「イースIV」はシリーズ4作目として、1993年末にスーパーファミコン版とPCエンジン版が発売されました。制作を持ちかけたのはハドソン。しかし自社制作できる余裕がなかった日本ファルコムは、実験的な制作体制を取ることとなります。それは日本ファルコムが原案を作り、各ソフトハウスがそれを元に別々にゲームを作るというもので、スーパーファミコン版はトンキンハウスPCエンジン版はハドソンが制作に当たりました。その結果できあがった作品は、人物やキーワードを共有しながら、それぞれ全く異なるものでした。
これから何回かに分けて、両機種の「イースIV」を比較します(以下スーパーファミコンはSFC、PCエンジンはPCEと省略)。
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同じ原案を元にしているだけあって、両機種には共通して現れるイベントもあります。しかしその味付けはそれぞれ大きく異なっています。今回はあらすじに沿ってそれらを比べてみることとします。
SFC版 | PCE版 |
SFC:エステリアの海岸で、セルセタから流れ着いた救いを求める瓶詰めの手紙を拾ったアドルは、万能薬の材料を求める医師フレア=ラルと共にセルセタに渡った。ロムン兵の進駐、魔物の出現、多発する失踪事件など、セルセタには不穏な空気が漂っていた。
PCE:エステリアでの冒険から2年後。ドギと共に旅を続けていたアドルは、ゴーバンの取引所開業を祝うためエステリアへと戻ってきた。しかしセルセタの異変を察知したサラの依頼で、再会を喜ぶ暇もなく単身セルセタへと渡った。
まずは旅立ちから。セルセタの危機を察知したアドルがエステリアを出発するところは同じですが、SFC版はエステリアを解放した直後、PCE版はそれから2年後と時間に開きがあります。また、PCE版は前作のシナリオアレンジの都合上、パソコン版では殺されたサラが生存しており、再び彼女に導かれることとなります。
念のため、4とこそ銘打っていますが、本編は2作目「イースII」と3作目「ワンダラーズフロムイース」の間、イース2.5とでもいうべき冒険を扱っています。
SFC版 | PCE版 |
SFC:アドルは国境の町キャスナンで、ロムン兵に不審人物として捕らえられ、砦に拘留された。牢で出会った情報屋デュレンによれば、かつて樹海は豊かな土地で黄金の城があり、翼のある人間達が暮らしていたという。脱獄を試みようとすると二人の前にロムン隊長が現れ、釈放を言い渡された。
PCE:アドルがロムン帝国の砦に近づくと、少女がロムン兵に絡まれていた。助けようとすると少女はあっというまにロムン兵を叩きのめし、アドルに近づいてきた。彼女は火の村アリエダの樹海警備隊長カーナと名乗り去っていく。その直後、アドルはロムン部隊長レオに不審人物として拘留された上、装備を没収されてしまった。アドルは牢で黄金の城を探しに来た男デュレンと出会い、樹海に眠る黄金の城の噂を聞く。そこに現れたカーナの手引きで、一行は脱獄した。
ここでデュレンにより、セルセタ古代文明の存在がほのめかされます。この後SFC版ではロムン隊長の指示によりあっさり釈放されますが、PCE版では脱獄を発見され、砦を強行突破することとなります。
SFC版 | PCE版 |
SFC:アドルは国境の峠を越えた先の遺跡で、少女が魔物に囲まれているのを発見した。しかし彼女は魔物をたやすく蹴散らしてしまった。彼女は風の村コモドのカーナと名乗り、遺跡にある像やレリーフが、この地に伝わる英雄レファンスと五忠臣をあしらったものであることをアドルに教えた。レリーフにはセルセタの異変を予言した警句が記されていた。
PCE版は既出なので省略します。両機種でカーナの村の名前が違っていますが、それぞれの機種でセルセタ地方にある村の数や名前は全く違っています。
敵を突破した後アドルに挨拶するのは一緒で、カーナがこれまでにないタイプのヒロインであることを印象づけていますが、シリーズ中今ひとつメジャーになりきれていません。
SFC版 | PCE版 |
SFC:カーナは樹海で謎の失踪を遂げた青年レムノスを探していた。アドルはクレーターで巨大な魔物と遭遇するが、それこそがレムノスだった。倒されると彼は人間に戻り、雷雨の聖域で闇の一族に魔物にされたと言った。コモドの長老はアドルに異変の原因を探るため、大長老に会いに行くよう勧めた。
PCE:セルセタに渡っていたフレアの紹介で、アドルはアリエダの村長に会った。そこで鉱山で失踪した息子レムノスの捜索を依頼される。鉱山奥で巨大な魔物と戦うが、それがレムノスだった。倒されて彼は人間に戻り、闇の一族が村の守護者スラノの墓を狙っていると口にして気絶する。アドルはカーナとともにスラノの墓に向かった。そこでアドルは「試練」の末、スラノの霊から魔法を託される。その直後闇の一族に襲撃されるが、突然の地震で一族が引き上げていったため、アドルは九死に一生を得た。
