「イースIV 樹海に沈みし魔宮 下巻」

 ゲームではSFC版とPCE版とでまるきり内容が違っていた「イースIV」ですが、作者大場惑氏はSFC版を基本にPCE版を参考にする形で小説化しています。SFC版の方が日本ファルコムの原案ストーリーにより忠実だったからと「上巻」のあとがきに描いています。
 SFC版のストーリーは、シナリオでヒロインの扱いや、リーザとエルディールの描写こそPCエンジン版より抜き出ていましたが、それ以外の部分は締まりなく安直さが目立つものでした。さすがに作者もそれに気付いていたのか、この小説版ではPCエンジン版の要素を適宜採り入れることと、物語構成をゲームと変えることで、SFC版の締まりのなさをなくすることに成功しています。
 ゲームになぞらえて「樹海に沈みし魔宮」の小説を分けるとすれば、セルセタの災厄と謎が提示される序盤(プロローグ〜三章)、三つの宝珠集めと共に謎が解明されていく中盤(四章〜六章)、古代都市を舞台に全てが収束する終盤(七章〜エピローグ)の三つに分けてよいと思います。
 PCエンジン版を参考にした部分はセルセタ古代史、闇の一族と五忠臣の扱い、そしてロムン部隊の描写です。このあたりはPCエンジン版が特に力を入れていた部分で、またSFC版では弱くなっている部分でもありました。特にゲームでは十分に描かれなかった闇の一族の過去とその内面の描写は、物語に厚みを与えています。
 かくして小説版はSFC版とPCエンジン版のすぐれたところをより合わせた形になっており、「イースIV」としてはゲーム以上に出来がよいといってよいでしょう。


基本データ

ログアウト冒険文庫「イースIV 樹海に沈みし魔宮 下巻」

表紙
  • 発行:1994年9月21日
  • 発行所:アスペクト
  • 著者:大場惑(おおばわく)
  • イラスト:池上明子
  • 定価:670円(税別)
  • ISBN4-89366-268-6

第五章 懐かしの地エステリアへ

酒場に現れたドギ

1・もうひとりの冒険者

 かつてアドルを助けた盗賊ドギは2年ぶりにエステリアを訪れた。エステリアにはロムン部隊が進駐し、住人はふてくされていた。セルセタでのアドルの活躍は、フレアから皆に伝わっており、ドギもそれを耳にする。

2・恋の使者

 ドギはリリアにアドルがセルセタにいると伝えに行った。リリアはバルバドの医者ブルドーの元で見習い看護婦として働いていた。リリアは前と変わらずアドルを想っていた。ドギはセルセタからアドルを連れてくると約束する。
 ブルドーはリリアに里帰り休暇を与えた。リリアは恋愛成就のお守りという青い珠を持っており、願いが叶ったと感謝する。

注:「月の瞳」がエステリアに渡った理由や、それをリリアが持っている理由については詳しく書かれていない。

3・ミネアの港

 アドルも2年ぶりにエステリアを訪れた。「ノートンの酒場」でゴーバンと再会し、ドギもエステリアに来ていることを知る。ゴーバンは盗賊から足を洗い萬屋を開いていた。アドルはゴーバンから「魔法の翼」と魔力を失った珠をもらう。

注:酒場の名前が「ノートンの酒場」となっている。作者が以前手がけた小説版「イース」ではゲームとほぼ同じ「オーマンの居酒屋」だったのだが入れ替わっている。ノートンはプロマロックの人足頭。一章5節に「冒険行のきっかけを作ってくれた、荷役夫のノートン」とあることと、五章1節に「ミネアにただ一軒のその酒場」とあることから考えて、作者がノートンとオーマンを混同して間違えたのだろう。

見習い看護婦リリア

4・バミー動く

 ロムン部隊はゼピック村で家宅捜索を進めていたが「月の瞳」は見つからない。バミーは独自にアドルについて調査し、リリアの存在を知る。バミーはリリアを利用してアドルを陥れようと企む。バミーはリリアを口車に乗せ、セルセタに送り込んでしまった。

注:ゼピック村の家捜しをしたはずなのだが、「バノアの家」「ジラの屋敷」など、なぜかランスの村の住人の名前が出てくる。

5・「月の瞳」の行方

 アドルはサラの館を訪ね、「月の瞳」の在処を占ってもらう。サラは「月の瞳」は若い女とともに海の上にあり、早くしないとその娘は罠に落ちると告げた。
 神殿ではロムン部隊が捜索を続けていた。アドルはゴーバンから貰った珠を「月の瞳」の偽物に仕立て上げる。

