MSX名作20選+5

 2014年4月、スペインのゲーム情報サイト"HOBBY CONSOLAS"にて、MSX名作20選が発表されました。そのうちわけは以下のとおりです。

メタルギア
魔城伝説II ガリウスの迷宮
悪魔城ドラキュラ
夢大陸アドベンチャー
SDスナッチャー
グラディウス2
真魔王ゴルベリアス
魔城伝説
アレスタ2
F1スピリット
スペースマンボウ
イー・アル・カンフー
グーニーズ
王家の谷2 エルギーザの封印
サークI
イースII
パロディウス
ウシャス
沙羅曼蛇
メタルギア2ソリッドスネーク

 確かにMSXで人気を誇った名作で、どれを取ってもハズレはありませんが、ほとんどコナミに偏ってるのが気になりました。そこで「MSX用ゲームから名作20本を選ぶなら」と荒井なりにわりと真剣に考えまして、こんなところに落ち着きました。それに加えて捨てがたい作品も5本、全部で25本を選んでみました。
 基準はゲームの出来、MSXオリジナル作品かそれに近いもの、歴史的意義などなど。海外にもいいMSXゲームは数ありますがそちらには疎いので、和製ゲームから選んでます。
 このリストは優劣をつけようというものではなく、飽くまでMSXならではの好いゲームということで列挙してます。


1:「グラディウス2」〜1987年・コナミ・MSX1以降・1M ROM

グラディウス2タイトル画面 武器鹵獲中 衝撃のアップレーザー

 グラディウス歴6666年、惑星グラディウスに再び危機が訪れる。クーデターの罪で惑星サードに追放されていた元宇宙科学庁長官ヴェノム博士がバクテリアンと結託、7つのスペースプラントを侵略しながらグラディウス本星に迫ってきたのだ。グラディウス帝国政府は開発中の最新鋭超時空戦闘機メタリオンの出動を決定、先のバクテリアン戦の英雄ジェイムス・バートンをパイロットに任命した。惑星グラディウスの命運を賭けた戦いがまた始まる。

 コナミはMSX界の巨人でした。MSX初期から数え切れないほどの名作を生み出しています。中でもMSXらしい名作として真っ先に挙げられるのは、やっぱりこの「グラディウス2」ではないでしょうか。SCC、アップレーザー、ヴェノム博士。MSXユーザーならば知らぬ者はなく、もはや必須の「教養」と言ってさえよいでしょう。
 アーケードの完全移植が不可能なハードにおいて、いかにアーケードに負けないものを作るか。この課題に対し、ゲームデザインの工夫と独自要素で足りない分を補うという方法で好評を博したのがMSX版の「グラディウス」でした。そしてその方法をさらに発展させたのが「グラディウス2」というゲームだと思います。
 それはMSX独自の進化を遂げたグラディウスで、後のシリーズ本流に与えた影響は、少なからぬものがあります。知名度・技術力・面白さ。どれを取ってもコナミはもちろん、MSXを代表する一本と言っても過言ではないと思います。


2:「夢大陸アドベンチャー」〜1986年・コナミ・MSX1以降・1M ROM

夢大陸アドベンチャータイトル画面 氷の大地を疾走中

 ペンギン王国ではペンギンたちが平和に暮らしていました。ところがあるとき悪い病がはやりだし、王国民の心の支えであるペン子姫が不治の病に冒されてしまいました。なおす方法はただ一つ、「夢大陸」にあるゴールデンアップルの実を食べさせること。王様は一人の若きペンギンを呼び出し、夢大陸からゴールデンアップルを持ち帰るよう命じます。しかし夢大陸は宿敵フリーザウルスの住処。冒険は大きな危険と困難をともないます。若きペンギンは夢大陸からゴールデンアップルを持ち帰り、無事ペン子姫を救うことができるでしょうか?

 大学にいた頃、同級生のケン君とMSXの話題になり、たまたまその題名を口にしたら、彼は急に目の色を変えて熱く語り出しました。「夢大陸アドベンチャー」とは、MSXユーザーにとってそれくらい特別な作品なのです。
 「夢大陸」はMSX初期の人気作「けっきょく南極大冒険」のゲームシステム的続編にあたりますが、それだけでは済まない大幅なグレードアップを遂げています。「I LOVE 地理」からメガロムへ。基地からフリーザウルスへ。南極大陸から夢大陸への変化とは、SCC以前のコナミMSX作品がたどってきた変化なのかもしれません。いわば「夢大陸」とは前期MSXコナミの集大成。それゆえペン太はMSXコナミのシンボルとなっているのでしょう。


3:「魔城伝説II ガリウスの迷宮」〜1987年・コナミ・MSX1以降・1M ROM

ガリウスの迷宮タイトル画面 妖精出現 パスワードはYOMARだぜ

 魔王ヒュノドスから王女アフロディテを取り返し、グリーク王国に戻ってきた騎士ポポロンを待っていたのは、魔城と化したグリーク城だった。全ては大魔司教ガリウスの仕組んだ罠だった。アフロディテ救出のためポポロンが王国を出払っている隙に、悪魔を呼び込んだのだ。さらにガリウスはポポロンとアフロディテの未来の子供パンパースを天界より誘拐し、人質にしてしまった。我が子と王国を救うため、戦うことを決意したポポロンとアフロディテ。真の魔城伝説がここに始まる。

 「夢大陸」と並ぶコナミMSXオリジナルが「魔城伝説」シリーズです。その中でもっとも人気が高いのが、二作目「ガリウスの迷宮」ではないでしょうか。当時、魔城伝説がSTGからARPGになったことも驚きでしたが、それ以上にMSX1とは思えないほど美麗なデカキャラ(それでしかもよく動く!)や、メガロムならではのボリュームに度肝を抜かれたことを思い出します。
 「魔城伝説」シリーズはSTGの1作目、ARPGの2作目、AVGの3作目と、作品ごとにジャンルが全て変わっています。そこにコナミの挑戦心や遊び心、サービス精神を垣間見る思いがします。そしてその挑戦にプレイヤーは衝撃を受け、大いに喜んだのでした。中でも「ガリウス」は衝撃的で、それゆえシリーズの顔となっているのだと思います。


