あの頃、私は世界中あらゆる場所をさまよい歩いていた。希望は常にそこにあるはずだと。
「ワンダラーズ・フロム・イース」キャッチコピーより訳出
「ワンダラーズ・フロム・イース」(以下「ワンダラーズ」と略)は、イースシリーズの第3作目として、1989年7月にPC88版が発売されました。見下ろし視点(トップビュー)の体当たり戦闘システムを採用した前二作「イース」「イースII」からがらりと変化し、横視点(サイドビュー)でアクション性の強いARPGとなっています。注ぎ込まれた技術力は当時のパソコンゲーム屈指のもので、従来のパソコンゲームでは見られなかった豊富なアクションと、奥行きを表現した多重スクロールが評判になりました。
発売当初はその豹変ぶりに戸惑うファンが続出し、賛否両論を巻き起こしたことは以前書いたとおりですが、そのせいか、この作品はイースシリーズとしてもゲームとしても、きちんと評価されることが少なかったように思います。ファンの間でも好き嫌いがはっきり分かれ、人によって評価がまちまちなのです。
そもそも「ワンダラーズ」とはどんな作品だったのでしょうか? 今回はいまさらながら、それを確かめてみましょう。
(「ワンダラーズ」の画面写真はすべてMSX2版)
日本ファルコム 価格はいずれも8700円
「失われし古代王国」の冒険から2年後。アドルはダームの塔で出会ったドギと共に旅を続けていた。途中ドギの故郷フェルガナ地方がモンスターの出現や不作といった異変に見舞われているという噂を聞きつけ、二人は真相を確かめるべくフェルガナの中心都市レドモントに向かうことになった。アドルは新しい冒険を予感していた。
注:オープニングデモでは前作の3年後の話となっているが、マニュアルとゲーム中のメッセージでは2年後となっている。「失われし古代王国」の時点でアドルの年齢は17歳なので、19歳という本作の設定を考慮するとここは2年が正しい。
レドモントに到着するなり、アドルは町の財源ティグレー採石場がモンスターの襲撃を受け、町の責任者エドガーが逃げ遅れたことを知る。救出に向かったところ、アドルは採石場内で不思議な彫像を手に入れる。エドガーは採石場の奥にいたが、邪魔をするなと若い男に詰め寄られていた。
レドモントに戻ると、ドギの幼なじみの少女、エレナ・ストダートが音信不通の兄チェスターを心配していた。エレナはチェスターがバレスタイン城に仕えており、イルバーンズの遺跡に出入りしていることを突き止めていた。ドギは昨日から遺跡に行ったきりになっているピエール神父の身を案じていた。ドギとエレナの頼みでアドルは遺跡に向かった。
アドルは遺跡で、エドガーに詰め寄っていた男と神父が言い争う様をたまたま立ち聞きしてしまう。しかし見つかってしまい、男に遺跡地下の溶岩地帯に突き落とされる。この男こそエレナの兄チェスターで、城の計画のため彫像を捜していた。アドルは溶岩地帯の奥で別の彫像を発見する。そこに三度チェスターが現れ、邪魔をするなとあわや決闘になりかけたが、遺跡に来ていたエレナの訴えでチェスターは去っていった。
彫像を携えて町に戻ったアドルは、城の人間が彫像を狙っていることをエドガーに教えられた。そして城の者の手に渡る前に採石場の奥に眠る彫像を持ってくるよう頼まれる。再び向かった採石場で、アドルはフェルガナ一帯に伝わる魔王の伝説を知ることになる。かつてフェルガナにガルバランという強大なモンスターが君臨し、暴虐の限りを尽くしていたが、ある時一人の男が彫像の力でガルバランを封印した。その彫像こそガルバラン復活の鍵を握るものだった。フェルガナの異変の数々はガルバラン復活の予兆だったのだ。
採石場より彫像を回収したアドルは、彫像を巡りエドガーがバレスタイン城城主マクガイアに脅されているのを目撃する。マクガイアは世界制覇をもくろんで、彫像を手に入れガルバランを復活させようとしていた。アドルはエドガーの依頼で、エルダーム山脈に住むドギの師匠の元を訪れた。アドルは彼の協力を得て最後の彫像を手にするが、彫像を奪うべく現れたチェスターと共に洞窟に閉じこめられてしまう。これも何かの機会だと、チェスターはアドルに請われてすべてを語り出した。
1年前、チェスターとエレナの住んでいた村がバレスタイン城の者により壊滅させられた。兄妹はその唯一の生き残りだった。チェスターは復讐のためバレスタイン城に潜り込み、そこでマクガイアのガルバラン復活計画を知った。ガルバラン復活によるマクガイアの自滅。それこそがチェスターの狙いで、マクガイアに手を貸していたのはそのためだった。しかしアドルはそれに伴う犠牲の多さを訴えた。救助に駆けつけたドギも、かつて「フェルガナ地方を世界一の街にする」と夢あふれていたチェスターの変貌を悲しんだ。チェスターの心は変化していった。
町に戻ると、マクガイアが実力行使に出ていた。町の住人を人質にとり、彫像を引き渡せという。アドルは人質救出のためバレスタイン城に向かった。城には兄を捜しにエレナも来ていた。ところが城はモンスターであふれかれり、すでに壊滅状態だった。ピエール神父を始めとする人質を救出したアドルは、マクガイアの腹心ガーランドと対決する。ガーランドはガルバランの残党で、その復活のためマクガイアを利用していたにすぎなかった。
