「仏舎利」の力で平和が続いていた聖地ガンダーラ。復活した邪神の王により仏舎利と平和は奪われた。虚空蔵菩薩に見いだされた戦士シッタールは、平和を取り戻すべく聖戦に身を投じるのだ。
「イースI」より前の発売ですので、影響を受けた作品ではあるとは言えませんが、同期のARPGの一つとして紹介いたします。
仏教をモチーフにした世界観のARPGでして、プレイヤーはシッタールを操り、邪神に支配された六つの世界を解放していくことになります。
戦闘システムは剣を振って敵に攻撃するという方式ですが、その他にも発動すると敵を足止めできる「法力」が使えまして、ボスキャラ戦では法力の使い方が重要になってきます。内容は物語よりも、戦闘や探索を楽しむ作品となっています。
人間界での闘い | 武器を授けてくれる不動明王 |
この「ガンダーラ」ですが、ゲームとしては割合シンプルでして、パラメータもそう多くなければ、難易度も低めに抑えられており、また理不尽な謎もありません。「ガンダーラ」ではそうしたことを売り文句にはしませんでしたが、内容はしっかり初心者向けになっていたのです。当時的なゲームの完成型の一つをここに見ることができます。
当時にしてはグラフィックスもきれいで、内容も面白く、なかなかの佳作なのではありますが、処理速度が非常に遅かったせいか、翌月に「イースI」が出たせいか、大きく話題になることはありませんでした。もしこの作品が大ヒットしていたら、ゲーム史は現在とも少し違ったものになっていたかもしれません。音楽はすぎやまこういち氏、キャラデザはダイナミックプロの漫画家槇村ただし氏、プログラムは日高徹氏が担当しています。
ボルフェスは見習い魔法使い。「お前は百年に一人の魔法使いになれる素質がある」と師匠の魔法使いアルケン・アルバトロスに才能を認められ、弟子になったのだ。ある日、師匠が「ワシの代わりに、北の国に住む魔神ナイキン・ナイキスをやっつけてこい」と言い出したので、ボルフェスはナイキン退治に駆り出されるのだった。
「リザード」「ファンタジアン」「夢幻の心臓」などで知られる名ソフトハウス、クリスタルソフトもARPGを作っていました。それがこの「ボルフェスと5人の悪魔」です。
この作品最大の売りは「5人の悪魔」の題名が示すとおり、仲間となる悪魔の存在です。冒険の途中、悪魔が封じられている壺を手に入れると、ボルフェスの代わりに、壺の中の悪魔を呼び出して操作できるようになります。仲間となる悪魔は戦士、吟遊詩人、盗賊、魔女の4人(これにナイキンを加えて「5人」というのが題名の由来)。それぞれに得意技がありまして、彼らの協力なしに冒険は成就できません。
小気味よいアクション戦闘 | 悪魔の一人ディギン召還中 |
「ボルフェス」も見下ろし視点のARPGですが、MSX専用に作られたためか、非常にアクション性の強い作品となっています。フィールド上を動き回る敵に向かって魔法の杖を投げつけたり、剣を振り回して斬りつけたりと、MSXのスプライト機能を存分に生かした戦闘システムは、まるきりのアクションゲームで、今見てもよくできています。音楽や操作性もよく、全体的に非常にしっかりと作り込まれています。
このように、一面では「イース」さえ凌ぐ「ボルフェス」ですが、MSXに特化した内容だったせいか、それとも通好みのソフトハウスが作っていたせいか、「イースI」と発売時期が重なったせいか、移植版が出ることもなく、「知る人ぞ知る名作」として、当時を知る人が細々とその名を伝えるのみになっています。世界観重視の「イースI」が大ヒットする一方で、ゲームシステム重視の「ボルフェス」が、ひっそりと埋もれてしまったのはどこか対照的です。
ちなみにゲームデザイナーは富一成氏。「夢幻の心臓」が代表作ですが、その後日本ファルコムに移籍して「スタートレーダー」を製作します。こんなところでも日本ファルコムと縁があるのです。
特殊部隊「FOX HOUND」の精鋭、GREY FOXが、アフリカの武装国家「OUTER HEAVEN」で消息を絶った。「METAL GEAR」という謎の通信を残して...