4:「メタルギア2ソリッドスネーク」〜1990年・コナミ・MSX2以降・4M ROM

メタルギア2タイトル画面 この先にメタルギアがいる
無線通信中 シブすぎるMSX2版SOLID SNAKE

 冷戦終了後、エネルギー危機を迎えた世界。チェコの科学者キオ・マルフ博士は石油を産む生物「OILIX」を発明する。しかしOILIXを押さえることで軍事的優位に立つことを狙う新興軍事国家ザンジバーランドはマルフ博士を拉致、保有する核兵器とともに世界を脅かし始めた。元FOX HOUNDの戦士ソリッドスネークに再び極秘任務が下る。使命はザンジバーランドに潜入し、マルフ博士を救出すること。スネークは核の脅威から世界を救えるか。

 後世に最も影響を与えたMSXタイトルの筆頭。それが「メタルギア」でしょう。MSX2の非力さが、斬新な「ステルスゲーム」を生み出した逸話はあまりに有名です。今や世界にその名をとどろかせる小島秀夫「監督」が、その作家性を強く打ち出した初のシリーズという点でも、ゲーム史上無視できないものがあります。「メタルギアソリッド」はもちろん、「スナッチャー」や「ポリスノーツ」等、独特の雰囲気を放つ作品群の原点はここにあります。
 「ソリッドスネーク」はその「メタルギア」シリーズの2作目です。ゲームシステムやシナリオが大幅に強化され、名作である前作を越えるゲームになりました。後のシリーズの基本は、この作品で確立されたと言ってよいでしょう。


5:「テセウス」〜1984年・アスキー・MSX1以降・ROM

テセウス脅威のスムーズスクロール 特別編超難解版

 テセウスとはギリシャ神話に現れる勇者である。クレタ島のラビリンスに棲む怪物ミノタウルスを退治したことで知られる。ところかわってここは敵の秘密基地。君の使命は囚われた王女を救い出すことである。しかし基地はラビリンスのように複雑で、至るところに罠や監視ロボットが仕掛けられている。君は勇者テセウスのごとく迷宮を攻略できるか?

 MSX規格の生みの親らしく、アスキーは様々なMSX用ゲームを発売していました。「イリーガス」「ウォーロイド」「ザ・キャッスル」等々、名作は数ありますが、その中から選んだのは「テセウス」です。それはハード的にスムーズスクロールが難しいMSX1において、1ドット単位の高速スクロールを実現した(しかもゲームが破綻していない)という技術的側面もさることながら、後に与えた影響も大きいからです。
 本作の作者の一人、五代響さんは後にゲームアーツで「テグザー」を手がけます。「テグザー」の大ヒットを皮切りに、同社はゲーム史上確固たる存在となっていくのですが、その「テグザー」の元となった作品の一つが「テセウス」なのです。ある意味、「テセウス」がなければ「シルフィード」も「ファイアーホーク」も、果ては「グランディア」もなかったかもしれないわけです。

 ところでゲームアーツはPC88中心のソフトハウスというイメージが強いですが、アスキーによるMSX叢書「ポケットバンク」シリーズのサンプルプログラムや、コンパイルのディスクマガジン「ディスクステーション」収録の「サムゲームズ」なども手がけています。MSXハードの開発にも携わるなど、実はゲームアーツはMSXに大きく貢献したソフトハウスなのでした。


6:「ガルフォース カオスの攻防」〜1986年・ソニー(開発HAL研究所)・MSX1以降・1M ROM

ガルフォースタイトル画面 エルザ発見

 ナインボーイシステムにより緑の星として蘇った衛星カオス。君はソルノイドのガルフォースクルーになりかわり、パラノイドからカオスを守らなければならない。宇宙要塞に残る他の6人のクルーと合流して最終兵器ディノサートを打ち倒し、カオスを守り抜け!

 メガロム勃興期の良STGです。販売はソニー、開発はHAL研。ソニーは数々の本体やソフトを送り出し、MSX界には欠かせない存在でした。「ペイロード」や「ロードランナー」「魔法使いWiz」等のゲームも忘れられません。HAL研はMSX発売当時から、数々のMSXソフトを制作した名門です。「ホール・イン・ワン」「エッガーランド」シリーズが特に有名でしょう。その二者がタッグを組んでいるという点でも、MSXを記念する作品のひとつだと思います。
 1Mバイトの大容量ROMカートリッジ「メガロム」が登場したのが、ちょうどこの作品が出た頃です。メガロムによって、それまで作れなかったような大規模な作品が、MSX界に数多く現れます。それにともないハードメーカーも、メガロムゲームで遊ぶなら、と本体を売り込んだものでした。当時のソニーとパナソニックのMSXカタログには、メガロムゲームがいくつも載っています。この「ガルフォース」も、そうして売り出されたゲームのひとつでした。
 今思えばそうして売り出されたメガロム作品には、こけおどしで中身がさっぱりというものも少なくはなかったのですが、この「ガルフォース」はさすがHAL研クオリティ。今でも爽快に遊べる名作です。


7:「妖怪屋敷」〜1986年・カシオ・MSX1以降・ROM

妖怪屋敷タイトル画面 グーニーズ言うなw 強敵菊の進

 町外れの古びた屋敷は、妖怪屋敷と呼ばれていた。そこにおてんばな女の子リカちゃんが、お化けの写真を撮ろうと入っていったきり、戻ってこなくなってしまった。このことを知ったクラスメイトのコウジ君。懐中電灯片手に、勇敢にもリカちゃん救出に向かったのだが...

