作者はむしろ「YUKI」の名で有名だろう。同氏は初期の徳間系パソコン雑誌で活躍した投稿者で、当時の言葉で言うところの「スタープログラマー」的存在だった。その作品はひねくれたまでにユニークなアイディアと、それを実現する高度な技術力を特徴とする。本作はオールBASICの「ブレイクアウト」ライクゲームだが、氏の手に掛かればこれほど個性的になってしまう。パドルの挙動に癖があって、上下左右に動かせるほか慣性が付く。このため並のブロック崩しよりアクション性は格段に高く、慣れなければボールを拾うことさえ難しい。YUKIさんの作品では素直な方だが、ひねくれたセンスは存分に発揮されている。
間違いなく「FOR MSXベスト50」最も有名な作品にしてYUKIさんの代表作。一組のカーソルを操り、部屋の中身を入れ替えつつ、上から落ちてくるボールを誘導し、所定の穴に落としていけば得点となるのだが、これだけではとても説明しきれないほど独創的なアクションゲーム(そもそもこのジャンル分けさえ適当かわからない!)。説明するのは厄介だが、一度遊べばすんなりわかるという明快さも兼ね備えており、その内容はまさに「こんなゲーム、見たことない!」のキャッチコピーどおりだろう。スコアアタックももちろん熱いが、やみくもにボールを入れ替えその挙動を眺めているだけでも飽きない。この内容を100行程度のコード(半分はマシン語データ)で実現しているところも驚嘆に値する。「プログラムポシェット」編集部でも大好評を博し、その後ファミコンやアーケードにアップグレード移植され、「LOT LOT」として市販されたことはよく知られている。ちなみにカーソルキー専用。カシオのMSXユーザーは、遊びづらい横一列カーソルで泣く泣く遊ばざるを得なかった。センスの塊のような名作。ついでに350行を「GOTO 340」に変えると鑑賞ソフト化できる。
画面内に散らばるフリッパーを操りボールを反射させ、ゴールへと導く。これも一見、よくありそうな反射ゲームなのだが、やはりひねくれ者のYUKIさん、ただの反射ゲームではない。導くべきボールは複数で、ボールどうしが重なるとボーナスやペナルティが与えられるため、単にフリッパーの向きやボールの軌道のみならず、各ボールの位置やボーナスゲージ、残り時間等にも気を遣わなければならず、さらに面が進むとフィールドが広がるので視点を動かす操作が加わる他、トラップまで出現するので、見た目の単純さの割りに、そうやすやすとはクリアさせてくれないのがイヤらしい。しかしテンポや操作性がすこぶる良いのと演出の妙で、弄るだけでも楽しい作品になっているのがまったく憎い。遊べる良作。
上から落ちてくるボールを9つのフリッパーで打ち返し、画面右側にある棚に放り込むゲーム。ボールの色と棚は対応しており、間違った棚に入れるとペナルティとなる。各フリッパーはそれぞれキーボードZ〜>キーに対応しており、ボールに合わせてタイミングよく対応するボタンを押せば、打ち返すことができる。フリッパーが9つあるというだけでも頭がこんがらがるのに棚は5つあり、面が進めばボールの数まで増えていく。さらにやみくもにボタンを押して打ち返せないよう、各フリッパーには使用制限があって、使いすぎると故障してしまうという念の入れよう。完璧な放物線を描くボールや、滑らかなアニメーションでたわむフリッパー等々、高度な技術をさりげなく盛り込んでいるところもそうならば、ゲームデザインもまったく同氏らしい怪作。ゲームとしては難しすぎて、一般ウケはしないだろうけど。
