03年9月、シリーズ待望の新作「イースVI ナピシュテムの匣」が発売されましたが、その下敷きには、95年末に発売された前作「イースV 失われた砂の都ケフィン」があります。「月影のDESTINY」や「イースVI」の特典になったEGG版で初めて触れたという方や、再び遊んだという方も多いのではないでしょうか。
永らくスーパーファミコンでしか遊べなかったため、シリーズでは最も知られていなかった「V」ですが、件の特典と「イースVI」のおかげで、ずいぶん光が当てられるようになりました。これから何回かに分けて「イースV」が、どういう作品だったのかを確かめてみましょう。
「イースV」は発売間もない頃から、設定資料の一部が断片的に公開されてきました。そのおかげで、登場人物の設定からゲームシステムに至るまで、原案とゲームの内容が全面的に違っていることが知られています。特に物語は原案とは大きく異なっています。これまで原案の物語は、サントラCD「ミュージックフロムイースV」ブックレット収録のストーリーボードに、その概要がうかがえる程度でした。ところが最近、関連書籍の出版が相次ぎ、「イースV」原案の物語も公開されるに至ります。原案の物語は5万6千字ほどの、小説仕立ての読み物となっています。
ここで採り上げるのは二度手間のような気もするのですが、比較に先立って、今回はまず03年10月発行の「イース大全書」を底本に、原案小説の内容を紹介いたします。
(画像は素材集「イースマテリアルコレクション2」より)
アドルが冒険を始めてから四年。アドルは相棒ドギとともに、船でサンドリアに上陸した。サンドリアはアフロカ大陸東部、大河ナルム川の河口に開けた大港湾都市だ。上陸するなり、ドギは歓楽街に行ってしまった。アドルは一人サンドリア市街地へ入った。
街の人によれば、サンドリアは、ナルム川の疲弊、不作、砂漠化、魔物の出現といった災厄に苦しんでいた。市庁舎で市長に会ったアドルは、それ以外にも東方オリエッタから来た盗賊イーブル一家や、古代王朝の再興を企む秘密結社「ナルムの使徒団」といった賊が出没していることを知る。
図書館では周辺の歴史を教わった。かつてナルム川流域を支配したナルム王朝が、五百年前に滅んだというものだった。
街いちばんの豪商ドーマンが冒険者を捜しているという話を聞き、アドルはドーマンの屋敷に向かった。
青年執事リジェの案内で、アドルはドーマンと対面する。ドーマンは「砂の都ケフィン」の伝説を知っているかと切りだした。ケフィンは五百年前に錬金術で栄えた都市国家で、その場所は誰も突きとめられず、いつしか「さまよえる砂の都」と呼ばれるようになった。ケフィンの錬金術があれば、ナルム流域の民衆を救うことができるというドーマンの依頼を受け、アドルはケフィン捜索に乗り出した。ドーマンはアドルに資金と、ケフィンに由来するという光の結晶「ルミナス」を渡した。
注:ゲームでは女性のリジェだが、原案では美男子だった。
アドルは下町で、捜し物なら「占いの女の子」を訪ねるとよいという話を聞く。女の子の家がある広場で、流れてきた笛の音に聴き入っていると、後ろからおびえた様子の少女が現れた。少女は大男二人に刃物を突きつけられ、助けようとしたアドルは身動きが取れなかった。大男がアドルの財産と結晶を奪うと、少女は大男二人とグルだったことを明かした。三人はイーブル一家のテラ、グリド、ガリブと名乗り、まんまと騙されたアドルを嘲笑して逃げていった。
イーブル一家にしてやられたアドルの前に、占いの女の子ことニーナが現れた。アドルはニーナにケフィンの場所を尋ねたが、「水の神様」に伺いを立てる自分の占いでは砂漠のことはわからないと言った。それでも上流のラムゼンに行けば、砂の都に詳しい人がいると教えてくれた。ニーナは三年前に父親とともにサンドリアに来た。父親が「砂の都を探しに行く」と出て行って以来、一人で暮らしていたが、時折謎めいた若い女性が世話に来るらしい。アドルはドギと合流し、ラムゼンに向かった。
注:ニーナも原案とゲームとで大きく変わった登場人物。原案はゲームと違い、7歳の幼女となっている。
