X68000とは

初代X68k
「最強のホビーパソコン」X68000。高性能を詰め込んだ「マンハッタンシェイプ」はユーザーの憧れだった。

 X68kはシャープが1987年に発売した高性能パソコンです。80年代中頃まで、同社ではビジネスユースを想定したMZシリーズと、家庭でのホビーユースを想定したX1シリーズという、二系統のパソコンを開発・販売していたのですが、X68kはX1の後継シリーズという位置づけでした。PCGやスーパーインポーズ等(注1)、X1は手軽に凝ったグラフィック表示が可能で、扱いやすいホビーパソコンとして定評のあるマシンだったのですが、X68kもその路線を継承し、ユーザーレベルで高度なグラフィック処理や音楽処理が可能なマシンとして設計されていました。シャープではこれを「パーソナルワークステーション」と銘打っています。

X68k版グラディウス オプション4基装備可能
本体付属の「グラディウス」。アーケードに遜色ない「完全移植」はX68K格好のデモンストレーションとなった。

 X68kの名は、中央演算装置にモトローラの16bitMPU「MC68000」を採用していることに由来します。メインメモリ1MB、VRAM512KB、最大解像度1024x1024ドット、最大同時発色数65536色、最大同時128枚(水平方向32枚)が表示可能なスプライト機能(注2)、同時発音数8声・ADPCM使用可のFM音源等々、当時のパソコンとしては桁外れの性能を誇っており、まさに「最強のホビーパソコン」と言える機種でした。
 参考に、当時の主流機種であるNECのPC-8801mkIISRが、中央演算装置にNEC製のザイログZ80A互換8bitCPU「μPD780C-1」、メインメモリ64KB、VRAM48KB、最大解像度640x400、最大同時発色数512色中8色、スプライト機能なし、同時発音数FM3声+PSG3声だったことを考慮すれば、いかに高性能だったかがわかります。
 X68kはその性能ゆえ、高速演算・多重スクロール・巨大なキャラクター表示等々、それまでの8bitパソコンやPC98等のビジネスマシンでは難しかった処理を難なくこなすことができまして、当時のゲーマーの夢とも言えた、人気アーケードゲームの「完全移植」さえ可能とするほどでした。
 ただし、X68kはその分値段も最高クラスを誇っており、本体・ディスプレイ一式を揃えるだけでも、定価で50万円を超えました。PC-8801mkIISRが25万円程度でしたから、そのほぼ2倍の価格です。現在でもそれだけあれば相当にハイスペックなマシンが組めることを考えれば、X68kが当時いかなる機種であったかは、わかっていただけることでしょう。ですからX68kに手出しできるのはマニアか富裕者のみとごく限られており、多くのユーザーにとっては高嶺の花、憧れの機種となっていました。


8bit版からの変更点

 X68kとはそうした機種でしたから、移植するにあたり、当然のことながら、その性能を活かすべく、数々のアレンジが施されることとなりました。本移植版はその大胆なアレンジによって、イースフリークに知られています。変更点だらけとも言えるのですが、ひとまず以下の表に示しましょう。


外観の変更

X68k版ゲーム画面・ミネア中央広場
X68k版のゲーム画面。基本は8bit版と同じだがその雰囲気は全く異なる。

 まず起動して気づくのは、おなじみ黒真珠を抱えた女神のタイトル画面が、8bit版のものと全く違っていることです。確かに、同じく宝珠を手にした女神の絵なのではありますが、全く別物と言っていいほどに変わっており、8bit版を見慣れたプレイヤーの目には相当に異なって映ることでしょう。
 この絵は説明無用の人気絵師、天野喜孝氏の手になるもので、「イース」の題字は知る人ぞ知る漫画家、平田弘史氏が手がけています。妙に豪華な顔ぶれからもわかるとおり、本作はむやみに気合いが入ってまして、「8bit版とは全く異なるぞ」という意気込みというか鼻息の荒さとでもいうべきものは、この一枚の絵からだけでも十分に伝わってきます。ある意味X68k版をもっとも象徴している場面かもしれません。

