協力者

 シリーズには数多くの協力者が登場します。初回作「失われし古代王国」もそれは同じですが、本作の場合、それは明確な演出意図があってのものです。


ビクセン

ビクセン

 プロマロックの宿の主。客としてやってきたアドルに「呪われた国エステリア」の話を教えた。アドルがエステリアに行くきっかけを作った人物。

ノートン

ノートン

 プロマロック港の人足頭。アドルはノートンの元で人足として働いていた。アドルの心意気に感じ入り、エステリアに行く手段を与える。

スラフ

スラフ

 バルバド自警団団長。ブルドーの息子。エステリアに漂着し、リーボルに襲われていたアドルを救助する。災厄の原因究明を願うも、立場上手出しできずに悩んでいた。

ブルドー

ブルドー

 バルバドの村長。スラフの父。負傷したアドルを保護し、全快すると冒険の支度を調えてやった。

 以上の四人はゲーム本編には登場しません。「イースI」の取説掲載のプロローグ小説の登場人物で、アドルに冒険のきっかけを与えた人物です。ある意味彼らがいなければアドルはエステリアに来ることもなかったはずで、「失われし古代王国」の物語もあり得なかったわけですから、非常に重要な役目を果たしたと言えるのですが、ゲーム本編に出てこないおかげか、非常に影が薄いです。

 とはいえ忘れ去られてはいなかったようで、その後のスーファミ版「イースIV」ではノートンとビクセンが、「エターナル」ではブルドーとスラフがそれぞれ登場し、全員ゲーム本編への出演を果たしています。
 特に「エターナル」では、ゲーム本編がバルバドから始まるようになったため、ブルドー親子にも相応の出番が与えられています。ただしプロローグ小説からは若干改変されてまして、ブルドーの職業は村長から医者になっています。小説のスラフは自警団に加勢して戦おうとするアドルを、客人だから危険なことには巻き込めないと断っているのですが、「エターナル」では逆に自警団に入らないかと勧誘しています。
 プロローグ小説では、持ち前の好奇心でエステリアに渡ってきたアドルが、バルバドで実際に災厄を目の当たりにし、ブルドーやスラフが災厄に手出しできないのを心苦しく思い、原因究明を決意するという流れになっています。対して「エターナル」では、運命のようなものを感じ、それに突き動かされるままエステリアを訪れたと変更され、「女神に選ばれた伝説の剣士」としての側面がより強調されています。


ドギ

ドギ ドギドット絵

 ゴーバン配下の盗賊。腕っ節が自慢の偉丈夫。ダームの塔で失踪し、仲間がその消息を心配していたが、塔の中でしっかり生き延びていた。塔では幾度となくアドルを手助けする。

 アドルの相棒として、今やすっかりシリーズお馴染みの顔となったドギですが、「イースI」での出番は二回きりで、実はそう多くありません。ルタやラーバの方が出番が多いのですが、彼らが霞んでしまうほどの存在感を誇るのは、なんといっても、その登場方法ゆえでしょう。突然牢獄の壁をぶち破るという演出は相当に強烈だったようで、彼は頼れる好漢として、プレイヤーの脳に刻み込まれることになりました。それゆえ彼はその後のシリーズにも多数登場することになるのです。「ワンダラーズフロムイース」は彼の故郷、フェルガナ地方を舞台にした話でしたし、「イースV」の原案段階では、物語のテーマに深く関わる人物でした。結果、彼は「アドル最大の理解者」の役割を得て現在に至るのです。


ラーバ

ラーバ

 謎の老人。偶像を紛失して困っていたところをアドルに助けてもらった。ダームの塔の内部について詳しく、登る手がかりをアドルに与える。

 ラーバはダームの塔における案内役です。ドギが「塔のことについて訊くといい」と言っているように塔の様子に詳しく、ドギやルタと並んで塔の攻略には必要不可欠な人物です。
 オリジナルでは正体不明の老人です。そのためか「7人目の賢者サルモンの子孫」という設定が与えられたこともありました。サルモンとは以前採り上げた「グローバルガイドブック」に現れる人物です。ところがその後「エターナル」で、大陸から渡ってきた学者という設定が与えられたことと、「ナピシュテム」の登場により、サルモンの設定は闇に葬り去られたのでした。
 もっとも、「イースI」の制作者は彼が何者であるか厳密な設定を考えていたわけではなく、単純に塔の中での協力者として彼を生み出したようです。当時の制作秘話には、マップ作成担当の倉田佳彦氏が、宮崎氏の指示で人物を配置していたところ、塔の中に人がいることを疑問に思い、「こんなところでコイツ何を食って生きてんだよ!」といちゃもんをつけたという笑い話が残っています。


