「FOR MSX ベスト50」全ソフトレビュー

「FOR MSX ベスト50」とは

 1980年代、パソコンが使えるということはすなわち、自分でプログラムが組めるということでした。当時のパソコンにはBASICが付いているのがあたりまえで、アプリケーションやゲームソフトが買えなくとも、プログラムを作ったり入力することはできました。プログラミングはずっと身近な存在であり、プログラムを収録した雑誌や書籍も多数出版されていました。
 今回紹介する徳間書店の「FOR MSXベスト50」は、1985年に刊行されたプログラム選集のひとつです。同社のパソコン雑誌「テクノポリス」「プログラムポシェット」に、1984年から1985年にかけて掲載されたMSX用ゲームプログラム50本が収録されています。掲載作品の半分は「プログラムポシェット」に掲載されたMSX作品の再録で、もう半分は前年に発行されたMSXプログラム選集「FOR MSXスペシャル」の再録です。特に「FOR MSXスペシャル」作品は、「テクノポリス」や「プログラムポシェット」に掲載された他のハード作品を、編集部でMSXに移植したものが多いようです。
 収録作品の多くは、MSX1が発売された直後に発表されたものです。そのためか、技術的にもゲーム的にも未熟なものが多いですが、どの作品にも、面白いものを作ろうと奮闘した跡がうかがえ、かえってそれが初期の自作プログラム界をよく表しているように思われます。


「FOR MSXスペシャル」再録作品26本

1・「BOUND BALL」児嶋冬樹 8K以上

バウンドボール

 P・Oキーで現れる反射板を使い、障害物を避けつつどれだけ長くボールを跳ね返せるかを競うという、当時よくあったタイプの反射ゲーム。10回交互にP・Oを押すとゲームオーバーになるというルールが絶妙。ともすれば単なるお手玉ゲームになるところを、このおかげでパズル的な面白さが加わっている。操作性はそれほど良くないが、一局30秒以内で終わるほど展開がスピーディなので、やられてもハイスコアを目指してもう一回と、ついつい遊んでしまう一品。


2・「ジャマ森たたき」伊豆千穂 8K以上

ジャマ森たたき

 「ジャマ森」とは、当時の「テクノポリス」編集長、山森尚さんのこと。ゲーム自体はなんの変哲もないもぐらたたきだが、そのモグラをジャマ森さんのサインに変えたところが「テクノポリス」誌ならではで、冗談の利いた作品となっている。名物編集者は何より読者に愛されるキャラクターで、投稿プログラムに登場することもしばしばだったのだ。


3・「消滅ゲーム」重松津留三 8K以上

消滅ゲーム

 同じ色どうしの玉をぶつけあい、全消しを目指す。ブレーキが使えるのでそれほど難しくはないが、違う色どうしや壁にぶつけると即ゲームオーバーなので、爆弾処理のような緊張感が常に漂う。「プチプチ」(エアキャップ)を一つ一つつぶしていくのにも似た、非常に地味〜なゲームだが、これまたプチプチつぶし同様、ズルズルと遊んでしまう作品だ。欲を言えば、遠くの玉どうしをぶつけるほど高得点とか、ブレーキを使うたびに得点が減るといった、稼ぎ要素があってもよかったと思う。


4・「PERFECTION2」吉川直樹 8K以上

パーフェクション2

 エポック社の玩具「パーフェクション」に着想を得た形合わせアクション。画面右側でキャラクターを拾い、フィールド上に散らばる同じキャラクターの「穴」まで運び、制限時間内に全て埋めれば面クリア。さすがに玩具とはまったく異なっているが、「制限時間内に全ての形を合わせる」というところだけは、かろうじて「パーフェクション」と同じになっている。面が進むほど難易度が上がっていくが、単調な展開が続くので、もうちょっとひねりが欲しかったところ。


5・「JEWELER」トモダンゴ 8K以上

ジュエラー

 宇宙船を操りアステロイドに散らばる赤ダイヤを拾っていくゲーム。マシン語を使っており、全画面4方向スクロールを実現している。アステロイドにぶつかる以外にゲームオーバーになる方法はなく、慣れればエンドレスに遊べるため緊張感には乏しいが、それゆえふわふわと宇宙空間を漂う感覚が不思議に気持ちよい作品。環境ソフト的な楽しみ方が似合うだろう。


