「イースII」のゲームシステム

 「イースII」は「イースI」発売後の約九ヶ月後に発売されています。その間に様々な技術力の向上があったようで、ゲームシステムもそれを反映したものとなっています。具体的には次のような変更があります。


「イースII」の改良点

サルモンの神殿の立体交差
誰もが迷ったサルモンの神殿。立体交差は高度な技術力の裏打ちがあってこそ。

 「イースI」には高度なスクロール技術が盛り込まれていましたが、「イースII」では改良が加えられ、さらに高速なスクロールを実現しています。滑り台や立体交差といった地形のギミック、ファイヤーの魔法といった新要素を盛り込んだ上での高速スクロールですから、「イースI」を相当に上回るスクロール処理ルーチンが組み込まれていることは間違いありません。
 他には、どの方向から住人にぶつかっても話せるようになりました。「イースI」では真正面からぶつからない限り会話できませんでしたので、この仕様変更によって格段に会話しやすくなりました。移動時も地形に引っかからずに動けるようになっており、複雑な地形でもストレスなく移動できるようになっています。

マスク時 マスク解除時
立ち位置によって見える範囲が変わるマスク処理。円形スポット処理より見える範囲は格段に広い。

 また、「イースII」では円形スポット処理が廃止され、かわりにマスク式のスポット処理が採用されています。マスク式スポット処理とは、地形上アドルの死角に当たる部分を隠すというもので、廃坑と地下水路で使われています。スポット処理よりも見える範囲が広くなったおかげで、前作のようにスポット外から突然敵に襲われるということがなくなりました。
 前作のバグも修正されています。「イースI」では、同一アイテムを複数個持てないにもかかわらず、すでに持っているアイテムを購入できるというバグがありました。もちろん買っても数は増えないのでお金の無駄になります。「イースII」ではこのバグが修正され、すでに持っているアイテムは購入できないようになりました。


「イースII」の戦闘システム〜魔法の導入

女神の王宮で経験値稼ぎ
追尾ファイヤーで荒稼ぎ中。魔法のありがたみを思い知る瞬間。

 「イースII」最大の変更点は、なんといっても、新しく魔法が使えるようになったことでしょう。本作では六神官に対応した六つの魔法が使えます。その内訳は攻撃魔法ファイヤー、探索魔法ライト、移動魔法リターン、変身魔法テレパシー、停止魔法タイムストップ、防御魔法シールドで、戦闘や謎解きでこれらを使いこなすことが、「イースII」攻略の鍵となっています。

 魔法を盛り込んだことで、戦闘は大幅に変わりました。特にファイヤーとテレパシーはゲームに大きな影響を与えています。
 ファイヤーは火球を発射し、離れた場所から敵を攻撃できる魔法です。本作の戦闘は、それまでの半キャラずらしによる体当たりから、ファイヤーによる遠距離攻撃が主体になっています。半キャラずらしはそれなりにアクションゲームの腕前を要求するものでしたが、ファイヤーは敵と座標を合わせて撃つだけですので、アクションが不得手なプレイヤーでも敵が倒しやすくなっています。しかも途中で追尾アイテム「鷹の彫像」「隼の彫像」を手に入れれば座標を合わせる必要すらなくなりますので、ザコ戦(=経験値稼ぎ)は格段に楽になりました。
 ファイヤーの導入により、ボス戦も様変わりしています。多くのボスは剣による攻撃が通用せず、しかも本体に接触するだけでかなりのダメージを喰らうように変更されています。そこでいかに本体に接触せず、かつ攻撃をかわしつつ、弱点にファイヤーを打ち込むかが基本戦術となりました。ファイヤーによってボス戦にバリエーションが生まれたわけです。

テレパシー使用中
変身して神殿を探索中。あらゆる意味でテレパシーは「イースII」に欠かせない。

 テレパシーは聖獣ルーに変身する魔法です。変身している間は魔物の攻撃を受けません。魔物の攻撃を受けないということは、魔物が多い場所での探索が楽になるということです。ですから宝探しや偵察に使うのはもちろん、テレパシーを使って難所を無傷で避け、「おいしい」場所に来たらファイヤーで経験値を稼ぎまくるといった戦略をとることもできます。そのおかげで「イースII」は経験値稼ぎがやりやすく、テンポのいい物語展開の一助となっています。

