封印が完全に解けたおかげで、砂漠化が急激に進んでいた。砂没したフェルテの町の姿にマーシャは絶句した。このままでは地上のほとんどが砂漠になってしまう。
廃都には案の定、ケフィンへの門が開いていた。マーシャのメダルを使い、一行はついにケフィンに乗り込んでいった。
ケフィンに着くなり、イブール一家は宝を求めていずこともなく去っていった。アドルとマーシャは別々にニーナを捜すことにした。南の塔に外界から来た少女が監禁されているという情報をつかみ、南の塔に行ってみたが、守衛に止められ入れなかった。
「審判の館」の前には市民が集まっていた。アドルが館に入ろうとすると、男に制止された。男は地下組織「パルチザン」の一員ジャンで、館では「運命の審判」が行われていると言った。錬金術師ジャビルが現れて以来、市民は催眠術で館に集められ「運命の審判」でその運命を決められていた。選ばれた者の行方やその後は誰も知らないという。「パルチザン」は審判の目的を探っていた。「パルチザン」のリーダーに会うべく、アドルはアジトに案内された。
リーダーは出払っていた。そのかわり、ニーナがケフィンの人間で「パルチザン」とも深い関わりがあることがわかった。そのとき、ニーナが南の塔にいるという情報が飛び込んできた。リジェはニーナの正体には気づいておらず、このままではニーナは審判の犠牲にされてしまう。アドルは単身、南の塔にニーナ救出に向かった。
今度はやすやすと塔に入れたが、それは罠だった。ニーナを餌にアドルを塔に誘い込み、待ち受けていた三幹部バルクがこれを倒すつもりだったのだ。しかし、同じくディオスとノティスも潜入を果たしていた。二人はバルクの目の前であっさりとニーナを奪い返すとそのまま逃げていった。バルクはアドルに襲いかかったが、所詮アドルの敵ではなかった。
バルクを倒し塔を出ると「パルチザン」の一員が現れ、オーウェルに会うよう頼まれた。
アドルはマーシャとともにオーウェルと対面した。オーウェルは錬金術師だが、ケフィンが外界に及ぼす災いを止めるため「パルチザン」と手を結び、ある計画を進めていた。そのためには外界から来たアドルとマーシャたちの協力が必要だという。
オーウェルは、調査のため城に潜入したリーダーを心配していた。オーウェルの頼みでアドルはリーダーの様子を見に行くことになった。出がけ際、オーウェルはアドルの腕輪に目をとめていた。
秘密施設に忍び込んだアドルに、三幹部アビスが襲いかかった。ところが突如現れた男が背後から、アビスを袈裟懸けに一刀両断にしてしまった。この男こそリーダーで、消息を絶った冒険家スタンだった。アドルはスタンとともにオーウェルの元に戻った。
ケフィンは王なき王国で、リジェは王家の生き残りだった。ケフィンはジャビルとリジェによって牛耳られている。ジャビルは今は亡きケフィン王に近づき、陥れて実権を握ったケフィンの黒幕だった。
スタンによれば「運命の審判」とは、ケフィンを支える錬金術の生贄を得るためのものだった。オーウェルの計画とはケフィンを支える「賢者の石」を破壊することで災いを止めるというものだったが、市民の安全は保証できなかった。ところがアドルの腕輪を使えば、市民を救えるという。
「賢者の石」への通路は、ケフィンに散在する四つのスイッチで封鎖されているという。スタンは計画の実行日となる次の審判の日程を探ることになり、アドルは四つのスイッチを切ることになった。
アドルはスイッチを守るバウディを倒し、全てのスイッチを切ることに成功した。一方スタンは捕らえられ、城の一角に監禁されてしまった。
捕らわれたスタンは、監禁された部屋でニーナのオカリナの音を耳にしていた。ニーナはイブール一家とともに、別の部屋に監禁されていた。ニーナがオカリナを奏でていると、突然頭を抱え気を失ってしまった。
意識とともに、ニーナは記憶を取り戻した。ニーナはケフィン市民だった。幼くして審判で両親を失っていたが、そこをオーウェルに拾われ、錬金術の手ほどきを受けることになった。結界が弱まったのを察知したオーウェルは、調査のためニーナを外界に遣わしたが、ケフィンから外界に出たショックでニーナは以前の記憶を失ってしまったのだ。
そのころアドルはスタン救出に向かっていた。危険な罠をかいくぐり、スタンを救出すると、次の審判まで間もないことがわかった。
一方、三幹部のカリオンは、地上侵攻に向けての準備を着々と整えていた。
