ファルコムショップで扱っていたものはゲームソフト、書籍、音楽CD、映像ソフト、文具、小物などです。小物も当初はゲームのロゴやエムブレムが入ったステッカーだの下敷きだの、まさにノベルティといった品が多かったのですが、時代が下るにつれて種類が増え、ゲームの登場人物をプリントしたものが増えています。
全部紹介するのは無理なので、変わったものだけ取り上げます(括弧内の価格は全て税別)。
88年当時の日本ファルコムのイメージキャラクターがプリントされた缶バッヂです。キャラクターグッズでは比較的初期のものにあたります。落書きのようなイメージキャラを起用したあたりに、キャラ萌えとはほど遠い当時の社風がうかがえるものです。
裏 | 表 |
絵はがきです。キャラクターやイメージイラストがプリントされているのですが、果たしてこれをはがきとして使うつもりで買った人がどの程度いるかは不明です。
電波新聞社もファルコムグッズを作っていました。同社製のグッズには実用品としての変わったこだわりがありました。これはサバイバルキットなのですが、そんなこだわりと遊び心が伝わる一品です。
これも電波新聞社製です。12色の四角い色鉛筆で、並べるとエステリアの地図が出てきます。8色はパソコンのカラーパレット(デジタルRGB出力の8色)に対応しており、ドット絵のデザインに便利という面白い商品でした。
「イースII」のヒロイン、リリアのゴム判です。何に使うのかは不明です。何のために作ったかも不明です。それがキャラクターグッズというものです。
ゲームキャラクターの組み立てガレージキットです。原型制作は岡山フィギュアエンジニアリング。「イース」「英雄伝説」を中心に十数種類が出ていました。現在なら塗装済みの完成品を売るところですが、当時そうした完成品フィギュアは一般的ではありませんでした。
「ぽっぷるメイル」の怪獣ガウを模したビーチボールです。元ネタはイラストかと思われます。着眼点が面白い商品です。イラスト同様、若い女の子が浜辺に持ち出して遊ぶようなことがあったかどうかは不明です。
元ネタ
ゲームのロゴやエムブレムがプリントされたTシャツです。各種ありましたが、変わったものには固形石鹸のように四角く圧縮して固めたものがあります。中にはゲームのイメージイラストがプリントされたTシャツまでありました。ピョン吉代わりにフィーナやリリアがいるというわけですが、人前で着るには相当度胸がいりそうです。
ファルコムショップで扱っていた商品では、最も高い部類のものです。日本ファルコムの社員が本当にこれを着て仕事をしていたかどうかは分かりません。さておき、ファンにとっては高嶺の花ということもあり、憧れのアイテムだったようです。ファルコムショップでスタジャンを買えば、それだけでファンに自慢できました。
「ミス・リリアコンテスト」開催告知広告(90年初頭)
90年は日本ファルコムにとって転機だったのかもしれません。新作は「ダイナソア」(90/12)が一本発売されたきりですが、それに比べてゲーム以外の充実ぶりが目立ってきました。3月には「ファルコムフェスティバル」が開催され、杉本理恵さんが「ミスリリア」に選ばれています。キャラクター中心のメディアミックス展開は全盛期を迎えます。
ゲーム性よりも世界観を売りにする路線には、少なからず疑問を感じる向きもあったのですが、黄金期の記憶が頭の片隅に残っていたためか、「日本ファルコムはまた何かしてくれるのではないか?」という期待を捨てられずにいましたし、自分が好きなキャラクターをもっと見たいと願うファンも多かったのです。
それとは裏腹に、日本ファルコムには陰りが見え始めていました。
まず「ワンダラーズ」と前後するスタッフ大量離脱により、作品が小粒になっていました。「ロードモナーク」(91/3)「ブランディッシュ」(91/10)といった斬新な作品も生まれていますが、「ザナドゥ」「イース」に代わりうるヒット作とはなりませんでした。新規タイトルは「ぽっぷるメイル」(91/12)を最後に姿を消します。以降発売されるのは続編と移植版だけになりましたが、その多くは既存タイトルのマイナーチェンジにとどまっています。
主力であったパソコンゲーム市場とPCエンジン市場が失速していったことも大きかったようです。ファンの多くは、旧来のパソコンユーザーか、移植版に恵まれたPCエンジンユーザーです。ファンの間では今なお評価が高い「英雄伝説III」(93/12)「風の伝説ザナドゥ」(94/2)が出たのはそれぞれPC98とPCエンジンでした。確かにどちらも相当に評価されたのですが、先細りしていたハードで出たせいか、「ザナドゥ」「イース」程の広がりは生まれなかったのです(注2)。
これら問題に有効な対策を講じなかったこともどうかと思います。メディアミックス展開に走るあまり、日本ファルコムは本業のゲーム作りがおろそかになっていたのです。
決定的だったのはリニューアル路線でしょう。94年12月の「英雄伝説IIIリニューアル」(94/12)を皮切りに既存タイトルのリメイク版を繰り返し作り続け、黄金期に築いたブランドイメージを失墜させたのです(注3)。
「英雄伝説IIIリニューアル」パンフレット(95年)
日本ファルコムはゲーム作りを強化するでもなく、とうとうネタが切れると縮小再生産を繰り返しました。黄金期を知る多くのファンにとって、この変容は没落以外の何物でもなかったのです。
キャラクターはゲームが魅力的だからこそ輝くものです。新しい魅力が提供できなければ、既存のものはただ陳腐化するだけです。日本ファルコムがリニューアル路線を進めるにともない、メディアミックス展開は勢いを失いました。そしてメディアミックス展開の申し子たるファルコムショップも、それと運命を共にするのです。
そして98年3月。インターネット通販が普及したこともあり、代々木ファルコムショップは約8年におよぶ営業を終了したのでした。「ファルコムクラシックス」特典ムービー収録のため、声優飯塚雅弓嬢が来店した翌年のことでした。
現在でもファルコムショップの復活を望むファンは多いのですが、果たして今の段階で復活させてもどうなるかは疑問です。
同じような試みとして、今は亡きコンパイルの「ぷよまん本舗」がありました。「ぷよぷよ」の大ヒットを受けて大いに栄えましたが、コンパイルがソフトハウスとしてコケたおかげで命脈を絶たれます。日本ファルコムも推して知るべしでしょう。
ソフトハウスの本分は、飽くまで面白いゲームを作ることです。ゲームや世界観の魅力を深めるためのメディアミックス展開は、先述の通り、魅力的なゲームを提供し続けることが大前提です。それができない状態でのメディアミックス展開は、逆にせっかくのゲームや世界観を食いつぶす格好となり、かえって破滅をもたらしかねないのです。
今後もしファルコムショップが復活するのであれば、そのときには、店内はグッズはもちろん、ゲーム好きを納得させるような新作で溢れていることを切に願います。
和議申請前年のぷよまん本舗(97年)
現在ファルコムショップ跡地は改装され、居食屋「和民」(代々木駅前店)となっています。ファルコムショップの名残は一つもありません。ただ、いつだったか、往時を偲ぶファン有志が件の「和民」に集まり、オフ会を開いたと伝え聞いています。
和民代々木駅前店
注2:「英雄伝説III」「風の伝説ザナドゥ」どちらも続編タイトルなのだが、実質的には新規タイトルと見てよい。
注3:94年になると、黄金期を支えたスタッフのほとんどが会社を離れていた。また大規模な求人広告も多かった。「リニューアル」は、離脱したスタッフの代わりに入社した新人が研修代わりに作っていたのではないかと荒井は思うのだが、裏は取ってない。