大場惑氏が以前にも、「イース」シリーズの小説化を手がけていることはご存じかと思われますが、小説版「イースV」は「イースIV序章」から数えて7〜9冊目となります。さすがに数作の小説化を手がけたおかげか「イースV」の小説版は従来と比べてこなれた印象を受けます。「ゲームに忠実な小説化」と揶揄される大場氏の小説版ですが、今回はゲームでなく、原案小説をなぞらえたのも勝因の一つでしょう。
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金の舟でケフィンに着いたアドルとイブール一家一行は、一旦衛兵に取り囲まれるが、そこに現れた民政官ザクソンのとりなしで、改めて歓迎される。
ザクソンの屋敷で、歓待の宴が開かれたが、アドルは一足先にケフィンに渡ったリジェとニーナを案じていた。
宴の後、アルガはアドルに一家の過去を語ってきかせた。一家は十年前までは、オリエッタの都で平穏な暮らしをしていた。アルガの夫は腕利きの錠前屋だったが、ある日押し込み強盗の嫌疑をかけられ獄死する。行き場を失ったアルガと子供たちはやむを得ず、盗賊をやりながら糊口をしのがなければならなかった。イブール一家は堅気の生活に憧れていた。ケフィンに渡ろうとしたのも、盗賊から足を洗い、堅気としてやり直すためだったのだ。
翌日、一行はザクソンに連れられ、ケフィン王城にやってきた。ケフィンに渡ってきた者は、王城で市民として認められるための儀式を受けなければならない。儀式の結果、アドルはケフィンの市民として認められ、王との面会を許された。アドルは王に「賢者の術」でナルムを災厄から救うよう直訴したが、王は地上に関心を示さず、全く取り合おうとしなかった。
アドルは別れてしまったイブール一家の身を案じていた。ザクソンに尋ねてみても、言葉を濁すばかりだった。直訴に失敗した今、ケフィンの影響力を封じる方法を捜すべく、アドルはケフィンを探ることにした。
市民に聞き込みするうち、ケフィンについて様々なことがわかってきた。アドルが受けた儀式「審判の秤」は善人と悪人を審判するもので、市民でも十年おきに儀式を受けなければならなかった。善人はケフィンに住むことを許されるが、悪人は牢屋送りになると噂されていた。スタンは三年前にケフィンを訪れていたが、それ以上のことは分からなかった。ジャビルは十年ほど前に亡くなり、今では霊廟に葬られていた。
悪人と判別されたイブール一家は、テラだけが別の場所に連れて行かれ、他は牢に閉じこめられた。そこでアルガはリジェと遭遇し揉み合いになる。はずみで転げ落ちたメダルに目をとめた囚人は、リジェがガトー公の末裔であることを見抜いた。牢にはガトー公一派の子孫も多数囚われていた。ケフィンでは、いまだガトー公一派の子孫が王に反抗し、決起の機会を伺っていたのだ。
リジェは独房に移されたが、そこにガトー公の亡霊が現れ、リジェを励ました。
ケフィンの秘密を探るアドルは、民政府から目をつけられていたが、謎の男から秘密を知りたければここに来いという付け文を受け取る。手紙に従うと、謎の男が現れ、アドルを秘密の地下道に導き、スタン救出を依頼した。
地下道の先は地下牢に繋がっていた。そこにいた男こそ、かの冒険家スタンだった。スタンはジャビルによって抜け殻のようになっていたが、アドルがニーナの土笛を奏でると、正気を取り戻した。
アドルを案内した謎の男ラスタは、スタンの協力者だった。スタンはラスタが連れてきたマーシャと抱き合い再会を喜んだ。マーシャとスタンが恋仲だったことにアドルは衝撃を受ける。
スタンはかつて、ドーマンに雇われてケフィンを捜していた。ところがフォレスタ村で、氷漬けのフォレスタが守る「ルミナス」を巡り案内人ツェットと対立し、ドーマンと袂を分かつこととなった。独自に調査を続けた結果、ケフィンの遺跡からケフィンを訪れることとなったのだ。