 激安MSXマシンを展開したカシオは、MSX人口の拡大に大きく寄与したのではないでしょうか。自社MSXを売りこむためか、カシオも様々なMSXソフトを作っていました。
 買いやすかったのか、当時のユーザーにとってカシオゲームは身近な存在でした。「スキーコマンド」「アイスワールド」「伊賀忍法帖」「ハデスの紋章」「ゲームランド」等々、本人が持っていなくとも、周りのMSXユーザーの友達が何かしらカシオゲームを持っていて遊ばせてくれたものです。
 技術力のあるソフトハウス謹製のゲームに比べて、カシオゲームは見た目こそ地味ですが、良作も数あります。その中で最高傑作を一本挙げろと言われたら、やはりこの「妖怪屋敷」ではないでしょうか。様々なトラップ、広いマップ、ボス敵。見た目は相変わらず地味なものの、プレイヤーを楽しませる仕掛けが満載です。その後ファミコンに移植されたことが、その出来のよさを表しているのではないでしょうか。


8:「ザナドゥ」〜1987年・日本ファルコム・MSX1以降・2M ROM

ザナドゥMSXタイトル画面 LEVEL4で彷徨中 キングドラゴンガルシス

 ザナドゥ王国はキングドラゴン・ガルシスに永年虐げられていた。しかし、ついにその時は来た。シリューガの三つの星が一つに交わる今、ガルシス討伐の勇士がザナドゥの地下都市へと送り込まれる。精霊の王の四つの王冠と伝説の聖剣ドラゴンスレイヤーを探しだし、赤い魔竜ガルシスを討ち果たせるか。さぁ、今すぐ旅立とう!

 80年代の日本ファルコムの存在感は、現在以上のものがありました。MSXは移植版中心の展開でしたが、その中にもMSXらしい作品はいくつかあります。中でもMSXならではと呼べるのは、同社の代表作「ザナドゥ」移植版でしょう。
 そのデータ量ゆえ、「ザナドゥ」はMSXでは実現不可能と思われていました。しかしながら2メガロムの恩恵でマップやキャラクターを一切削ることなく再現したばかりか、全面に亘ってMSXに合わせた改良が加えられています。その甲斐あって、MSX版は他機種より一歩先を行くものに仕上がっています。
 当時PC88からMSXに移植される場合、メモリやハード性能の問題から、キャラクターやマップ、グラフィックが減らされるということはあたりまえでした。惨憺たる出来になることもしばしばしばです。そうした移植版があふれる中で、MSXの持ち味を存分に活かし、オリジナル以上のものを実現してみせた「ザナドゥ」は、名移植の好例と言ってよいと思います。


9:「ドラゴンスレイヤーIV ドラスレファミリー」〜1987年・日本ファルコム・MSX1以降/MSX2以降・2M ROM

ドラスレIVタイトル画面 上にあるのはクラウンです ドラゴンスレイヤーと記念撮影

 昔々、小さな森の片隅に木こりのウォーゼン一家が暮らしていました。ところがある日、ペットのポチがドラゴンの鱗を拾ってきたのを見て、一家はかつてご先祖様が封印したドラゴン・ディルギオスが復活しつつあることを察知します。一家の本当の使命は、ドラゴンの復活を阻止すること。ウォーゼン一家は力を合わせ、ドラゴンを倒せるでしょうか? 後に「南方ドラゴンスレイヤー伝説」として語られる物語が始まります。

 80年代を代表するスタープログラマー、木屋善夫さんによる人気シリーズの第4弾。「ザナドゥ」を彷彿させるサイドビューアクションRPGです。出たのはファミコン版とMSX1版・MSX2版の3機種。スプライト機能の恩恵か、アクションゲームを志向した味付けがなされ、そのアクション性の高さはシリーズ指折りのものでしょう。白眉は古代祐三さんによるPSG楽曲で、FM音源顔負けの、MSX至高のPSGサウンドが楽しめます。
 日本ファルコムの名作は数あれど、MSXは御三家ハードからの移植が中心でした。ですから「FMでしか遊べないのかよ!」だの「88だったら古代サウンドがFM音源で聴けるのに!」だの、指をくわえることもしばしばでした。
 ドラゴンスレイヤーシリーズは、当時の日本ファルコムの看板作品です。やはり多くはPC88やX1等のハードをオリジナルとしており、MSXで遊べるのはしばらく後ということが多かったのでした。しかし、その中で「ドラゴンスレイヤーIV」だけは、ファミコンとMSXシリーズのみでリリースされました。パソコンではMSXでしか遊べない。この事実に日頃御三家ハードをうらやむMSXユーザーは、ちょっとだけ優越感を覚えたものでした。


10:「ランボー 地獄のヒーロー!激闘救出作戦」〜1985年・パック・イン・ビデオ・MSX1以降・ROM

ランボータイトル画面 ロケット砲で木っ端微塵

 アメリカのVIPが敵国に捕まった。VIPはジャングル奥地の収容所に囚われているが、軍隊を送って戦争になることを懸念した情報部は、救出作戦をランボーに一任する。君はランボーとして単身敵地に潜入し、VIPを国境まで連れ帰らなければならない。無事作戦を果たせるか?

 パック・イン・ビデオのデビュー作となるARPG。前年に公開された映画「ランボー 怒りの脱出」が下敷きとなっているようです。映画原作のゲームは出来が悪かったりつまらなかったりということも多いのですが、このMSX版「ランボー」は非常に良質で、かのスタローンも賞賛したと伝わっています。リアルタイムに装備を切り替えながら、戦場を駆け抜ける痛快さは、当時のARPG屈指のものがあります。「MSXでは『戦場の狼』が作れない」とは、「メタルギア」の小島監督の有名な弁明でした。「ランボー」はある意味「メタルギア」以上のことを実現した作品です。
 その手広さゆえか、パック・イン・ビデオは時に「クソゲーメーカー」と語られることがあります。しかしMSXだけでも「ヤングシャーロック」「軍人将棋」「シルヴィアーナ」など、地味によいゲームを発表していました。「クソゲーメーカー」と呼ばれる一方で、「川のぬし釣り」や「牧場物語」といった良作を発表する懐の深さの片鱗は、この初回作に現れているように思われます。


