加藤正幸 かとうまさゆき
日本ファルコム代表取締役社長。つねに新しいものを求め日本ファルコムを設立。ソフトも革新的なものを数多く発表、高い評価を受けている。淡々とした口調ながらも、イースについて熱く語ってくれた。
ゲームはいうまでもなく、アニメや小説、コミックなど幅広いメディアで活躍する「イース」シリーズ。その人気の秘密はいったいなんなのか? 日本ファルコム社長、加藤氏にお話をうかがってみた。
どうですか? 遊んでみた感想は?
(と、突然こちらに質問してきた加藤社長。イースにかける愛情がヒシヒシと感じられるなか、インタビューは開始された。)
−あ、すごくていねいに作ってあって、おもしろかったです。ではさっそくですが、今回のイースIVは発売形態が珍しいですよね? オリジナルが存在していないという。
そうなんだよね。ウチのほうでなかなかIVの企画が製作できなくてね、そんなときハドソンさんから続編をやりたい、という話がきて、それならウチでシナリオと音楽を作って、ハドソンさんでゲームを作ろうという話になったんです。
−ファルコムで作っていたのがハドソンに移ったわけではない?
ハドソンさんのほうから作りたいという申し入れがあったんです。ふつうはウチがパソコン版を作って、それを移植してもらうという形なんですけど、ウチはハドソンさんに比べて少ない人数でやっていますから、今イースを作るラインがないんだと言ったんです。それなら世界観を作っていただいて、ウチで(ハドソンで)ゲームを作るのはどうですか? という話がハドソンさんからきた。世界観だけなら大丈夫かな? そう思って作り始めたら結局熱が入って、かなり細かいところまで詰めて作っちゃった。もちろん実際にゲームにするときにはその通りにはいきませんから、そのへんの細かいアレンジはハドソンさんにおまかせしました。
−その方法で製作は大変ではありませんでしたか?
いや、ウチはそうでもないんですけどね。できあがったシナリオの原案をドーンとお渡しして、それをゲームに展開するための骨組みの案がハドソンさんから来る。そしてここはこうしたほうがいい、とウチが意見を戻す。そういうやりとりを何回かしてできあがったって感じですかね。
−システム的にもI・IIに戻ってますよね。これもハドソンさんからの要望で?
いやいや、これはユーザーさんの要望ですね。IIIでは横視点でしたが、これがIIの続きを望んでいたユーザーさんにはどうも受けが良くなかった。IIの直接の続きがやりたかったという声が大きかったんですよね。それなら次に続編を出すときはIIIの続きではなく、半歩戻ってIIとIIIの間の話にしようと以前から思っていました。システムも一番好評だったIIのシステムに戻したわけです。
−ストーリーがイースがらみに戻っているのもユーザーの声を反映して?
そうですね。やっぱりユーザーさんはイースの話をもっと遊びたかったようで。
−今回のストーリーでずいぶんイースについて語られますよね。建国の秘密ですとか。アドルのイースをテーマにした冒険は今回が最後になるのでしょうか?
それはちょっと……まあ、はっきり言っちゃうと、もう構想に着手しているんですよ。
−えっ!?
PC版イースIVと同時に、イースのビデオクリップ『イーススペシャルコレクション』が発売されるんだけど、なかなかできが良くてね。で、その中に「スクープ、イースV」っていうコーナーがあるんですよ。
−IVはVを前提に作られた?
いや、そうではなく、もともとイースIの取説の中に「アルタゴの五大龍」や「砂の都ケフィン」とかいろいろと書いてあったでしょ? そういう世界の中にIVのセルセタの樹海もあって(編注・セルセタも取説中に登場している)、Vもその延長線上にある物語になると思うんだけど。物語の密度もかなり高いものにしようと今がんばっています。
−それはパソコンで発売されるのですか?
いやそれはまだわからない。ただ今回のIVのような発売形態はわれわれにとってかなり実験みたいなものだったんだけど、機種にとらわれないゲーム作りのようなものはこれからも目指したいと思う。ずっとコンピュータでやってきたけど、コンピュータを使わないゲーム作りができたらいいな、なんてのはあるよね(笑)。
まぁ、イースIVについては、イースというタイトルがあったからできたんだけど、こういう形の仕組みを1つの形にできたらうれしいなという気持ちはありますね。
−社内のメインスタッフは今回のようなソフト開発についてはどう考えているんですか?
それは自分たちもやりたいけど、今やっていることでそれどころじゃないんだよね。社内にもイース好きなスタッフはいっぱいいるし、やりたいって気持ちはもちろんありますけどね。
ただ、今パソコンがよく分からない。主流が以前のPC−8801からPC−9801に移ったでしょ。9801ユーザーさんがイースかな? という気はありますね。今作っている英雄伝説IIIも、大人っぽい感じにしてますし。そういう意味でPCエンジンで出たのは正解だと思います。できのほうも演出とか力の入れかたとか、よくここまでやってくれたなという仕上がりになっていて、うれしいな(笑)。
−パソコンで遊んでいたユーザーにも安心してすすめられる?
それはもう! たぶん好きな人は遊んでいて涙を流すなんてとこもあるんじゃないかな。それにあれだけの音楽とか演出とか、あんなデラックスなものは今までのゲームにはないですよね? このよさがふつうのテレビでわかるかな、なんて心配するぐらい(笑)。
−PC版イースIVは大満足?
そうですね。あれだけ手間と力を入れた演出で、倍くらい遊べたらいいのになんて言ったら、ハドソンさんに怒られちゃうよね(笑)。
−イースってものすごい広がりを持っていますよね? アニメや小説、コミック、そして今回のIVと。イースがここまで支持を受ける理由は何だと思いますか?
昔、アドベンチャーゲームがはやったころ『太陽の神殿』っていう俯瞰マップの上を歩いて、イベントのある場所にいくとアドベンチャーになるっていうゲームを発売したんですよ。そこでね、マップを自分でたどって歩いていくってことは意味がなくても面白いんですよね。いまじゃそれがふつうになっちゃったけど、そのシステムを使ってRPGを作ろうと思ったのがイースなんです。
それと当時RPGといえば難易度の高いものばっかりだったところに、「やさしい」イースは新鮮だったんですよ。
でも最大の理由は作り手が作りたいものを楽しみながら作っているからじゃないですかね。まぁ、そのせいでI・IIと作ってそのシステムに飽きちゃって、新しいものをと思って作ったIIIが不評だったりしたんですけどね(笑)。僕はIIIは好きなんだけどなぁ。
−映画的な演出も今までにはなかったですよね。
イースはソーサリアンなどのシステムがウリのゲームではなく、演出で人間味の伝わってくるようなものを作ろうと気を使ってますからね。鐘つき堂とか、急いだってしょうがないんだけど、それでも急いじゃうような。
−イースはこれからも?
よくイースはもういいんじゃないの? っていう人もいるけど、僕はイースは死ぬまでやりますからって(笑)。ライフワークで。
−最後にこれからイースIVを遊ぶ人に一言。
音、ビジュアルはもとより、今までとは違って心にうったえかけるゲームになっています。だから片手間に遊ぶんじゃなくて、部屋を暗くしていい音で遊んでほしいですね。
と熱く語ってくれた加藤社長。イースはまだまだ僕らを熱狂させてくれそうだぞ!
注:インタビューは93年のもの。2003年現在、加藤氏は日本ファルコムの会長になっている。