下り道

加茂側の下り坂

 鞍部からも道筋に沿って下りていくことになる。加茂側はおおむね谷筋に沿って道筋がついていて、大山側のようなつづら折りもない。
 少し高度を下げ、杉林が現れるあたりから、道が若干分かりづらくなる。飽くまで広い道筋に沿って下りていこう。


枝のバリケード

枝のバリケード

 枝が道をふさいでいる。こういう場合はすき間を見つけてくぐり抜ける。古道にはこんな場所があたりまえのようにあって、ちょっとした探検気分が味わえる。


杉林の祠

杉林のだらだら坂 からっぽの祠

 杉林の合間をだらだら下ると、左手に祠が現れる。祠の中はからっぽだった。

屋根とお地蔵さん

 祠の近くには、お地蔵さんと屋根らしき遺構がある。もともと同じ場所にあったのが、何かのはずみでこうなったのだろう。おそらくはこの道が現役だったころに建立されたのだろうが、詳しい年代や目的まではわからなかった。


最後の難関

最後の難関・からみつく枝と蔦と藪倒木

 さらに下っていくと高館山に至る舗装路が見えてくるが、このあたりはいちだんと藪や倒木が多く、最後の最後で苦戦を強いられることになる。


加茂側出口

古道加茂側口

 さっきの藪を突破して、高館山への車道に出てくれば、めでたく加茂坂峠踏破である。車道から見ると立木や笹藪だらけである。普通の人が見れば、まさかここが古道の入り口だとは思うまい。鞍部からここまで30分ほど。
 古道は廃道化しており、倒木や藪、立木が多いが、勾配そのものは緩やかなので、藪こぎが必要な以外は非常に往来しやすい。往時はもちろん倒木も藪もなかったわけだから、人足の方々は大いに喜んだことだろう。


加茂側の様子

加茂隧道加茂側

 出口から隧道の加茂側入り口まではすぐである。やっぱり加茂側も金網で封鎖されて、通り抜けはできなくなっている。大山側に車を置いている場合、そこに戻るために、加茂坂トンネルを通るか、再び古道を登るかの選択を迫られることになる。
 封鎖される前は、この隧道を通り、数分程度で大山側に出ることができた。古道で45分ほどの道のりが、その何分の一かで済んでしまうのだから、隧道が加茂に計り知れない恩恵をもたらしたことは容易に想像できる。実際、開通後の明治38年に加茂より入ってきた貨物の量は、明治15年の25倍にまで跳ね上がっている。
 隧道開削によって発展の基盤が整ったが、皮肉にも大正13年(1924年)に羽越本線が全線開通したことによって、加茂港は商業港としての歴史に幕を下ろすことになる。羽越本線が加茂を迂回したことにより、大量輸送に対応できなくなったことが要因だった。以後、加茂港は漁港への転換を図ることになる。昭和5年(1930年)には加茂水族館が開業し、同21年(1946年)には、県下唯一の水産高校、加茂水産高校が開校した。現在は漁船が並ぶ県下有数の漁港となっている。


稲荷神社

加茂側のお社

 加茂側には小さな鳥居と祠がある。中に狐の像があったので、この祠はお稲荷さんを祀っているようだ。

加茂側鉄門海碑

 鳥居の隣には小さな鉄門海碑がある。


旧加茂中学校

旧加茂中学校校舎

 隧道とは関係ないが、加茂坂峠名所の一つとしてご紹介。加茂側旧道入り口近くに残る木造校舎跡。平成9年(1997年)、鶴岡五中に統合されるまで使われていたが、それ以後は野ざらしとなっている。味わいのある建物だけに、ぜひ保存して活用してほしいところ。


加茂坂トンネル

加茂坂トンネルと鉄門海碑

 平成15年(2003年)7月に開通した新しいトンネル。2002年3月竣工。全長777m。現在大山との往来にはこのトンネルが使われている。加茂側の入り口では、移設された鉄門海碑が道行く人を見守っている。時代は移り、道がその姿を変えても、上人がこの峠に託した想いは、今に受け継がれている。

(2006年3月取材・記)


案内

交通:鶴岡市加茂地区と大山地区の間。国道112号線旧道付近。

所要時間:
加茂隧道まで大山から自動車で約5分。同じく加茂からは約3分。古道の切り通しまで、大山側登り口から約15分。同じく加茂側登り口から約30分。

特記事項:
加茂隧道通行不可。古道は藪や倒木が多く、軽登山の装備が必要。国土地理院1/25000地形図「湯野浜」「三瀬」「鶴岡」。地形図が三枚にわたっているので、非常に参照しづらい。古道は地形図に載っていないので、ある程度読図の知識が必要。行くのなら春先か葉の落ちる秋頃が狙い目。古道がある高館山一帯は保安林になっており、植物の採取が禁じられている。高山植物には手を出さないようにお願いします。

参考サイト

「野次馬徘徊記」 yosikichiさん
URL:http://yajiuma.at.webry.info/

「山形河川国道事務所 地域づくり『季刊誌U-zen』Vol.24」 山形河川国道事務所
URL:http://www.thr.mlit.go.jp/yamagata/u-zen/index.html

「山形の廃道」 fukuさん
URL:http://mx11.hp.infoseek.co.jp/

参考文献:

「加茂港史」 加茂郷土史編纂委員会 1966年

「加茂地区石造文化財調査報告書」 加茂の文化遺産を愛する会 1981年

「湯の里 湯野浜の歴史 −開湯伝説から九〇〇年−」 湯野浜地区住民会 1994年

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