 タイトル画面だけではなく、作中のグラフィックも全面的に書き直されています。マップパーツや人物・魔物・「デカキャラ」といったキャラクターのドット絵はもちろん、屋内グラフィックも全てX68k用に、8bit版とは全く異なる絵が用意されました。キャラクターのドット絵は従来の2頭身から頭身の高いものに変わり、マップもX68kの高性能でもって緻密に描き込まれたものになりました。また、X68kの強力なグラフィック能力を使い、マップは1ドット単位でスムーズにスクロールするようになりましたし、ドット絵も滑らかにアニメーションします。それだけではなくて、局面に応じてマップが変化を見せたり、装備する盾や鎧が変わるごとにドット絵も変化するなど、演出も若干強化されています(注3)。これら各種ヴィジュアルは、制作者も特にこだわったところのようで、プロデューサーのK村氏は、取説で「従来の『パソコンソフトの絵』から一線を画す」ものを目指した、と語っています。
 特にプレイヤーの度肝を抜いたのは、一新された屋内グラフィックでしょう。ロゼッティやオーマンといった商店主(注4)から、サラ、ジェバ、フィーナといったおなじみの面々に至るまで、全てがリアルタッチな姿で描き直され、建物に入るたび、リアルタッチの登場人物が出迎えてくれます。
 スタッフロールから察するに、おそらくこの屋内グラフィックの原画を手がけたのは、佐藤樹云(さとうじゅん)氏と思われます。同氏はファンタジー物やSF物のイラストを得意としており、アスペクトの「LOGOUT」誌上で「真・ウィザードリィRPG」リプレイ記事の挿絵を担当したり、東映のスーパー戦隊シリーズ「超力戦隊オーレンジャー」にも、スタッフとして参加しているほどの実力派イラストレーターです。ただしリアルタッチになった人物グラフィックはファンには相当に衝撃的だったようで、X68k版といったら「リアルでキモい絵のイース」とさえ認識されているほど、本作最大の特徴となっています。

リアルロゼッティ・小遊三師匠ではありません
最大の特徴であるリアルな人物画。その昔ソフマップだかで「武器屋のオヤジがリアルなのはX68kだけ!」とか宣伝されていた。

 8bit版では大評判となったBGM類も、本作ではハイスペックな音源とそれを使いこなせる編曲者によって、オリジナル以上に豪華なサウンドを聞くことができます。前出のK村氏はサウンドについても、「より自然な表現を求めて」アレンジを施したと語っています。
 元となったPC88版の楽曲群が、YM-2203こと4オペレータFM3声+PSG3声の音源で作られていたのに対し、X68k向けにアレンジされた楽曲は、4オペレータFM8声+ADPCM1声・ステレオ対応のYM-2151を音源としています。編曲担当の一人GORRY氏は、電波新聞社のホビーパソコン誌「マイコンBASICマガジン」(以下ベーマガと略)誌上で音楽プログラム記事を中心に活躍していたライターで、誌上でX1用FM音源ドライバーを発表するほどの腕前を備えていました。
 もっとも、「イースI」の移植版では常のことなのですが、どんなにいい音で鳴っていても、サウンドに関しては賛否両論だったようです。オリジナルの作曲者、古代祐三氏が「あれは88のために書いた曲である」と述べているとおり、もともと「イースI」の楽曲はPC88のFM音源YM-2203用に特化して作られたという性格が強いものでした。また、高品質なサウンドはシリーズの大きな特徴の一つにさえなっているので、ファンの楽曲へのこだわりには相当なものがあります。さらに思い入れゆえか、オリジナルを至高とする「原理主義者」が多いのもまた事実でして、こうした事情ゆえにアレンジされた曲はどうしても厳しく評価されがちで、このようなことになるというわけです。

 2010年、GORRY氏がTwitter上で明かしたところによれば、X68k版の楽曲制作には3人の人物が携わっています。メインスタッフの一人である「なぞいちけんけん」こと磯田健一郎氏が監修を務め、その弟重晴氏とGORRY氏が編曲にあたっています。音楽データは重晴氏が途中まで制作し、GORRY氏がそれを引き継ぎ完成させています。本作の制作にあたっては88版と異なる物にするという方針があり、それが音楽にも反映されました。具体的には古代祐三氏が作った音色を使わないということであり、それゆえ音づくりに苦心した旨も、同氏は明かしています。

