敵の様子を文字で実況するなど、ARPGでは面白い試みを取り入れています。
 32Mでも容量が足りなかったのか、物語がややボリューム不足のような気もするのですが、それでも、佳作であることに変わりはなく、今なおリメイク要望の強い作品となっています。
 キャラデザは「ドラゴンクエストロトの紋章」「雷火」などで知られる漫画家藤原カムイ氏。奇しくも角川スニーカー文庫版「イース」の表紙を描いていらした方です。


ソロ・クライシス('98 SS)

ソロ・クライシスタイトル画面

 昔、人間は神の祝福のもと、繁栄を謳歌していた。ところが、いつしか堕落する人間が現れた。神はこれを嘆き改心を促すべく世界を二つに分け、心正しき者を表の世界に、堕落した者を裏の世界に追いやった。裏の世界の人間たちは神を呪うあまり悪魔を生み出し、自らを魔物に変えてしまった。
 もはやこのままでは人間を救えない。神は表と裏の世界をつなぐ「門」を設け、表の者たちを裏の世界に向かわせた。ところがこれを好機と、魔物たちも表を支配すべく進軍を始めていた。かくして神と悪魔、表裏一体の戦いが幕を開ける。

 クインテットのテーマ性がもっとも色濃く出た作品として「ソロ・クライシス」を挙げておきます。セガサターン用の戦術級SLGで、プレイヤーは神となり、僕たる人類を導き魔を倒すこととなります。見た目とモチーフはさきほどの「ポピュラス」に似ていますが、やはりクインテット、ただの「ポピュラス」もどきではありません。
 戦場となるフィールドはちょうど一枚の板のようなもので、神はその表を、悪魔は裏を支配しています。それぞれ奇跡を起こしてはフィールドを自分に有利なように作り替えるのですが、たとえば地表を陥没させれば裏側の同じ場所が隆起し、穴をあければ裏表を往来できるようになったりと、フィールドはまさに表裏一体で、裏表の変化が反対側に即反映されるため、プレイヤーはそれを考慮して戦略を考えなければなりません。「脳の裏側、使ってる?」というキャッチコピーは言い得て妙です。

伏魔殿打ち壊し 魔文語解読
地裏での戦い魔物語解読

 また、特筆すべきは魔物語解読システムです。魔物は魔物の言葉を使っており、フィールドの裏にいる魔物の言葉に耳を傾け、それを解読することで悪魔の作戦を先読みし、戦術に生かすことができるというものです。また魔物語を覚えれば裏側でも奇跡が起こせるようになり、戦いに役立てることができます。
 宮崎友好氏は、物語の全容を把握するためには、神と悪魔それぞれの側面からの両面的な認識が必要であるとの考えから、この魔物語システムを考案したそうです。それはかつての「イースII」最大の発明であり、物語に幅を持たせたとも言える「テレパシー」の魔法の流れを汲むものです。
 操作系や画面表示がやや不親切で取っつきが悪く、誰にでもおすすめできる作品ではありません。しかし、クインテットの色である二面性というテーマがもっとも端的な形で現れた作品で、個性が光ります。


「五重奏」

 クインテットとはもともと音楽用語で、五重奏という意味です。橋本氏がたびたびインタビューで答えていますが、ソフト制作を音楽の五重奏にたとえたことが社名の由来です。
 「プログラマー」「企画」「グラフィック」「サウンド」「プロデューサー」。ソフト制作には、この五つのパートの調和が欠かせません。五者が協力して妙なるハーモニーを生み出すようにとの願いを込め、五重奏という意味の言葉を社名にしたようです。
 ところで、日本ファルコムの全盛期、まだ「イース」スタッフが日本ファルコムに在籍していた頃に出た作品「ドラゴンスレイヤーIV」(87年)では、スタッフロールの最後に「QUINTET」の文字が出てきます。ゲームの主役が5人ということも一つの理由なのでしょうが、クインテットの名前が日本ファルコムの開発チーム名だった可能性をほのめかしています。

注:「DSIV」のスタッフロールには橋本氏と宮崎氏どちらの名前もクレジットされていないので、「DSIV」スタッフがクインテットになったわけではない。


日本ファルコムとの因縁

 日本ファルコムの「イース」シリーズと、クインテットの作品は発売時期が接近することがしばしばでした。
 「ガイア幻想紀」は「イースIV」、「天地創造」は「イースV」、「グランストリーム伝紀」(制作シェード・シナリオ宮崎友好)は「ファルコムクラシックス」、「ソロ・クライシス」は「イースエターナル」。偶然ではあるのでしょうが、ここに因縁みたいな物を感じずにはいられません。
 「世界は間違った進化をしてしまった」とは「ガイア幻想紀」シナリオの一節ですが、これがキャラゲーとなりはてた当時の「イース」シリーズを指し示してるような気がするのはなぜでしょう。


その後のクインテット

 もちろん、紹介したもの以外にも作品はあるのですが、自社オリジナルタイトルはサターンの「Code R」(’98)を最後にぷっつりと制作が途絶えています。
 その後ドリームキャストの「ゴジラジェネレーションズミレニアムインパクト」、プレイステーションの1500円シリーズ「ゼロヨン」、ゲームボーイアドバンスの「マジカル封神」などを手がけていますが、最近はこんな具合に下請けで細々と制作しているようです。ゲームや携帯電話用アプリケーションなどにも関わっているようですが、下請けゆえの「守秘義務」があるようで、その仕事ぶりが表だって宣伝されるということは少ない模様です。
 自社ホームページも99年からほとんど更新されていませんし、気がつけば社長も橋本氏から宮崎氏に変わっており、いったい何があったのか気になるところですが、ともあれ、残念ながら、現在往時ほど目立った動きはありません。

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