セルセタでは数々の失踪事件が起きていて、カーナはそんな一人、レムノスを探していました。彼は闇の一族によって魔物に変えられており、最初のボスとして登場します。
SFC版 | PCE版 |
闇の一族とは敵役である三人の魔導師です。残忍で狡猾な筆頭格のグルーダ、妖術使いの妖艶な女魔導師バミー、怪力自慢のガディス。IVは彼らを抜きに語れません。
SFC版 | PCE版 |
SFC:大長老を目指す途中、アドルは高原の村ハイランドを訪れた。村では剣士は忌むべき存在で、村人はアドルを冷遇した。そこでたまたま訪問した民家で、アドルはリーザと出会った。リーザは手紙の主が自分であることを認めたが、聖域の奥には近づくなと懇願するばかりで、手紙の意味については口を閉ざした。
PCE:スラノとタリムの「試練」を乗り越えたアドルは、次なる「試練」のため大地の村ラパロを目指した。その途中ガディスの策略に遭い、嘆きの谷に墜落してしまうが、そこに現れた少女の手当でアドルは一命を取り留めた。彼女はラパロの村のリーザ。アドルがありし日の丘にたたずむリーザに話しかけると、彼女はここにいると「あの方」のことも忘れられると問わず語りに言った。
リーザは本作もう一人のヒロインですが、その登場シーンは各機種だいぶ趣が違います。SFC版はアドルをセルセタに呼び寄せた本人で、その葛藤が物語の軸となっています。しかしPCE版ではそれほどの役割はなく、出番も少なくなっています。ついでにキャラデザも大きく異なります。
PCE版に現れる「試練」ですが、長いので説明は後に回します。
SFC版 | PCE版 |
SFC:アドルは雷雨の聖域でたまたま聖域の城に迷い込み、そこで偶然、闇の一族がセルセタに魔物を放っていることを知ってしまう。しかしそこに現れた有翼人エルディールに見つかり、闇の一族のリンチを受ける羽目に陥った。アドルはリーザにより救出されハイランドに運び込まれたが、聖域を汚したとして、村人はアドルを追い出そうとするのだった。
PCE:ラパロではリーザが行方不明になっていた。リーザを探して禁を破り、聖域の城に侵入したアドルは、そこで彼女を発見する。リーザはエルディールを説得するためここに来たという。しかし城では闇の一族も待ち受けていた。一族は彼女を捕まえると、その身代としてアドルに「試練」で得た魔法の杖を要求してきた。要求をのむと、闇の一族は裏切って彼女を殺そうとしたが、デュレンの乱入により阻止される。城の奥では有翼人エルディールが待っていた。彼はアドルに黒真珠こと「物言う石」を見せ、その力で深手を負わせた。リーザの家で目を覚ましたアドルは、彼女からエルディールの異変について知らされる。彼女は部外者には秘密で最後の有翼人エルディールの世話に当たっていたが、闇の一族が現れた頃から、優しかったエルディールが冷淡になったというのだ。村長はリーザを救ってもらった礼を述べた。そしてリーザはセルセタとエルディールのために、闇の一族を倒して欲しいとアドルに頼んだ。
前半の山場、敵役そろい踏み、リーザとエルディールの関係を示す場面です。
PCE版で「あの方」と呼ばれていたのはここに登場する有翼人エルディールです。PCE版ではデュレンが元闇の一族だったことが明らかになったり、前作で破壊したはずの黒真珠が出てきたりと盛りだくさんですが、詰め込みすぎた感は否めません。SFC版では、アドルが闇の一族に袋だたきにされるのですが、この演出はファンの間で賛否両論だったようです。
どちらの機種でも聖域の城は村の掟で立ち入り禁止ということになっていますが、村人の態度は正反対で、SFC版は聖域を侵したとして白眼視されますが、PCE版は全くお咎めなしで、かえってリーザを助けたことで礼さえ言われます。このあたりはSFC版の方が徹底しています。
SFC版 | PCE版 |
SFC:大長老に会うためには太陽・大地・月三つの瞳が必要だった。古代文明研究家ガゾックの協力を得て太陽・大地二つの瞳を集めたアドルは、大河の村セルレイの長老より、残る月の瞳がセルセタにないことを知らされる。セルレイではフレアが万能薬を完成させていた。そんな折りエステリアに再び魔物が現れたとの報を受け、アドルはフレアの代わり、万能薬を届けにエステリアに行くことになった。時を同じくして、リーザはエルディールの本心を問いただすべく聖域の城を訪れたが、エルディールに冷たくあしらわれた上、ガディスに殺されてしまう。しかしその後エルディールは輝きの首飾りの力で密かにリーザを蘇生させたのだった。