11:「ハイドライド3 異次元の思い出」〜1987年・T&Eソフト・MSX1以降/MSX2以降・4M ROM

ハイドライド3MSX版タイトル画面 MSX2版の聖なる寺院
MSX版ガイザック 「不思議が当然フェアリーランド」

 エビルクリスタルが消え、平和が続いていたフェアリーランドに、みたび異変が訪れる。ある夜火柱とともに大地に巨大な裂け目が現れ、時を同じくして、入った者をどこかへ飛ばしてしまう「扉」が出現したのだ。これまでにない異変の数々を重く見た修道士達は、原因究明のため一人の若者を遣わした。自分の世界を守るため旅立つ若者、それが君なのだ。

 日本ファルコムと並び称される名ソフトハウス、T&Eソフトの名ARPGシリーズの最終作です。ゲームが難しかった時代の総決算的作品で、いわば最後の「アクティブRPG」です。
 「ハイドライド3」の制作が決定した際、まず開発が決まったのはPC88と、MSXシリーズでした。MSX版とMSX2版は移植というよりも、オリジナルバージョンの一つと考えてよいでしょう。グラフィックの美しさならMSX2版ですが、ハードの限界に挑んだMSX版も素晴らしい出来映えです。大容量の4メガロムにはT&Eソフトの技術とフェアリーランドの世界が詰め込まれています。
 「ハイドライド」シリーズのオリジナルはPC88版でしたが、MSX版も数々の新風を巻き起こしていました。MSX版「ハイドライド」で培ったマップ圧縮技術は、「ハイドライドII」の広大なマップに活かされました。その「ハイドライドII」MSX版はいちはやくメガロムを採用し、さらに世界初のセーブデータSRAMバックアップを実現しています。その最終作のオリジナルのひとつがMSXシリーズで作られたということは、ゲームの転換期であり、MSXの絶頂期でもあった、当時という時代を象徴しているように思われます。


12:「アンデッドライン」〜1989年・T&Eソフト・MSX2以降・2DDx1

アンデッドラインタイトル画面 CEMETARY進攻中 DUNGEONの大ダコ

 ジダン王国の歴史は魔物との戦いの歴史だった。魔界との「結界」を封じる魔道士ロシュファの六つの封印が解けて以来、再び魔物が王国を脅かしはじめた。戦いに疲弊した国王ファーレンハイト2世に代わり若き王妃アルテアが兵を率いるも、魔物の勢いはとどまるところを知らず、「結界」はついに王城近くにまで及んできた。
 戦士レオン、魔道士ディノ、くノ一ルイカ。ロシュファに憧れ王妃を慕う三人の若者たちが、王国の危機のため立ち上がる。互いに名も知らぬ三人の勇者の物語はここから始まる。

 「ハイドライド」シリーズゆえ、T&EソフトといったらARPGというイメージがありますが、他のジャンルでも様々な作品を発表していました。AVGの「スターアーサー」シリーズ、SLG「ディーヴァ」、ゴルフゲーム「3Dゴルフシミュレーション」等々。中でもSTGにはこだわりがあったようで、創業当時から多くの作品を発表しています。もっとも有名なのは「レイドック」シリーズですが、完成度では渾身の一本「アンデッドライン」にその座を譲ります。難易度こそ高いものの、先が見たくなる展開、プレイヤーを飽きさせない豊富なギミックとフィーチャー。それは当時のT&E製STG完成形であり、MSX2を使いこなしたゲームとして屈指のものでしょう。
 T&EソフトのMSXに関する技術力は、数あるソフトハウスの中でもトップクラスのものがありました。思えばMSX誕生の頃からMSX用ゲームを開発し、2や2+が出たときもさっそく専用ゲームを発表しています。1989年ともなればMSX2も円熟を迎えていた頃。その円熟期に、MSXに精通したT&Eがありったけをつぎ込んで作ったこだわりのSTG。それが「アンデッドライン」なのだと思います。


13:「アニマルランド殺人事件」〜1987年・エニックス・MSX1以降・1M ROM

アニマルランド殺人事件タイトル画面 重要参考人パンダのリンリン すがすがしい顔のモグラ

 動物たちが平和に暮らすアニマルランドで、宝石商のゴン吉が殺された。ピストルで胸を撃ち抜かれ、謎のダイイングメッセージを残して...刑事である君は助手の忠犬おいどんとともに捜査に乗り出したが...

 80年代中頃、少なくとも「ドラゴンクエスト」がゲーム業界を席巻する以前、エニックスと言えばAVGの会社でした。「ポートピア連続殺人事件」「ザース」「ウィングマン」「エルドラド伝奇」等々、魅力的なAVGを数多くリリースし、その品質は当時トップクラスのものでした。いくつかは移植され、MSXでも楽しむことができます。ただ、MSXオリジナルAVGは非常に少なく、たったの一本しかありません。その一本が「アニマルランド殺人事件」です。
 ほのぼのとした絵柄に託して繰り広げられるハードな物語と重いテーマ。その品質はさすがエニックスで、数ある名作に引けを取りません。最初にして最後、たったの一本、そして最高のMSXオリジナルAVG。冒頭の"This is GRAVE MESSAGE for MSX USER'S by ENIX"のメッセージに偽りなし!です。


14:「サイコワールド」〜1988年・ヘルツ・MSX2以降・2DDx1

サイコワールドタイトル画面 ワールド全景 溶岩面

 19xx年、双子姉妹のルシアとセシルは、ナビック博士の研究所で研究に従事していた。ところがある日研究所の一部が爆破されるという事件が起きる。モンスターとも呼ぶべき危険な実験生物たちは研究所を脱走した上、セシルまでさらっていってしまった。博士はルシアに超能力増幅装置を与え、モンスターを倒すとともにセシルを救い出すよう命じる。怒りと使命感を胸に、ルシアはセシル救出に飛び出した。