やがてスタンは、ケフィンの欺瞞に気が付いた。ケフィン市民に自由はなく、「審判の秤」で悪人とされたものは、人知れず地下牢に収容され、強制労働に駆り出されているという。スタンが市民に自由を説いてまわるうちに、賛同者が集まりだした。その中にいたのがラスタやマーシャだった。スタンの活動は民政府の咎めるところとなり、スタンは逮捕された。
マーシャは秘賢者だった。病死を装い地上に降り、協力者を捜すこととなった。ラスタたちは密かに賛同者を増やしていった。アドルはケフィンの欺瞞を知らしめるため、地下牢に潜り込み、その存在を暴くことを申し出る。
地下牢に潜り込むため、アドルは再び儀式を受けることになった。王城では今年で五百歳になるケフィン王の、生誕祭の準備が進んでいた。アドルはケフィン王が「賢者の術」で生きながらえていると悟る。
マーシャのお膳立てで、アドルは無事悪人と判定され、地下牢に放り込まれた。牢にいたイブール一家は、すでに密かに脱獄を果たしていた。一家が残した秘密の通路でアドルも脱獄した。
王城に忍び込んだアドルは、たまたま民政府の会議を盗聴する。会議ではケフィンの抱える諸問題が検討されていたが、その内容は恐るべきものだった。
ケフィンは地上の精気を奪って繁栄していた。封陣が解けた今、ケフィンはサンドリアを狙っていた。このままではサンドリアも砂漠に飲み込まれてしまう。
侃々諤々の後、全ての決定はジャビル次第という結論になった。ジャビルはすでに死んでいたはずとアドルは不審に思う。
牢獄を探るうち、アドルはリジェと再会し、これを救出するが、リジェは意地を張って礼も言わずに立ち去った。アドルは間もなくイブール一家と合流したが、そこにテラはいなかった。
一行はスタンの隠れ家を訪ねた。スタンによれば、王の長寿は「賢者の術」で十年おきに若返りを繰り返した結果で、そのために「審判の秤」で悪人とされた子供たちが犠牲になっていた。おそらくテラはあさっての生誕祭で王の犠牲となってしまう。
マーシャによれば、死んだはずのジャビルは、実は今なお生きており、王に若返りの術を施しているという。若返りを餌に、ジャビルは王を操っていた。
隠れ家の前にニーナが来て、ジャビルの手が隠れ家に伸びつつあると告げた。アドルはニーナの素性を疑うが、問いただす暇もなく、一行は隠れ家を廃棄して逃げていった。
リジェは囚われた仲間を救い出すのに手間取っていた。そこにジャビルの幻影が現れ、「賢者の術」の力でケフィン王を追い落とし、ガトー公の無念を晴らしたくはないかと、取引を持ちかける。ジャビルはガトー公一派をケフィンから追放した張本人であり、リジェは反発したが、ジャビルは全く意に介さなかった。
生誕祭の日、アドルは喧噪に紛れて王城への侵入を果たす。
王城ではザクソンを始めとする民政官が、生かしておけぬとアドルに迫ってきた。民政官たちは秘薬で変身してアドルに襲いかかってきたが、ストーカーの手助けでこれを退ける。
アドルは子供達が捕らえられている部屋にたどり着いたが、そこではツェットが待ち受けていた。ツェットはジャビルに仕える秘賢者だったのだ。
封陣によって狭い範囲に閉じこめられていたケフィンは、地上の精気を吸い尽くし、存亡の危機に立たされていた。そこでツェットはジャビルの命を受け、封陣を破るため地上に降り、ドーマンを焚きつけて結晶を捜させたのだ。
若返り儀式「聖杯の儀式」を阻止させまいと、ツェットはアドルの前に立ちはだかった。苦戦しつつもアドルはツェットを撃破した。
アドルは子供達を救出したが、その中にはテラもいた。スタンも駆けつけ「聖杯の儀式」を阻止せよと促す。
部屋は生誕祭の特設舞台につながっていた。人混みの中からリジェ率いるガトー公一派が現れ、王を襲撃するが、呆気なく取り押さえられた。
王が子供たちの精気を集めた杯を手にした瞬間、アドルは舞台に飛び出し、群衆の前で「聖杯の儀式」の秘密を暴露する。捕らえられていた子供達が現れるに至って、群衆の間からケフィン王への非難が上がった。
ケフィン王は手にした杯を飲み干したが、それはアルガがすり替えた偽物だった。王は本来の老いさらばえた醜い姿になり、アドルに倒された。