イースの流れを汲む作品

「エメラルドドラゴン」(89年9月 バショウハウス/グローディア)

エメラルドドラゴンタイトル画面 オープニングよりドラゴン小国での楽しい日々

 舞台は聖地イシュ・バーン。呪いによりイシュ・バーンを追われ、異世界で暮らしていたドラゴンたちの元に、幼い人間の少女タムリンが漂着した。タムリンは同じ年頃のドラゴン、アトルシャンと共に育てられたが、成長してイシュ・バーンに戻っていった。
 イシュ・バーンは魔王の軍隊に侵略されていた。その惨状を見かねたタムリンは救いを求めるべく、「これを吹けば駆けつけるから」とアトルシャンに託された形見の角笛を吹き鳴らす。

 毛色はかなり異なるのですが、「イース」以後を代表する作品も取りあげておきます。
 「エメラルドドラゴン」、通称「エメドラ」はARPGではありません。2Dのフィールドを動き回り、敵と遭遇したらタクティカルコンバット式の戦闘になるという、オーソドックスなRPGです。ゲームとしては比較的親切な作りで、広大なマップでもクリアすれば一瞬で抜けられるとか、強くなると雑魚敵が出現しなくなるといったものになっています。戦闘は半オートバトルとなっていますので、プレイヤーの負担がやや軽くなっています。

注・もっとも「エメドラ」のオート戦闘は、癖のあるAIで有名だった。戦闘で何が印象に残ってるかといえば、多くの人は「なかなか回復呪文を使わず、レイヴァース(通称タムリンレーザー)ばかり撃つタムリン」とか「真正面から特攻を仕掛けてばかりのハスラム王子」とか答えるはず。

祈りの丘に降り立つアトルシャン タクティカルコンバット
フィールド画面タクティカルコンバットの戦闘画面

 ゲームシステムは、バショウハウスが以前手掛けた「サバッシュ」の流れを汲んでいるのですが、「イース」以来の世界観重視の潮流を受けています。この作品で最も評価されたのはその物語と登場人物です。
 膨大なシナリオ、要所要所ではさまれるヴィジュアルデモにより描かれる劇的な物語は、多くのゲームファンを虜にしました。また、主人公のアトルシャンとヒロインタムリンをはじめ、ハスラム王子にファルナといった仲間達、敵役オストラコンなどなど、個性的な登場人物達もイラストレーター木村明広氏のイラストと相まって大人気を博しました。

相談モード オヴィングストン洞窟に来た一行
相談モードやヴィジュアルデモは「エメドラ」の見せ場。

魔将軍オストラコン
魔将軍オストラコン。敵役ながら人気が高い。

 「エメドラ」の完成度は他を圧倒しており、「イース」以降の世界観重視RPGは、ここに一つの完成型を見ますが、これがそのまま当時の限界ともなってしまいました。個性的な登場人物、膨大なシナリオで語られる物語、ヴィジュアルデモによる演出、といった要素を盛り込んだRPGはその後数々作られましたが、後述する「BURAI」でさえ、その多くは「エメドラ」のマイナーチェンジでしかなかったのです。
 ちなみに「エメドラ」の方法論を究極まで煮詰めると「英雄伝説III白き魔女」になります。

 ところで「エメドラ」プログラマーの池亀治氏は「サバッシュ」以前、「ライレーン」「テスタメント」といった、高速スクロールが売りのアクションゲームを手掛けていました。「エメドラ」も当初は、その技術を生かしたARPGになる予定だったようです。こうしたRPGになった理由はわかりませんが、もし「エメドラ」がARPGとして出ていたら、現在のゲーム業界は大きく変わっていたでしょう。

テスタメント
「テスタメント」画面

 余談ですが、PCエンジンCD−ROM^2初のRPG「天外魔境ZIRIA」も同期の作品です(89年6月)。マップ・文書・画像・音声など、膨大なデータを必要とするこの手のRPGは、大容量記録メディアと相性が良かったのか、CD−ROMを搭載したPCエンジンでは主流の作品となりました。もちろん「エメドラ」も移植されています。


「BURAI上巻」(89年12月 リバーヒルソフト)

ブライタイトル画面 オープニングよりビドーと八獣将

 ビドー率いる八獣将により、伝説の魔王ダールが蘇えり、世界は闇に覆われつつあった。王家の遺臣三銃士は、魔王を打ち倒す勇者を招集すべく、八つの玉を宙に放った。八玉に選ばれた勇者達の冒険が始まる。

 「イース」後を代表する作品としては、この「BURAI」も外せません。「エメドラ」同様、世界観極重視のRPGで、同期の作品にあたります。当時「抜忍伝説」「ラストハルマゲドン」で有名になった飯島健男氏が手掛けています。ゲームシステムでも、飯島氏らしく、様々な試みを採り入れているのですが、この作品で最も話題になったのは、なんと言ってもそのヴィジュアルデモによる物語手法とシナリオでした。

