精霊

物語では、人間ではない存在の協力を得る場面もあります。


ネード

ネード

水の精霊。アドルに水の結晶を託す。

原案:未登場。

ゲーム:森の神として千年間森を見守っている。かつてはケフィン封印にも手を貸した。沼地の奥の洞窟で「ピュイ」を守っている。守護獣を退けたアドルに望みを託し「ビュイ」を渡す。アドルに結晶の意味をほのめかした。

 ネードはゲームのみの登場で、森の守り神と崇められる水の精霊です。よく考えると800年前のイース建国以前から生きていることになりますので、フィーナやレア以上に年を食っている計算です。
 それはさておきこのネード、結晶をアドルに託す以外には全く出番がありません。もともとネードは、次に述べる「半魚人」を翻案した人物と思われます。やはり、半魚人よりも美形の水の精の方が受けるとでも考えたのでしょうかね。


半魚人

半魚人

ナルム川の疲弊に悩まされている。アドルの冒険を手助けする。

原案:沼地に住んでいる。ニーナ曰くの「水の神様」。幼くして父と別れたニーナを哀れみ、陰で生活を支えていたが、ニーナの前に姿を見せたことはない。ナルム川を汚すドーマンを恨んでいる。ドーマンがサンドリアを占領した際、アドルとテラの前に姿を見せ、ドーマン邸侵入の手伝いをした。事態収束後、ニーナの家にアドル宛の礼状と魚を残した。

ゲーム:未登場。

 原案ではネードではなく、半魚人が出てきます。出番はごく少ないのですが、地上ではアドルのことを支援したりと侮れない役割を果たしています。おそらく、原案小説がゲームになる過程で、アドルを支援する半魚人がネードに変わっていったのでしょう。ところが物語の大幅な変化に伴い、ネードことナルムの水妖の出番も減ることとなります。耳が長くてしっぽの生えた亜人ならまだしも、半魚人はシリーズのイメージに合わないと判断されたのでしょうか。

 ついでに、厳密には、ゲームにも半魚人は登場します。魔物として沼地に出現するのですが、もともと協力者だったのが、敵になってしまったというわけです。


コボルド

コボルド

ケフィンの民が錬金術で生み出した犬のような愛玩動物。人語をしゃべる。
遷都の際見捨てられ、五百年もの間ケフィン市民が戻ってくるのを待っている。

原案:ケフィン旧都の遺跡で、人間が来るのを待ちわびている。三年前に訪れた人間(スタン)と仲良くなった。アドルに友好の証として炎の結晶「アグニ」を渡す。ケフィン崩壊後はただの犬に戻る。

ゲーム:アドルに廃都について教えてくれる。

 コボルドは「イースII」におけるルーのような存在です。魔物ですが非常に人なつこく、人間を友達と慕います。原案小説では、そうしたコボルドが生まれたいきさつや、その悲しい過去がちゃんと描かれています。彼らもケフィンの錬金術の被害者であり、ケフィンの非道をプレイヤーに訴える役割を果たしています。
 コボルドはゲーム本編にも登場しまして、その設定は原案小説と同じなのでしょうが、こちらはコボルドの背景の説明がほとんどないため、出す意味がなくなっています。


古代史の人物

ゲームでは、五百年前に施されたケフィンの封印に重要な意味があります。それを巡る確執が物語に反映されています。


フォレスタ

フォレスタ

錬金術師。オーウェルの孫娘でストーカーの恋人。マーシャの遠い祖先に当たる。
「結晶」とストーカーを守るため氷漬けになった。

原案:未登場。

ゲーム:外見年齢19歳。五百年前、ストーカーとともに「ルミナス」を守っていたところを、ケフィンが差し向けた兵隊に攻められる。窮地に陥ったストーカーを救うべく、結晶のそばで魔法を使った反動で氷漬けになってしまう。その後アドルの活躍により歴史が変えられ、氷漬けになることはなくなった。


ストーカー

ストーカー

魔法使い。恋人フォレスタを守るため腕輪の力で魔人となる。
五百年間フォレスタを救える人間を待っていた。サラバットの弟子。

原案:未登場。

ゲーム:五百年前、ケフィンを封じるため、フォレスタと「ルミナス」を守っていたところ、ケフィンの兵隊に襲撃される。そのとき氷漬けとなったフォレスタを守るため魔人となる。フォレスタ洞窟でアドルの前に現れ、アドルの腕を見込んでフォレスタ救出を依頼した。ケフィンでアドルが腕輪の力で賢者の石を制御した際、アドルを過去のフォレスタ洞窟に飛ばす。アドルが兵隊を倒したため歴史が変わり、魔人になる必要がなくなった。最後は腕輪の力で、ケフィンとともに崩壊する運命だったニーナを救出する。