回転する歯車の上を漂い、敵を避けつつエサを食べていくゲームだが、これも一言で紹介するのに困る作品。各面は大小とりどりの歯車が組み合わさってできており、絶えず回転している。この回転アニメがMSXの限界に迫るスムーズさでまずは度肝を抜かされるが、その分起動に6分半かかるところからして桁が違う。主人公「パンプモドキ」の移動は歯車任せで、なかなか思うように動けない。敵キャラ「トリアン」とエサも同様に歯車の上を漂っている。トリアンにぶつかるとワンミスだが、パワーエサを食べた状態でぶつかったり、「煙幕」を使えば倒すことができる。このぶつかりそうでぶつからなかったり、食べられそうで食べられなかったりと、ハラハラしたりやきもきさせられるのが本作の味噌。とにかく画面中を埋め尽くす歯車が一斉に回転する様子も見物なら、それを活かすゲームデザインもまた見事。技術力とアイディアはYUKI作品でもトップクラスのものだろう。ちなみに作者が芥川龍之介を参考にしたかは定かでない。
その名のとおり、ささやかなウォーシミュレーションゲーム。麾下の部隊を動かし、首都目指して侵攻してくる敵部隊を殲滅するのが目的だ。「Tiny」を謳うだけあって、画面表示も操作系も必要最小限、説明なしではわかりづらいが、8Kバイトという容量内で、ちゃんとシミュレーションゲームになっている。素っ気ないグリッドで描かれた画面が、サイバーで実にカッコいい。噛めば噛むほど味が出るスルメのような作品。
良くも悪しくも当時らしいカーレースゲーム。現在でこそリアルなゲームの代名詞となったレースゲームだが、80年代中盤までは「迫る障害物を避け続けるゲーム」に過ぎず、順位の概念さえなかった。本作も畢竟、「上から降ってくる障害物を避け続けるゲーム」をレース仕立てにしただけに過ぎないのだが、そんなところに当時らしさが偲ばれる。この手のレースゲームは作りやすかったのか、編集部には大量の類似ゲームが投稿されていたそうだ。本作は描き込まれたタイトル画面とクラッシュ時のグラフィックが印象に残る。
当時の徳間系パソコン雑誌のプログラマーではYUKIさんがあまりにも有名だが、それに負けず劣らず様々な作品を発表したのが佐藤昌樹さんである。技巧派でもなく、練りきれていない部分も多いが、どの作品にもきらりと光るものがある。本作はそんな佐藤作品の3Dシューティングゲーム。接近してくる敵機を撃墜しつつ、宇宙船とのランデヴーポイントを目指す。敵の表示にはMSXの十八番であるスプライト機能を使わず、DRAW文で直接描画しているのだが、これを活かしてダイナミックな拡大縮小表示を実現している。他にもシンプルながらセンスを感じさせるグラフィック、劇的さを狙ったゲーム展開にも目を見張らされる。掲載リスト自体にバグがあることと、ゲームバランスがあまり良くないのは大きな短所だが、それ以上に惹かれるものがある作品。簡単な修正・調整だけで俄然面白くなる。
作者はLSI基盤をヒントに思いついた本作を思いついたという。コンピューターにはバグがつきものだが、もともと「バグ」とは、回路に入り込んだ虫が誤動作の原因となったことに由来しているらしい。本作はそんな「バグ」を題材にした固定画面シューティングで、MSXのCPU、Z80Aを狙うバグを追い払うというもの。タイトル画面のICや、それらしく描かれた背景グラフィックが秀逸。パソコン内部で戦うという設定も、往年のマイコン少年には心惹かれるものがある。照準はカーソルで動かすのだが、慣性が付くので操作には慣れが必要になる。ただしこの照準があまりに動かしづらく、思い通りに狙い撃つのは至難の業。基本的に同じ敵を固定画面で狙って撃っていくだけなので展開も単調。ゲームとしてはまだまだ練りこむ余地が大きい。これもちょっとの調整でぐっと面白くなることを思うと実に惜しい一作。難易度はともかく雰囲気はピカイチ!
クワガタムシを操り、木に寄ってくる蝶を捕食するゲーム。木にはカブトムシとカメレオンも生息しており、妨害してくるのでひたすら逃げながら蝶を食べる。パソコンよりも電子ゲームでありそうなかんじで、よく言えばまっすぐ、悪く言えばひねりがないゲーム。ライン&ペイント&サークルで描かれた背景には妙に味があって、黎明期のMSXらしさを感じさせる。それにしてもクワガタムシの主食って蝶だっけ?
