アドルはイーブル一家と共に王城に乗り込んだ。一家と別れ単身進むと、玉座の間に通じる階段を見つけた。一家は王の不老不死の術にまつわる仕掛けを発見した。アドルは階段を上り、玉座の間へと急いだ。
生誕祭はすでに始まっていた。玉座の間では民政官が待ち受けており、邪魔をさせじと、変身して襲いかかってきた。アドルはなんとかこれを退け、命を吸い取るための不気味な蔦が絡まる部屋を抜け、先へ進んだ。
王城上部ではリジェが待ちかまえていた。リジェはケフィンの理想、正義の実現に燃えていた。ケフィンの正義のために働かないかとリジェはアドルを誘ったが、アドルはその考えが腑に落ちず、二人は戦うことになった。苦闘の末、アドルはリジェを倒した。
アドルは子供たちが捕らわれている部屋に着いた。テラと夫婦の息子もそこにいた。子供たちにはさっきの蔦がからみつき、何人かはすでに事切れていた。アドルがテラを救助すると、スタンが追いついてきた。後のことをスタンに任せ、アドルは王を倒しに向かった。
王城の最上階は、生誕祭の特設舞台に通じていた。アドルは舞台で市民の歓呼に答える王ににじり寄った。自らの奉ずる正義のためには悪人を捨て石にすることさえ厭わない。王は正義の権化だった。
そこにテラとスタンが現れた。テラは民衆を前に、王に受けた仕打ちを暴露した。スタンも、悪人を捨て石にする王の仕打ちが正義と言えるのか、ケフィンの生活はそこまでして守らなければならないほどのものなのかと訴えた。市民たちの動揺をよそに、王はアドルに襲いかかった。
変身した王は強く、アドルは苦戦を強いられた。そこに不老不死の術を制御する宝珠を手に、イーブル一家が現れた。ママが宝珠を破壊すると、王は醜いゾンビと成り果てた。その姿にケフィンの誤りを悟った市民たちは、アドルを声援し始めた。アドルがついに王を倒すと、市民の歓声がこだました。
そこにマーシャが現れ、一同を制した。本当の敵ジャービルがまだ生き残っており、ケフィンを見張っているというのだ。応えるかのように、一同を挑発するジャービルの声が広場に響き渡ると、一行を導くかのように中枢部への通路が現れた。
一行はケフィン中枢部に足を踏み入れた。ジャービルは一行の力を試そうとしていた。ジャービルの罠でバラバラにはぐれた一行に、魔物が差し向けられた。
アドルは迷宮を進み、テラを救出し、さらにスタンと合流した。スタンによればジャービルを倒すためには、中枢部にある「賢者の石」を破壊しなければならないが、それはケフィンの崩壊を意味するので、うかつに手は出せなかった。
スタンはジャービルに問いかけた。なぜ錬金術にこだわるのか、と。ジャービルの答えは、スタンの未知を求める好奇心に理由がないように、自分も真理を極めたいだけで理由はないというものだった。現れたマーシャが反駁しても、ジャービルは取り合わず、面白いものを見せてやると、一行を通路に誘い込んだ。
奥にはジャービルの研究成果、異形の物体が並んでいた。ジャービルは王国の平穏のためと偽り、不老不死の術を餌に、王を操っていた。しかしジャービルはその術には満足せず、さらに研究を重ねたというのだ。
次に現れたのは巨大な魔物だった。その正体は、ジャービルの実験のため、肉体を取り去った人間と獣を合成した哀れな生物だった。
次は生きる水晶、人間の魂と石を融合した物体だった。閉じこめられた魂は何もできないまま、未来永劫このままでいなければならなかった。一行はジャービルの非道を目の当たりにして、奥へと進んだ。
一行は「賢者の石」の元へとたどり着いた。ジャービルは「悪人」を実験台に、究極の不老不死の術を完成させ、己にかけていた。それはケフィンを制御する「賢者の石」と己を融合させるというものだった。ジャービルを倒せばケフィンも崩壊する。市民の安全をちらつかせ、ジャービルは自分を倒すことはできまいと告げた。
そのときマーシャが策があると割って入った。アドルはジャービルとの最終決戦に臨んだ。
激闘の末、ジャービルは倒され、「賢者の石」も滅びつつあった。その瞬間、マーシャがジャービルと入れ替わりに「賢者の石」と融合した。マーシャの策とは、自分の命を犠牲に、「賢者の石」が力を失うまでのわずかな間にケフィンを制御して、安全に着陸させようというものだった。別れを告げるマーシャに愕然とするスタン。
そこにイーブル一家が追いついてきた。事情を知らない一家は、マーシャがジャービルに捕らわれたものと勘違いし、賢者の石に突撃し、石にひびを入れた。今やらなければ後悔するとテラに背中を押され、アドルも賢者の石に突撃した。