再び「FOX HOUND」に命令が下る。GREY FOXの捜索と、史上最悪の殺戮兵器METAL GEARの破壊。任にあたる新米兵SOLID SNAKEは、無事任務を達成できるか!?
今や世界的に有名になったアクションゲーム、コナミの「メタルギア」シリーズ第一作目です。実はこれも「イースI」と同期の作品です。「イース」のアドルが駆け出しの冒険者ならば、名うての戦士スネークも、この頃はまだ新米です。
本作は厳密には「イース」の影響を受けた作品ではありません。当時コナミはMSX向けに数々の優れた作品を発表しており、MSXユーザーの間でその名を高めていました。特に「魔城伝説」「夢大陸アドベンチャー」といったオリジナル作品に力を入れており、MSX2専用ソフト「メタルギア」も、そうしたオリジナル作品として発表されました。
敵の目をかすめつつ要塞を探索する。基本は隠密行動。発見されれば敵の猛攻が待っている。
本作最大の特徴は「潜入」です。単身敵地に忍び込んだ主人公スネークは、飽くまで隠密行動をとっています。見つかれば敵の執拗かつ鬼のような攻撃が待っているので、力押しで進もうとすれば命がいくらあっても足りません。いかに敵の目を欺き、任務を遂行していくか。それが本作の肝となっています。
従来この手のゲームには「戦場の狼」「魂斗羅」や「怒」のように、突撃銃を派手に撃ちまくる内容の物が多く、本作も当初はそうしたものになる予定だったようです。ところが、大量のキャラクターの動きを高速に計算しかつ表示させなければならないこの手のゲームは、MSX2の性能では荷が重いものでした。
全編を通じて硬派で劇的な演出が光る。ハードの限界を逆手に取って活かした好例。
それを逆手にとったところに、この作品の発見があります。派手なアクションができないならば、いっそ倒さずに隠れること自体をゲームにしてしまえばよい。かくして「潜入」をゲームの核にした結果、「メタルギア」は独特の緊張感がみなぎる作品となりました。ハードの性能を見極め、活かした好例と言えるでしょう。この隠れることを重視したゲーム性はその後のシリーズにも一貫して受け継がれています。ついでに、シリーズおなじみの無線機、煙草、段ボール箱は本作ですでに登場しています。
シリーズのお約束「無線機」と「段ボール箱」。左画像のアイテム欄には煙草が見える。
戦争物アクションという通好みのジャンルのせいか、MSX2という機種で出たせいか、スネークよろしく「イース」の陰にまで隠れてしまった「メタルギア」。発売当初は大きく話題になることはありませんでしたが、その斬新なゲーム内容は「イース」同様、これまでにない新しいゲームとしてマニアの間で高く評価され、名作の称号を得ることになったのです。そして続編でこれも名作の誉れ高い「ソリッドスネーク」を経て、ついにプレイステーション版「メタルギアソリッド」が発売されるにいたって、「メタルギア」シリーズはその名を広く一般に轟かせることになりました。後の展開は皆さんご存じの通りです。
スタッフクレジットから。ゲームデザインはかの小島秀夫「監督」。
イースシリーズがゲームとしてその後の展開にしくじり凋落していったのに対し、「メタルギア」シリーズは着々と評価を高め、今やその立場は完全に逆転してしまいました。そのコナミから「ナピシュテムの匣」が出るのですから、歴史とは皮肉なものです。
舞台はフェアリーランド。バラリスもエビルクリスタルも消え、永らく平和が続いていたが、ある日、大地に火柱が上がるとともに巨大な地割れが出現するという事件が起きた。フェアリーランドに天変地異などあり得ない。事を重く見た修道士達は、原因究明のため、一人の若者を遣わした。主人公はこの若者。冒険はやがてフェアリーランド創世の謎に迫ることとなる。
