「イースIV」が同じ原案を元に、各機種版が別々のソフトハウスで作られたことは以前書いたとおりですが、物語のアレンジは各ソフトハウスに任されたようです。
どちらが原案に近いかというと、大場惑氏はSFC版の方が近かった、と小説版「イースIV」のあとがきに書いています。しかしPCE版も日本ファルコムと何度か意見をやりとりした上で作られたものなので、どちらが正しくてどちらが間違っているというものでもなさそうです。
こうしたアレンジによって、魅力の増したもの、影の薄くなったもの、果ては一つの機種にしか出ないものといった機種ごとの差が生まれました。今回は登場人物に注目してみましょう。
「イースIV」にヒロインは三人出てきますが、機種によって一番違うのはその存在感です。PCE版は三人とも極めて断片的にしか登場せず、全編に渡って物語に絡んでくることはありません。逆にSFC版は三人とも積極的に関わってきます。ヒロインの扱いは、その巧拙はさておき、SFC版の方が一歩抜け出しています。
樹海警備隊の若き女隊長。樹海を異変から守るべく活動している。
SFC版 | PCE版 |
SFC:異変を巻き起こした闇の一族を追い、聖域の城や古代都市にまで乗り込んできた。
PCE:アドルがアリエダ近辺を探索した際力を貸す。アドルがアリエダを離れてからは伝書鳩を通じて情報を提供する。
一人目のヒロインはカーナです。ヒロインというよりは「イース」におけるルタ=ジェンマやドギに近い役柄です。SFC版では聖域の城や古代都市に乗り込んだりと大活躍を見せますが、PCE版は序盤のみの登場で、それ以降エピローグまで出てきません。そのかわり伝書鳩に手紙を託してアドルに情報を提供してくれるのですが、序盤以降直接対面しない分、存在感が薄くなったのは否めません。伝書鳩を呼ぶには「風のフルート」というアイテムを使うのですが、実質的に「イースII」の「リラの貝殻」「導きの巻物」と同じ働きをします。
PCE版・伝書鳩のルースを呼ぶカーナ
有翼人エルディールの世話に当たる少女。エルディールに想いを寄せ、その変貌に心を痛めていた。
SFC版 | PCE版 |
SFC:物語の端緒となった手紙の主。危険を顧みず命さえ投げ出せるほどエルディールを愛していた。
PCE:太陽の仮面復活の生け贄にされかける。目の前でエルディールを殺され、救えなかったことを悲嘆する。
二人目のヒロイン、リーザは機種によってキャラデザまで違っています。PCE版は当時の人気声優、白鳥由里女史の声でしゃべることもあってコアな人気があるのですが、実際のところ、劇中にはあまり登場しません。実はSFC版の方が見せ場が多かったりします。
SFC版ではリーザの苦悩はいくつものイベントを割いて、繰り返しじっくり描かれます。PCE版でも同じように悩んではいるはずなのですが、そこが十分に描かれていない上、出番の少なさも災いして、人気の割に影が薄くなっています。
前作IIのヒロイン。命を救われたためか、アドルに並ならぬ好意を抱いている。アドルに再会し想いのたけを告げる。
SFC版 | PCE版 |
SFC:家に伝わっていた古代セルセタの秘宝月の瞳を恋愛成就のお守りと信じ、アドルに渡すべくセルセタにまで渡ってくる。そこで事件に巻き込まれ命を落とす羽目になるが、すぐに蘇る。
PCE:2年来エステリアでアドルを待ち続けていた。再会を果たし、元気でさえいてくれればそれでよいと想いを伝える。ガディスに捕まるが、アドルにより解放される。
三人目のヒロインとして、「イースII」にも登場したリリアが登場します。両機種でその行動は両極端です。PCE版は控えめで、せいぜいガディスに人質とされる程度で、積極的に本筋に絡んでくるということはありません。SFC版は全くその逆で、おかげでえらく話がもつれることになります。中にはリリアを「ストーカー」呼ばわりする方もいますが、その根拠はSFC版のこの行動が大きいと思われます。
PCE版はエンディングで、子供達に「セルセタの樹海」の冒険を語って聞かす中年の女性が現れます。これまでの冒険は彼女が語っていた物語だったというわけですが、その子供がアドルに似ている上、彼女のCVが劇中のリリアと同じ、鶴ひろみ女史であるため、アドルとリリアが結婚して子供を設けたととれるようになっています。
