「ザナドゥ」(1985/11・日本ファルコム)

ザナドゥタイトル画面

 伝説の王クーブラ・カーンが建国したザナドゥ王国に危機が迫る。キングドラゴン「ガルシス」が復活し、王国の地下都市の廃墟を占領したのだ。
 伝説では、300年に一度、三つの星の光が交わる時、救世主が現れガルシスを打ち砕くという。時は満ち、地下都市に打倒ガルシスの戦士が送り込まれた。戦士は伝説の聖剣「ドラゴンスレイヤー」を捜しだし、見事ガルシスを討ち果たせるか?

 「ドラスレ」の大ヒットを受け、プログラマーの木屋善夫氏は次なる作品を世に送ることになりました。それが日本パソコンゲーム史上最大のヒット作と呼ばれる伝説的作品「ザナドゥ」です。
 こちらも「ドラスレ」同様の壮大な物語があるのですが、後付的なものでして、取説には一切出てこず、ゲーム本編とはあんまり関係がありません。「ドラゴンスレイヤーII」の副題こそ付いてますが、「木屋善夫の作品第二弾」(注4)程度の意味ですので、「ドラスレ」の続きというわけでもありません(注5)。「ドラスレ」との共通点は「キャラクターを鍛えて迷宮を探索し竜を退治する」というゲームの概要ぐらいです。もっとも、木屋氏の作風でもある「何でもあり感」が顕著に現れた作品という意味では、明らかに「ドラスレ」に通じるものがあります。

フィールドマップ・レベル7探索中 スケルトンとの戦闘
巨大な迷宮を探索し、魔物を倒して自らを鍛える。「この迷宮に何が潜むのか?」 「ザナドゥ」には底なしの奥深ささえ感じたものだ。

 本作は王城の前から冒険が始まります。王様に謁見して賜った軍資金を元手に、城下町の道場で自らを鍛えます。道場には攻撃力、敏捷性といった戦闘に関わる能力を鍛えるものから魔法の威力に関わるもの、果ては買い物時の値引率に関わる魅力などなど多岐にわたります。つまり迷宮に入る前にキャラクターメイキングをしなければならないわけでして、ここで決めた属性値によって、冒険のやり方も大きく変わってきます。
 キャラクターを作ったら、さっそくガルシスが待つ迷宮に突入です。迷宮は全部で10面あり、各面は洞窟でつながっています。迷宮内は魔物の巣になってまして、これを倒しながら経験値を上げていくことになります。経験値には剣の経験値と魔法経験値の二種類がありまして、剣で敵を倒せば剣の経験値が、魔法で敵を倒せば魔法経験値が得られます。武器やアイテムにも経験値がありまして、(上限こそあるが)使い込むほど威力が上がります。

魅力道場のお姉さん アイテムショップの女の子
魅力道場とアイテムショップ。ゲームを左右する属性値の数々と多彩なアイテムも「ザナドゥ」の大きな魅力。画像はMSX版。

 ところが「ザナドゥ」では、出現する敵の数には限りがありまして、得られる経験値にも上限があります。何も考えずに敵を倒していると、最悪手詰まりに陥ります。ここが本作の味噌でして、プレイヤーは剣と魔法のバランスを考えながら、キャラクターを育てていかなければなりません。武器を鍛える場合も同じでして、特に終盤に決戦兵器ドラゴンスレイヤーを手に入れることを見越して、敵や鍛錬用アイテムを残しておくといった戦略も必要になってきます。限られた経験値とお金でいかにキャラクターを育てるか。難易度は非常に高いのですが、丁寧な攻略を心がければ決して解けないものではなく、工夫しながらキャラクターを育てる楽しさ、攻略する楽しさが存分に盛り込まれています。
 こうして迷宮内を巡り自らを鍛え、四つの王冠と聖剣ドラゴンスレイヤーを手に入れ、ガルシスを倒せばゲームクリアとなります。