バノア

バノア バノアさんイメージイラスト

 リリアの母。早くに夫を失い、ランスの村で娘と二人暮らしている。娘のことを可愛がっており、それゆえ大病を患った娘のことを不憫に思っていた。天空に来たアドルに医師フレアの捜索を頼み、剣を買うお金を用立てた。リリアの薬を持ってくると、礼としてアドルにリターンの魔法を渡した。

フレア=ラル

フレア=ラル

 ランスの村の医者。落盤に遭って地下に閉じこめられていたところをアドルに助けられる。薬を調合してリリアの命を救った。物語終盤では、伝書鳩に言付けて重要アイテム「金色のペンダント」をアドルに渡す。

 フレア救出は「イースII」序盤の大きなイベントです。バノアは娘リリアの病気を治すため、医師フレアを探しているのですが、当のフレアが落盤事故で地下に閉じこめられているのを知ったアドルは、彼を救助に向かいます。このイベントはリターンの魔法が手に入れられる他、リリアが自分の恋心を自覚するという点でも、非常に重要なものなのですが、8Bit版ではリリアの薬を渡さずともクリアできまして、リリアを見殺しにするのは有名な変則プレイとなっています。物語性が高いと称された「失われし古代王国」ですが、細部を見てみると、他にもこうした粗が残っていまして、ここに当時的な作品の名残を見ることができます。
 ちなみに後の制作者がそれではリリアさんがかわいそうと思ったのか、「イースIIエターナル」(以下「IIエターナル」と略)ではリリアの薬が必須イベントとなっていました。

 バノアが保管していたリターンの杖は、8Bit版ではバノアの亡夫がどこからか見つけてきたものです。それが「IIエターナル」では、バノアはハダル家に仕えた一家の末裔という設定が追加され、それでハダルの魔法の杖を受け継いでいたということにされました。スーファミ版「イースIV」では、なぜか古代セルセタ文明と古代イース王国をつなぐ歴史の品「月の瞳」まで持っています。リリアはただの非力な村娘であるからこそ、物語上重要なわけですので、こうした追加設定はどうだかなという気はします。

 全くの余談ですが、リリアの薬を調合してもらうとき、PC88版ではフレアはリリアのことを「バノアさんの娘」と呼んでいます。これがMSX2版になると「リリアちゃん」と名前で呼んでいます。移植の際、漢字フォントや容量の都合で変更したものと思われますが、けっこういいアレンジだと思います。


レグス

レグス

 廃墟に籠もる老人。古代イース王国の魔法について詳しく、魔法の知識をアドルに授けた。

 レグスはアドルに魔法を伝授する人物です。「イースII」は、ゲームシステム面でも物語面でも魔法が重要な位置を占めています。魔法はゲームの進行に必要不可欠なのですが、一方ではその魔法が「魔」を生み出したことが幾度となく提示されます。ゲームシステムで魔法の便利さが示されるからこそ、物語で示される「人間の繁栄に寄与するための魔法が逆に人間を滅ぼす矛盾」や、「魔を倒すために魔の力に頼らなければならない皮肉さ」が強調されるという寸法です。


長老

ランスの村の長老

 ランスの村の長老。アドルに地下に行く許可を与えた。イースの本を持っているアドルに、聖域を訪れるよう助言した。

ルバ

ルバ

 溶岩の村の橋番。タルフの父。魔物にタルフを人質に取られ、アドルの足止めをさせられていた。アドルにタルフ救出を命じる。

レグ

レグ

 ラミアの村の古老。神殿が魔物の手に落ちて以来、生き甲斐を失ってふさぎ込んでいる。古代史の知識で何度かアドルを手助けするうち、生きる喜びを取り戻す。

ハダト

ハダト

 ラミアの村の老人。アドルに息子サダの捜索を頼む。「リラの貝殻」を通じてアドルに助言を与える。サダの無事を知ると、アドルにクレリアの鎧を渡した。

サダ

サダ

 ラミアの村の若者。人間狩りに遭った恋人マリアを救うためサルモンの神殿に向かうが、ダレスによって石にされ、神殿の地下水路で固まっていた。石化が解けた後は、アドルにクレリアの剣を託した。