6・「ZEPPI」ザ・匿名 8K以上

ゼッピ

 爆弾で壁を壊しつつ、制限時間内に囚われた恋人を救出するアクションゲーム。爆弾はランダムに出現し、体当たりすれば隣接する壁を壊せる。しかし壁は刻一刻と増殖し、爆弾が必要な場所に出現しないこともしばしばと、展開が乱数任せなのが残念。プレイヤーのアドリブテクニックを試す「不確定要素」として上手に活かすことができれば、乱数はゲームを面白くしてくれるが、「運任せ」になってしまっては、かえって興を削ぐ。


7・「ROMPISH FAIRY」大場悟 8K以上

ロンピッシュフェアリー

 悪魔「ツルーア」をよけつつ金塊を集めるアクションゲーム。操作が独特で、カーソルキーの上・右を押した組み合わせだけで4方向に移動する。この手のゲームは操作に慣れてからが勝負だが、本作も同様で、慣れて自在に動けるようになると、高得点が狙えるようになってくる。操作方法ゆえ取っつきは良くないが、この操作方法だからこそ味わいがある作品。ついでに世にも珍しいスクリーン0採用のアクションゲームだったりして。


8・「BALL POINT」河野義宣 16K以上

ボールポイント

 パドルでボールを跳ね返し旗を取っていくゲーム。これも当時よくあったタイプの反射ゲームだが、1分30秒という長すぎず短すぎない制限時間が絶妙。タイムトライアルにしたことで、ゲームがうまく引き締まっている。オリジナルはPC-8001用で、それをMSXに移植したものらしいが、オリジナルよりボールが速くなっているとか。ちょっとした気分転換がてら遊ぶのに持ってこい。


9・「爆破!」吉岡忠宏 8K以上

「爆破!」爆破成功 「爆破!」こんな面も出てくる

 スペースキーのオン・オフで上昇・下降するドットを操り、障害物を避けていくワンキーゲームは「酔っぱらいゲーム」と呼ばれるが、ドットの挙動を千鳥足になぞらえたのでこの称がある。本作もそうした「酔っぱらい」ゲームで、酔っぱらい式にドットを操り、豆腐のような標的にぶつけていく。当時酔っぱらいゲームは数多く作られたが、飽きさせないステージ構成、成功時の爽快感は、数ある酔っぱらいゲームの中でも秀逸なものがある。ステージ作成が乱数に依っているので、クリアできない面が出てくるのが玉に瑕だが、思わず熱中してしまう良作。オリジナルはパピコン用だったのか、「PC-6001の復讐」という原題がある。


10・「SNAKEN」HOFU人 16K以上

スネークン

 凶暴ガエルを避けつつヘビを操り、エサをすっかり食べていくアクションゲーム。プログラムの勉強として格好の素材だったのか、こうしたヘビゲームも、当時はよく見かけたものだった。この手のゲームでは、エサを食べるごとに体がだんだん長くなっていくのだが、本作では緊急回避用にワープが用意されてあり、これを発動するごとに体が伸びるようになっている。良くも悪しくもオーソドックスなヘビゲーム。まずまず遊べます。


11・「3-DMAZE」Dragon 16K以上

「3-Dメイズ」ゲーム画面 「3-Dメイズ」マップ画面

 題名どおりの立体迷路ゲーム。ポリゴンがあたりまえとなった今となってはなんも珍しくもないが、80年代中盤、3D表示はハイテクの最先端を行くもので、多くのアマチュアプログラマーもこれに挑戦している。本作もそうした作品のひとつで、ゴール目指してワイヤーフレーム描画される迷宮を歩き回る。内容や作りは至ってシンプルだが、毎回自動生成される迷路、俯瞰マップ表示、快適な描画速度等々、地味ながら確かな技術力が光る。収録作の中でも指折りの遊べる一品。


12・「君も国会議員になろうぜゲーム」川西哲也 16K以上

「君も国会議員になろうぜゲーム」タイトル 多額の贈賄 ろくでもない末路の図

 テキストベースの一風変わった選挙SLG。プレイヤーは予算内で選挙活動し、国会議員当選を目指す。しかしクリーンな方法ではまず当選できず、どうしても多額の根回しや袖の下に頼ることになる。落選が続けば拳銃自殺したり、贈賄がバレれば警察に逮捕されたりと、いずれにせよロクな結末は待っておらず、選挙の厳しさを思い知ることになったりする。真面目な選挙シミュレーターではないので、ゲームとしてはムチャクチャだが、アイロニーとエスプリの効いた冗談ソフトとして強烈に印象に残る怪作。荒井的にはベスト50一番のお気に入り。


