再録「読者の闘技場」

 古くからのパソコンゲームファンの間ではもはや伝説と化した企画。それが電波新聞社のホビーパソコン誌「マイコンBASICマガジン」(以下ベーマガと略)の「読者の闘技場」です。今回はその投稿から、「イース」ネタを拾ってみましょう。

 「読者の闘技場」そのものは、途中休載期間などをはさみつつ、全部で7期に分けられますが、特にイースネタが多かったのは、一番最初の通称「初代『読者の闘技場』」と、その次の「新・読者の闘技場」です。また「闘技場」以前の「読者の広場」にも相当数のイースネタが掲載されています。ここでは、「読者の広場」「初代『読者の闘技場』」「新・読者の闘技場」の三つに分けて紹介いたします。
(引用部は斜体で表示・適宜中略・括弧内は掲載号と投稿者名)


前史「読者の広場」から('87・8月号〜'88・4月号)

87/9・PASSING

Is椅子(イス) 貧しくてト〜ンが買えない
(87/9・PASSING)

山下:カーッ、いつかはくるんじゃないかと思ってただじゃれが、やっぱりきた。「イースはいーっす!」とか、『イース』と「イス」を引っかけたネタは、もうありふれてるんだよね。でも、広告をパロッたイラストと、「貧しくてトーンが買えない」というコピーに負けて、思わず掲載!

 主宰者山下章氏のコメントの通りです。イース最初期の広告イラストをパロって、椅子どうしに対決させたばかりか、「貧しくてト〜ンが買えない」がこの作品の味噌です。ついでに、「イース」の下敷きとなった、ブルターニュ地方の沈める都の名前は、洒落にするまでもなく「イス(Is)」でした。


87/10・炎のソーサラー

山下先生、はじめまして。7月26日のパソコンサンデーの●●●●訪問のときに出てきた●●さんとは、もしやYK−2先生ではないのですか(ファルコムに入ったのか!? GPMはどーしたんだろ)? するとキャラエディタをいじってた人は、一晩中一緒に妖怪道中記をやったという妹さんですか?(ちがってたらごめんなさい)
(87/10・炎のソーサラー)

山下:わっ、なぜ名前を消すんだ!
YK−2:フッ、私の正体はナゾなのさ。それよりも、あの夜は何があったんだ?
山下:そこまで言うんなら、いうぞう。あ〜やの、こ〜やの、いろいろと……。嗚呼、楽屋おち。

88/3・AKYAPA&石見高広

YK−2氏の正体
「はーっ はーっ わ、YK−2様 あなたはそうやってなん人の読者をだましてきたのですか」
古代祐三 「百人から先はおぼえていない!!」
(88/3・AKYPA&石見高広)

YK−2:なんのことやら、さっぱりわかりませんなあ。読者のみなさんは、なにか勘ちがいされてるんじゃないですか? さ〜て、カラオケでも練習しなくちゃ……。
コピロン:おにいちゃ〜ん、あたし、PCエンジンの『妖怪道中記』も徹夜でやりたくないヨ〜!

 解説が必要です。「パソコンサンデー」というのは、当時テレビ東京で放送されていた、パソコンの魅力を紹介するという番組です(提供はシャープ)。司会は小倉智昭氏で、山下氏もレギュラーとして出演していました。その山下氏が番組内で、作曲家の古代祐三氏を取材した回がありまして、それを見た視聴者が、古代氏とは当時ベーマガでゲーム音楽演奏プログラムコーナー「GMP」を担当していたYK−2氏ではないかと指摘したネタです。
 古代氏と言えば、「ソーサリアン」「イース」の主な音楽担当者ですが、日本ファルコムで音楽を担当する以前は、「YK−2」のペンネームで音楽プログラムを発表したり、ゲームの紹介記事を書いたりと、ベーマガライターの一人として活躍していました。
 今となっては「YK−2=古代祐三」であることは周知の事実なのですが、当時はベーマガ誌上で本名を明かしたことはなく、「コピロンという妹がいる」ということ以外、YK−2氏の素性は謎に包まれていたのです。
 コピロンとは「イース」にもデザイナーとして参加した古代彩乃女史のことです。ここで指摘されている妹さんとはもちろんコピロン、彩乃女史です。山下氏の「いうぞう。あ〜やの…。」とは、古代兄妹の名前を織り込んだ洒落だったわけです。

「ザ・スキーム」裏ジャケットより古代祐三氏
YK−2こと古代祐三氏。写真はCD「ザ・スキーム」から。

 正体不明のYK−2氏の正体については様々な憶測が飛び交いましたが、中でもイベントでその顔を見た人々が「俳優の倉田てつをに似ている」と言い出したのをきっかけに、当時倉田氏が「仮面ライダーBLACK」に主役として出演していたため、格好のネタとして「YK−2の正体は仮面ライダーBLACKだ!」と言い出す投稿者も多数いました。
 確かに古代氏、当時の写真を見てみると、倉田氏に似ています。