 MSX2のVDPは、グラフィック性能が向上した分処理速度が遅いという弱点を抱えています。また、ハードウェアスムーズスクロールも縦のみで、横には対応していません。その制約をいかに克服するかは、MSX2プログラミングのテーマの一つでもあったように思われます。
 知名度こそ低いながら、スムーズスクロールにこだわりを見せたのがヘルツです。技術力のあるソフトハウスのゲームは、技術だけが先行してゲーム内容がおろそかになってしまうことがしばしばでした。しかしヘルツの作品は良心的な作りで、マニアの間で定評があります。
 「サイコワールド」はそのスムーズスクロールを使った横スクロールアクションゲームです。MSXシリーズは、実はこの手のプラットフォームアクションゲームが不得手のようで、爆発的な人気を博したゲームはあまりなかったように思われます。「サイコワールド」も大人気になったわけではないのですが、そのスムーズスクロールとバランスの良さ、そして何より面白さで、地味に好評を博しています。
 スーパーマリオやソニックと比べるのは酷かもしれません。それでもきちんと遊べるプラットフォーマーの佳作があることは、MSXユーザーにとってうれしい限りです。


15:「ザナック」〜1986年・ポニカ(開発コンパイル)・MSX1以降・ROM

ザナックタイトル画面 ランダー出現 超高速AIシューティングだぜ

 ある有機知性体が遺した「イコン」を開けた人類に危機が降りかかる。「イコン」が開かれたことを察知した「システム」が、人類を滅ぼすべく攻撃を始めたのだ。人類は戦闘機による単独攻撃で裏をかき、一度は「システム」を退けたものの、他の「システム」を呼び寄せる結果となる。より強大になってしまった「システム」を食い止めるべく、AFX-6502=ザナックが今飛び立つ。

 往年のファンには説明無用、コンパイルの出世作となったSTGです。そのスタイルとパワーアップ形式はその後に少なからぬ影響を与え、STGの古典の一つとなりました。
 コンパイルもMSX界で大活躍したソフトハウスです。発足当初はセガやソニー、ゼネラル等々、様々なパブリッシャーで下請け開発を手がけていました。その一つにポニカがあって、同ブランドからも数々のゲームを発売しています。後の躍進の礎には、この下請け開発によって蓄えられた実績があるのかもしれません。
 ところで、「ザナック」がコンパイルSTGの基礎となったことに異論はありませんが、それを送り出したポニカの功績も無視できないものがあります。いまだクソゲーと伝えられる版権ものゲームから、アクティビジョンやルーカスアーツ等の個性的な海外ゲーム、「カモン!ピコ」「スーパーランナー」のような個性的なオリジナルゲームまで。ポニカはMSX界に数々の迷作名作を送り出した、忘れ得ぬ有力パブリッシャーでもありました。


16:「魔導物語1-2-3」〜1990年・コンパイル・MSX2以降・2DDx4

魔導物語1タイトル画面 魔導の娘シェゾに絡まれるの図
サタンさま出現 カーくんといっしょの図

 混沌の神が支配する世界。光は闇の恐怖のために、希望は絶望の下に存在していた。そしてその事実を知った者は特別な力を失い、旅することを止め、自らの死の順番を待つために生きるようになったのだ...というのはさておき、ある少女がいた。少女は幼い頃から魔導師になることを夢見ていた。長じて少女は夢を叶えるため旅に出た...これはその少女にまつわる三つの物語。

 後世に最も影響を与えたMSXタイトルは。この問いの答えとして「メタルギア」とともに挙げられるべきは、この「魔導物語」でしょう。初回作は「ディスクステーション」の一コンテンツとして発表されたものです。それが好評を博したのか、新たなエピソードを追加した上で、単体のパッケージソフトとして発売されたのが「魔導物語1-2-3」です。1-2-3は慣例として「一丁目二番地三号」と読むことになっています。ついでに主人公の魔導の娘を「アルル・ナジャ」ではなく「らっこ」と呼ぶことにこだわるのもこの世代です。
 80-90年代の日本ゲーム界を語る上で、コンパイルの存在は欠かせません。そのコンパイルが世間にその名をとどろかせることになった「ぷよぷよ」は、「魔導物語」のスピンオフとして始まったものです。コンパイルは「ぷよぷよ」の大ヒットを機に、キャラクターグッズ販売やゲーム大会開催、バイクレース参戦等々、派手な広報活動を始めます。「魔導物語」のキャラクターは、同社の広告塔となりました。しかしその急激な拡大策が裏目に出て、コンパイルはほどなく崩壊を迎えます。「魔導物語」とは、コンパイルに空前の繁栄と衰退をもたらしたタイトルであり、後世への影響力は無視できないものがあります。
 ゲーム自体はオーソドックスな3DRPGですが、数字に頼らないパラメーター表示やサンプリング音声による演出等々、意欲的な試みが見られます。とりわけいちばんの魅力は「猫庭王」米光一成さんや氷樹むうさんらによる独特の世界観とキャラクターでしょう。その後様々なハードで様々なシリーズ作が発表され、「魔導物語」の世界は今でも多くのファンの心を掴んでいます。


17:「アレスタ2」〜1989年・コンパイル・MSX2以降・2DDx3

アレスタ2タイトル画面 都市部での空中戦 中ボスダム決壊

 環境維持システムDIA51の暴走から20年。宇宙から襲来した植物系進化人類ヴァーガントが地球を脅かす。対DIA51戦の英雄レイ・ワイゼンが率いるアレスタ部隊も敗退し、地球壊滅は時間の問題となった。そんな中、防衛軍は実験中の新型戦闘機アレスタ2の投入を決定する。乗り込むのはレイ・ワイゼンの娘で天才的パイロットのエリノア・ワイゼン。地球の運命はアレスタ2に託された。

 「ザナック」がコンパイルの出世作STGなら、決定版は「アレスタ2」でしょう。コンパイルは古くから様々な機種で、様々な名STGを作りました。「アレスタ」シリーズはそのコンパイルを代表する人気STGです。初回作「アレスタ」はセガマーク3とMSX2版が発売されました。MSX2版はハードの限界に迫る内容で好評を得ましたが、「アレスタ2」はさらにその上を行きます。
 グラフィック性能こそ向上したものの、その処理速度の遅さはMSX2の弱点でした。この手の縦スクロールSTGは得意のようでいて、実はそうでもありません。その中で前作以上の高速スムーズスクロールや敵キャラの大量表示、良好な操作性等を実現し、かつ様々なフィーチャーまで盛り込んだ「アレスタ2」は、MSX初期から育まれてきたコンパイルSTGのひとつの到達点であり、究極のMSX2STGと言えましょう。