13・「UFO GAME」園田仁 8K以上

UFOゲーム

 アステロイド越しに敵UFOと撃ち合うゲーム。注目したいのはなんといっても敵UFOのデザイン。ノーマルキャラクターだけでそれらしく作られており、撃墜するたびに異なるデザインのUFOが出現する。さらに簡単なプログラム改造で、オリジナルのUFOまで作れてしまう。次はどんなUFOが出てくるのか楽しみにさせるあたりが憎い。敵のデザインがひとつだけだったら、ただの撃ち合いゲームで終わっていただろう。


14・「ドロボウくん」時岡良平 8K以上

ドロボウくん

 番犬をかわしつつ、洞窟の財宝を全て拾っていくゲーム。財宝はただ拾うだけではだめで、いちいち画面下部のアジトまで運び込まなければならないのが味噌。このおかげでゲームが面白くなっているのだが、とにかく面パターンが一つしかないのが残念! 当時のアマチュアプログラマーにとってデータの圧縮・展開技術は一つの壁で、データがうまく圧縮できないゆえ、面パターンが少ないとか、減ってしまったという作品は数多かった。
 ちなみに内容は、タイトーの「ルパン三世」を参考にしたものと思われるが、心なしかこちらの方が出来が良さそうな気がする。


15・「ダブル・クラッシュ」後藤靖 8K以上

ダブルクラッシュ

 砲台で上下に控える敵を撃墜するゲーム。砲台の向きを切り替えつつ、上下の敵を撃つ。敵が上下から攻めてくるのでこのタイトルがあるのだろう。上下の敵はそれぞれ耐久力が違っていて、固い方が得点が高い。敵弾をかわしつつ真正面から撃ち合うのはなかなかアツいものがあるが、ゲーム自体は淡泊。敵の行動パターンをいくつか用意して随時変えるとか、変化があるともっと面白くなっていたと思う。


16・「キョウイノダッシュツ」友寄浩充 8K以上

キョウイノダッシュツ

 これまた当時よくあったタイプのスクロールゲーム。障害物をかわし、僚機が発する降下エネルギーを拾いつつ、画面下部にあるランディングポイントを目指す。最大の敵は障害物ではなく降下エネルギー。チカチカして見づらい他、障害物に当たると消えてしまい、出現場所が悪いと画面端に引っかかって拾えない状態になったりで、その挙動にやきもきさせられる。これも全てのキャラクターをPCG表示し、テキストモードでスクロールさせているゆえなのだが、もっと配慮してほしかったところ。


17・「FALL MICE」A.TAKADA 8K以上

フォールマイス

 画面上部から現れ、溝に集まってくるネズミを退治するゲーム。溝から溢れると下に落ちてきて、これに巻き込まれるとワンミス。そうなる前に溝の下から槍でちくちく突っつき、一定数のネズミに耐え抜けば面クリアとなる。溝は狙いが付けづらく、それが本作の味噌となっているのだが、もどかしくて気持ちよさはあんまりない。変化やカタルシスに乏しいのでプレイは地味。撃ちまくるゲームではあるのだが、もっと爽快感を出す工夫があってもよかったと思う。


18・「10ゲーム」峠恒司 8K以上

10ゲーム

 10枚のパネルをスライドさせ、順番どおりに並び替えていくゲーム。制限時間があるのでのんびり遊ぶというわけにはいかないが、これはこれで緊張感があって面白い。作者の峠さんは、パソピア7等のパソコンを中心に様々なパズルゲームを発表しており、パズルゲームの名手として知られるアマチュアプログラマー。簡素なゲームだが、そのセンスの良さはこの一本から十分にうかがえる。


19・「PAPPLE」大明神 16K以上

「パップル」タイトル画面 「パップル」ゲーム画面

 題名どおり、「パックマン」がリンゴを食べるドットイートアクションゲーム。パックマンのような主人公を操り、リンゴをすっかり食べれば面クリア。敵も登場するが反撃手段はない。「パックマン」がまだまだ人気を博していた当時、この手のドットイートゲームは投稿プログラムでは盛んに見かけるものだった。ゲームの出来は正直微妙で、題名どおりの一発ネタ的作品。グラフィックはよくできている。ついでに竹内まりやとの関係は定かでない。