「ハイドライド」は、日本ファルコムの「ドラゴンスレイヤー」と並び、ARPGの礎を作った作品として、ゲーム史上にその名を残すほどの歴史的名作です。「ハイドライド3」はその三作目で事実上の最終作、シリーズ集大成となっています。
プレイヤーは若者になりかわり、異変の謎を追って広大なフェアリーランドを冒険していきます。凝った演出やシナリオはないのですが、天を突く200階建ての塔、雲上に浮かぶ城、ドラゴンの棲む洞窟、からくり機械が蠢く宮殿、地割れの底...等々、奇想天外な展開で魅せる作品となっています(それで深い物語を感じさせるのが見事)。探索や戦闘が楽しい作品で、特に剣、弓、棍棒など、リーチや威力の違う武器を好みで使い分けながら敵をなぎ倒す戦闘システムが秀逸です。他には賛否両論ありましたが、持ち歩けるアイテムに重量制限を設けたり(通貨にも重量がある!)、時間の概念を盛り込んだりと、斬新な試みを採り入れています。
進化したアクション戦闘システム | 賛否両論の重量制限 |
朝昼 | 夕 | 夜 |
城と謎の地割れ。冒険は意外なところにまで進出することになる。画面はMSX版。
「ハイドライド3」も「イースI」の影響を受けたタイトルではありません。むしろ「ハイドライド」シリーズの対抗馬は日本ファルコムの「ドラゴンスレイヤー」シリーズだったのですが、「ハイドライド3」は発売された時期が「イースI」の後だったこともあり、「イースI」と比較されることが多かったのでした。
「イースI」以前のゲームの多くはそうした傾向にありましたが、マップの広さ、モンスターの数、パラメータの多さなど、とにかくボリュームが多い作品が面白い作品であるといわれ、また、難しければ難しいほど面白いという風潮も蔓延していました。
「イースI」はそれに異議申し立てをすべく生まれた作品です。一方で「ハイドライド3」は、従来への反省こそ踏まえていますが、飽くまで従来の延長線上にある作品です。「ハイドライド3」はシリーズのみならず、「イースI」以前のRPGの集大成であると言うこともできます。
注・「ハイドライド」シリーズは厳密には「アクティヴRPG」。「ハイドライド」のマニュアルによれば「アクションゲームのリアルタイム処理に、ロールプレイングゲームのキャラクターを成長させる楽しさと、アドベンチャーゲームの秘密捜しの面白さが、三位一体になったもの」と定義されている。SFC版「ゼルダの伝説」が「リアルタイムアクションアドベンチャー」と銘打っていたことを考えあわせると興味深い。
西暦2061年、人類はハレー彗星の接近に臨み、「コメット」「ころな」二機の有人探査機を飛ばしていた。ところが先に調査に向かった「コメット」が、彗星の尾のガスを採取した直後、その通信を絶ってしまう。緊急事態を察知した「ころな」は、原因究明のため、クルーの武麻速雄(むそうはやお)を「コメット」に差し向けた。
それは人類がいまだ遭遇したことのない、脅威との戦いの始まりだったのだ。
「イース」とジャンルは全く異なりますが、「ジーザス」は同期の作品として見逃せないものがあるので、ここで紹介します。それというのも、本作は「イース」と同じ考えで作られているのです。
「ジーザス」はコマンド選択式AVGです。プレイヤーは速雄を操り「コメット」が遭遇した危機の原因を探るうち、それがハレー彗星の尾に潜んでいた異常生命体、通称「モンスター」の仕業であることをつきとめ、これと戦うことになります。閉鎖された宇宙船内での戦い、次々に犠牲になる乗組員、得体の知れない敵に追いつめられる恐怖など、映画「エイリアン」を彷彿させる内容ですが、劇的でテンポの良い物語展開、臨場感と迫力ある演出、数々の印象的な謎解きなどなど高水準のゲーム内容を誇り、高い評価を勝ち得ました。ちなみに制作陣には往年の名プログラマー「芸夢狂人」こと鈴木孝成氏、グラフィックには現在も活躍中のデザイナー眞島真太郎氏、音楽には大御所すぎやまこういち氏といった、そうそうたる面々が名前を連ねています。