 他に特筆すべきこととして、X68k版には新曲が2曲ほど追加されています。1曲はゼピック村、もう1曲はバギュ・バデットにそれぞれ使われています。また、レアにハーモニカを返した時の曲は「Rest in Peace」のアレンジ版に差し替えられていますが、原曲と相当に異なるので、違う曲のようにも聞こえます。これら変更によって8bit版でレアが演奏してくれる「Templo del Sol」と、悪魔の回廊で流れる「Devil's Wind」が削除されていますので、曲数は変わっていません。

俺の嫁は渡しません!
8bit版とは大きく違うダルクさんの前口上。X68k版は作中のテキストも書き直された。

 グラフィックや音楽と並び、これまで見ていただいたとおり、作中のテキストも、全面的に書き直されています。X68kは標準で漢字ROMを内蔵しているので、作中のテキストは全て漢字仮名交じり文です。
 8bit版では異邦人アドルに対しても、分け隔てなく接してくれるような友好的(注5)な台詞が多かったのですが、「流れ者」「余所者」といった単語が頻繁に繰り返されることからもわかるとおり、書き直されたテキストは全体的によそよそしく、妙にリアルで殺伐としたものを感じさせます。また、「精霊の加護」「聖戦士」といった言葉に端的に示されるとおり、やたら芝居がかって仰々しい台詞が多いのも特徴です。大意こそ8bit版と同じなのですが、特徴的な人物絵同様、言い回しが大きく変わったおかげで、8bit版とはかなり異なる印象を受けます。
 他にも本探しや銀の鈴探しを頼まれる場面等、「はい」「いいえ」の二択をする場面はなくなり、依頼は即承諾するように変えられています。もともと8bit版では、この二択はあまり意味のないものだったので、それゆえX68k版では省略されたものと思われます。
 また、書き直しに際して整理が図られたようで、謎解きや物語の伏線となるべき数々のテキストが削られています。たとえば8bit版では、銀製品連続盗難事件の犯人が盗賊ではなく、黒マントの男であることをほのめかすテキストがいくつか用意され、その真相を推理することが重要な謎解きとなっていましたが、本作ではその大半が省略されています。それでは最後の謎解きはどうするんだということになりますが、かわりにそのものずばりの答えを示すテキストが挿入され、省略された分を補っています。つまり自分で選んだり読み解かなければならなかった部分がほとんどなくなっていますので、物語は相当に簡略化された印象を受けます。
 呪われた国エステリアを舞台に、駆け出し冒険者のアドルが、古代王国滅亡の謎を記した六冊の書を集めるという概要や展開こそ同じですが、元の8bit版が必要最小限に近いテキストで構成されていた上、謎解きで物語を印象づけていた作品なので、もろもろの省略や変更によって、物語がやや唐突になってしまった感は否めません。また、省略によってヒントが無くなった場所もあるので、他機種版を知らないと謎解きに難儀しそうな箇所もいくつか見られます。

 テキストの書き直しに伴ったのか、本作では8bit版とは設定の異なる箇所が多数見られます。件の銀の盗難事件では、ダルク=ファクトの関与や盗賊団の無実を示すテキストが全く省かれたため、真相は薮の中となっています(注6)。また、ゴーバンはジェバの息子ではなく甥にしてサラの弟になっていますし、他にも町と村がいがみあっているだの、アドルがサラを看取るだの、ラーバが溶岩の力で魔物を復活させただの、バギュ・バデットが火山であるだの、ダームの塔が最近できたなどなど、独自の設定が多くなっています。
 当時はもちろん「イースII」がすでに世に出ていましたので、種々の設定が少なからず続編への伏線となっていることは、プレイヤーには広く知られたことでした。しかしそれでもあえてこのような変更をしたことから察するに、もしかして、X68k版制作者は続編を作る気がなかったのかもしれません。


