二口峠

二口峠の位置

 二口峠は山形と仙台を最短距離で結ぶ峠である。しかし山形と仙台を結ぶ道では、最も人を寄せつけない峠でもある。


山寺

山寺門前街

 二口峠は立石寺のお膝元である山形市山寺と、仙台奥座敷の温泉場として知られる仙台市秋保を結んでいる。立石寺は言うまでもない山形屈指の名刹で、慈覚大師が貞観2年(860年)に開基したと伝わっている。元禄期には松尾芭蕉一行も訪れ、かの有名な「岩にしみ入蝉の声」の句をものにした。現在でも山形を代表する観光名所となっており、あたりは観光客の姿が絶えない。
 そんな門前街の喧噪を尻目に、山へと向かう県道が峠につながっている。

山寺の追分碑

 丁字路の片隅に石造りの追分碑が立っている。峠は古くからある奥羽越えの道で、二口街道と呼ばれている。山形城下を発し、峠を越えて仙台城下につながっていた。


馬形

馬形

 山寺を離れ少し山手に向かうと、急坂に落ち着いた家並みが現れる。ここが馬形で、峠下最後の集落である。古くは二口街道の宿場町だったところだ。

馬形児童遊園のお堂 馬形児童遊園の石碑群

 集落のはずれにはお堂と石碑が並び、古くから往来があったことがうかがえる。


県道の証

馬形を出る れっきとした県道です

 左右が家並みから畑に変わると、やがてこの先の様子を示した看板が現れた。傍らには県道を示す六角形の標識が建っている。現在二口街道は県道に指定されており、「県道62号線・主要地方道仙台山寺線」の名が与えられている。
 看板には「通行止め」「通り抜け不可」とあるが、この峠では毎年あたりまえのことで、むしろまともに通り抜けできることの方が珍しい。

林道入り口へ

 ここを過ぎると、あたりには木が増えてくる。


二口追分

二口追分

 森を抜け、とりどりの標識が並び立つところにやってきた。
 二口峠の道はいくつかあるのだが、今回紹介するのは林道二口線、通称「二口林道」だ。ここがちょうどその起点で、本格的な峠道はここから始まる。一方で旧い峠道も登山道として残っているようで、そちらに行く場合はここで左折する。

二口追分の石鳥居と三界万霊供養塔

 道の傍らには旧い三界万霊供養塔と石鳥居がある。いずれも幕末に建てられたもので、地元の人々や背負子連中の銘が刻まれてある。

登山道入口の県道標識

 厳密には、左側の細道の方が県道であるようだ。細道の先、登山道の入口にはやたら立派な六角形が立っていた。


林道の様子

林道入り口付近のヘアピン1 林道入り口付近のヘアピン2

 林道に踏み込むなり、さっそくヘアピンカーブのおでむかえ。林道起点付近には、こんなカーブが十数個連なっている。

林道入り口付近

 いちおう山形側は全線舗装で、それなりに大きな自動車でも通れる程度の幅員が確保されてある。とはいえカーブが多い上、路面にはでこぼこがあったりするので、気を遣う道であることに変わりはない。


長命水

道端の長命水 道端の長命水の様子

長命水への小径 林の長命水の様子

 林道起点少し登ったところには、「長命水」こと水場が二つほどある。一つはすぐ道ばたにあって、もう一つはあるカーブから十数メートルほど林に分け入った場所にある。これからの登りに備えて、ここで英気を養っておこう。水場がある場所には目印として「長命水」の小さな札があるが、小さいので少々見つけづらい。

長命金水看板

 水場付近には「長命金水」の大きな看板も建っている。峠は山形市北部を流れる立谷川の源流にあたり、水に恵まれている。立谷川の水は農業用水としても使われており、ふもとの水田やさくらんぼ畑を潤している。
 ところでこの看板、ここの水に目を付けた業者が建てたものである。その後件の業者が無許可でここの水を販売していたことが発覚、追求された結果、現在は撤退してしまった模様。


高沢馬形線分岐点

高沢馬形線分岐点

 二番目の長命水から少し進むと、別の林道との分岐が現れる。こっちを通れば山形市高沢地区を経て、紅花栽培で有名な高瀬地区に出られる。

新設高沢馬形ゲート

 後年、ここに新たにゲートが設けられた。平成20年(2008年)頃より山形側はここで封鎖され、先へ進めない状態がしばらく続いていた。山形側から登る場合、まずはここが第一関門となる。


馬形第一ゲート

馬形第一ゲート

 分岐点の少し先にある。ゲートと呼んでいるが現在門扉は取り払われ、支柱が残るだけである。
 90年代後半、復旧工事で通行止めになっていた頃、道はここで閉鎖され、ここから先に行けなくなっていた(実は取材した日も工事のため、ここで通行止めになっていたのだが、現場の方のご厚意で通らしてもらった)。

2002年7月の様子

 これが当時の様子。立派な門扉で見事に通せんぼ。


ブナ林のトンネル

ブナのトンネル

 ブナ林の間を通る穏やかな道がしばらく続く。このブナが立谷川の水源涵養林となっているわけだ。中にはブナ林保護のため、二口林道の開発と存在意義に異議を唱える声もある。