カーティケヤ戦
「塔」の最深部にて強敵カーティケヤと遭遇。強大なボス敵「デカキャラ」はその後のARPGの伝統となった。

 「ザナドゥ」は、当時木屋氏が目指したCRPGの完成型でした。一番の特徴は、広大なマップに膨大な種類の魔物、属性値、武器、魔法、アイテムなどなど、それまでのゲームにはない規模の情報量とグラフィックで、ゲーム世界が描き出されたことです。圧倒的なデータ量を誇りながらARPGならではの遊びやすさは健在で、フィールドの移動はもちろん、戦闘は完全なアクションゲームとなっています。
 特に要所を守る強敵とは、ザコ敵とは異なる横視点アクションゲーム式戦闘で決着を付けることになります。ザコ敵の数倍の大きさのドット絵で描かれた強敵は「デカキャラ」と呼ばれ、プレイヤーの度肝を抜きました。今でこそARPGではあたりまえとなった、巨大なボス敵とのタイマン勝負の源流はここにあります。

ステータス表示中 各アイテム経験値表示中
多くの数字が表示されるステータス画面とアイテム経験値一覧。ある意味「ザナドゥ」の象徴。

 「ザナドゥ」はARPGならではの取っつきの良さを備えつつ、CRPGの醍醐味である探索やキャラクター育成が本格的に味わえる作品でした。また、遊び応えのある高い難易度もプレイヤーの挑戦心を煽りました。多くのプレイヤーがその濃密な剣と魔法の世界の虜になり、当時のPCソフトでは異例の40万本もの販売記録を叩きだしています。
 「ドラゴンスレイヤー」「ザナドゥ」と、立て続けに二本のARPGを大ヒットさせたことで、日本ファルコムはT&Eソフトと並ぶ「日本CRPGの老舗」として、その地位を固めます。日本ファルコムは良質なCRPGを作るソフトハウスとして認知され、以降、それに応えるように様々なCRPGを生み出すことになるのです。

 ただし「ザナドゥ」の大ヒットは、一方で負の影響を及ぼします。制作技術の成熟も手伝って、その後日本のCRPGは「ザナドゥ」に追いつき追い越せとばかりに、大規模化・難易度激化を目指すようになったのです。
 この風潮を端的に示す作品が、次に紹介する二本です。


「ハイドライドII Shine of Darkness」(1985/12・T&Eソフト)

ハイドライドIIタイトル画面

 ジムの活躍によって平和を取り戻したフェアリーランド。それから時が経った頃、フェアリーランドの地下で邪悪な「意識」が目を覚ました。「意識」は地下に怪物の世界を作り上げ、さらに地上に手を伸ばしてきた。地下の異変に気付いた修道僧たちは、人々にフェアリーランドの危機を説いたが、平和に酔い痴れる人々は誰も耳を貸そうとしなかった。
 救世主を求める修道僧の願いは神に届いた。神は時空をねじ曲げ、人間の世界から救世主として、まだ心の汚れていない少年をフェアリーランドに遣わしたのだ。

 「ハイドライドII」は「ハイドライド」の好評を受け、続編希望というユーザーの声に後押しされる形で作られました。プレイヤーは主人公の少年になりかわり、フェアリーランドの地下に潜む邪悪な「意識」を倒すため、長くつらい冒険の旅に出ます。
 全ての面で前作を上回ることを目標にした本作は、そのとおり、マップの広さは前作の6倍、アイテム数は2倍、属性値も3種類から7種類に増えるなど大規模化しています。また、前作にはなかった街や商店なども設けられ、武器の購入やプレイヤーの鍛錬ができるようになりました。