 ストーカーとフォレスタは原案小説の段階では登場しません。ゲームに登場する二人は、結晶が地上にある理由を担う重要人物です。
 実は、原案小説ではケフィンは地上から切り離されてこそいますが、封印はされていません。結晶が封じていたのはケフィンではなく、五百五十年前にケフィン王が倒したという「ナルムの竜」です。結晶はケフィンの錬金術の力の源でして、やがてリジェが回収に向かうことになりました。もともと王家の所有物だったものを取り戻しに行ったわけですが、結晶がケフィンになければならない理由までは記述されていません。
 これがゲームになりますと、結晶はケフィンもろとも異界に閉じこめるためのものとなっています。「ルミナス」がドーマンに持ち去られたことでケフィンの封印にほころびが生じ、その隙をついてリジェが地上に降り、またオーウェルの指示でニーナが結晶の調査に向かったのでした。結晶はケフィン王家にとって都合の悪い存在となっており、ストーカーとフォレスタの悲劇は、結晶による封印を阻止すべく、ジャビルが送った兵士によって引き起こされています。また、リジェが結晶にこだわったのは、ケフィンが二度と封印されないようにするためでした。

 二人は魅力的な人物ではあるのですが、にもかかわらず、どこかとってつけたような印象を受けます。二人の逸話がドーマンやジャビルとの対決といった本筋から離れたところで語られており、サブイベントの域を出ていないからと思われます。二人はケフィンの錬金術の犠牲者です。錬金術の悪用を目論むドーマンや、自分たちを陥れたジャビルに対して相当に思うところあったでしょうが、劇中ではそうした感情は全く描かれません。もっと本筋に絡んできてもよかったような気はします。

 ところで、フォレスタは文献によって、オーウェルの孫娘だったり娘だったりとばらつきがあります。ここではゲームの説明書に従い孫娘ということにしています。


サラバット

サラバット

魔導師。ストーカーの師匠。600歳の長寿を誇る。

原案:未登場。

ゲーム:「テール」を探しにきたアドルに試練を与え、腕試しをした。「テール」を回収したアドルにドーマンの野望を伝える。近くの街に戻るため、筏を手配した。

 原案小説では、アドルに結晶「テール」を託す人物の一人として、密林の村の村長が登場します。ゲームに密林の村は出てきませんが、その代わり似たような役として、密林に住むストーカーの師匠の魔導師サラバットが登場します。サラバットはアドルに試練を課し、結晶を持ってくるように差し向けます。


オーウェル

オーウェル

大錬金術師。ジャビルと対立している。

原案:未登場。

ゲーム:フォレスタの祖父でマーシャの祖先。ニーナの錬金術の師。封印の異常に気が付くとニーナを地上に送った。ケフィンの災いを止めるため「パルチザン」と手を組んでいる。アドルが持っていた「契約の腕輪」を利用して、ケフィン市民を救う方法を思いつく。

 オーウェルはゲームのみの登場人物です。フォレスタの祖父でマーシャの祖先ですが、サラバットのように歳を取ることもなく今なお存命していることから、地上から隔絶されたケフィンにはある種の「浦島効果」が働いているものと推測されますが、このおかげで五百年の時の流れが云々など、後半の物語がややこしくなっています。原案小説ではケフィンでも外界と同じ時が流れていることになっています。
 さておき、ゲームでのオーウェルは、原案小説におけるケフィンでのマーシャに匹敵する役で、ケフィンを訪れたアドルを導くこととなります。オーウェルはケフィンの元錬金術最高顧問で、政敵ジャビルに追い落とされたことになっているようです。その後ケフィンを訪れたスタンと「パルチザン」を創設し、ケフィン解放のため活動しています。
 五百年前、ケフィンを異界に封印したのもオーウェルの差し金ですが、粗がありまして、なぜ本人がケフィンに残っているのかがわかりません。「パルチザン」の要職としてケフィン崩壊を企んでいるというのに、本人はケフィンの一角に堂々とした家を構えて住んでいます。ジャビルやリジェとて知らないわけはないでしょうに、手をこまねいているとしたらそれはジャビルの怠慢というものです。


 「イースV」は登場人物(特に女性陣)の多さを売りの一つにしていましたが、全体的に説明不足で、必要な説明が全くされていない部分が多々あります。原案小説を「タイニー化」したものがゲームであるため、原案段階では設定や背景が煮詰められていたものの、そうした物語の大前提が十分に提示されないまま作られた部分が目立ちます。特に後半は展開が端折りがちなのも手伝って、物語が上滑りを起こしている感は否めません。登場人物の数は原案小説よりも増えたものの、それだけ登場人物を出してゲームが面白くなったかと訊かれたら、それは疑問であると答えざるを得ません。登場人物の数に比例してゲームが面白くなるわけではないのです。

 次回は原案のキーワードがゲームにどのように翻案されたかを検証した後で、肝心のゲームシステムについて述べながら「イースV」がどのような作品であったかを考察して「イースV」についての記述を締めくくります。

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