第十章 大秘賢者

ジャビルに反抗するリジェ

1 真の支配者

 王を倒したところに、ジャビルの声が響き渡る。ケフィン市民は己の「賢者の術」によって生かされているにすぎず、逆らうことなどできはしないと。そしてケフィン王に代わり、リジェを新しい王に指名した。
 ところがリジェは、群衆の前でジャビルに反逆を宣言した。ジャビルはケフィン王の代わりに自分を据えようとしているだけであり、支配者ジャビルを倒さぬ限り、真の自由は訪れないのだ、と。リジェもジャビルに操られることを潔しとしなかったのだ。リジェの訴えに、群衆は結束を固めていった。
 ところがジャビルの力は圧倒的だった。ジャビルは秘術で群衆に雷を落とし、リジェを連れ去った。

2 志願者たち

 地下牢の奥に、ジャビルの居場所に通じる通路があることをつきとめたアドルは、スタン、マーシャ、ラスタ、イブール一家と共に、ジャビルの元へと向かった。

3 ジャビルの首

 マーシャはジャビルが王とは異なる方法で、完全な不老不死を手に入れたのではないかと懸念していた。通路の先、西の区画の部屋に入ると、ジャビルの首だけの幻影が現れ、「賢者の石」と一体となった自分を倒せるか、と挑発した。

4 戦慄の実験室

 一行はジャビルの実験室を進んでいった。そこにある異形の生物や石などは、ジャビルの実験の産物だった。ジャビルは「審判の秤」で悪人と判定された人間を、不老不死研究の実験台にしていたのだ。一行は、ケフィンは己の真理探求のための実験棟だとうそぶくジャビルの非道を非難する。

5 地下迷宮

 実験室の先の地下迷宮にはニーナがいた。ニーナはジャビルが操る密偵で、操り人形として地上に送り込まれていたのだ。ニーナにささやきかける年配の男とはジャビルだった。
 ジャビルに操られたニーナはアドルを殺そうとした。ところが、自分を取り戻せというアドルの訴えに、ニーナは呪縛を解き正気に戻る。

注:ニーナがリジェに続いてケフィンに向かったのはジャビルの指示。

最終決戦

6 賢者の石

 アドルが「賢者の石」が安置されている部屋に入ると、ジャビルに操られたリジェが襲ってきた。マーシャの手助けでリジェは気絶するが、アドルをかばおうと飛び出してきたニーナが負傷してしまう。
 とうとうジャビルが実体を現した。ところがジャビルを倒すことは、ケフィンの力の源「賢者の石」を破壊することであり、それは空中に浮かぶケフィンの墜落と崩壊を意味していた。そうなれば市民の安全は確保できない。ジャビルは市民の命を盾にとり、アドルたちに自分は倒せまいと挑発した。

7 最後の戦い

 そこにフォレスタが現れた。フォレスタに秘策があることを察したアドルは、遠慮なしにジャビルに斬り込んだ。ストーカーも加勢し、アドルたちは力を合わせ、ジャビルを倒した。

フォレスタの死

8 死の代償

 ジャビルが倒れ、賢者の石が崩壊を始めた。フォレスタの秘策とは、ジャビルに代わって自分が賢者の石と一体化することだった。自分が石に入り込んでいる間にケフィンを安全に着陸させようというのだ。石が崩壊すればそのままフォレスタも死んでしまう。ストーカーはフォレスタを引き留める。
 ところがジャビルはまだ死んでいなかった。隙をついてジャビルは渾身の一撃を放ち、フォレスタを殺してしまった。怒り狂ったストーカーは捨て身の突撃を仕掛け、ジャビルと相打ちになってしまった。

9 理想郷の終焉

 ストーカーの犠牲で今度こそジャビルは倒されたが、崩壊の危機に変わりはない。今度はマーシャがフォレスタと同じことを試みたが、マーシャを見殺しにはできないと、イブール一家とアドルは賢者の石を破壊し、マーシャを救助する。
 ケフィンは至る所で崩壊が進んでいた。やがてケフィンは地上に激突し、壮麗な都は元の砂礫へと崩れていった。

過去を振り払ったリジェ

10 生き残った人々

 ケフィンの全てが砂になったおかげで、人々は落下の衝撃から救われた。アドルは一行の無事を確認する。ケフィンは消えたが、人々は自由を手に入れたのだ。
 リジェは人々に慕われ、さっそく市民救助の陣頭指揮にあたっていた。リジェもアドルに礼を述べる。憑き物が落ちたリジェは生き生きとしていた。


エピローグ

新しい旅立ち

 グリッド率いるナルムの使徒団の残党たちも、リジェを慕って救助活動に駆けつけた。「賢者の術」が消え、コボルドたちは人語を話せない元の犬の姿に戻っていた。砂漠にも緑が戻ってきた。大地が活力を取り戻したのだ。
 サラバットにより、ストーカーとフォレスタのなきがらは一緒に腕輪に封じ込められた。これで二人は永遠に離れることはない。スタンは身を固め、マーシャと共にこの地に留まることになった。ニーナの具合も快方に向かっていた。
 ケフィンの復興は徐々に進んでいった。ついにナルムの地に平和が戻ってきたのだ。ドギは復興とエフィのため、フェルテに留まることとなった。
 イブール一家も堅気として、新天地を求めて旅立つこととなった。そしてアドルも、ドギとエフィ、魚人のトピィの見送りで、新しい冒険を求めてサンドリアから旅立つのだった。


解説

 小説版「イースV」が、原案小説にゲームの人物設定を取り込む形で小説化されており、その過程でずいぶん苦労したらしいことは先述の通りです。小説版では、原案小説にもゲームにも現れない登場人物を盛り込むことで、設定の違いをうまい具合にまとめています。それがガトー公の存在です。
 ガトー公は原案小説にもゲームにも登場していませんが、「イースマテリアルコレクション2」収録の資料にはイラストが収録されています。原案小説がゲームになる過程で作られ消えていったキャラクターと思われますが、小説では重要人物として利用されています。
 リジェをガトー公の末裔とすることで、リジェはゲームや原案とは違った役割を果たすこととなりました。またその分、原案小説でのリジェに匹敵する役にツェットを抜擢することにもなりました。ガトー公の設定を採り入れたおかげで、リジェとツェットが生きてきたと言っても過言ではありません。
 ナルム王朝の存在に加え、ケフィン王国内の派閥抗争を盛り込むことは、ともすれば設定がややこしくなるだけなのですが、このあたりは混乱することもなくうまく捌いています。
 登場人物の数、特にヒロインの数はゲームと同じはずなのですが、持て余し気味のゲームと違い、小説版は原案小説を土台にしたことと、こうした絶妙なアレンジのおかげで、それぞれにしっかりと見せ場や役割が与えられています。ただし、ストーカーとフォレスタを原案小説の流れに組み込むのは難しかったのか、ゲーム同様とってつけたような印象を受けます。
 次回はいよいよ、原案小説、ゲーム、小説版の詳しい比較に入ります。

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