18:「フレイ In magical adventure」〜1991年・マイクロキャビン・MSX turbo R・2DDx5/MSX2・2DDx4

フレイタイトル画面 森の中を進みます おばさんと呼ばれて激昂するアルセイデスの図

 フレイア・シェルバーン=フレイは、ウェービス王国の英雄ラトク・カートに憧れる女の子。かつて彼に命を救われて以来ゾッコンなのです。いつかラトクの力になりたいと願う彼女は、魔法使いエンドラのすすめで魔法学校に入学しました。3年が過ぎ学校を卒業したフレイは、久しぶりにフェアレスの町に戻ってきましたが、そこにラトクの姿はありません。ラトクは失踪中の父親の噂を聞きつけ旅に出ていたのです。フレイは落胆しましたが、エンドラや恋敵エリスの励ましを受け、ラトクを追いかけることを決心します。フレイの冒険が始まります。

 コナミ・T&E・コンパイルと並び、MSXに深く関わったソフトハウスがマイクロキャビンです。初期から積極的に作品を発表し、MSXが衰退して他社が撤退した後も、優れた作品を出し続けました。その作品は数あれど、MSXを代表するオリジナルタイトルといったら、なんといっても「フレイ」でしょう。
 「フレイ」は同社の人気ARPGシリーズ「サーク」のスピンオフです。ジャンルは縦スクロールSTG風アクションゲーム。「サーク」は「VRシステム」によるリアルな映像表現と演出で人気になりましたが、その一環か、作中に「ドラゴンスピリット」ばりのSTGステージがあります。「フレイ」はそこから発展したものなのでしょう。「サーク」のゲームシステムの懐の広さを感じさせます。ゲームは気楽なノリで、難易度も控えめ。「サーク」本編より気楽に楽しめますが、「サーク」譲りの演出とサービス精神は健在です。
 発売時期はMSXシリーズ最後の規格となるturbo Rと同じでした。「フレイ」にはturbo R版とMSX2以降版の両方が用意され、演出が若干異なっています。tR版はフレイが音声でしゃべるのが一番の特徴で、新機能であるPCM機能を使ったものでした。「フレイ」はturbo Rのローンチタイトル的に登場した作品でした。


19:「幻影都市」〜1991年・マイクロキャビン・MSX turbo R・2DDx8

幻影都市タイトル画面 老師の家 幻影都市戦闘画面

 200X年、謎の地殻変動により崩壊した香港。混乱を収拾したのはSIVAと呼ばれる企業体だった。香港の自治権を獲得したSIVAは人工地殻を建設、香港は超近代的な都市「幻影都市(イリュージョン・シティ)」へと変貌するが、20年の時を経ても、惨事の爪痕や数々の障害はいまだ人工地殻の下、「下層区域」に数多く残されていた。
 天人(ティエンレン)は下層区域で対魔掃討業「ダイバー」を営む青年である。ある日相棒・人民警察の美紅(メイファン)が、ホウメイという少女を保護したことから、物語が動き出す。

 末期MSXにおけるマイクロキャビンの貢献は目覚ましいものがありました。「フレイ」や移植版「プリンセスメーカー」のような力作をリリースしたり、MSX雑誌でさまざまな企画をやったり。MSX界で活躍したコナミとT&Eでさえ、tR用のゲームは出していません。そのマイクロキャビンが送り出したtR専用RPGが「幻影都市」です。
 他にはPC98版やFM-TOWNS版等が存在しますが、最初に発売されたのがtR版ですので、MSXはオリジナルバージョンの一つと言ってよいでしょう。売りは進化したVRシステムで描かれるドット絵の細かい演技や演出と、サイバーパンクの世界観です。外部MIDI音源対応のBGMは、本体にMIDIインターフェースを備える最後のMSXtR、FS-A1GTならではのものです。専用ソフトが少なかったtRにおいて、tRのデモソフト的存在となりました。
 1991年ともなるとMSXは全盛期の勢いを失っていました。多くのハードメーカーとソフトハウスが撤退し、発売されるソフトはすっかり数が減りました。新規格MSX turbo Rはユーザーが求めていたものとはほど遠く、「滅亡」が現実として目の前にある状態でした。「幻影都市」はそんな状況下で発売された作品です。MSXオリジナルのRPGとしてはほぼ最後期のもので、そういう意味で「MSX最後の」超大作と呼んでいいのかもしれません。


20:「ボルフェスと5人の悪魔」〜1987年・クリスタルソフト・MSX1以降・1M ROM

ボルフェスと5人の悪魔タイトル画面 砂漠の島で 師匠アルケンに褒められるボルフェスの図

 ボルフェスは魔法使いの卵。お師匠さまのもとで修行を積んでいます。ボルフェスはある日お師匠さまに呼び出され、北の国に住む魔神ナイキン・ナイキスを懲らしめるよう言いつけられます。助けになるのはナイキスによってツボの中に閉じこめられた4人の悪魔たち。魔法使いを目指すボルフェスの、北の国への冒険が始まります。

 最後は荒井の好み、知る人ぞ知るARPGの名作です。制約の多いグラフィック性能、貧弱な内蔵音源、解像度の低さ等々、御三家ハードに比べ、何かと格下に見られることが多かったMSX1。その強みはなんといっても、扱いやすいスプライト機能とPCGと、高速かつ拡張性の高いROMカートリッジを採用していたことでしょう。そのためかMSXでは他機種に比べSTGやアクションゲームが作りやすく、名作も数多いのですが、その中でも「ボルフェス」はトップクラスです。
 快適な操作性、スムーズかつバラエティ豊かな動き、テンポの良さと、アクションゲームに必要な三拍子が揃っているのはもちろん、それが堪能できるボリューム、演出等々は、MSX1のメガロムでなければできなかったものではないでしょうか。それはプログラマーの富一成さんが、何かと不自由で思うに任せなかったPC88環境への「復讐」だったと振り返っています。