システム面の変更

ステータス兼装備画面
ステータス画面と統合された装備モード。パラメーターや画面構成に注目。

 大幅な変更はグラフィックや音楽、テキストにとどまらず、他の部分にも見られます。ゲームを始めてすぐ気づくのは、最初の舞台となるミネアの町の様子が、8bit版とは大きく異なっていることです。そして酒場や商店を訪ねても、細部があれこれ変更されています。「オーマン」「ロゼッティ」「ディオス」といった屋号は省略され、店は単に「酒場」「武器の店」「防具の店」といった具合に呼ばれます。「ダームの塔」も、本作ではただ単に「塔」とのみ呼ばれます。看護婦さんで人気の高い「クラーゼの病院」は影も形もありません。唯一「ピムの取引所」だけは同じ屋号で営業中ですが、販売のみで宝物の売却ができなくなっています。ですから「金の台座」やルビーといった売却アイテムはもちろん、「サファイヤの指輪」も登場しません。因業店主ピムも、本作ではただの商店主となっているわけです。
 町の外に踏み出せば、今度は草原が狭くなっていることに驚きます。全部で3,4画面分ほどの広さしかなく、ロダの木は幹の部分しか描かれていません。金の台座が沈んでいる「南の池」も見事に消えています。マップは他にもいくつか省略されており、バギュ・バデットの山道は大幅に短縮され、神殿に入ればいきなりジェノクレスが現れます。廃坑は地下2層のみ、必要な場所しか作っていないという案配です。反面、マップの変更は前半部分に集中しており、後半の舞台となる塔はほぼ省略なしに作られています。
 このマップ上をうろつく魔物もだいぶ様変わりしてまして、本作に登場するのはX68k版独自の魔物が中心です。種類もかなり減っており、リーボルやカーロイドをはじめとするおなじみの魔物の多くが、その姿を消してしまいました。

ケルマレルさんせまいです。
おなじみ「ケルマレルの回廊」。マップは同じだが追ってくるのは見慣れぬ連中。

 変更は外見以外の部分にも及んでいます。ゲームシステム面での大きな変更点としては、まず「イースI」の大きな特徴だった、イベントによる経験値上昇がなくなったことが挙げられます。ですから他のもろもろの変更とあいまって、8bit版の常套手段、非戦闘レベルアップ方はもちろんできません。
 そのかわり魔物は大量に出現する上、得られる経験値も多めなので、経験値稼ぎは非常にやりやすく、レベルもすぐに上がるようになっています。レベルが10で振り切れるのは8bit版と同じですが、ヒットポイントの上限は255から999に、経験値も65535から99999へと、大幅に上がっています。このあたりはX68kが16bit機ゆえの変更かもしれません(注7)。上限値が4倍近く上がったためか、ヒットポイントの回復も早く、立ち止まるなり猛烈な勢いで回復します。レベルがすぐに上がるのと、謎解きやマップが省略されたため、難易度は低めになっており、ゲーム自体は比較的楽に進められるようになっています。

 戦闘は8bit版同様の「半キャラずらし」の体当たり式ですが、ヒットポイントの上限が上がったためか、バランス調整が図られています。魔物は防御力こそ低めですが攻撃力は高めで、移動速度も非常に早くなっています。キャラクターの等身が上がって「半キャラずらし」がやりにくくなったこともあり、油断すると体力をごっそり削られます。特に塔では、タイマーリングを使っていても、一瞬で敵に囲まれ秒殺されるといったことはざらにありまして、9階でノーマスをかいくぐって宝を奪取したり、17階の「ケルマレルの回廊」(注8)を突破したりする場面は、もしかするとボス戦以上の難関となっています。