各章選択画面 ザン・ハヤテの章
ゲーム構成は「ドラゴンクエストIV」同様、各勇士の物語と集結後の物語に分かれる。

 キャラデザにはアニメ「ベルサイユのばら」「聖闘士星也」で知られるプロのアニメーター荒木伸吾・姫野美智両氏を迎え、またボリューム満点のビジュアルデモ(オープニングだけで40分!)は当時「アニメと遜色ない」とさえ評されました。また、飯島氏による、単純な勧善懲悪ではない、奥の深いシナリオもヴィジュアルに負けておらず、当時を代表する作品の一つとなりました。
 ヴィジュアルデモを盛り込んだ作品は、以前にも「メルヘンヴェール」「夢幻戦士ヴァリス」など数々ありまして、決して新しい手法ではありませんでした。ところが「イースII」がアニメ顔負けのオープニングデモを披露したことにより、アニメーションを駆使したデモが一気に広まることとなります。この頃にはディスク一枚をヴィジュアルデモ用にあてるといったことがあたりまえとなっていました。

刑務所に収監されたザン・ハヤテ
力の入ったヴィジュアルデモ。

 「BURAI」には続編「BURAI下巻完結編」が出ています。ボリュームの多い物語を、二本のゲームに分けて発売するということも、当時しばしば見られることでした。容量の少ない当時のパソコンでは、そうせざるを得なかったのですが、その走りとなったのはもちろん「イース」でした。


イースの後に残ったもの

 「イース」の革命的だった部分は、それまでスケールや難易度のインフレ状態にあったパソコンゲーム業界に疑問符を突きつけたことでした。
 決して簡単ではないけれども誰にでも解ける絶妙の難易度、理不尽さのない謎解き、長すぎず短すぎずのボリューム、明快なゲームシステム・パラメータ類、ストレスを感じさせない操作性とディスクアクセスの少なさなどなど...どこまでも遊び手の立場に立った細やかな作り込み。それこそが「イース」最大の売り文句「優しさ」の中核をなすもので、それは既存のゲームに対する問題提起でした。
 ところが亜流の多くは、世界観重視・親切設計の一本道RPGという「イース」の一側面を似せるに留まり、「既存のゲームへの問題提起」という側面を真似できた作品は皆無でした。
 山下章氏の著書「AVG&RPG V」収録の、ユーザー代表とメーカー代表による座談会では、ユーザー代表の一人として参加した桜井政博氏が「今のゲームは、ゲームシステム・世界観ともに画一的すぎて、あまりにもオリジナリティがない」と、この状況に警鐘を鳴らす意見を述べています。ちなみにこの桜井氏は、後にHAL研究所に入り「星のカービィ」「大乱闘スマッシュブラザーズ」など、ゲーム史に残る名作を生み出したあの桜井氏です。

桜井政博氏
山下章氏主催の座談会に参加した桜井政博氏。「カービィ」の約2年半前。

 それとは対照的に、世界観重視の風潮はさらに広がり、物語に凝りに凝った作品が次々と現れました。プログラム技術の進歩により、アニメーションやヴィジュアルデモなど、映像的にも凝ったことが当たり前にみられるようになり、こちらもゲームにふんだんに採り入れられるようになります。ゲームのディスク枚数も、多くて2,3枚程度だったものが、時代が下るに連れ、8枚組とか9枚組といった具合に増えていきました。当時の潮流を端的に示しています。
 ところがその風潮に、ユーザーは疑問を感じ始めます。曰く「似たようなゲームばかりで面白みがない」と。話題作と呼ばれる作品は数々現れましたが、そのほとんどは、似たり寄ったりの世界観、似たり寄ったりのゲームシステム、物語重視でしかも一本道のRPGと、新味のないものばかりでした。中には物語を見せることにこだわるあまり、技術偏重や演出過多に陥り、遊びづらいとか爽快感がないとか、そもそもゲームとして面白みのない、本末転倒した作品さえ出てきます。

 言うなれば、「イース」の大ヒットは、期せずして、世界観・演出・技術力といった、ゲーム性とは異なる部分のインフレ状態を招いてしまったのです。8ビット機の衰退によるパソコンユーザー数の減少と相まって、パソコンゲーム界はにわかに閉塞感が漂い始めますが、あらゆる点で「イース」を凌駕する作品はついに現れませんでした。
 ゲームソフトもPC98専用のものが増え、玄人好みのSLGや18禁ゲーム、海外ソフトが幅を利かせるようになりました。やがてスーパーファミコンなどの高性能な家庭用ゲーム機が普及してくると、パソコンゲームは黄金期から一転、黄昏を迎えます。それにともない、RPGのスタンダードはドラクエやFF、ARPGではゼルダが取って代わることとなるのでした。
 荒井は現在のゲーム業界の閉塞状況に、当時と似たものを感じるのですが、それは気のせいでしょうか。

 ちなみに、今回紹介した作品の多くはプロジェクトEGG等にラインナップされています。興味のある方は遊んでみるのも一興でしょう。

前に戻る文頭に戻る目次に戻るトップページに戻る