諏訪峠

諏訪峠の位置

 諏訪峠は川西町の中心部小松地区と飯豊町松原地区を結ぶ峠である。旧くは米沢と越後を結んだ主要道、越後街道の難所の一つとなっていた。
 「諏訪」とはもちろん長野県にある諏訪湖の「諏訪」である。遠く離れた信州の地名が、置賜の里にある峠の名前になっているのは、もちろんその二つが結びついているからなのである。


上小松諏訪神社

上小松諏訪神社

 峠登り口となる川西町小松地区のはずれに、諏訪神社なる由緒ある神社がある。峠の名はこの神社に由来する。
 この諏訪神社は諏訪湖のほとりにある信州一の宮諏訪大社の分社として奉遷されたのがはじまりで、和銅年間(708〜715)の創建と伝わる。
 当時は出羽国が設けられて間もない頃。朝廷が積極的に蝦夷に進出していた時代だ。朝廷は他の地域から武装した移民をみちのくに送り込み、着々と支配の手を広げていった。その中に信濃出身の一団がいて、小松の諏訪神社は当地にやってきた彼らが故地の神社を勧請したものと考えられている。
 この峠が諏訪峠と呼ばれるようになったのは江戸中期以降らしい。とはいえ越後街道は古代より外界と置賜を結ぶ道として利用されてきた。だから諏訪峠が彼らの通り道の一つだったと考えても、罰は当たらないだろう。

諏訪神社の杉並木

 小松諏訪神社は置賜で最も旧い神社の一つと見なされている。参道の見事な杉並木は、グリーン山形110景にも選ばれている。


県道250号線分岐

県道8号線・同250号線分岐地点 ここで曲がります

 そんな古い歴史のある諏訪峠だが、現在は県道250号・県道椿・川西線に指定されており、現役で活躍中だ。今回紹介するのはその県道250号線、小松から国道113号線に至る区間である。
 峠は「眺山」こと、諏訪神社北の丘陵をゆるやかに越える道である。峠へは神社にほど近いところ、県道8号・主要地方道川西・小国線から分岐する。入口には案内標識があるので、取り付きは判りやすいだろう。


ゆるやかに登る

ゆるいカーブと上り坂 上小松諏訪神社

 県道に分岐すると、道は弧を描きながらゆるい上り坂になる。ちょっと登ったところにゴルフ場の入口があるが、まず迷うことはないだろう。
 付近にある若松観音は、もともと眺山の山頂にあったのを移転したものと伝わる。


今でも幹線道路です

どこから見ても幹線道路

 小松は越後街道の大きな宿場町だ。越後街道の途中には数々の峠が待ち受け、その険しさは「十三峠」と称されていたのだが、諏訪峠は「十三峠」で最初に越える峠だった。
 峠は小松地区北西の出入り口にあたる。それは今も同じで、峠は小松方面から国道に出る車や、国道から小松に向かう車がひっきりなしに行き交っている。そのためか道は非常に良く整備されており、見た目は幹線道路そのものである。現代の越後街道とも言える国道113号線と小松地区を結ぶ近道として利用されているわけだが、本来はこちらが本街道なのだ。
 余談だがこの峠、けっこう往来があるゆえ、車が映り込まないよう写真を撮るべく、車が途切れるまで5分ぐらい待たされた(泣)


鞍部

諏訪峠鞍部

 道がいいので瞬く間に鞍部に到着。標高296m。鞍部は大きな切り通しになっている。標識からわかるとおり、ここは川西町と飯豊町の境界でもある。


残る旧道

旧道入口の図

廃道となっている旧道ヘアピンカーブ

 実は現在の県道は新道である。峠は以前から盛んに利用されていたが、21世紀初頭に線形改良を含む大改修を受け、今日の姿になった。
 鞍部手前の東側にはほんの少しだけ、改修前の旧道が廃道となって残っている。旧道は現在より幅員も細く、急なカーブもあった。柵が設けられ、自動車での進入はできなくなったが、その急カーブは新道からもしっかり確認できる。


古道の様子

諏訪峠古道入口

 さらにわずかながら、鞍部付近にはかつての「十三峠」の古道も残っている。鞍部東側にある「諏訪峠旧道入口」の立て看板が目印だ。

諏訪峠古道の様子

 残っているのは本当に少しだけで、歩いてふもとまで行けるというほどではない。さらにウルシが茂って立ち入るのが難しい場所もあった。それでも木立の中の小径は、往時の姿を偲ばせるに十分である。

イザベラ・バードの看板

 近年十三峠の歴史的価値が見直され、歴史探訪ができるよう、有志等によって整備が進められた。この古道も平成21年(2009年)に、そのようにして整備されたものである。鞍部手前西側には峠を紹介する立て看板も設置されている。諏訪峠は明治初頭、イギリスの旅行家イザベラ・バードが通った道としても知られている。


飯豊に下ります

下り道の様子

 県道に戻って飯豊方面を目指す。幹線道路なのでひたすら下るだけ。これだけ道がいいのも、それだけ多くの人が利用するということなのだろう。


住宅地

鉄塔と送電線 上台地区

 県道を横切る高架送電線をくぐると民家が増えてくる。ここまで来れば出口は近い。


国道を見おろす

カーブ地点 国道113号線を見おろす

 出口が近づいた。単車を寄せて右手を見ると国道113号線を見おろせた。奥には飯豊町を代表する風景、散居集落の田園風景なんかも見える。


国道113号線松原交差点

松原交差点到着 松原交差点を反対側から見るの図

 下りきって国道113号線に合流。峠区間はここまで。越後街道はここで西に向きを変え、宇津峠等の難所を経て越後に至る。国道113号線の起点が新潟であるのはその名残とも言えよう。

道の駅いいでめざみの里観光物産館・肉とかいろいろ売ってます

 ちょうど合流地点には峠の茶屋ならぬ、道の駅いいで「めざみの里」がある。道行く人はここでひと息ついて、現代の越後街道を行ったり来たりするのである。

(2008年4月/12年7月取材・12年12月記)


案内:

場所:
東置賜郡川西町上小松地区と西置賜郡飯豊町松原地区の間。県道250号こと県道椿・川西線。郡界。標高296m。

地理:

諏訪峠概略図
1・JR羽前小松駅,2・上小松諏訪神社,3・県道8号線・同250号線分岐地点,
4・山形南カントリークラブ入口,5・旧道カーブ跡,6・鞍部,7・諏訪峠古道跡,8・長根峠,9・送電線,
10・国道113号線展望地点,11・国道113号線松原交差点,12・道の駅いいで

所要時間:
小松地区県道分岐点から飯豊町国道113号線合流点・松原交差点まで自動車で約5分。

特記事項:
道はかなりよく整備されており、自動車で通る分には全く問題ない。通年通行可能である。鞍部付近にはわすかながら古道も残っている。こちらはウルシが多い箇所があるので、歩くならかぶれ対策はお忘れなく。飯豊側に降りきったところに道の駅いいでがある。行き帰りの休憩・食事等にどうぞ。1/25000地形図「羽前小松」同1/50000「赤湯」。

参考文献:

「川西町史」 川西町史編纂委員会 1979年

「山形県歴史の道調査報告書 越後街道」 山形県教育委員会 1981年

「やまがたの峠」 読売新聞山形支局編 高陽堂書店 1978年

諏訪神社のしおり 諏訪神社

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