リジェは次の審判で得た生贄で、時空を乗り越え地上にケフィンを完全復活させるつもりだった。そして錬金術の力で、外界の支配を企んでいたのである。
スタンが戻ってきたところで、オーウェルはケフィン破壊計画のあらましを述べた。ケフィンは外界とは異なる時空にあるため、何の操作もしないまま「賢者の石」を破壊すれば、時の流れが押し寄せ、市民はケフィン同様消え去ってしまう。そこで「運命の審判」に乗じてアドルが城の内部に乗り込み、腕輪の力で「賢者の石」を制御し、時の流れを本来あるべき過去に引き戻し、石を崩壊させると同時に、その隙をついて市民を外界に脱出させようというものだった。さすがのストーカーも今度ばかりはどうなるかわからないらしい。そしてついに計画が実行された。
アドルが審判を受けるふりをして館に入ると、まもなくオーウェルとスタンが乱入した。その混乱に乗じ、城へと潜入した。中では三幹部最後の一人カリオンが待ち受けていたが、これを退け、「賢者の石」の制御室へとたどり着いた。そこで「賢者の石」を操作すると、腕輪の影響でアドルは別の時空へと飛ばされた。
その頃、ケフィンではオーウェルと「パルチザン」が、市民の避難誘導に当たっていた。スタンは残った者がいないか見回っていたが、ニーナとイブール一家の姿はどこにもなかった。マーシャはオーウェルを先に脱出させると、スタンとともに、ニーナたちを探しに城へと向かった。
アドルが飛ばされたのは五百年前のフォレスタ洞窟、まさにストーカーとフォレスタが迫り来る兵士から、結晶を守っている最中だった。アドルが兵士をなぎ倒し二人を救うと、アドルは再び元の時空に飛ばされた。
アドルが戻ってきたのは制御室だった。現れたマーシャは、ニーナたちがまだ城内に残っているとアドルに言った。そこにリジェも現れ、ニーナたちを生贄にしてケフィンを復活させると告げた。アドルはリジェの後を追った。
城の最深部には、ニーナとイブール一家が捕らえられていた。リジェは彼らを生贄にケフィンを復活させるつもりだった。追おうとすると、ジャビルが自らのクローンを差し向け阻止してきた。何とか撃破してリジェを追いつめても、強がりを言うばかりだった。
それに対してニーナが、ケフィン復活をあきらめるよう訴えた。ケフィンの人間でも外界で生きることはできる、と。しかしリジェは国を失った王家に存在意義はない、と突っぱねた。
そこに「賢者の石」の中からジャビルが現れた。ジャビルが見つけた「賢者の石」のおかげでケフィンは強国になったが、その力は邪なもので、ケフィンともども外界から切り離されることになった。封印なき今、ジャビルは地上に再臨し、ケフィンの力を見せつけようとしていたのだ。
たまりかねたニーナは、危険を顧みず「賢者の石」の制御を試みた。「賢者の石」の力でアドルはジャビル共々異界に飛ばされ、ここに最終決戦を迎えた。激闘の末、アドルはついにジャビルを制した。
ニーナの身を挺した行動により、ケフィンは「賢者の石」ともども崩壊に向かっていた。スタン、マーシャ、イブール一家、そしてアドルは間一髪でケフィンを脱出したが、そこにニーナはいなかった。リジェは崩れゆくケフィンの一角で、己の最期が訪れたことを感じていた。一行が脱出を果たすと、待っていたかのように門は閉じ、ケフィンは永遠に消滅した。
アドルが過去の世界でストーカーとフォレスタを救ったため、フォレスタ村には小さな変化が起こっていた。村の中央にあった石碑は、二人を救った剣士の像に変わっていた。洞窟にもフォレスタの姿はなかった。ストーカーとフォレスタが五百年前の過去から、アドルに話しかけてきた。二人は礼を述べるとともに、ニーナが生きていることを伝えた。書き変わった歴史では、ストーカーは魔人にならずに済み、腕輪を使う必要もなくなった。腕輪は時の流れの影響を無効にできるもので、その力でニーナを助けてやったのだ。その通り、ニーナは腕輪の力で、スタンの待つサンドリアの店に現れた。
アドルはニーナのささやかな見送りを受け、こっそりとサンドリアを後にした。スタンはアドルの前途に思いを馳せていた。ウィリーは別れを悲しんだが、新しい冒険がアドルを呼んでいるというスタンの言葉に納得する。テラはアドルに向かって、五年経ったら絶対いい女になってるからと叫んでいた。
ケフィン崩壊により、砂漠だった大地に緑が戻ってきた。そしてアドルは再び新しい冒険へと旅立つのである。