広くなったフェアリーランド 地下帝国B5F
フェアリーランドから地の底まで。前作より格段に広く手強くなったフィールドがプレイヤーを待つ。

 ゲームシステムは前作を踏襲しているのですが、全ての面で前作を上回ることを目標にした本作では、新しい試みも盛り込まれています。その例として、まずは魔法が使えるようになったこと、次に「会話モード」が設けられたこと、そして新たに「FORTH」なる属性値が設けられたことの三つが挙げられます。
 魔法は本作の新要素です。攻撃、探索、回復など全部で14種類の魔法が用意され、プレイヤーはこれら魔法を使いながら冒険を進めていきます。中でも重要なのは探索魔法「SEARCH」です。罠や宝箱など「何かがある場所」を暴きだすというもので、これなくして本作の自力クリアはまず不可能です。また、魔法を使わないと手に入れられないアイテムなどもあったりしますので、クリアには魔法の習得が必要不可欠になっています(注6)。

SEARCHスペル使用中
「SEARCH」使用中。唱えると「何かがある場所」が点滅する。本作では非常に頼れる存在だ。

 現在のARPGではあたりまえとなった「会話モード」は、住人に体当たりすることで会話ができ、情報が得られるというものです。もちろん現在に比べればテキストはごく限られたものですが、それでも当時は非常に珍しく、画期的なことでした。もちろん会話が可能なCRPGは「ハイドライドII」以前にも多数存在しましたが、「ハイドライドII」はARPGに会話を盛り込んだごく初期の作品にあたります。
 属性値「FORTH」は本作の新機軸で、プレイヤーの心の状態を表します。おそらくは「スター・ウォーズ」の「理力」(FORCE)を綴り間違えたものでないかと思うのですが、生命力・攻撃力・経験値に続く「四番目の属性値」という意味も捨て切れません(注7)。さておき、この数値が低いと悪人と見なされ、人々は見下して相手にもしてくれません。この数値が高いと善人として人々が友好的に接してくれるばかりか、邪悪な「意識」に対抗できるようになります。攻撃してこない住人や怪物を倒すとFORTHは下がり、逆に邪悪な怪物を倒すと上昇します。

STRをかけたボクシングゲーム グールと会話中
ボクシングゲームで攻撃力を高めたり会話モードで情報を得たりと、前作にはない試みが数々盛り込まれている。右の画像は88版。

 このように、本作は前作をはるかに越える規模の作品となりましたが、一方で謎解きもさらに難解なものとなり、特にゲームクリアに必要なアイテムの入手方法を示すテキストが入れ忘れられるという手違い(注8)もあって、難易度も前作以上となっていました。


「ロマンシア」(1986/10・日本ファルコム)

ロマンシアタイトル画面

 遙か遠い昔。兄弟である二人の王が治めるロマンシアとアゾルバという国があり、平和な日々を送っていた。しかしある日ロマンシア王国のセリナ姫がアゾルバ王国の方へと連れ去られたのをきっかけに、ロマンシアに様々な異変が起こり始めた。
 その頃、ロマンシアにファン=フレディという異国の王子がやってきた。王国の異変を察したファン=フレディ王子は、セリナ姫を救出すべく冒険の旅に出るのだ。

 もう一本、「ロマンシア」は「ドラゴンスレイヤー」シリーズの三作目ですが、厳密にはARPGではありません。経験値はありませんし、成長要素も皆無です。ARPG風のゲームシステムを使った謎解きゲームと言った方が的確でしょうか。プレイヤーはファン=フレディ王子を操り、異変の原因を求めロマンシアとアゾルバ、そして天界や地下世界を巡っていきます。
 本作は「ザナドゥ」とはうってかわって、非常に明るい雰囲気のグラフィック、都築和彦氏が描くかわいいイメージイラスト、そして「ドラゴンスレイヤーJr.」の副題など、外見はライトゲーマーに訴えるようなものになっています。特にセリナ姫やファン=フレディ王子といった主役級の登場人物にイメージイラストが与えられ、後に日本ファルコムが力を入れることになる、キャラクター色の強い作品の先駆けとなっています。
 ゲームの規模もディスク1枚、しかも一度ロードすればその後はディスクアクセスなしというほどで、ディスク3枚組で頻繁にアクセスを繰り返す「ザナドゥ」に比べ、かなり小型軽量に収まっています。

大地主の娘を助けてカルマ稼ぎ セリナ姫モード
見た目こそかわいらしい「ロマンシア」。しかしその実態は...