87/11・里見六剣士

Ys(イース) それは優勝のできないヤクルトを救いにアメリカからやって来た、ボブ・ホーナーの話である。
しかし今年このゲームは解けそうにない…
PS 私は巨人ファンですざまーみろ!
(87/11・里見六剣士)

山下:「椅子」とか「いい酢」とか平凡なアイデアが多い中で、このハガキにはきらりと光るものがあった。でも、それ以上に巨人ファンというのがポイント高いね。じつは、ボクは大の巨人ファン。今年は日本シリーズも制覇するゾ!

 プロ野球セントラル・リーグの球団、ヤクルトスワローズの頭文字が「Ys」なのにちなんだネタです。ボブ・ホーナー内野手は当時活躍した選手で、数々のホームランを放ち、「ホーナー旋風」なる流行語を生み出しましたが、にもかかわらず、87年は残念ながら4位に終わります。その後数年間、球団は下位を低迷しますが、92年には野村克也監督の下リーグ優勝を勝ち取り、翌93年には日本シリーズも制覇して、念願の日本一の座に輝きます。結局こちらのYsを解いたのは、野村克也氏だったようです。


88/1・あらまんにゃ

「きけイース まもなくハイドライド3がお姿をおみせになる これでこのディーバも心おきなく死ねるわ」
「な…なにい?」
「ハイドライド3がこられた以上 わがT&Eの勝利は確実 もはや何の憂いもない!!」
(88/1・あらまんにゃ)

山下:ホッホー、先月の『リンかけ』につづいて、車田正美の『風魔の小次郎』ですかい。だけど、『ハイドライド3』だけで決着がついたと思ってもらっちゃ困る。ファルコムについて、あのRPGの続編という隠し玉があるんだから……。

88/2・阪神万歳

「フッなにかのまちがいでしょう T&Eがファルコムをたおしたはなしなどきいたこともない…」
「98ディーバができあがったという報告もはいっている」
「そんなことより教皇ご用件は…」
「我ら黄金聖衣(プログラマー)二人を呼んだ訳はまさかそのT&EのハイドライドIIIを
倒せということではないでしょうな そのようなお話なら…」
「やってもらわねばならん!」
「お言葉ですが教皇 それは獅子にアリを倒せというようなもの
 我ら黄金聖衣(プログラマー)のほこりがたちません!」
「いや 今倒しておかねば いずれ恐るべきことになるかもしれん。T&Eが成長してからでは…」
「教皇(しゃちょう)…」「なにをそれほどまでに…?」
(88/2・阪神万歳)

山下:ムムッ、ちょっと危険な内容だな、こりゃ。でも、決してT&Eの名誉を傷つけてるわけじゃないので、誤解しないよーに。なにしろT&E=星矢ということなんだから……。

88/3・村松勇介

「T&Eの間へ…」
「そうだ今 ソーサリアンがひとりで苦戦中のはず 時間もあとわずかしかない」
「ソ…ソーサリアンがひとりで…」
「きみのファルコムの聖衣は黄金聖衣にもない自己修復能力を持っているのだったな
死してもまた灰の中からよみがえる」
「ひとにぎりの灰さえあれば ファルコムはまたはばたくのだ」
「しかも以前にもました この美しさと輝きはどうだ!!
これがファルコムのイースII!!
ファルコムの聖衣が ふたたびオレの体によみがえった」
(88/3・村松勇介)

幸運:おなじみのT&Evsファルコム・シリーズを送ってきてくれた人はたくさんいたけど、その中ではコレが一番画力点が高かった。

 T&Eソフトファンとして一言言及しますが、ここでネタにされている「ディーバ」は「ディーヴァ」が正式な綴りです。

 さておき、車田正美先生の作品を元にした業界ネタです。こうした業界ネタも、相当数が掲載されました。
 当時は日本ファルコム、T&Eソフトといったソフトハウスがパソコン向けに優れた作品を出していまして、それぞれファンが付いては、やれ「イース」「ソーサリアン」だ、「ハイドライド」「ディーヴァ」だといった具合に、贔屓のソフトハウスの応援をしていたのです。新作が発表されるごとに「今度のファルコムのは凄そうだぞ? T&Eとどっちが凄いだろう?」と、発売を心待ちにし、発売後は「ここがファルコムよりすごい!」だの「T&Eよりすごい!」だの、言い合っては楽しんでいたわけです。