 彼らは「イースII」での案内役です。アドルの行く先々にそれぞれ待ちかまえ、訪れたアドルの案内や手助けをします。
 「イースI」では、ミネアの街と迷宮を往復する形で物語が進みますが、「イースII」では、ランスの村から神殿を目指す形で物語が進みます。アドルが行く場所が増えた分、その場所での案内役として、登場人物が増えたものと思われます。
 「失われし古代王国」は、当時にしては異例なほど、名前付きの人物が多いです。その真意は先述したとおり、見えないパーティを組んでいると思わせるほど、プレイヤーに協力者の存在を身近に感じてもらいたいという、演出意図があったゆえです。それは「失われし古代王国」が掲げた理念「優しさ」の体現でもありました。

 物語の最後で中枢部に現れる神官の子孫たちには、古代イース王国の遺臣としての側面もさることながら、それまでに登場した人々の代表としての側面がありました。登場人物の多さはその後のシリーズにも受け継がれるのですが、昨今の作品は闇雲に増やしているだけのような気もします。


ヒロイン

 本作のヒロインは二人です。彼女らが今なお日本ファルコム屈指の人気キャラとして君臨するのは、それぞれが印象的な役割を果たしたゆえです。


フィーナ

フィーナ フィーナドット絵 フィーナイメージイラスト

 地上の神殿に囚われていた少女。名前以外の記憶の一切を失っている。アドルに救出され、ジェバの家に身を寄せていた。自分を光の下に連れ出してくれたアドルに特別な感情を抱いている。
 本当の姿は古代イース王国を治めた二人の女神の片割れ。700年前の災禍では、女神レアとともに差し違える形で「魔」を封じた。「魔」の覚醒によって再び地上に現れたが、ダルク=ファクトによって捕らえられ、神殿に幽閉されていた。
 天空ではレアとともにアドルを導く。事件収束後は「ふつうの女の子」であることに未練を感じつつ、自分が愛したエステリアの地と人々を未来永劫にわたって見守る道を選ぶ。

 彼女の役割は「イースI」のオープニング曲に、彼女の名が与えられていることからも察せられるでしょう。フィーナは「失われし古代王国」のヒロインで、本作の最重要人物と言っても過言ではありません。それというのも、彼女は本作のテーマを担う人物だからです。

 オリジナルの「イースI」では、神殿から助けだされた後、ジェバの家に厄介になっているくらいで、以降特にこれといった動きを見せません。フィーナが神殿に囚われていた理由やその失われた記憶は、未解決の謎として「イースII」に持ち越されます。そして終盤で女神として登場し、去っていくことでその種明かしがされるのですが、その過程に託して「旧秩序との訣別」という、「失われし古代王国」最大のテーマが描かれるのです。

 「失われし古代王国」は、古代イース王国に栄華と滅亡をもたらした魔法の最期、つまり人間が魔法という過去―古代イース王国という「旧秩序」―の呪縛から解放され、未来に歩み出す様を描いた話です。宮崎氏は、制作当初から「人間性や信頼を大事にする物語にする」ことを目標に掲げていました。宮崎氏は「旧秩序との訣別」を通じて、どんな状況でも希望を失わず、力を合わせ、未来に向けて強く生きてゆく人間の姿を描こうとしたものと思われます。
 フィーナは「旧秩序」の象徴です。そんな彼女はアドルと出会ったことをきっかけに、一人の「ふつうの女の子」として人間に触れ、その優しさやたくましさを知ることになります。そして人々の間で暮らすうち、人間はもはや魔法を必要としておらず、魔法や女神なしでも十分幸せになれることを実感し、エステリアの未来を人間の手に委ねることを決意します。彼女が言うとおり、そこにあったのは人間の国エステリアであって、彼女らが治めた魔法の国イースは既に遠い過去のものになっていたのです。

 彼女にとってアドルとは、「すばらしき人間」を象徴する存在です。彼女は一人の少女として、そんなアドルのことを好きになりますが、一方では女神の責務を全うすべく、その二つの間で思い悩むことになります。
 結局彼女は自らの存在を過去の遺物―人間の未来とは相容れない存在―として、人間の未来のため神去る道を選びます。「旧秩序」の象徴たるフィーナと、「すばらしき人間」の象徴たるアドル。彼女の恋は、女神としての使命と人間への憧れに引き裂かれる形で、実らないまま終わりを迎えます。畢竟、「失われし古代王国」のテーマは、ここに端的に示されるのです。
 フィーナにとっては残酷なことですが、逆に言えば二人は物語上、それぞれ決して相容れることのないものを象徴していたわけですから、別れは必定だったのかもしれません。当時ゲームのヒロインは、幸福な結末を迎えることが多かったのですが、それだけにフィーナの悲恋は強くプレイヤーの印象に残ることになりました。彼女は「女神」であることと「ふつうの女の子」であることの葛藤を抱えた人物です。女神と言うにはあまりに人間的。それが彼女の魅力なのだと荒井は思います。