重なった文字を当てるパズルゲーム。重なっている部分は白黒が反転する上、誤った字を指摘するとさらに文字が重なってややこしくなるので、まさに手こずるパズルというわけだ。難しいランクで好成績を収めると「ヘンタイ ダナ?」だの「キチガイ カモネ!」と、ヒドい罵倒で讃えられる。シンプルだがツボを押さえた作りで妙に引きこまれる作品。ちなみにでぶ先生はベーマガにおけるDr.Dのような存在で、テクポリやプロポシェ投稿ゲームの添削等を手がけていた。本作ではDATA文を改良し、リストを短くしているとのこと。
見てのとおり、コナミの名作「フロッガー」ライクゲーム。「フロッガー」に比してルールやグラフィックは相当に簡略化されているが、そのおかげか、気軽にテンポよく遊べるゲームになった。人気アーケードゲームを真似するのは投稿プログラムの定番だったが、それは「あのゲームを自分の家で遊びたい!」という、切実な欲求があったからでもある。
固定画面シューティング。5ステージを戦い抜き、最終ボスマザーシップを撃墜するのが目的。スクロールなし、慣性の付く自機の挙動、単発しか撃てない弾等々、これだけあげつらうとアレなゲームに思えそうだが、これらが全て良い方向に働いている。雰囲気抜群のクールなゲーム画面、ダイナミックかつ繊細な攻防のスリル、狙い澄まして一撃必中を狙う緊張感と撃墜成功の爽快感はなかなかのもの。雑魚敵は一種類だけだが、移動パターンや攻撃パターンを変えることで変化を付けている。ステージ開始時のデモやキャラクターも相変わらずカッコいい。やや冗長さは見られるものの、センスの良さがあちこちに見え隠れする佳作。
「フラッピー」同様、敵から逃げつつブロックをゴールまで運ぶという、当時よく見かけたタイプのアクションパズル。制作者が3人いるが、本作はプロポシェの添削講座に採り上げられた作品で、石原さんの作品をでぶ先生が手直ししたもの。ただ押して運ぶだけならよくあるパズルゲームだが、「ブロックは通過可能」「かするだけでもブロックが動く」という要素が本作ならではとなっている。敵にぶつかるとミスなので、ブロックを運ぶ手順だけではなく、敵の捲き方やハメ方等も考えながら遊ばないと、クリアはおぼつかない。この手のパズルは作りやすかったからなのか、当時の投稿シーンでは盛んに見かけたものだった。ちなみにYUKIさんは面デザイン担当。妙に納得。
主人公ミークンを操り、囚われの恋人マチルダを救い出すアクションゲーム。作者はサザンの大ファンで、題名とペンネームをサザンから借用し、この作品を作ったらしい。そうだからか、歌詞どおりに怪物や斧なんてものも登場する。見た目は「フラッピー」によく似ているが、中身はパズルと言うよりもまさにアクションゲームで、キャラクターのかわいらしさに似合わず手応えがある。ランダム要素が大きいため、パターンをなぞるよりも、アドリブで状況に対処するプレイが求められる。難易度は乱数の巡り次第だが、出目が悪くとも腕前でカバーできるというゲームデザインは巧いの一言。面エディット機能も付いている欲張りな一本。余談だが作者紹介の文章とイラストがやけにオネエじみている。
ロボットを操り、前後から迫り来る敵戦闘機を延々と撃ち墜とし続けるシューティングゲーム。ただのシューティングと違い自機には重力が働く。地上と空中では若干挙動が変わるので、この動きに慣れることが高得点のコツ。題名どおり無限ループするのでオールクリアというものはない。この頃のシューティングやアクションにはエンディングがないのはあたりまえで、巧いプレイヤーは1コインで延々と遊ぶことができた。ゲーム自体は淡泊でインパクトに欠けるが、佐藤作品らしくキャラクターや雰囲気はやっぱりカッコいい。
カラフルなモグラが現れるもぐらたたきゲーム。一見ただのもぐらたたきだが、中央のマスと同じ色のモグラを叩くと即ゲームオーバーというルールが大発明。反射神経に加えて瞬時の判断力が必要となり、格段に面白くなっている。気軽に打ち込んで遊べる一画面プログラムというのもよろしい。
これも当時よくあったタイプのレースゲームだが、アクセルによる加減速、スピードに応じて変わる敵車の挙動、一定区間ごとに現れる障害物等の要素を盛り込み、この手のレースゲームではあたまひとつ分抜け出している。作者は「古くさい」と謙遜しているが、編集部が「標準作」と認めたとおり、作りは古典的ながら隙がない。凄く面白いというものでもないが、弄っていて楽しい作品。