アドルの一撃で、剣とともに「賢者の石」は崩壊した。マーシャは解放され、「賢者の石」も破片になりながら、その力を保っていた。一行は「賢者の石」の間から脱出した。
「賢者の石」はマーシャ捨て身の行動で、わずかな余命を与えられた。市民たちの懸命な努力でケフィンは旧ケフィンの遺跡に無事に着陸したが、それと同時にケフィンの壮麗な都市は砂に変わり、崩れていった。
ケフィンは砂と崩れ去った。呆然とするアドルの前にドギが現れた。ドギはフェルテの村人とべーウィン族、そしてエフィも連れて救助に駆けつけた。ドギは砂漠を渡り歩き、べーウィン族の助けも借りて、村人の多くを救出していたのだ。
スタンとマーシャも現れた。ドギは二人にニーナを引き合わせた。スタンとニーナは三年ぶりの再会に喜んだ。
イーブル一家は堅気としてやりなおす決意を新たにした。テラの堅気に憧れていたという言葉に、ママは涙した。
コボルドのコロもやってきた。錬金術が失われ、コボルドたちは元の犬に戻っていた。自然も元の秩序を取り戻したのだ。
そのとき、人々の目の前で奇跡が起こった。ケフィンは崩壊とともにその精気を地上に返し、砂漠が緑の沃野へと変わっていったのだ。
ケフィンは崩壊し、ナルムに活気が戻ってきた。サンドリアはケフィンの人々を受け入れ、新しい時代が始まろうとしていた。
スタンは冒険者生活を終え、ニーナとマーシャを連れ故郷に帰ることを決め、ドギはエフィの強い要望もあり、フェルテ再建のためこの地に留まることになった。相棒ドギとの別れに、アドルは独り立ちの時を悟っていた。
ニーナが住んでいた広場では、救出されたマーシャの親友が、アドルの像を創っていた。捕らえられた人々の多くはケフィンの犠牲になっていたが、ごく一部は助け出せたのだ。
ニーナの家は空だったが、そこには礼を述べた半魚人の手紙とともに、魚が置いてあった。
波止場ではスタンたちが待っていた。マーシャはアドルに礼を述べた。錬金術の罪深さに、錬金術と一緒に自分まで否定していたが、それは間違いだった、逃げずに立ち向かっていく勇気をアドルに教えてもらったと。
イーブル一家も現れた。一家は堅気に戻ることとなった。テラは五年待ったらいい女になってみせるからとアドルに言った。一家に見送られ、アドルを乗せた船は出航していった。全ての人々にとっての新しい生活が始まろうとしていた。
素材集「イースマテリアルコレクション2」収録の資料と、ビデオクリップ「イーススペシャルコレクション」から判断して、原案小説は開発のごく初期、93年末までに書かれたものと見てよいかと思われます。
全体的に原案小説は、迷宮の様子や仕掛けなどが具体的に描かれているのが目立ち、ゲーム化を念頭に置いて書かれたことがよくわかります。しかしこれがそのままゲームになったわけではありません。ゲームの大きな売りだった「錬金魔法」は、原案小説の段階では出てきません。せいぜいマーシャが「火術の杖」を渡す程度です。原案は飽くまで原案ですので、製作途中で様々な変更点が出てくることは予想できるのですが、「イースV」の場合、原案から読みとれる仕様と、ゲーム本編の仕様があまりに違いすぎていて、その差が不思議に思われるほどです。
原案小説は、五つの結晶を巡る冒険を描く前半と、ケフィンでの戦いを描く後半の二部構成ですが、その間にドーマンとの対決が大きなイベントとして挟まれています。
登場人物の子細は、原案小説とゲームでは若干異なっています。例えばイーブル一家。ゲームでは母にはアルガという名前があるのに対し、原案では単純にママと呼ばれるだけで名前はありません。ゲームでのディオスとノティスは、原案小説ではグリドとガリブと名前が変わっています。一家の名前もゲームでは「イブール一家」なのですが、原案小説では「イーブル一家」です。末っ子テラこそ同じように見えますが、ゲームでは14歳、「イースII」のリリアとだいたい同じぐらいなのに対し、原案では11歳と若干幼くなっています。
また、ゲームで印象的だったストーカーとフォレスタは、原案小説には全く登場しません。原案小説に登場してゲームには登場しない人物もいれば、その逆もありと、「イースV」は原案とゲームとでは相当に異なるものに仕上がっていることが、原案小説を読むとよく分かります。
ここでは軽く触れるにとどめて、ゲーム本編や小説版との詳しい比較は次回以降にまわします。