以前紹介した非公式設定本「イースグローバルガイドブック」では、イスの伝説をはじめ、ゲームの設定の元となった神話や物語について触れた項があります。ここではそれを紹介いたします。
(明らかな落丁箇所は適宜訂正)
神話に魔法に暖かい人々、
イースには様々なエッセンスがつまっている。
それは実際の神話・伝説がもとになっていたり、
まったくのオリジナルだったりする。
多くの謎が解き明かされたイース。そして多くの感動を残して去って行った、アドル=クリスティン。彼はどこから来てどこへ行くのか、それを知るものはほとんどいません。その後の彼の消息は、やがて明かされることになるでしょう。彼がさすらったこの幻想世界は、現実のわれわれの世界といくつかの接点を持っています。このページでは、そうした中からいくつかの項目をとりあげ、検証してみることにしました。
イースに出てくる魔物のほとんどは、様々な植物や動物の特徴を組み合わせた、オリジナル・モンスターです。ただし、伝承に基づいたものもいくつかあります。廃坑にいる火の鳥は、ロシアやエジプトに伝わる不死鳥です。溶岩地帯のジーンはアラビアの魔物で、やはり全身火からできています。またこの世界にはドラゴンもいるらしいのですが、ゲームの中には出てきていません。
イースに出てくる神はたった2人、この世をつくり育んでいく女神たちでした。しかしこれ以外にも、人々を癒してくれる精霊と言われる神、あるいは妖精のようなものがいるようです。おそらく女神の下で働く天使のような存在ではないかと思われます。そういう意味では、死んでいった6人の神官たち魂も、精霊となって女神のもとに従っているのではないかと思われます。
多くの武装の中で、バトル・シールド、フレイム・ソードが、イース独自のものです。銀(クレリア)の武器は、狼男や吸血鬼などの魔物にきくという伝承があります。ターワルという湾曲した剣は、もともとはインドのものです。普通の西洋の剣は叩きつけるようにして使いますが、ターワルは引いて切るのです。
女神たちのモデルは、ほとんど見当たりません。真珠を持っていることからギリシア/ローマ神話のヴィーナスの影響が多少みられるぐらいです。女神たちの正体はいまだにはっきりしていません。なぜ2人で一組になっているのか、双子なのかそうでないのか、1人が黒真珠を封印している間にもう1人は何をしているのかなど、明らかにされていない謎はまだまだたくさんあります。
イースに出てくるマジック・アイテムの1つに、バリアとなってアドル=クリスティンを守ってくれるリング・メイルという指輪があります。この名前は本来、革の服に鉄の環をいくつも縫いつけた鎧のことを意味していました。しかしぴったりな名称だったため、指輪の名前として拝借してきたのです。
フランス北西部の半島ブルターニュに、
本当にイースという町があったという伝承がある。
騎士道とキリスト教が交錯する中世、
その町は海へ沈んだ。
もう気づかれたと思いますが、イースに出てくる様々な国々は、現実の世界を元にしています。エウロパはヨーロッパ、オリエッタはオリエント、ロムンはローマといった具合です。ロムンの通過であるデニルも、ローマのデナリ銀貨(労働者1日分の賃金)が元になっているわけです。時代設定は、おおよそ紀元前1世紀〜紀元後1世紀。ローマ帝国にキリスト教が広がる以前でしょう。その頃フランス一帯はガリアと呼ばれていましたから、グリアとはおそらくフランスのことです。そのフランス北西部にちょこんと突き出た半島、ブルターニュがあります。イースの舞台はここです。
地図で見るとわかるように、ブルターニュ半島の先には2つの湾があって、南がドゥアルヌネ湾(ゲームでのドアール海)になっています。この湾の南岸に、かつて実際にイース(YsともIsとも書きます)という町があったという伝承があります。イースの栄華はまわりを圧倒するものがあったらしく、フランスの首都パリの語源は、イースに打ち勝つ「ParIs」というところから来ているのです。伝承によれば、このイースという町は海面下の埋立地にあり、人々は海水の侵入を防ぐため、城壁を築いたのです。城壁には水の流れをつかさどるための水門があり、鍵は王その人に委ねられていました。
5世紀頃のことです。イースの王には、妖精であったお妃との間に生まれた美しい王女がありました。その名をアーエスと言います。彼女はその美しさにまかせて、次々に町の男たちを誘惑し、破滅に導いていきました。彼女は永遠の若さをもつ妖精の血を引いていましたから、すぐ年老いてしまう人間に対して、深い愛情を得ることができなかったのかもしれません。アーエス姫は飽きてしまった男を殺し、海に死体を放り投げました。こうした王女の罪深い行いによってイースは背徳の町となり、悪魔に魅入られることになったのです。ある日悪魔は、赤い衣を着た美青年の姿をしてこの町を訪れました。悪魔と王女は互いに魔性の者どうし、惹かれ合いました。悪魔は王女をうまく言いくるめて、眠っている王の首から水門の鍵を盗み出させたのです。人々は、夜中に大きな水音を聞きました。城壁にあるすべての水門が開き、海水が怒濤となって町を呑みつくそうとしていたのです。王も人々も必死で逃げましたが、王女は悪魔とともに、海の底へ消えていったのです。しかし、彼女は人魚となって生き残ったと言います。今でも浜辺に立つと、海の底から誰かがものさびしく鐘を突いている音が聞こえるというのです。