サンドリアの外では危険な魔物が徘徊していた。道は所々で草に埋もれていた。二人は隠者たちが暮らす小さな集落に着いた。ケフィンについて尋ねてみると、五百年前、ナルムを荒らした悪い竜を、錬金術師を率いたケフィンの少年王が退治した伝説を教えてくれた。錬金術を以てすれば、食べ物や水はおろか、全ての物質を創り出せるという。
二人はラムゼンに到着した。そこで若い娘の悲鳴を聞きつけ、ドギが助けに行く。娘はフェルテ村のエフィ。魔物の出現と砂漠化に見舞われたフェルテを救う勇者を求めてラムゼンに来たところ、村の財宝を狙うナルムの使徒団に襲われていた。使徒団を蹴散らしたドギは、エフィの頼みでアドルと別れ、フェルテに向かった。
ラムゼンにマーシャという博識の女性が住んでいることを知ったアドルは、手がかりを求めて彼女の元を訪ねた。マーシャにケフィンについて尋ねると、結晶の意味を教えてくれた。全部で五つの結晶を集めればケフィンにも行けるという。マーシャは他にも知っているようだが、それ以上のことは教えてくれなかった。
家のそばにいた、マーシャにぞっこんの青年によれば、マーシャは三年ほど前、砂漠の方から一人でラムゼンに来て、時折留守にしているらしい。
ドギに会うため、アドルはフェルテに行った。フェルテはラムゼン西の厳しい荒野を抜けた先にある。ドギは武器を手に村の周りをうろついていた。村人の多くは来て日の浅いドギを、まだ疑い半分で見ていた。フェルテ先の砂漠を越えたところにはべーウィン族が住んでいるらしいが、まだ先へ進める段階ではなく、アドルはラムゼンに戻った。
ラムゼン上流の険しい峡谷を進むと滝があった。傍らの小屋にいる中年男は、滝の裏の洞窟を抜ければナルムの対岸に行けるという。結晶の一つがここにあるとにらんだアドルは洞窟に向かった。
洞窟の中には太ったおばさんがいて、宝物を三人組の泥棒に奪われたとアドルにすがりついてきた。二人は洞窟の奥に進んでいった。
アドルは洞窟の奥で巨大な魔物を倒した。奥に現れた扉の先の岩室に水の結晶「ビュイ」があった。持ち帰ろうとすると、イーブル一家を連れたおばさんに横取りされた。一家もケフィンを目指して結晶を集めていた。魔物のせいで結晶に近づけなかった一家は、アドルを利用して、結晶を横取りするつもりだったのだ。アドルはまたしてもイーブル一家に騙された。
岩室に閉じこめられたアドルは、見つけた抜け穴で外に出た。岩壁をよじのぼった先には鬱蒼とした密林があった。
密林の中には異様な村があった。村人は友好的で、アドルは村の長老と面会する。ここに来た理由を話すと、長老はこのあたりにも災厄が及んでいると語り、密林の奥にある宝物をあげようと言った。
長老の言うとおり、密林の奥で土の結晶「テール」を回収したアドルは、元来た抜け道へと向かった。
ナルムの対岸に渡ったアドルは、尖った岩が散乱する平原を抜け、老夫婦の住む一軒家を見つけた。老人はこの地の古代文明の話をした。裏山の遺跡は五百年前のナルム王朝の墳墓だった。ナルム王朝は繁栄したが、ケフィンを狙う王が何度も侵略を試みるうち、衰えていった。ところがある日ケフィンが消えてしまい、王はサファルの豊かな大地に乗り込んでいったが、突然土地がやせ始め、砂漠が広がっていった。王は国力を注ぎ込んで食い止めようとしたが、徒労に終わり、王朝はついに滅んだ。
アドルが草原の隠者から聞いたことを話すと、老人は詳しい話をしてくれた。五百五十年前、少年だったケフィン王と共にナルムを訪れた錬金術師ジャービルは、五ヶ所に結晶を据え魔法陣を築き、邪竜の動きを封じた。魔法陣のあった場所はナルムの民衆により聖地とされた。結晶は丁重に祀られたが、ナルム王の弾圧により散逸したという。
裏山の墳墓ことセーベの遺跡は扉により閉ざされていた。アドルはドーマンの遣わした船でサンドリアに戻った。アドルはドーマンに結晶を渡し、これまでのことを報告した。ドーマンは第四の結晶が砂漠にあるかもしれないと、アドルに砂漠横断を勧め、砂漠越えに必要なマントを渡した。
サンドリアを出る前にニーナの家に寄ってみると、ニーナは無心に笛を吹いていたので、アドルはそっと立ち去った。
