柏木峠は上山市赤山と高畠町二井宿を結ぶ峠である。どちらかというと陰の薄い峠なのではあるが、一度当地を訪ねてみれば、強烈に記憶に残ることは間違いない。
峠は県道13号線と国道113号線をつなぐ県道268号・楢下高畠線の途中、上山市と高畠町の境にある。現在はトンネルが開通しているのだが、それと並んで旧道が残っていることが知られている。今回はその旧道区間を上山側から追ってみよう。
旧道入り口は柏木地区を出てまもなく、件のトンネルの少々手前にある。小さい上藪に埋もれかけているため、全く目立たずわかりづらい。入り口の直前には分岐を示す警戒標識が立っているのだが、これがなければどこが入り口だかさっぱりわからなかった。
とりあえず旧道に足を踏み入れると、緑のトンネルが続いている。路面は少々荒れているが、このへんを見る限り、まだまだ普通に通れそうな気がする...このへんだけならね...
距離こそ短いものの、峠はカーブが多い。登りでも下りでもいくつも急なカーブを通ることになる。
路面が湿って藻が生えている場所に遭遇。このへんからそろそろアヤしくなってくる。
峠はおおよそ全線にわたって舗装済みである。「舗装状態」に限れば、概してそんなに悪くはない。
こんな具合にガードレールが残っているところもあって、以前は自動車が通るような道だったことがわかる。
道路の半分を塞ぐ倒木に遭遇。進むにつれ、道は次第にひどくなってくる。
上と左右から薮が迫る。肩身を狭くしながら先へ進む。
画像ではわかりづらいが、法面の灌木が茂りすぎて大きく道に張り出し、もはや密林となっている。本来ここも道だったことが信じられん。
路面を覆い尽くさんとするススキの薮。もはや舗装は人一人分ほどの幅しか見えていない。
突破すると少し薮が退けた。地獄に仏。
あるカーブにさしかかると、やけにいかめしく補修された法面が現れた。この旧道が現役だった頃に補修されたものだろうが、通る者も少なくなった今では、そのいかめしさがもの哀しい。
再びススキ薮に突入。上山側は薮地帯と薮の少ない地帯が交互に現れる。
道の中央から草が生えているところに遭遇。荒廃は相当に進んでいる。
一方薮のないところはさすがにかつての車道らしく、幅もそれなりに広く非常に状態がよい。この道が現役だった頃は、おそらく全線こんなかんじだったのだろう。
だいぶ上へ登ってきたところで、山道への分岐とともに「止山 入山禁止」の看板を発見。どうやら峠の付近は近隣の人々の山菜山になっているようだ。くれぐれも勝手に山菜やキノコを採ったり、ゴミを捨てるようなことはしないように!
というわけで薮に脅かされつつ、なんとか鞍部に到着。付近は薮もなく、往年の姿を留めていた。何の標識もないが、鞍部は上山と高畠の町境になっている。
しかしかたわらの側溝は枯れ葉で埋め尽くされ、ガードレールは埋もれかけていた。
峠から展望はほとんど開けない。背伸びしてようやく林の合間から、かすかにふもとが見える程度だった。
峠に関する伝承は少ない。二井宿の大社神社で祭が開かれた際、上山や山形から大勢の見物客がこの峠を通ってやってきたとか、近隣の村人が三山参りや蔵王詣に行く際通り道にしたと伝わっている程度である。
柏木峠は東に金山峠、南に二井宿峠を控えている。ちょうど二つの峠口を結ぶ道の中間に柏木峠があるので、峠は羽州街道と二井宿街道を結ぶ道として発達したと考えたくなるが、三つの峠の位置関係や、干蒲の追分(金山峠の記事をご参考に)が近くにあることを考えると、そうでもないような気もする。
おそらくは旅人が街道間を往来するよりも、北の小穴峠と併せて上山方面との連絡路として、あるいは二井宿と楢下の連絡路として、地元の人々が通ることの方が多かったのだろう。だから街道の要所だった二つの峠と違い、大きく注目されることもなかったのではなかろうか。
薮こそ多かれど、上山側は曲がりなりにも自動車で鞍部まで登ることができた。しかし高畠側に下った途端、峠はその牙を剥く。
鞍部を出るといきなりこうなる。
上下左右薮だらけ。ここ本当に車道だったんですか?