注:ゲーム中ではサラは殺されているが、「イースIV」と作者の小説版では、生存していることになっている。

6・ふたつの国を結ぶもの

 アドルはルタと再会する。ルタは「月の瞳」の事は知らなかった。そのかわりイース古代史研究の成果を語り出した。イースの女神ことフィーナとレアは有翼人の子供で、六人の神官および父サルモンとともにセルセタからエステリアに渡ってきたというのだ。イース建国の源流には、有翼人の文明が関与していたのだ。
 アドルがルタに「大地の瞳」と「太陽の瞳」を見せると、これと似たものをバノアの家で見たという。ランスの村のバノアの家に急行したがそこにも「月の瞳」はなかった。リリアが持っている恋愛成就のお守りこそ「月の瞳」だったのだ。アドルは偽物をバノアに託すと、リリアが勤めるブルドー医院に向かった。

注:フィーナとレアはサルモンと有翼人の子供だが、生まれつき羽根がなかったため有翼人の社会を追われ、エステリアに渡ってきたということになっている。サルモンは「グローバルガイドブック」参照のこと。ただし「グローバルガイドブック」にはサルモンが女神の父であるという記述はない。作者も認めるとおり、ここに現れる古代史は、PCE版とSFC版を折衷した上で作者独自の見解を盛り込んでいる。

7・すれ違い

 ドギはバルバドにリリアがいないことを知る。居場所を教えたばかりにアドルを追っていったのではないかと責任を感じ、リリアを連れ戻すためセルセタへ向かった。
 アドルはブルドーに会い、リリアおよびドギとすれ違ったことを知る。リリアはドギと共にセルセタに渡ったものと思い、自らも引き返すことにした。
 レオはそれとは知らずに偽物の「月の瞳」を手に入れ、意気揚々としていた。バミーはレオから偽の宝珠を奪うとセルセタに引き揚げていった。

8・ふたたびセルセタへ

 セルセタへの出航間際にタルフが現れ、アドルにフレアから預かってきた万能薬エリクサーを渡した。


第六章 城攻め

1・リリアの行方

 プロマロックで聞き込みをした結果、リリアは単身セルセタに向かったらしい。急いで後を追うアドルの元にレムノスが迎えに来た。そしてカーナが有志とともに聖域の城を攻めようとしていることを伝える。

2・掠奪

 カーナ達はすでに出陣していた。リリアはリブロットに保護されていたが、バミーに連れ去られていた。アドルは攻城作戦に参加すべく「魔法の翼」でカーナを追った。

3・戦闘態勢

 リリアは聖域の城に監禁された。バミーは宝珠をエルディールに差し出すが、偽物であることが判明し地団駄を踏む。仕返しにリリアを利用してアドルを罠にはめようとする。
 エルディールは攻城部隊が近づいているのを察知し、三人組をはじめとする闇の一族を戦闘に備えさせた。

4・反目

 攻城部隊はラパロで足止めを食っていた。有翼人に刃を向けるということで作戦に反対していたラパロの村も、交渉の末ようやく攻城作戦に賛意を示す。
 収まらなかったのはリーザだった。エルディールを追いつめることだけはしたくない。ただ一人部隊の前に立ちはだかり道をふさいだが、カーナに強引に押し切られる。
 そこにアドルも到着した。リーザはエルディールの心を信じていた。彼の身を救うようアドルに嘆願し、聖域の雷を避ける護符をアドルに託す。

5・侵入

 護符のおかげで部隊は城に近づいていた。アドルは城内から門を開け、主力部隊が踏み込む作戦を提案し、自ら門を開ける役目を買って出る。部隊にはロドリゴも参加していた。ロドリゴはかつてアドルを見殺しにしたことをわびた。
 アドルはロドリゴと共に城に潜入した。城では闇の一族の大軍が待ちかまえていたが、アドル達は敵を退け、開門に成功する。

6・煙幕

 ロドリゴの放った火は城中に燃え移っていった。激しい戦いの中、アドルはリリアを探して煙の中を進んだ。城には捕らえられた人々が多数監禁されていた。
 その中にはリリアもいたが、再会を喜ぶアドルと裏腹に、短剣でアドルを刺してきた。バミーが幻術でリリアを操っていたのだ。仕返しが成功したのを見届けると、バミーは再びリリアをさらって去ってしまった。しかしアドルはそこでリリアが置き忘れた「月の瞳」を発見する。
 アドルは脱出路を求めてさまよううちに、城の小屋に迷い込む。

7・武器庫

 やがて戦闘は攻城部隊が優勢になっていった。形勢逆転すべく、グルーダは古代文明の武器がある武器庫を目指した。
 アドルが迷い込んだのはその武器庫だった。アドルは古代文明の強力な火砲で、武器庫もろとも古代文明の武器を粉砕した。

8・戦いすんで……

 戦いは攻城部隊の大勝利に終わった。エルディールと三人組は城を放棄して逃げた。ラパロではリーザが姿を消していた。宝珠を三つ揃えたアドルはガザールへと向かうことにした。

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