ゲーム本編の構成は原案小説同様の二部構成なのですが、間に挟まれるドーマンとの対決は、いくぶん省略されたものになっています。また、原案小説では五つしかなかった結晶が、ゲームでは一つ増え六つとなっています。そして、原案小説とゲームとでは、マップの方角が全て入れ替わっています。登場人物や物語の展開も、原案小説とでは相当に異なっているのですが、こちらは長くなりますので、また後ほど詳しく見ることにいたします。
「イースV」ゲーム本編の物語は、あまり評判がよくありません。ボリュームの少なさは発売当初から指摘されていましたし、その上十分な描写もないまま、唐突な展開で話が進む部分も目立ちます。登場人物こそ多いのですが、その個性を生かすような場面が少ないのも問題でしょう。原案小説ではどの登場人物にも、見せ場や役割が割り振られているのに比べると対照的です。ゲーム本編の物語は翻案というよりはむしろ「タイニー版」(規模縮小版・簡略化版)という言葉を当てはめるのが的確です。
なぜ原案をそのままゲーム化せず、このような手法をとったのか、真相は藪の中ですが、日本ファルコムがSFCでのソフト制作に慣れていなかったのが一番の理由でないかと思われます。
イースVフライヤー。左下記載の発売予定日は12月22日となっている。
「イースV」で忘れてならないのは、発売当初に少々混乱を来したことです。当初、発売日は一週間早い、95年12月22日の予定でした。ところが発売日当日になって、突然一週間延期されました。当時クリスマス商戦で多数のソフトの発売が集中したばかりでなく、その中には「ドラゴンクエストVI」「タクティクスオウガ」「ロマンシング サ・ガ3」「テイルズオブファンタジア」といった超話題作もあり、ROMカートリッジが不足気味になっていました。「イースV」はこの影響をもろに喰らう形となり、ROMが確保できなかったおかげで、発売日直前になって、一週間延期の憂き目を見ることになったのです。
発売を巡る混乱はこれだけではありません。発売後三ヶ月もしないうちに、難易度を再調整した上、追加要素を足した「イースVエキスパート」が発売されました(注1)。「イースV」発売直後、SFCソフトのロイヤリティ(注2)が引き下げられるのに伴い、SFCソフトが値下げされるということがありました。この「エキスパート」もそれを受けてのことと思われますが、発売直後にさらに安い値段で(税別11800円)、追加要素付きの改訂版が出たことに、当時のユーザーからは「ユーザーを馬鹿にしている」「最初からこちらを出せ」などなど、批判の声があがったものでした。
「間をおかないリニューアル」「発売直後に改訂版を別パッケージで出す」という方法は、94年末の「英雄伝説IIIリニューアル」以降、日本ファルコムが得意とするものです。こうした販売方法は商品寿命を延ばすための措置ですが、日本ファルコムの場合、それがユーザーを無視する形で進められるところに問題があります。商品寿命が延びたのも事実ですが、「過去の威光に頼り切っている」「ユーザーをないがしろにしている」など反感を買っています。
この路線はその後さらに拍車がかかり、「ゲームはただのおまけです」とまで言い切った「イースI・II完全版」の豪華特典商法や、「イースVI」通常版の初回版購入者優待販売、幾度にも及ぶ「新パッケージ」発売など相も変わらず、現在に至るまで続いています。
余談ですが、値下げに呼応して、同様のことをやったソフトは「イースV」だけではありません。「す〜ぱ〜ぷよぷよ通」も「REMIX」と称して同じことをやっていました。「値下げ前に買った人に申し訳ないから、旧版をプレミア化するつもりで、新版を売ることにした。」というのがその言い分ですが、無印の「す〜ぱ〜ぷよぷよ通」がプレミア化している現場は一度も見たことがありません。「イースV」も中古相場では「エキスパート」の方が高値がついています。ついでに「す〜ぱ〜ぷよぷよ通」のコンパイルは「ぷよぷよ」の大ヒット後に迷走した末、自滅しています。
注1・「イースVエキスパート」:販売は光栄(現コーエー)。96年3月22日に発売。同様に「ブランディッシュ2」もエキスパート版が発売された。
注2・「ロイヤリティ」:ここではソフト制作にあたり、ハードメーカーの任天堂に支払うべき版権使用料のこと。