リリアはシリーズのマスコットとも言える存在で、その再登場はIVの大きな売りでした。ファンの要望が高かったようですが、その評価は賛否両論、両極端です。
PCE版・エンディングに登場する女性
「イースIV」の敵役はエルディールと闇の一族ですが、どちらの描写に比重を置いているかは両機種で違います。SFC版ではエルディールに焦点が当てられていますが、PCE版はとにかく闇の一族が暴れまわります。
最後の有翼人。闇の一族の誘いに乗り古代セルセタ文明の力の復活を目論んだ。
SFC版 | PCE版 |
SFC:祖先の栄光に憧れたゆえ古代の力を復活させた。アドルの前に最後の敵として立ちはだかるが、倒されると自分の過ちを認め、詫びながら最期を迎える。
PCE:太陽の仮面復活のため闇の一族に利用された末、用済みになったとしてグルーダに殺される。
セルセタに暗躍する三人の魔導師。太陽の仮面の力で世界征服を企み、その復活のためエルディールを利用していた。
グルーダ | ||
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バミー | ||
ガディス | ||
SFC版 | PCE版 |
SFC:古代の力で世界征服を企む。エルディールを利用した挙げ句始末しようとしていたが、その前にアドルの前に敗れ去る。
PCE:太陽の仮面の力で一族の王、殺戮王アレムを復活させ、世界を闇に陥れようとしていた。復活したアレムともども打ち倒された。
どちらの機種でも闇の一族がエルディールをそそのかして利用していたことは同じです。特にPCE版では何度もアドルの前に立ちはだかっては邪魔をしてきます。そういう意味でPCE版闇の一族はシリーズを通じてもっとも「悪役」らしい敵役でしょう。特にガディスは強烈だったようで、ダームの塔での戦闘時に連呼する「ぶっ殺してやる!(cv.玄田哲章氏)」という台詞が耳に灼きついて離れないという方も多い模様です。
SFC版エルディールは悲しい宿命を背負った従来の敵役、強いて挙げればダルク=ファクトやチェスターに近い存在です。SFC版でエルディールが悪に手を染めたのは祖先の栄光に憧れたゆえでした。
各機種の最終ボスがそのまま物語を象徴していることは前回述べたとおりです。SFC版はセルセタ古代文明を担った有翼人最後の末裔エルディールですが、PCE版では闇の一族の始祖であり、かつてセルセタを恐怖で支配した殺戮王アレムです。
PCE版で闇の一族がアレム復活を企んだ理由についてはエピローグでデュレンがほんの少し触れています。「闇の一族は永く忌み嫌われ、どこにも居場所がなかった。その行動は過ちだったが、気持ちは分かるような気がする。」 惜しむらくは本編でそれがほとんど描かれなかったことです。
敵役はその戦う理由、戦いに至った内面を描くだけで、ぐっと深みが増します。事実、そうした描写が全くないSFC版闇の一族は仕舞いまで単純な悪役となっています。PCE版エルディールにも同じようなことが言えます。
世界を支配できる力を秘めたという黄金の城を求めてセルセタに進駐していた。目的のため闇の一族と手を組む。
隊長を含め部隊は地元住民から忌み嫌われている。
SFC版 | PCE版 |
SFC:名無し。黄金の城が眠るセルセタ一帯をロムン帝国の版図にしようとしていた。
PCE:隊長レオ。強欲な小悪人。黄金の城を独り占めするつもりだったが強欲さゆえに自滅する。
一応ロムン部隊についても触れておきます。「ロムン帝国」というのは「イース」の設定にある大国家です。
どちらの機種でも、黄金の城を狙ってセルセタに進駐しており、裏で闇の一族と手を結んでいます。SFC版ではセルセタ攻略のために手を組んでいましたが、エルディールに付いた方が得策と判断したグルーダから、早々に見捨てられます。PCE版ではグルーダの提案で、月の仮面を探すためガディスと共に兵隊をエステリアに派遣することとなります。
隊長は名前が付いてるだけあってPCE版の方が目立っています。物語上、たいした役柄ではないのですが、かなり個性的な忘れがたいキャラに仕上がっています。
SFC版にも隊長は出てきますが、中盤近くコモドに攻め込んできて、部隊共々アドルの返り討ちに遭い殲滅されます。はっきりいって何のために攻め込んできたのかわかりません。
PCE版・セルセタ古代都市に現れたレオ隊長 | SFC版・コモドに攻め込んできたロムン部隊 |