 ちなみに、フィーナが本当に記憶を失っていたのかということが、ファンの間ではしばしば話題になりますが、作中でそれが明かされることはなく、どちらともとれるようになっています。ディスク容量の制限ゆえ、そこまでテキストを割けなかったというのが一番の理由でしょうが、アドル同様、結果的にはそれがかえって想像の余地を残すことになりました。


レア

レア レアさまドット絵

 ミネアの街にいる吟遊詩人。愛用の銀のハーモニカをなくして困っていたところを、アドルに取り戻してもらう。その後アドルの手助けをするため、わざとダルク=ファクトに捕まりダームの塔に乗り込んでくるなど、その行動には謎が多い。
 フィーナ同様、本当の姿は古代イース王国の女神の片割れ。吟遊詩人に身をやつしていたのは、魔物の追及を逃れ行動を起こす機会を待っていたから。天空ではフィーナとともにアドルを導き、最後は永遠に人間を見守る道を選ぶ。

 レアはフィーナと対になる女神です。葛藤を抱えて揺れ動くフィーナに対し、女神としての責務の遂行に忠実で、そのためには大胆な行動も辞さない人物として描かれますので、ヒロインと言うよりはむしろ「最大の協力者」なのですが、フィーナと対になっている存在なのでヒロインの項で紹介することにします。
 もっとも、レアもフィーナ同様、あれこれと思うところはあったのでしょうが、容量の都合か、作品はそこまでテキストを割いていません。レアの性格は、語られない部分をプレイヤーが想像で埋めた結果、「迷う女神」フィーナに対置する形で「しっかり者の女神」とされた部分が大きいようにも思います。
 オリジナルの制作者が後に手がけたクインテット作品を見る限り、本来イースの女神とは、人間とは一線を画したところから人間を見守り導く存在という点で、「ソウルブレイダー」の「天空人」のような存在だったのではないかと思われます。さしづめレアは全てを見守る「天空の神」で、フィーナは「神の弟子」といったところでしょうか。「神の弟子」は、恋した人間の娘と再会するため天空人としての記憶を捨て、再び人間の世界に降り立つことになりましたが、その行動はどこか記憶喪失のフィーナと重なります。

 「イースVI」以降の新設定では、「イースの女神」とは有翼人国家「エルディーン」より渡ってきた有翼人で、黒エメラスで作られた黒真珠を封じるため、白エメラス製の体を残して「昇華」した、ということになってます。「オリジン」でも様々な設定が与えられたようですが、本記事は「当時の制作者はどういう考えでこの作品を作ったのか」ということを問題にしているため、ここでは新設定を考慮しません。

 余談。「IIエターナル」では、ライトの魔法を使用すると光球がアドルの周りを浮遊するのですが、荒井はそれを見て「ソウルブレイダー」を思い出しました。


リリア

リリア リリアドット絵 リリアイメージイラスト

 ランスの村の村娘。早くに父親を亡くし、母親のバノアと二人で暮らしている。天空に飛ばされて気を失っていたアドルを介抱し、ランスの村に連れてきた。大病を患い余命幾ばくもなかったが、アドルのおかげで一命を取り留める。そのおかげかアドルに好意を抱くようになった。美少女だが、アドルに会いたくて丸腰でその後を追いかける無鉄砲さも併せ持つ。
 その途中、「人間狩り」によってサルモンの神殿に連れ去られ、石化したりと散々な目に遭うが、アドルを手助けしつつ、最後までその冒険を見届けた。

 リリアは「イースII」のヒロインです。非常に人気の高い人物ですが、単純に物語を追う限りでは、実はテーマに深く絡むような役割はなく、アドルにいくつかの有用な宝物を渡す「アイテムキャリアー」に留まっています。そんな彼女が日本ファルコムを代表するヒロインとして、今なお君臨しているのは、なんといっても、彼女最大の役割が「看板娘」だからです。

 「イースII」は「イースI」よりも演出が強化されていますが、特にオープニングの「振り向きリリア」「微笑みリリア」は大きな売りで、当時のプレイヤーの度肝を抜きました。現在のゲーム愛好家には信じられないことでしょうが、1988年の発売当時、8Bitパソコン上で、セルアニメと遜色ない品質で絵が動くというだけでも、その衝撃は計り知れないものがあったのです。
 それだけにリリアの存在は「イースII」が他とはひと味違う作品であることを強く印象づけ、実際そうでしたので、リリアは作中での役割以上に、「イースII」を象徴する存在として受け取られることになりました。「『イースII』といえばリリア」はやがて「『イース』といえばリリア」に変わり、彼女はイースシリーズを代表するヒロインとなったのです。フィーナが物語上のヒロインなら、リリアは作品のマスコット、「看板娘」なのです。