 しかし、この作品最大の特徴はなんといってもその難易度です。本作では全ての謎に手がかりがない上、途中セーブもできません。コンティニューこそ可能ですが、失敗するとアイテムを失う恐れがあるという仕様です。一度手順を間違えたら即手詰まりということはあたりまえ。にもかからわらず、手詰まりになったかどうかを確かめる手だてもありません。

セリナ姫救出成功
なんとかセリナ姫を救出。解法を知っていてもここまでたどり着くのは一苦労。これでまだ半分だ!

 見た目のかわいらしさとは裏腹に、本作は「ザナドゥ」を遙かに超える凶悪な難易度を誇り、その外見につられて気楽にゲームを始めたのはいいけれど、解けずにお手上げになるユーザーが続出しました。そして今なおゲーム史上一、二位を争う難易度を誇る作品となっておりまして、その凶悪さでは希代の「クソゲー」、「たけしの挑戦状」(1986/12・タイトー)と同等のものがあります。後年アンバランス社からWindows用にリメイク版が出た時は、さすがにセーブが可能になったりヒントが用意されたりと、難易度の低下が計られました。


上司に辞表を叩きつける
ご存じ「たけしの挑戦状」。「挑戦状」とはよく言ったもの。


 「ハイドライドII」と「ロマンシア」。確かにどちらも当時最高水準の技術力でもって作られた作品ですが、今の基準からすれば、ゲーム内容はどちらも陰険で理不尽極まりなく、駄作と見なされておかしくない内容です。にもかかわらず、当時は大評判で「面白い!最高!」と称賛する声さえあったのです。それはなぜだったのでしょうか?

 理不尽な謎解きを盛り込んだ「ハイドライド」と、圧倒的なスケールを誇る「ザナドゥ」の大ヒット。それは日本CRPG界に、ある誤解を招くこととなります。「難しければ難しいほど面白い」「スケールが大きいほど面白い」。
 本来難易度やスケールはゲーム本来の面白さとはまた異なるものなのですが、そうした難しさやスケールを備えた作品が大ヒットしたことにより、それが等質なものと見なされるようになってしまったのです。

 また、「たけしの挑戦状」の題名が端的に示すように、当時の作品群には制作者からの「挑戦状」という性格がありました。制作者は解けるなら解いてみなと言わんばかりに難しいゲームを作り、さらにそれを解いたプレイヤーのため、さらにやり応えのある―もっと解きづらい―ゲームを提供するという側面が、当時の作品には少なからずあったのです。
 もともと「ハイドライドII」は、「ハイドライド」ファンの要望を受けて作られた作品です。「ハイドライド」を解いたプレイヤーが遊ぶことを前提としていますので、大規模化はもちろん、難易度の上昇も必然の流れではありました。日本ファルコムも、「ザナドゥ」を解いたプレイヤー向けに、さらに難易度を上げた「ザナドゥシナリオII」(1986/10・日本ファルコム)を発売しています。「ロマンシア」は、難しいゲームを求める当時の風潮に即応する形で登場したのです。

レッドクリスタルを手に入れろ 地上と天界を行ったり来たり
「こんなん判るか!」 プレイヤーも制作者も難易度を求めた時代があったのだ。

 難しい作品に慣れたプレイヤーは、さらにやり応えのある作品を求めます。制作者も前作を上回れとばかりに、さらにやり応えのある作品を提供します。こんなことを繰り返し、こうして当時のCRPG界は、難易度とスケールのインフレ状態に陥ったのです。
 「ハイドライドII」発売時、内藤氏は当時ゲーム評論の第一人者だった山下章氏に挑戦状を送ったそうです。また、当時はゲームを解いたプレイヤーにソフトハウスが「終了認定証」を発行するというサービスが盛んでした。当時のCRPGがどういうものだったかをよく表す逸話です。