工事現場

擁壁工施工中

 少し先では復旧工事が進められていた。大雨で崩れた路肩を補修しているようで、コンクリートミキサー車を動員するほど大規模なものだった。

2007年5月末の様子 擁壁工施工中
2007年初夏の様子。土砂ですっかり道が覆われている。その後このあたりの法面は大規模に改修された。

 このあたりは特に崩れやすいようで、平成19年(2007年)には、沢から流れてきた大量の土砂で、道がほぼ覆い尽くされていた。そのためか平成23年(2011年)秋に訪れたときには、大幅に工事の手が入った気配があった。この道路、とかく脆くてよく崩れる。


中腹へ

崖っぷちの九十九折りを見上げる

 ブナ林を抜けると目の前に、崖っぷちにへばりつく九十九折りの道路が見えてきた。このあたりが山形側の中間点。


七滝第二ゲート

第二ゲート

 二つめのゲートに到着。第一ゲートが通れても、ここで閉鎖されていることもしばしば。さっき見た九十九折りはここから始まっている。道も険しい登りに変わる。

第二ゲートの砂防ダム

 ゲート脇には砂防ダムがある。このあたりは険しい谷筋にあたり、さっきの九十九折りで巻くようにして登っていく。


崖っぷちの絶景

中腹から村山盆地を見下ろす

 さっきの九十九折りを上っていく。高度を上げていくと、通ってきた道とともに村山盆地が眼下に見えてくる。

中腹から月山を望む

 天気に恵まれればご覧のとおり、月山まで遠望できる。

谷筋を振り返る

 振り返れば谷筋の雄大な光景も楽しめる。秋の紅葉時期が特にお勧めだ。

中腹から村山盆地を見下ろす2011紅葉の時期の崖っぷちの図

 ちなみに紅葉の時期になるとこんな具合。この時期に開通していると、つめかけた紅葉狩りの車や単車で渋滞することもある。


九十九折りの急カーブ

急カーブその1 急カーブその2 急カーブその3

 180度のヘアピンカーブを繰り返し、さらに登っていく。

歩道付きカーブ カーブの歩道

 歩道でショートカットできるカーブを発見。いったいなんのために歩道を作ったのやら。


九十九折りを抜ける

北側斜面に出る

 九十九折りを抜けると北側に開けた斜面に出てくる。場所が場所だというのに路面は完全アスファルト舗装、法面はコンクリートで固められ、やたら整備されている。

北側に奥羽山脈を望む

 天気がよければ、北側には糸岳や小東岳といった奥羽山脈の山々が望める。峠の界隈は「二口山塊」とも呼ばれ、味わい深い山々が連なっている。


補修箇所と崖崩れ

土嚢による補修箇所 土砂崩れ箇所

 土嚢で補修された法面を発見。その少し先では派手に崩れた法面も発見。この林道、崩落する都度補修の手が入れられる一方で、また別のところが崩れるといったことを繰り返しており、二口峠ファンは毎年工事や通行止めにやきもきさせられている。

補修前の様子

ちなみにこちらは前年(2005年)に同じ場所を訪れたときの様子。金属製のフェンスが見事にぐんにゃり。


県境へ

県境手前

 目の前にゲートが見えてきた。あたりは奥羽山脈を越えて宮城側から流れてきた霧のおかげで視界が開けなかった。


県境ゲート

県境ゲート

 かくして県境に到着。ここにもゲートがあって見事に閉鎖されている。二口峠はこのゲートのおかげで、通り抜け不可となっている事も多い。
 県境の向こうは宮城県仙台市太白区。山形市と仙台市は全国でも三つしか例がない、隣接しあう県庁所在地なのだが、その割に山形市と仙台市を直結する車道はここしかない。

登山道案内標識

 県境は奥羽山脈縦走登山道の入口にもなっている。北は小東岳を経由して面白山へ、南は笹谷峠を経由して蔵王まで行くこともできる。


二口橋

二口橋 二口橋銘板

 ここで峠から離れて山形市内にある橋をご紹介。山形市中心部から大野目交差点に向かう途中、馬見ヶ崎川を渡る場所に「二口橋」という名の橋が架かっている。二口街道は山形城下を発した後、この橋で馬見ヶ崎川を渡り峠に向かった。コンクリート製で多くの車が行き交う現代的な橋ではあるが、その名前は旧街道の記憶に由来しているわけだ。


秋保大滝

秋保大滝

 もうひとつ、今度は宮城側にある名所をご紹介。秋保大滝は県道62号線沿線、名取川上流にある豪快な滝で、幅6メートルに落差55メートル、東北屈指の名瀑として知られ、昭和17年(1942年)には国の名勝の指定を受けた。秋保名所の一つであり、年中沢山の観光客が訪れている。
 今となっては人々の憩いの場となっているが、その昔山形の殿様が利権を巡って立石寺を冷遇した際、これに腹を立てた立石寺の阿闍梨が峠を越えてこの滝に籠もり、殿様を呪い殺したという、怖い話が残っている。

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