ラムゼンではイブール一家のテラが待っていた。酒場の裏でママが待っているというので渋々行ってみると、一家とともに、結晶を横取りしたおばさんことママがいた。一家もある人物の依頼で結晶を捜していた。ママは、自分たちの邪魔をするのは止めろと脅すとともに、アドルが砂漠から火の結晶「アグニ」を持ってきたら奪い取ってやると挑発した。
マーシャを訪ねると彼女は、砂漠から無事に帰ってきたら渡したいものがあるとアドルに言った。
フェルテは前より砂漠化が進んでいた。ドギは村の若者と共に防壁作りに精を出していた。アドルは村長とエフィからドギの活躍を聞く。ドギはナルムの使徒団の襲撃を退けたばかりか、防壁作りや井戸掘りなど、村を守ろうと懸命に働き、その姿に村人も励まされていた。
砂漠越えにドギの力を借りようとしたアドルだったが、そのまま去ろうとしたところ、ドギ自らが協力を申し出た。村長から砂漠越えに必要なコンパスを借り、二人は砂漠越えに挑んだ。
危険な死の砂漠を越え、二人はオアシスにあるべーウィン族の村に着いた。二人は長老からケフィンの場所を教えてもらったが、付近に犬の化け物が住んでいるという。二人はその場所を目指した。
教えられた場所には、高い塔とともに都市の遺跡があった。そこで二人は流砂から、人語をしゃべるコボルドのコロを救出する。
遺跡の広場には多くのコボルドが住んでいた。コロの父親によれば、コボルドは人間の友達だった。数百年前、ケフィンには多くの人が住んでいたが、ある日突然、コボルドの先祖を置き去りにして、みなどこかへ行ってしまった。以来コボルドは人間が来るのを待っていたが、来ても怪物扱いされるのを悲しんでいた。ところが三年前、はじめて人間の友達ができたらしい。コロの父親はアドルたちが友達になってくれたので喜んだ。
注:コロの父親の友達になった人間とはスタンのこと。
遺跡の広場で、二人は記念碑を見つけた。五百年前、ケフィンがこの都市を捨てたときに残したもので、碑文にはケフィンの歴史が記されていた。
ケフィンでは高度な錬金術が発達していた。戦争を嫌った王は錬金術師ジャービルに命じ、新都を建設させ、新天地に旅立った。コボルドはそのとき都市と共に見捨てられたものだった。五百年の時を経て今なお人間を友達と慕うコボルドに二人は胸を詰まらせた。
広場の先の扉の奥は、塔の入り口につながっているはずだったが、危険な魔物が住んでいるからと、コボルドが引き留めた。コロの父親と友達になった人間は、この扉の先に行ったまま帰ってこないのだという。二人はコボルドに再会を約束し遺跡を去った。帰り際コロの父親は二人に火の結晶「アグニ」を渡した。
フェルテでドギと別れ、アドルはラムゼンに戻った。約束通りマーシャを訪ねると、マーシャは発火の杖を渡した。ラムゼンではリジェも待っていた。ドーマンが船でアドルを迎えに来たという。
アドルはドーマンにこれまでのことを話し、「アグニ」を渡した。ドーマンは残る闇の結晶「ニュクス」がセーベ遺跡にあることを突きとめていた。イーブル一家も遺跡に踏み込んでいるという。
アドルはドーマン一行とセーベ遺跡に入った。アドルは先行して魔物と罠をかいくぐり、奥を目指した。ドーマン一行が追いついてきたところ、部下の船員が落とし穴の罠にはまった。ドーマン一行は船員の救助に向かい、アドルは再び単身奥へ進んだ。
迷宮の先では、イーブル一家が墳墓を守る守護獣に苦戦していた。守護獣を退けたアドルは、後ろから追ってくるテラを振り切り、最後の一つ、闇の結晶「ニュクス」を手に入れた。
テラはドーマンの部下に捕らえられた。アドルは追いついてきたドーマンに「ニュクス」を渡した。そこにイーブル一家が追いつくと、ドーマンはテラを人質に結晶を要求した。ママはやむなくドーマンに結晶を差し出した。全ての結晶を手にするとドーマンは豹変した。
ドーマンの正体はナルム王朝の末裔にして「ナルムの使徒団」の黒幕だった。その目的は民衆の救済ではなく、ケフィンの錬金術を奪い、王朝を復興させ、ロムン帝国を倒すことだったのだ。
そしてイーブル一家に結晶捜しを依頼していたのはリジェだった。ドーマンはリジェと共謀し、アドルとイーブル一家を操り、競争で結晶を捜させたのだ。
ドーマンは用済みとなったイーブル一家を、飼いワニの餌にすると言ってサンドリアに連行し、アドルとテラを墳墓の奥底に突き落とした。