廃坑の封印
神殿攻略前の廃坑の図。フラグ管理で見事に進入不可。

 最後に挙げた「自由度の低下」とは、攻略の順序を変える変則プレイができなくなったということです。
 8bit版では、先に廃坑を攻略したり、ヴァジュリオンを倒した後にフィーナを助けるといった具合に、一部攻略の順序を入れ替えることができました。ところがX68k版では行ける場所が数々のフラグで管理されるようになったため、こうした変則プレイができなくなっています。そのため、プレイヤーは順当に神殿を攻略し、フィーナを救出し、イースの本を手に入れ、サラの死を見届けた後、遺言に従って廃坑を目指すよう誘導され、これ以外の順番で攻略することができなくなりました。


X68k版の狙い

 取説でK村氏が語った所によると、X68k版の趣旨は、パソコンゲームの新たな方向、新しい表現の可能性を示すことでして、これら数々の変更点は「高い表現力を持つX68kのために『最高の表現』『最高の演出』を目指して」のものでした。実際GORRY氏が語ったところによれば、88版と違うものにすることが大きな方針となっていました。
 確かにその言葉のとおり、本作は数々の変更により8bit版とはその容貌を異にしていますが、作品自体はよく考えられた上、丁寧に作り込まれています。特に良好なゲームバランス、数々の省略や難易度低下、フラグ管理による誘導等により、ゲームは8bit版以上にテンポがよいものになりました。
 本作は「自力で謎を読み解くゲーム」から「提示される物語を追っていくゲーム」へと性格が変わっています。これら方針や変更点を鑑みるに、別解釈で作り直した「イースI」と捉えた方がより的確でしょう。

 ただし、本作は変更点こそ多いのですが、その一方で、新しいイベントやマップ・魔物が追加されたりとか、ゲームシステムが改良されたとか、アニメーションやムービーによるヴィジュアルデモが挿入されたりといった、追加要素や新要素はほとんど見られません。省略や再調整により、そう時間をかけずあっさりクリアできるようになったため、X68k版は8bit版より、ボリュームが減った感は否めません。
 他の機種の「イースI」を遊んだユーザーならば、その違いを比べて楽しむこともできますが、この作品が「イースI」の醍醐味を十分再現できているか、イースシリーズ未体験のユーザーにシリーズの魅力を伝えられるだけの力を備えているか、それともそれに匹敵する新しい魅力があるのかと考えると、荒井は少々疑問に思います。
 製作に携わったマイコンソフトのなにわ氏は、本作について「X68Kの性能に合わせて原作をグレード・アップしてみました」と語っていますが、その実際はいくらかの省略を伴うもので、「グレード・アップ」とも少々異なります。言うなればX68k版は「技術を尽くしたタイニー版」「抄本イース」とでも呼ぶべきものでしょう。


マイコンソフトとは

電波マイコンソフト広告
87年のマイコンソフト広告。ずらりと並んだ移植版の画面を見ては、わくわくしたものだ。

 X68kへの移植を手がけたマイコンソフトとは、ベーマガでおなじみ電波新聞社のソフトウェア開発部のことです。当初は電波新聞社の一部門でしたが、1993年に同社の出資の下、会社組織化されています。
 同部門は80年代から90年代前半にかけ、パソコン向けに様々なゲームソフトを開発していました。特に当時のユーザーには、古くからセガやナムコのアーケードゲーム移植版を数多く手がけたことで、その名を知られています。ベーマガに掲載された各機種向けの「ゼビウス」「ドルアーガの塔」等の画面写真を見て、大いに好奇心や物欲を刺激された方も多かったのではないでしょうか。

ちゃんとアムルが変身するX68k版ドラスピOP ディスプレイは縦置きのままプレイ中

X68k版スペハリ X68k版のスケイラ

X68k版ボスコニアン・移植担当松島徹氏 BGMは「Flash Flash Flash」だ!
電波マイコンソフトによるX68k用アーケード名移植の数々。その出来のよさゆえX68kユーザーより絶大な支持を受けた。

 さておき、同部門は「アフターバーナー」「スペースハリアー」「ドラゴンスピリット」「源平討魔伝」「ボスコニアン」等々、X68kでも数々のアーケード移植作品を世に送り出し、その完成度の高さには定評がありました。ハードの能力や特性を存分に活かす技術力の高さはもちろん、外見もさることながらプレイ感覚の再現に務める開発思想、単なる移植に留まらないアレンジのセンスなどなど、ゲームの面白さにこだわったその仕事ぶりが同部門の特徴で、そこがユーザーの間で高く評価されたのです。