まかり間違って車で突っ込むとこうなる。もうあたり一面見渡す限りまっ緑。
薮で足下がわかりづらいにもかかわらず、右手はすぐ崖っぷちというようなところもある。落ちたら洒落にならないので、くれぐれも気をつけよう。
足下を確かめつつ、慎重に下っていく。さっきよりましになったが、やっぱり道は薮に埋もれかけている。
それでも途中には、すっかりくすんでしまったカーブミラーやら標柱やら、標識が残っていたりする。
高畠側はかなり荒廃が進んでいる。路面には枯れ葉や枝が散乱し、頭をかがめて薮のトンネルを抜けるようなところだらけだった。
さらに急で鋭いカーブがいくつも現れる。こりゃ改修もしたくなろうて。
とうとう舗装も剥げてしまった。砂利に足下をとられないように気をつけよう。
それでも出口目指してがんばって下っていく。もう何個目のカーブなのやら。
出口目前、最後の最後で難関登場。道路の真ん中を残して舗装が剥げ、両脇が深くえぐれている。下手に自動車で通れば、底を擦ること請け合いだ。
最後の難関を抜け、ついに柏木峠を脱出。日差しとはこんなに眩しかったのか!
他日車で突破した時の図。車中花やら葉っぱやら毛虫やらひっついてえらいことになった。
目の前の道路は県道268号線。右手に進めばトンネルがある。
高畠側峠口の様子。この道が山を越えてトンネルの向こうまで続いているなんて、知らない人には信じられないだろうに。
現在柏木峠にはトンネルが開通しており、葉っぱまみれにならずとも通り抜けできるようになっている。平成元年(1988年)の開通で、全長は322m。上山の秋祭りとして知名度を高めつつある街道まつりは、このトンネルの開通を記念して始まったものである。
トンネル開通によって、今回紹介した旧道は廃道になった。取材当時でトンネルができてから20年足らずだというのに、これだけ荒廃していたということは、トンネルが開通して以来、旧道に手が入れられることはなくなったのだろう。
峠を経由すれば20分ほどかかる道のりも、トンネルならわずか数分で駆け抜けてしまう。それは便利でいいことではあるのだろう。しかし通り抜けでひどい目に遭っても、やはり旧い峠が見捨てられ消えてゆくのを見るのは、毎度寂しいものである。
(2006年6月/9月取材・2008年1月記)
場所:上山市柏木と東置賜郡高畠町二井宿の間。町境。県道268号・楢下高畠線旧道。標高約500m。
所要時間:
上山側峠口から鞍部まで単車で約10分。同じく鞍部から高畠側峠口まで約10分。柏木トンネルを通る場合、上山側峠口から高畠側峠口まで自動車で約1分。
特記事項:
旧道は完全な廃道。全線ほぼ舗装されているが、大部分が薮と林に覆われている。特に高畠側は荒廃が著しく、車両での通行は困難である。夏場は盛大に薮が茂っているため、踏破を試みるなら春先か冬枯れの時期が楽。峠近辺は地元の山菜山となっているため、荒らすようなことはやめましょう。
トンネルを含む県道は信号が無く交通量も少ないせいか、走っている車は例外なく飛ばしている。旧道はもちろん、県道を走る際も十分気をつけよう。国土地理院1/25000地形図「二井宿」。同1/50000地形図「上山」。
「上山市本庄地区公民館」
URI:http://www17.plala.or.jp/honzyo/default.htm
「山形県歴史の道調査報告書 二井宿・大塚街道」 山形県教育委員会 1981年