 中でも「ロマンシア」は難易度至上主義の極北で、一見万人向けでありながら、極めてプレイヤーを選ぶ作品でした。日本ファルコムの知名度と外見のおかげで、当時はそれなりに高い評価を得たのですが、一方で「これは行き過ぎだ」「本当にそれが面白いのか?」と批判されたことも確かでした。そして「ロマンシア」への反省が「イース」につながっていくのですが、それは難易度の高さとスケールの大きさを至上とする、当時の風潮に対する問題提起でもあったのです。


「アステカII 太陽の神殿」(1986/10・日本ファルコム)

太陽の神殿タイトル画面

 古代、マヤ文明の神官たちは「太陽の鍵」の力で、自由に神々に会うことができたという。鍵は「太陽の神殿」に安置されていたというが、今となってはその行方も定かでない。主人公は「太陽の鍵」を探す探検家。数々の罠が待ち受ける遺跡の謎を解き明かし、「太陽の鍵」を手にできるだろうか?

 最後に「イース」の祖となる作品、以前も触れた「太陽の神殿」を紹介します。
 もともと日本ファルコムは怪奇物AVGで有名なソフトハウスでして、「CRPGの老舗」と呼ばれる以前には、「デーモンズリング」「異次元からの脱出」「アステカ」といったAVGを数々発表していました。「太陽の神殿」はその系譜に属する作品です。ゲームの内容は、中米の古代マヤ文明遺跡を舞台に、古代文明の秘宝「太陽の鍵」を捜すというものです。

 本作の最大の特徴は、その特殊なゲームシステムです。それまでのAVGは、もっぱら一枚絵で状況を説明し、それに対してどうするかを「LOOK」「GET」「POLISH」など、キーボードから直接入力させるものが主流でした。ところが本作では、ARPG風のゲームシステムとアイコン方式の操作系を採用しているのです。
 プレイヤーはまず俯瞰視点のフィールドマップ画面上を動き回り、遺跡を移動します。建造物に入ると中の様子がグラフィック表示されまして、何をするかをアイコンの中から選びます。こうしたゲームシステムを備えたAVGは当時非常に珍しく、かつ画期的なものでした。
 ところが「CRPGの老舗」と呼ばれるようになると、日本ファルコムはAVGの制作から離れていきます。画期的だったにもかかわらず、同等のゲームシステムを積んだAVGが日本ファルコムから出ることはなく、同社製のAVGはこの「太陽の神殿」が最後となってしまいました(注9)。
 ところがその系譜は形を変えて受け継がれることになります。それが「イース」なのです。

フィールド移動中 遺跡内を探索中
斬新なAVGだった「太陽の神殿」。これを継承する形で「イース」が生まれることになる。

 以前にも述べていますが、「太陽の神殿」はAVGでありながら、「イース」直系の先祖にあたります。そもそも、当時の日本ファルコムには「太陽の神殿」のゲームシステムでARPGが作れないかという発想があったそうで、「イース」はプログラマー橋本昌哉氏をはじめとする「太陽の神殿」スタッフが、ARPGを作りたいと提案したことから制作が始まっています。つまり「イース」はAVG「太陽の神殿」を受け継いだARPGなのです。
 「イース」はARPGでありながら極めてAVG色の強い作品ですが、「イース」がAVGの末裔であることを考えると、それも納得がいきます。CRPGを変えた作品がAVGの末裔だったというのも示唆的です。