スペースシャトルを操り、障害物を避けながら宇宙空間を飛ぶゲーム。シャトルの挙動が本作の肝で、慣性が付くのはもちろん、動くためには動きたい向きと逆のバーニアをふかす必要があり、さらにふかすたびに燃料を消費する。前方からはデブリが絶えず飛来し、随時噴射でかわしていく。制限時間内に5000キロ飛べばステージクリア。高速で飛べば速くクリアできるが、その分避けづらくなる。低速なら避けるのは楽になるが、燃料や時間切れの恐れが出てくる。慣性や逆噴射等、操作の癖に慣れるまではもどかしいが、慣れると俄然面白くなってきて、ギリギリのところでデブリをかわすのが快感になってくる。ゲームデザインが巧い秀作。
変則洞窟探検ゲーム。宇宙船で資源を採集し、洞窟の最深部にたどり着けばオールクリア。全3面で、面ごとに異なる展開が待っている。1面では落下しながら足場を移りつつ燃料を集め、2面は「酔っぱらい」式にアステロイドを浮遊して資源を集め、3面では障害物を避けながら洞窟の底を目指す。スクロールしながら迫ってくる障害物を避け、より先へ進むことを目指す「洞窟探検」ゲームは、当時の投稿プログラムの定番だった。本作もその仲間なのだが、各面展開が異なるので、次が気になってつい遊んでしまうのが巧いところ。ただし運頼みの要素が強く、自力でのオールクリアはまず不可能。もうちょっと難易度を練りこんでほしかった。
一見「倉庫番」のようだが「うそこばん」。そのとおり、「倉庫番」とは似てあらざるパズルゲーム。本作では荷物を所定の位置に動かすのではなく、ブロックをどかしつつ、迷路に散らばる小判を全て拾えば面クリアとなる。プレイヤーは一度動きだすと壁にぶつかるかブレーキをかけない限り止まれない。動いている途中でブロックにぶつかると、そのまま押せるところまで押していってしまうので、うまく動きを抑制する必要がある。スコアはないが「手数」がカウントされており、なるべく少ない手数でのクリアを目指すという遊び方もできる。プログラム改造で簡単に作ったり増やすことはできるが、4面で終わりなのが残念! 楽しいパズルゲーム。
テキストベースのシンプルなRPG。20x20のフィールド上を動きまわり、戦闘で自らを鍛え上げ、ラスボスパンプ星人を倒し、囚われのみゆき姫を救い出すことが目的。テキスト主体でゲームは進み、グラフィックはほとんど飾りなのだが、佐藤作品らしく雰囲気作りはバッチリ。「ザ・ブラックオニキス」を彷彿させる画面は想像力をかき立ててくれる。ただし逃げづらい戦闘システム、回復手段の不備不具合、敵配置処理の問題等でゲームバランスはすこぶる悪い。そのままではよほど運が良くないとクリアできないのが残念。これもちょっとプログラムを弄るだけで、遊べる作品に一変する。
一見よくある酔っぱらいゲーム。千鳥足で一本橋を渡り、画面右端の的を目指す。他のゲームと異なるのは、クリアしても自分の足跡が残っているところ。クリアすると再び画面左端からスタートするのだが、自分が通った足跡がそのまま残っているのでどこにいるのかわかりづらくなり、面が進むにつれ、難易度が上がっていくという寸法。とはいえそう難しいゲームでもない。がつがつハイスコアを目指すよりも、思い出したら起動して、手慰みに遊ぶのにぴったり。元は朝日新聞社の小川あにおなる人物が作ったポケコンのゲームだったらしい。納得。
オールBASICであるにもかかわらず、容量の問題でディスクが使えずテープ専用という、ある意味空前絶後の大作RPG。大成を夢見る青年ジョウイを操り、一旗揚げるべく故郷惑星クラウンからの脱出を目指す。作者によればジョウイは後に「スターブレイカー」と称される大物になるそうで、本作はその最初の冒険ということになっている。技術的には稚拙で、解法を知っていれば30分程度で解ける。しかしスクリーン2で描かれるゲーム画面は独特の雰囲気を出しており、本作の大きな魅力となっている。宇宙船やブラスターといったSF小道具が出てくる一方で、ファンタジーにつきもののドラゴンや魔法使い、果ては神様まで登場するごった煮の世界観もまた楽しい。当初はシリーズ化する予定もあったのだが、続編はついに登場しなかった。ジョウイがその後どのような冒険をしたのか、今でも少し気になる。
壁を動かしボールの向きを変えつつ、全てのボールをゴールに入れればクリアとなる。当時によくありそうなゲームだが、ボール移動処理をマシン語化しているあたりはさすがでぶ先生。クリアを目指すのもさることながら、ボールそっちのけで壁を動かし、好き放題に地形を変えるのが面白い。