 作中では「魔の元凶を倒すには六つの魔法が必要」という旨のテキストが繰り返されますが、ファイヤーとテレパシー以外の魔法は補助的なもので、実はこれにライトを加えた三つがあれば、他は入手せずともゲームクリア可能です。実際、タイムストップなしでクリアした方も多いようです(注4)。
 ただし本作では行ける場所が増えた分、村と迷宮を行ったり来たりするイベントが増えましたので、リターンがあった方が効率よく物語が進められます。また、シールドなしでダームを倒すのは至難の業ですので、多くのプレイヤーはこの究極魔法に頼ることになります(注5)。

リターンを与えるバノアさん
バノアからリターンの魔法を授かる。なくともクリア可能だが、あるとなしでは遊びやすさが段違い。

 こんな具合に「イースII」は魔法のおかげでゲームが進めやすくなっており、先述の改良点も加わって「イースI」以上に取っつきの良いゲームに仕上がっています。このゲームシステム上での「魔法の便利さ」に、物語上非常に重要な意味があるのですが、その説明は後に回します。

 以上のとおり、「イースII」のゲームシステムは、「イースI」の改良版です。こうした改良によって、「イースII」は快適と謳われた「イースI」よりも快適に遊べるようになっています。


「イース」のボス戦

ヴァジュリオン分裂中 ゲラルディの口を狙い撃つ
一撃離脱が基本のボス戦。どのボスも「苦戦」→「攻略法発見」→「上達」→「撃破」に至るバランスが絶妙。

 ゲームシステムついで、「イース」の魅力の一つ、ボス戦にも触れましょう。工夫が盛り込まれた「半キャラずらし」と、遠距離攻撃を可能としたファイヤー。両作のボス戦がそれぞれの戦闘システムの持ち味を活かした作りになっていることは先程述べました。ただし当時のハード性能の限界か、ダメージが蓄積されると攻撃方法や形態が変わるといったことは一切ありません。
 シンプルな戦闘システムでいかに楽しめるボス戦を用意するか。その答えは「ボスによって攻撃方法や移動パターンをがらりと変える」ことでした。シンプルさゆえどのボスも「隙を縫っての一撃離脱」が非常に有効な戦術となっている(つまりそれ以外に戦術がない)のですが、ボスによって攻撃のよけ方や攻撃するタイミングは全く異なるため、動きを見切り、最も効果的な倒し方を探すことがボス戦の要となります。結果、ボスによってとるべき戦法も全く異なってくるため、戦闘に幅が生まれたというわけです。
 ファイヤーが主体になった「イースII」でも、「隙を狙って一撃を重ねる」という戦術は「イースI」と同じです。ただしこちらはボスの間から脱出できたり、レベルを上げての「ごり押し」が可能になるなど、難易度が下げられています。「イースI」では中盤にレベルが振り切れるため、後半のボス戦では一定の腕前が要求されましたし、一度遭遇すれば倒すか倒されるか、リセットするか以外の選択肢はありませんでした(注6)。「イースII」は「イースI」よりも遊びやすいように変更が加えられていますが、ボス戦の小変更もそれを受けてのことと思われます。
 「イース」のボス戦は、相応の装備とレベルを備えていれば、何度も試行錯誤を繰り返すうちに戦法が「見えてきて」、最初は無理だと思えた敵でも必ず倒せるようになっています。このバランス設定の絶妙さも「イース」が高く評価された理由です。


脚注

注4・タイムストップは敵を足止めする魔法。使えば体当たり戦闘で有利になるのだが、追尾ファイヤーの方が圧倒的に使い勝手がいいことと、停止中の敵でも真正面からぶつかれば反撃を喰らってしまうため利用価値は全くない。そのため「IIエターナル」ではファイヤーの威力が弱められた他、タイムストップの強化が図られたが、おかげで物語のテンポが悪くなった感は否めない。

注5・逆に言えば、猛攻をかわしきれる腕さえあればシールドなしでもクリアできる(!)

注6・実はここに「イースI」唯一の「ハマリ」となる見落としがある。ヨグレクス&オムルガンの間に通じる区画に侵入すると、脱出するための鏡がボスの間にあるため、倒す以外にそこから脱出できないようになっている。もしフレイムソードなどの装備が揃っていない状態でこの区画に侵入しセーブしてしまうと、装備を取りに戻ることもできず、不利な条件での戦闘を余儀なくされる。アクションの腕前が相当に高くないと先へ進めなくなるため、プレイヤーによってはここで行き詰まりかねない。「エターナル」では鏡の配置が見直され、このハマリは解消された。

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