「ベルーガ」タイトル 一面クリア
マイコンソフトの名プログラマー松島徹氏の近作「ベルーガ(forMK2)」(2007年12月(!)発表)
PC-6001相当のスペックで製作されているが、往年の電波作品の凄さの片鱗は、この一本から十分うかがい知ることができる。

 そのマイコンソフトがパソコン用の人気ARPG移植を手がけた理由は定かでありませんが、親会社である電波新聞社がイースと近しかったことと関係があると思われます。
 8bit版「イースI」のテストプレイを頼まれたり、ソフトやサントラにライナーノーツを寄せた山下章氏はベーマガを中心に活動していましたし、同誌上で活躍していた「YK-2」と「コピロン」こと、古代祐三・彩乃兄妹は、オリジナル製作スタッフとして「イースI」に参加しています。他にもいくつかのイースグッズは、同社のデザイン部が製作していました。このように、電波新聞社は、古くからイースにそれなりに深く関わっている会社でしたので、それら縁があったゆえ、この移植が企画されたものと思われます。


脚注

注1・「PCGやスーパーインポーズ」:PCGはProgrammable Character Generatorの略。登録されているアスキー文字のグラフィックデータを書き換えることにより、ユーザーが任意のグラフィックパターンを使用できるというもの。この機能を利用すれば、文字列を扱う感覚で手軽にキャラチップを作って使えるので、ゲームプログラミングでは非常に重宝した。スーパーインポーズは、テレビ画面の上にコンピューターで作った画像をかぶせる機能。字幕作成等に利用される。この機能を実装できることはテレビとの親和性が高いという意味であり、X1シリーズの売りとなっていた。

注2・「スプライト機能」:キャラクター表示機能の一つ。アニメのセル画のようなもので、背景に干渉しないキャラクターを任意の場所に表示できる機能。重ね合わせが楽な上、自機や敵キャラ等の高速表示に適しているので、これが扱える機種はゲームプログラミングが非常にやりやすい。一枚の大きさや同時に表示できる枚数、横に並べられる数は機種の性能によってまちまちで、高性能なマシンほど、この表示性能が高かった。参考にMSXの場合、同時表示枚数は最大32枚、横4枚まで。ちなみにスプライト(sprite)とは妖精という意味の英語である。キャラクターが背景上を自在に浮遊する様を、妖精に例えたものらしい。

注3・「演出が若干強化」:もっとも、壁のレリーフに触れると魔物が出現するところなど、省略された部分もあるので、いちがいに強化されたとも言えないのだが。

注4・「商店主」:ここでは8bit版に準拠してその名を使っているが、X68k版では、8bit版に出てくるいくつかの固有名詞が出てこない。詳しくは本文でも述べるが、例えば武器屋は「武器の店」と呼ばれるだけで、ロゼッティとは呼ばれない。

注5・「友好的」:「優しさ」を目指した8bit版において、「友好的」な台詞はまさに「宮崎友好的」台詞だったとも言える。

注6・「真相は薮の中」:連続盗難事件の犯人がダルク=ファクトであるという真相は、最後の謎解きの伏線であったため、この変更によってX68k版では盗難事件そのものが意味のないものとなっている。

注7・「16bit機」:8bit版の最大値が255や65535なのは、8bit機のレジスター構造に由来する。レジスターとはCPU内の数値を格納する場所のこと。「8bitコンピューター」とはもともと、一つのレジスターで8桁の二進数を扱えるコンピューターという意味。この場合一つのレジスターに格納できる最大の数は11111111Bなので、これを十進数に置き換えれば255Dとなる。レジスターは二つをペアとして扱うことも可能で、この場合16桁を扱えることになるので、最大の数は1111111111111111Bこと、65535Dということになる。

注8・「ケルマレルの回廊」:X68k版にケルマレルは登場しないが、便宜上こう呼んでおく。

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