ガルバランは復活していた。アドルが帰途についたとき、ガルバランはアドルの目の前でエレナを誘拐し、身代として彫像をガルバラン島に持ってこいと要求する。
城を後にして、アドルは無力感にうちひしがれていた。ガルバランの復活を許したばかりか、なすすべもなくエレナもさらわれた。自分は何のために戦っていたのか、自分は本当に強い人間なのだろうか、と。しかしドギの言葉に励まされ、自分が冒険家である存在理由を賭け、エレナ救出と打倒ガルバランのため、危険を承知でエドガーにガルバラン島行きを志願する。エドガーは引き留めたが、その熱意に動かされ、ガルバラン島行きを承諾した。
アドルは小舟で島に上陸した。島には事態の責任をとるべくチェスターも来ていたが、ガルバランの攻撃を受け負傷する。ガルバランは彫像を渡さなければエレナとチェスターを殺すと脅してきたが、アドルは二人を殺せば彫像は渡さないと言い放ち、ついにガルバランとの最終決戦に臨んだ。
死闘の末ガルバランは倒されたが、チェスターは島を沈めるべく中枢部に向かっていた。チェスターが助かる見込みは極めて薄い。アドルが救出に向かおうとすると、エレナが制止した。
エレナが住んでいた村の民は、ガルバランを倒した勇者の末裔にあたった。そのために滅ぼされたのだが、村が壊滅した今、もはやチェスター以外に、ガルバランを永久に封じることができる人間はいなかった。エレナにはチェスターの覚悟がわかっていたからこそ、どんなに辛くとも兄を止めることができなかった。エレナの気持ちを察したアドルはチェスターを残したまま、二人で島を脱出した。閃光と共にガルバラン島は消滅し、すべては終わった。
朝早く、町の人々に惜しまれながらアドルとドギは町を出ていく。エドガーはレドモントを世界一の貿易都市にしてみせるとアドルに約束した。チェスターの遺した夢は、町の人々に託されたのだ。バレスタイン城で人質になっていた少年ボブは、アドルのおかげで人生に夢ができたと喜んでいた。「僕の生き方を見て、みんなが夢を持ってくれたら。」 それが冒険家アドルの夢だった。
出発間際、アドルの前に現れるエレナ。ドギの説得でアドルに別れを告げに来たのだ。エレナに見送られ、アドルとドギは再び新しい冒険へと旅立っていった。
シリーズの主人公である冒険家。本編では19歳。エステリアでの冒険から2年後、ドギの故郷フェルガナ地方でガルバラン復活計画に巻き込まれ、冒険家として成長を遂げる。
腕っ節が自慢の元盗賊。「イース」ではダームの塔で罠にかかったアドルを救出した。エステリアでの冒険以降アドルと共に旅を続けている。旅先で故郷フェルガナ地方の不穏な噂を聞き、アドルをレドモントに導くこととなる。その言動はアドルやストダート兄妹の心の支えとなった。
ドギの幼なじみでエレナの兄。半年前に町を出て、バレスタイン城に仕えている。一年前、城の者により住んでいた村を滅ぼされ、目の前で両親と仲間を失ったという悲しい過去を背負っている。その復讐のため城に潜り込み、城主のガルバラン復活計画に手を貸していた。当初計画を邪魔するアドルと対立していたが、エレナやドギの説得で次第に自らの過ちに気がつき、最後には責任をとるべく自らを犠牲にしてガルバランを封印する。エレナ共々、ガルバランを封じた勇者の末裔にあたる。
ドギの幼なじみでチェスターの妹。17歳。音信不通になった兄の身を案じ、その捜索をアドルに依頼する。兄共々村唯一の生き残り。チェスターの悪事に胸を痛め、彼に会うため危険を顧みず遺跡や城にまで足を運び、時にアドルを危機から救うこともあった。この事件で唯一の肉親チェスターを失うが、強く生きてゆくことを決意する。
レドモントの町の責任者。ガルバラン復活を阻止していたため、城主の脅しをうけていた。アドルに彫像の捜索を依頼する。事件収束後、チェスターが遺した夢をアドルに託される。
ガルバラン復活阻止のためエドガーと協力している。イルバーンズの遺跡で彫像を捜していたところをチェスターに捕らえられる。その後バレスタイン城の地下牢に閉じこめられていた。
ドギに武術を教えた師匠。エルダーム山脈中腹に一人で住んでいる。アドルに彫像の在処を教える。
バレスタイン城の城主。ガーランドの進言でガルバラン復活による世界征服を企む。そのためにストダート兄妹の村を壊滅させたことで事件の端緒を作る。しかしその結果ガルバランの一味に城を落とされるに至り、己の行為の愚かさを悔いた。
マクガイアの腹心。その正体はガルバランの残党。マクガイアの野心を利用して、ガルバラン復活を企てた張本人。ガルバランの最高幹部的存在で、二度にわたりアドルの前に立ちはだかる。
かつてフェルガナ地方に君臨した恐怖の魔王。四つの彫像の力を得た勇者に封じられていた。伝説の存在となっていたが、フェルガナではいまだに恐れられている。最後はアドルに倒され、チェスターにより永遠に封印される。