21:「スペースマンボウ」〜1989年・コナミ・MSX2以降・2M ROM

スペースマンボウタイトル画面 1面巨大地上戦艦
3面ボスルアンモー 名物極太レーザー

 星暦189年、銀河宇宙に危機が迫る。星間連合の調査隊が辺境惑星アルファード4を調査中、惑星の自動防衛システムが復活。システムは星間連合を敵と見なし、その母星地球を消し去るべく、最終兵器の巨大宇宙船「マンボウ」を発進させてしまったのだ。元星間連合エースパイロットで考古学者のクリーバー・ミューはアルファード4から発掘された古文書を解読し、マンボウ攻略の鍵を見いだす。その方法はアルファード4深部のワープ装置よりマンボウに接近し、内部から破壊すること。クリーバーはマンボウと同じ技術で創られた小型宇宙艇「マンボウ-J」に自ら乗り込み、マンボウに挑む。

 コナミはMSX用に様々なSTGを発表しました。MSX1の最高傑作が「グラディウス2」なら、MSX2用は間違いなく「スペースマンボウ」です。スクロールや極太レーザーばかりが注目されがちですが、それ以上に「取っつきの良さ」を見逃すわけにはいきません。
 MSX用グラディウスシリーズは、他の機種にはない要素やストーリー性を加えることで独自性を得ましたが、その一方でゲームが複雑かつ長大になってしまいました。クリアを目指そうものなら相応の気合いと根性と修練が必要で、気軽に手を出しづらくなったことも確かです。
 それに対して「スペースマンボウ」は至ってシンプルなものです。複雑なシステムやデモ・イベント等はなく難易度も抑えめ。ミスからの復活も容易です。しかし安直というわけではなく、誰もが撃ちまくる爽快感、敵との応酬の面白さ、先へ進む喜びが存分に味わえる作りは絶妙。STGとは縁のなさそうな「マンボウ」という名詞を題名に持ってきたことも、この作品を親しみしやすくした理由でしょう。
 コナミがMSXシリーズで最後に出したSTGが、手堅く良心的に作られた佳作であることに、コナミが追求したSTGの真髄を垣間見る思いがします。この作品の存在は、MSXユーザーの大きな誇りでしょう。


22:「THEプロ野球 激突ペナントレース」〜1988年・コナミ・MSX2以降・2M ROM

激ペナタイトル画面 満塁のチャンス! ランナー滑り込み

 「コナミのベースボール」から3年、コナミが再び野球ゲームに戻ってきた! 今度の「コナミの野球」は何でもできる。対COM・2人対戦プレイはもちろん、オリジナルチームやリーグも作成可。チームどうしを自動対戦させて観戦したり、競い合わせるペナントレースまで楽しめる。各種データは新十倍カートリッジやフロッピーにセーブ可能。自分で作ったチームを率いてペナントレースに殴りこむもよし、観戦モードでゆる〜く球場の雰囲気に浸るもよし。抜群のキャラクタ、最高のSE、細かなアクションが試合を盛り上げる。みんなで楽しめる野球ゲームの真打ち、ついに登場!

 80年代前半の野球ゲームは、見た目に淡々としたものばかりでした。1画面に無理無理詰め込んだダイヤモンド、ちまちまと動く代わり映えのしないキャラ、単調な展開。プレイヤー本人はさておき、見た目にあまり楽しいものではなかった記憶があります。
 当時友人ジュンイチ君がさっそく出たばかりの「激ペナ」を見せてくれた時、思いました。これはすごい野球ゲームが出てきたな、と。
 「激ペナ」は選手に個性を持たせたり、チームエディット機能を搭載した野球ゲームの魁として語られることが多いです。確かにそれも歴史的な業績ですが、それ以上に当時の荒井には、見ていて楽しい野球ゲームとして衝撃的でした。迫力のある球場、生き生きと動くキャラクター、ダイナミックでテンポのよい試合展開。そしてSCCで鳴り響く応援歌や大太鼓のビートは球場に流れるサウンドそのもの。細かいコントロールが可能な投球やスイング、走塁等々のアクションも、それまでの野球ゲームでは見たことがないものでした。
 「激ペナ」は「アクションゲームとして楽しい野球ゲーム」の魁でもあったのだと思います。そしてその方向性は続編「激ペナ2」を経て、人気シリーズ「実況パワフルプロ野球」に受け継がれます。ファミスタとともにその後の和製野球ゲームのあり方を決めた作品として、「激ペナ」は歴史的名作であると言って間違いありません。


23:「スーパーレイドック ミッションストライカー」〜1987年・T&Eソフト・MSX1以降・2M ROM

スーパーレイドックタイトル画面 巨大戦艦
地下基地突入 ブラックストーミーガンナー

 惑星ベイムートン奪還作戦「オペレーション・レイドック」の成功以来、ギルセン軍との戦いは連邦宇宙軍優勢に傾き、宇宙軍はいよいよギルセン軍主星惑星ゾンデに迫りつつあった。ところがギルセン軍は超巨大惑星基地「ソレイユ」を完成させ反攻を開始、一気に形勢を逆転する。事態を憂慮した宇宙軍司令部は、試作中の新型宇宙戦闘艇「ネオ・ストーミーガンナー」の実戦投入を決定した。使命はソレイユの攻略と、惑星ゾンデにあるというギルセン軍中枢・コスモゾーンの壊滅。「オペレーション・スーパーレイドック」始動! ミッションストライカー、出撃せよ!!