PCE:ミーユの試練の後、アドルは水の村リブラを訪れた。村では少年ティムが魔物に捕まり騒ぎになっていた。ティムはアドルによって救出されたが、魔物の毒を受け石化する奇病に冒されていた。フレアの診断では、治療のためには万能薬が必要だという。アドルは材料セルセタの原種を求めて湖の先の洞窟に向かった。途中バミーにより魔物に変えられる危機に陥ったが、アドルは無事原種の採取に成功する。しかしフレアによる万能薬の調合は難航し、クラーゼの協力を仰ぐべく、アドルはフレアと共にエステリアに戻ることになった。その頃、レオの協力の下、ガディスがロムン兵を率いてエステリアに渡っていた。
中盤の展開はかなり異なります。PCE版ではティムのために動き回ると言っていいのですが、SFC版ではこれにあたる展開がありません。特にフレアがすでに万能薬を完成させているため、かなり呆気ないです。
SFC版では、リーザは一度死んでしまいます。すぐに生き返るので安直ではありますが、このおかげでリーザとエルディールの関係が強く印象づけられたのは違いありません。
PCE版:聖なる泉
ついでに、PCE版では、アドルはバミーによって魔物に変えられますが、洞窟の奥でたまたま聖なる泉を発見し、そこの水を飲んで人間に戻ります。「イースII」の「聖なる杯」の焼き直しでしょう。
SFC版 | PCE版 |
SFC:エステリアには闇の一族の放った魔物が徘徊していた。そこでアドルは闇の一族が月の瞳を探していることを知る。ルタ=ジェンマによれば、月の瞳はかつてセルセタからイースにもたらされ、現在はリリアが持っているという。アドルはリリアの後を追ったが、彼女はアドルを追ってセルセタに渡っていた。リリアは月の瞳を恋愛成就のお守りと信じ、アドルに渡そうとしていたのだ。アドルはセルセタに戻り、コモドでリリアと再会するが、目の前で彼女をエルディールにさらわれてしまう。闇の一族とリリアを追い、アドルはリーザを押し切ってカーナ達と共に聖域の城に乗り込んだ。そこでアドルは月の瞳を手にするものの、闇の一族とエルディールをとり逃したばかりか、再びリリアをさらわれてしまう。失意の中ハイランドに戻ると、リーザが姿を消していた。ハイランドの長老はリーザの悩みについて語った。彼女は最後の有翼人エルディールの世話係で、そのことは部外者には秘密にしなければならなかった。リーザはある日、優しかったエルディールが邪悪になるという異変に気付いたが、彼に特別な想いを寄せるがゆえ、危害が彼に及ばぬよう、思い悩んだ末、小瓶に手紙を託したのだ。
PCE:エステリアに渡ったアドルは、ロダの弟の下でリリアと再会した。引き留めるつもりはないが無事でいてくれればそれでよいと、リリアはアドルに想いのたけを伝える。その後アドルはジェバ、イースの女神、ラーバの置き手紙からイース建国と滅亡の真相を知る。闇の一族は太陽の仮面復活のため、エステリアに渡った月の仮面を狙っていた。「月の仮面」とはかつてアドルがエステリアでの冒険で見つけた「マスクオブアイズ」のことだった。女神から月の仮面を受け取った直後、アドルはルタ=ジェンマから、リリアがロムン兵に拘束され、ダームの塔に連れて行かれたと知らされる。ガディスはリリアでアドルをダームの塔におびき寄せ、魔物化したキースをけしかけて月の仮面を奪おうとしたが、女神の介入で失敗する。そこで自ら戦うもアドルに撃破された。その頃フレアとクラーゼの協力で万能薬が完成した。リブラに戻り薬をティムに与えると、ティムは全快したが、元気になりすぎてそのまま還らずの遺跡に行ってしまう。遺跡ではガディスが待ち伏せていたが、アドルは再び撃破して魔法の杖を奪還した。ドギの協力もありティムは無事保護された。
どちらも中盤でエステリアに渡り、イース建国の謎を知ることとなります。SFC版では再び魔物が現れ、ミネアの街の中まで徘徊しているのですが、PCE版ではガディス率いるロムン兵がダームの塔に立てこもっているだけです。
リリアの再登場は「イースIV」の大きな売りであった割に、PCE版は意外に出番がありません。アドルを待ちわびるだけで、エステリアの外には出ません。ところがSFC版は全く逆でして、恋愛成就のためにエステリアを飛び出し物語を引っかき回します。これに喜んだファンももちろんいるのですが、うざったくなったと憤るファンも多くいます。
SFC版のリーザとカーナ
SFC版ではリーザとカーナが対面するイベントがあります。PCE版にはこういう確執や内面を語るイベントが少なく、あっても端折っているため、そのあたりの描写が希薄になっているように思われます。