20・「ワンダーバギー」トモダンゴ 8K以上

ワンダーバギー

 「ジャンプバグ」風の横スクロールアクションゲーム。ふわふわ飛び回るバギーを操り敵や障害物をかわしつつ、宝石を拾い集めていく。同じ作者の「JEWELER」同様、慣れればエンドレスに遊べるため緊張感は少ない。ステージも変化しないので「ジャンプバグ」のような高揚感もないが、飛び回ったりずんずん進み続ける感覚が不思議と気持ちよい。やはりこれも環境ソフト的な楽しみ方が似合うだろう。ゲームとしてのゆるさが、かえってこの作品の魅力となっている。ちなみに画面の一番左で宝石を取ると、プログラム処理の問題でエラーとなる。


21・「PICK UP HEART」森谷義也 8K以上

ピックアップハート

 これもドットイートゲーム。格子状のフィールドを動きまわり、題名どおり、ハートマークを拾い集める。他のドットイートゲームと違っているのは、一定時間ごとに画面右の砲台が攻撃してくることと、全てのエサを拾う必要がなく、ハートさえ集めればクリアできてしまうこと。単調さは否めないが、とてもテンポがよい作品に仕上がっている。残念なのはやっぱり面パターンが一つしかないこと。


22・「CAPIT」吉川直樹 16K以上

「キャピット」ゲーム画面 「キャピット」ゲームオーバー

 刻一刻と水没する洞窟から、全ての金塊を拾って脱出するゲーム。水に潜るには洞窟上部に湧き出す酸素が必要で、水中ではこれを消費して行動する。水中で酸素が切れるとゲームオーバー。酸素を十分に集めてから潜ろうとすると、集めるのに要した時間だけ水位は上がってしまう。水位が低いうちなら必要な酸素は少なくて済むが、今度は酸素切れの危険が高まるといった具合に、潜るタイミングの見切りが肝。グラフィックもなかなかのもので、画面を見ているだけでわくわくする。見た目のみならず実際に面白い秀作。「FOR MSXスペシャル」では、見事表紙を飾っている。


23・「VECTOR」村上稔毅 16K以上

ヴェクター

 ロケットで浮遊する機雷を撃ち墜とすゲーム。というかアタリの名作「アステロイド」ライクゲームと言うのが一番手っ取り早い。操作も「アステロイド」同様で、自機は左右旋回と加速しかできず、さらに慣性が付く。機雷の移動と当たり判定にマシン語を使っており、技術力では「FOR MSXスペシャル」随一のものがある。しかしキャラクターが大きすぎてぶつかりやすく、弾も単発ずつしか撃てないため、残念な出来になってしまっている。連射できないことがつくづく悔やまれる。


24・「ALIEN」斎藤匡邦 16K以上

エイリアン

 エイリアンを避けつつ金塊を集めるゲーム。これだけならよくある追いかけゲームなのだが、フィールドは自分のまわりのわずかな範囲がスポット表示されるのみというのが本作ならでは。しかし何度でも広域を照らすことができるため、難易度は低め。使用制限を設けるとか、いっそ使えなくしてかわりに効果音等で敵の接近を知らせるようにした方が、もっとゲームが引き締まったと思う。ちなみにクリアは自己申告制で、金塊を取り尽くした後でリターンキーを押せば次の面に進めるという変わった仕様。


25・「The KABU」時岡良平 16K以上

ザ・カブ

 カードゲーム「カブ」をパソコンゲーム化したもの。ページワンや大富豪ではなく、カブをゲーム化するというその選択がまず渋い。画面もノーマルキャラのみで構成されており、いかにも地味で渋い印象を受けるが、のるかそるか、いちかばちかの面白さはちゃんと再現されており、ズルズル遊べる良作に仕上がっている。ルールや末節部分の端折り方が巧い。「FOR MSXベスト50」屈指のいぶし銀ゲーム。


番外・「オート・キャノン」編集部 8K以上

オート・キャノン

 厳密には投稿作品ではなく、同時収録の「プログラミング入門講座」コーナーのサンプルゲーム。砲台で敵要塞を撃破する砲撃シミュレーション。砲台は位置・射出角・発射速度が設定可能で、適当な数値を探りつつ、敵要塞を狙い撃つ。一見難しそうだが、1ラウンドにつき3回の試行が認められている他、コツがわかれば失敗も少なくなるので、気が付くと意外に長く遊んでしまっている。
 非常にシンプルで凝ったことは何もしていないが、それはこの作品がプログラミングのなんたるかを説明するための作例で、わかりやすさを最重視したゆえ。コーナーではアイディアをどうやって具体的な形にするかを紹介しているが、「他人が見たら下らないと思うようなものでも、自力で作ってみることが大事。」「最初は単純なものから。それを繰り返すことでプログラミングが身についていく。」等々の言葉は、現在でも十分に通じるものだろう。

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