 コナミの「グラディウス」シリーズ、コンパイルの「アレスタ」シリーズと並んでMSXを代表するSTGシリーズがT&Eの「レイドック」シリーズでしょう。MSX2の登場約半年後に発売された初回作「レイドック」は、MSX2の特徴であるスムーズスクロールを呼び物とし、大いに話題となりました。ただし作品はハードのデモンストレーションとしての性格が強く、作りの粗さや練り込みの甘さが目に付くことも確かでした。
 「スーパーレイドック」はその続編にあたる作品です。2ではないただのMSX用ソフトながら、大幅なグレードアップが図られました。スクロールこそ8ドット単位ながら、作りの丁寧さと練り込まれた内容はMSX2ソフトである前作を遙かに凌駕します。シリーズの醍醐味である二人協力プレイの楽しさもしっかり実現。完成度はシリーズ随一、「スーパー」の看板に偽りなしです。
 「1ドットのエクスタシー」の「レイドック」。MSX2+の多彩なスクロールを見せつけた最終作「レイドック2」。そこには新しいハードに果敢に挑戦し続けたT&Eのパイオニア精神がうかがえます。レイドックシリーズがハードの能力を見せる作品ならば、「スーパーレイドック」が見せるのはMSXの底力です。


24:「アシュギーネ 虚空の牙城」〜1987年・パナソフト(開発T&Eソフト)MSX2以降・2M ROM

アシュギーネ虚空の牙城タイトル画面 山岳地帯 仇敵バヌーティラカス

 惑星ネペンテスでは、永年にわたりグール人とエリトリア人が争っていた。そこにバヌーティラカス率いるアズムラル人が参戦し、星はさらなる災いに見舞われる。グール師団長ギーとエリトリア王族の娘ネシュアは、アズムラルの非道を嫌い逃亡生活を送っていたが、ついに見つかりバヌーティラカスに惨殺されてしまう。ギーとネシュアは子をもうけていた。二人の子アシュギーネは惑星の地下遺跡で惑星生命体ヴィと接触、災いをなす殺戮者バヌーティラカスを討てと力を授かる。アシュギーネは伝説の聖戦士となり、仇敵バヌーティラカスが待つギゼマール城へと旅立つ。

 松下電器はソニーと並んでMSXを支えた存在です。特に1986年、日本での「パナソニック」ブランド一号機として発売されたFS-A1は、間違いなくMSX史上に残る大事件でした。定価3万円を切るMSX2の出現は、それまで高価で手を出しづらかったMSX2を爆発的に普及させ、同期に登場したメガロムとともにMSXに新たな展開をもたらします。そのA1といっしょに登場したのがイメージキャラクター「アシュギーネ」です。
 緑の肌、爬虫類のような尻尾、剣闘士のような剣とプロテクター。あまりに奇抜で親しみやすさとは無縁のデザインに、当時のユーザーは「ビミョー」なものを覚えましたが、ともあれパナソニックのMSXを盛り上げるため、彼を主役としたゲームが3本作られました。その多くは彼同様ビミョーなものでしたが、この「虚空の牙城」だけは抜群の出来で、アシュギーネの面目を立てています。制作はMSXを知りつくしたT&E。同社の高い技術力とゲームデザインが光ります。パナアミューズメントカートリッジ(略称PAC)によるデータ交換もユニークです。
 MSX2普及のきっかけとなったFS-A1と日本におけるパナソニックブランドは、なんだかんだいったってアシュギーネとともに始まりました。そしてA1の名称は最後のMSX、FS-A1GTまで引き継がれ、「パナソニック」は松下電器の新社名となり現在に至るのです。


25:「F-nano2」〜1994年・Xray・MSX turboR・2DDx1

F-nano2タイトル画面 機体選択 驚異の疑似3D表示

 人類が宇宙進出を果たしてから数千年。繁栄を続け爛熟しきった人類社会には倦怠感が漂っていた。これを払拭すべく政府が採った政策のひとつが「F-nano」の創始である。「F-nano」とはかつてのカーレースに着想を得た、過激なマシンレースだ。レースは完璧にショウアップされて中継され、眉目秀麗・容姿端麗なパイロットたちはアイドルとして絶大な人気を博している。鬱積した民衆の欲求のはけ口として、F-nanoは社会に欠かせないものとなっていた。この「F-nano2」は、F-nanoトップリーグで争う4チームにスポットを当て、その熱い戦いの一部を完全に再現したものである。

 90年代中期、ハードメーカーもソフトハウスもことごとく撤退し専門誌も休刊、市場的に末期を迎えたMSX界を支えたのは同人制作者でした。インターネットが普及していなかった当時、同人制作者は主に即売会イベントや通販等で作品を頒布していましたが、「ソフトベンダーTAKERU」でも、この頃には盛んにMSX同人ソフトを扱っていたものでした。TAKERUはブラザーが開発したソフトウェア自動販売機です。MSX滅亡のみぎり、TAKERUがMSX界を盛り上げていた時期は確かに存在しました。
 「F-nano2」はTAKERUで頒布された同人ソフトの代表的作品です。内容はタイトルどおり名作「F-ZERO」風疑似3Dレースゲーム。ただし拡大縮小機能のないMSX turboRでF-ZERO風の拡縮3D表示をするために、1画面内に複数のスクリーンモードを混在させるという離れ業をやってのけています。技術力に裏打ちされたスピード感やプレイ感覚は極めて良好。接続ケーブルを自作してturbo Rどうしをつなげれば4人同時プレイも可能です。アイディアこそ「F-ZERO」の借用ながら、プロアマ問わずただでさえ数が少ないturbo R専用ソフトでも、その性能をよく活かした作品として屈指のものです。
 90年代のMSX界は同人の時代でした。中には玄人はだしのソフトやハードを作るデベロッパーもありました。彼ら同人制作者の存在が、衰退後のMSX界を牽引していくこととなります。


 さて、「レイドック」「ハイドライドII」等、歴史的意義は無視できないもののゲームとして現在遊ぶとなると厳しいものは泣く泣く割愛しました。それと「イースII」「ヴァリスII」等々、出来はよいものの、MSXならではというものでもない作品も割愛してます。また、自分がそれなりに触れて知っている作品でないと語れないため、所持していない作品や、遊んだことのない作品はあえて入れていません。「エッガーランド」「アイスワールド」「死霊戦線」等々も名作という評判は聞いているのですが...
 ともあれ、この20選は飽くまで荒井が選んだものです。人によって「何でこのゲームがないの!」「このゲームが入ってるのはおかしい。」等々の意見があることでしょう。みなさま方のご意見などお聞かせ願えるとさいわいです。

2016年1月 選者・本名荒井

文頭に戻る目次に戻るトップページに戻るおまけを見る