 ところで。直系の子孫であるゆえ、「イース」に「太陽の神殿」を元ネタにしたパロディが数々盛り込まれたことは以前述べています。また、パロディで登場した冗談アイテムが、後の「イースIV」にて、知ってか知らずかイース建国に関わる重要アイテムとして再利用されたことも以前述べたとおりです。こうした事情とゲーム史を踏まえれば、「太陽の神殿」こそが「イース・オリジン」になるわけで、その流儀に則れば、「イースIV The Dawn of Ys」や「ナピシュテムの匣」で設けられた設定「エルディーン」とは中米にあって、フィーナとレアは古代マヤ文明の出身だったということになってしまうのですが、冗談はこのぐらいでやめておきます。

 さておき、「太陽の神殿」も当時のゲームの例に漏れず、非常に難易度の高い作品でした。謎解きの手がかりがほとんどないことはもちろん、手順を間違えれば即手詰まりになる仕掛けも満載です(注10)。プレイヤーはああでもないこうでもないと試行錯誤を繰り返し、正解を探し出すことになります。
 それほど難しい作品の直系の子孫が、「優しさ」を売りとする作品になったのは、プログラマー橋本氏が相当なゲーム好きだったことに関係があるようです。
 橋本氏は仕事の合間を縫っては数々のゲームをクリアするほどのゲーム愛好家で、それゆえに、プレイヤーの身になることができました。当時の難しいゲーム群に触れるうち、難しいことやスケールの大きいことが本当に面白いことなのかと疑問を感じ、ならば徹底的にプレイヤーのことを考えた、誰にでも楽しめるゲームを作りたいという思うようになっていました。そこにシナリオ担当の宮崎友好氏が、古代王国の過去を明らかにするという物語構成と「人間性や信頼を大切にするゲーム」という方針を提案し、「イース」最大の枠組みである「優しさ」ができあがったようです。

 発売当時の制作者インタビューを読むと、当時の日本ファルコムでは、若い開発者が何人か集まって「わいわい」言っているうちに、それが一つのプロジェクトとなって作品ができあがるということが多かったのだそうです。
 ゲーム史的には、「イース」は当時の難易度とスケールのインフレを背景に、「CRPGの老舗」の看板の下、「ロマンシア」と「太陽の神殿」を批判的に継承して生まれた作品ということになりますが、実際のところ、その始まりは開発者たちの「こういうゲームで遊びたい。」「だったら自分たちで作ってみよう。」という、素朴で熱心なゲーム談義だったのでしょう。


脚註

注4・厳密には、「ぱのらま島」(1983/12・日本ファルコム)など、「ドラスレ」以前にも木屋氏はゲームをいくつか手がけている。

注5・「ザナドゥファイル」「ファルコムバイブル」といった本にうかがえる背景設定では、「ソーサリアン」(1987/12・日本ファルコム)までの「ドラスレ」シリーズは、全て同一の世界観でつながっている。もっとも、木屋氏は飽くまで新しいゲームシステムを作ることの方に関心があったそうで、特に設定を意識したわけでもない模様。

注6・この魔法要素を盛り込んだ「ハイドライド」が、ファミコン版「ハイドライドスペシャル」。

注7・心の状態を表す属性値は続編「ハイドライド3」にも受け継がれているが、そちらは「Mind Force」の名が与えられている。日本語表記は「精神力」。

注8・山下章氏の「AVG&RPG」収録の内藤氏による「ハイドライドII」制作レポートによれば、押せ押せの日程で発売直前まで制作を続けていた関係で、十分なデバッグができなかったらしい。こうした「入れ忘れ」はT&Eソフト作品ではよく見られたバグで、「ハイドライド3」(1987/12・T&Eソフト)や「サイ・オ・ブレード」(1988・T&Eソフト)でも、アイテムやテキストの入れ忘れがあった。

注9・後にシューティングゲームにAVGの要素を採り入れた「スタートレーダー」(1989/3・日本ファルコム)が出ているが、2006年11月現在、純然たるAVGは「太陽の神殿」以降発売されていない。

注10・「ファルコムクラシックスII」(1998/10・ビクター)収録の「太陽の神殿」では、手詰まりになると即ゲームオーバーになるよう改良され、オリジナルよりも難易度が下がっている。

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