 今や日本ファルコムに一世を風靡した往時の勢いはなく、T&Eソフトは名前さえ消えました。盛者必衰。


88/1・杉浦利博

<想像図> Megane めがね

チャレンジ!AVG&RPGIII買いまして、おめあての”イース”のページをまっさきに読みました。
いやはや、とてもたのしめました。特に、イースをといたのに知らなかったこととして
『16階のメガネは敵だった!』
というのがありました。P97見てびっくりしました!
(88/1・杉浦利博)

山下:へへ〜、これはもうただただ謝るしかありやせん。「どうもありがと」−オッと、これじゃワンダーモモだ。

 「チャレンジ!AVG&RPG」シリーズは、山下章氏が電波新聞社から出していたゲーム紹介本です。当時話題となったゲームについての細かい解説や紹介記事、攻略情報が収録されており、現在山下氏が社長を務めるスタジオベントスタッフの源流を垣間見ることができる内容です。当時のパソコンゲーマーの聖典でした。
 さておき、このネタはその「チャレンジ!AVG&RPGIII」の、「イース」紹介記事の誤植にまつわるものです。あれこれ説明するよりも、次の画像を見ていただきましょう。

AVG&RPGIIIの誤植
電波新聞社「チャレンジ!AVG&RPGIII」97ページから


88/2・氷山一太

いーすっ
(88/2・氷山一太)

山下:ウ〜ン、ミゴトっ! 「うーっす!」と「いーっすっ」。これほど単純で、奥の深い『イース』ダジャレが、かつてあっただろうか? 長さんの胸にイース・ペンダントを飾ったあたり、泣っかせるねえ、ダジャラーだねえ!

 一発ギャグです。絵の衝撃で笑わせるネタです。投稿者は調子に乗ったのか、その後同じ路線で「クオース!」というネタを送ってきました。
 ちなみに荒井、地元山形では当時TBSが見られなかったため「8時だヨ!全員集合」をリアルタイムで見たことがありません。今や長さんも亡くなりましたしねぇ。

91/10・氷山一太
「クオース!」 91年10月号掲載

88/3・石田聡

「おれは人間をやめるぞー! ファクトーッ!!」
「クレリアを持っている奴を殺せ!!」
「危ないッーッ ファクト様ッ!!」
(88/3・石田聡)

幸運:アドルがつけた両目のマスクが、もしも石仮面だったら……なんて、考えただけでも恐ろしい。そうすると、ダルク=ファクトがジョジョなんだろうか? ファクトを守ろうとするコンスクラードが、スピードワゴンだったりして……。

 元ネタは荒木飛呂彦先生の「ジョジョの奇妙な冒険」第一部、ジョナサン・ジョースターに悪巧みを暴かれ追いつめられたディオ・ブランドーが、超人的な力を与える石仮面をかぶる場面です。ついでに「おれは人間をやめるぞ!」はこの直前の場面の台詞で、この場面には本来「おれは人間を超越するッ!」という台詞が入っています。
 幸運氏こと、幸運私真矢(らきあたしまや)氏は、山下氏のペンネームの一つです。「山下章(やましたあきら)」を逆さまから読むと「らきあたしまや」になるので、「らき」に「ラッキー」こと「幸運」、「あたし」に「私」、「まや」に「真矢」の字をあてはめています。
 「ジョジョの奇妙な冒険」ネタは「読者の広場」、初代「読者の闘技場」では定番中の定番ネタの一つです。ついでに「ジョジョ」の石仮面は、アステカ文明の遺産という設定でした。「マスクオブアイズ」こと「両目の仮面」が「アステカII」由来の品だということを考えればあながち。


88/3・CHAB

イッツー (C)二翻フリコム

エステリアの国に平和(ピンフではない)を取り戻すため、アドル=フリテンは立ち上がる。敵の黒幕、ダルク=□ト(ハクト)の手は強力で、一気通貫でしか太刀打ちできない。ニュータイプロールプレイング麻雀!
(88/3・CHAB)

幸運:う〜ん、どうして『イース』ネタは、こうもうまいのが多いんだろう! アドル=フリテンにダルク=ハクト、そしてとどめの二翻フリコム(日本ファルコム)と、これは非の打ちどころがありやせん。ただ、麻雀を知らない人には全然わからないだろうけどね。

 麻雀の役「一気通貫(いっきつーかん・1から9までの牌を揃えた役)」の略「一通」を「イース」に引っかけただけならただの駄洒落ですが、二翻役であるということまで利用した高度な複合ネタです。それゆえに、雀士揃いのベーマガライターズの目にとまったのでしょう。
 近年、携帯電話用に、「イース」の登場人物を利用した麻雀ゲームが出ましたが、おそらくこのネタとは無関係です。どうせならこれを作りゃよかったのに。

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