高水準の映像・シナリオ・音楽が売りの「ジーザス」。随所に散りばめられた映画的手法がゲームを盛り上げる。
当時のAVGもRPG同様、「難しいほど面白い」という風潮と無関係ではありませんでした。不条理な謎解きや仕掛けはあたりまえで、「いくらやってもなかなか先へ進めない」という批判が出ていました。当時のAVGでよくあった謎解きといえば、なんの手がかりもないまま行動を考えさせるというもの(注2)や、「言葉探し」(注3)が中心で、「推理」というよりは「暗中模索」を強いるものでした。
本作のシナリオを担当した雅孝司(みやこうじ)氏は、その筋にはパズル作家として名を知られた人物です。それだけにこうした不条理な謎だらけの80年代AVGには大いに不満を抱いていました。エニックスよりAVGシナリオの依頼があったとき「そうしたゲームを作るのであれば、極端な話、断ろうかとも思った。」と語っています。
劇中で遊べるミニゲーム「スペースマウス」と通風管パズル。この制作陣ならではの洒落っ気も満載だ。
雅氏が理想としたAVGとは「パソコンで見る映画」でした。ナレーションを廃したテキスト、緩急のある物語展開、アニメやスクロールを多用した画像表示、効果的な劇伴音楽など、「ジーザス」は映画を強く意識して作られています。それだけではありません。「ジーザス」にはゲームならではの、自分で解く楽しさも存分に盛り込まれています。本作の謎解きは、従来のAVGの主流だった、不条理な正解を「暗中模索」させるものではなく、劇中にいくつかの伏線を張っておき、取るべき行動を理詰めで「推理」させるものが中心です。特に本作最大の見せ場であり謎解きである「モンスターとの対決」は、その盛り上げ方と伏線の張り方の見事さで、多くのプレイヤーを感動させたのでした。
「パソコンで見る映画」。それは従来のAVGに対する疑問符であり、「誰でも最後まで行けるゲーム、誰もが楽しめるゲームを作る」という考えに基づくものでした。そしてその考えは「誰もが解く楽しさを味わえるゲーム」を目指した「イース」に通じるものがあるのです。
「モンスターの弱点は?」 答えはこれまでの物語の中にある!
当時AVGは斜陽化していた節があるのですが、その原因は数々の刺激的なARPGの出現はもちろん、理不尽なゲーム内容にユーザーが飽き始めていた部分も大きかったように思います。
「ジーザス」は好評を博し、山下章氏をして「RPGなら『イース』、AVGなら『ジーザス』」とまで言わしめています。「ジーザス」は「イース」の二ヶ月ほど前に発売されています。同じ思想に基づくゲームが近い時期に立て続けに発売され、それぞれ大きな支持を得たということは、潜在的なものであれユーザーの間に、当時ゲーム自体の面白さで魅せる作品を待ち望む気風があり、それが受け入れられる下地がすでに十分整っていたことを表していたのです。
そして感動の結末へ。「誰でも最後まで行けるゲーム」は、プレイヤーを虜にしたのだ。
注2・「行動を考えさせる」:それが場面とはかけ離れた脈絡のない行動であることもしばしば。
注3・「言葉探し」:当時のAVGは、キーボード上から行動を直接キー入力させるコマンド入力式が主流だった。だからひとつの同じ行動をとるにしても、さまざまな単語が入力できるようになっていた。これを逆手にとって、同じ意味の言葉でも、特定の言葉にのみ反応するようにした仕掛けを「言葉探し」と呼ぶ。たとえばケーブルを引き寄せるという場面にて、「引く」「引っぱる」「引き寄せる」などなど、正解となりうる単語は複数あるにもかかわらず、「引っぱる」以外は反応を示さないような仕掛け。適切な単語を探すため、当時のプレイヤーは辞書と首っ引きになってゲームを進めることになった。