 しかし一方で、彼女にそれ以上の役割を見いだすこともできないことはありません。
 作中での彼女の行動には、何かと疑問が残ります。まず、イースの女神はなぜ神官の子孫でもないただの村娘に、貴重な「女神の指環」を授けたのでしょうか? そのただの村娘が、なぜ迷っただけでイースの中枢部まで入り込めたのでしょうか?
 制作者が意図したかは判りませんが、女神がその大事な持ち物である指環を託したこと、彼女を中枢部に導いたことに、特別な意味を与える向きもあります。
 リリアは神官の子孫でもなければ特別な力を備えたわけでもない、単にアドルのことが大好きな少女です。アドルに会いたいという一心で後を追った結果、彼女はその冒険を最後まで見届ることになりました。フィーナが「一途に待つ女」であるのに対し、リリアは「一途に追う女」でして、それゆえ彼女はアドルの冒険に深く関わることになります(これが「ストーカー女」と揶揄される原因の一つでもある)。
 フィーナは「ふつうの女の子」としてアドルのことを心配しつつも、「女神」としてアドルを導いています。一方リリアはフィーナが言うところの「ふつうの女の子」そのものでして、大好きな人のことが心配だったという理由だけで、女神や神官の子孫たちに混じって想い人アドルの冒険を見届けています。リリアはフィーナとは対照的なヒロインでして、その対比は物語の主題に一脈通じるものがあるのです。
 これを推し進めれば、宮崎氏がその後手がけた「グランストリーム伝紀」同様、「過去」を象徴するフィーナに対し、リリアは「未来」を象徴するヒロインということになるのですが、作中のテキストでは「IIエターナル」でさえ、そこまで描写はされておらず、飽くまでプレイヤーの想像の域を出ません。しかしこの対比が、二人のヒロインを語る上で決して外せないものになっていることは否めません。
 フィーナとリリア、どちらがヒロインかという論争は旧くからありました。しかしこれだけは確実に言えるのは、どちらも「失われし古代王国」には必要不可欠で、とても魅力的なヒロインだということです。

 さて、彼女は「看板娘」であるがゆえ、その後作中での役割以上の悲劇を味わうことになります。
 彼女の登場は、時代を象徴する事件でした。ファンの間では「フィーナという女がありながら!」だの「後から出てきたくせにフィーナより目立ちやがって!」だのといった議論が活発になりまして、それがじきに「アドル好色一代男説」「カップリング論争」を生むことになります。
 彼女が象徴したものはシリーズの世界観と演出です。後にシリーズが世界観や演出にこだわるあまり迷走し始めると、象徴である彼女がやり玉に挙げられるようになってしまいました。特に彼女の再登場が大きな売りだった「イースIV」が、微妙な出来だったことが拍車をかけまして、彼女を「シリーズ凋落の元凶」と見なすプレイヤーまで現れたのです。一部の熱心なファンの間でリリアが不当に嫌われるのは、こうした理由もあるものと思われます。リリアさんもいいキャラクターなんですけどねぇ。


解説

 他にも登場人物は数々出てくるのですが、全てを紹介するときりがないので、今回は主だった人物のみを紹介しました。
 「失われし古代王国」の特徴として、名前付きのNPC(注4)の多さが挙げられます。「失われし古代王国」の物語は、もっぱら彼らNPCとの会話によって提示されるのですが、以前述べたとおり、当時のCRPGにおいてこうした物語手法は、ありそうでなかなかなかったものでした。CRPGよりはむしろAVGによく見られた手法で、それをARPGのゲームシステムで実現したことが、本作の大きな発明だったと言えるでしょう。魅力的な登場人物によって語られる魅力的な物語は、当時のプレイヤーをすっかり魅了しました。
 「失われし古代王国」の物語は、まず最初に、古代史の謎が明かされるという展開と、人間性や信頼を大切にした物語を作るという方針がありました。それがゲームに転写されて「旧秩序との訣別を通じて人間のすばらしさを描く物語」となり、「失われし古代王国」の物語ができあがったのでしょう。登場人物の多くはそのテーマを表現するために作られたもので、登場人物の魅力は物語のテーマの魅力に負う部分が大きくなっています。テーマの中でそれぞれにきちんとした役割が与えられているからこそ、「失われし古代王国」の登場人物は魅力的なのです。
 また、ゲームの雰囲気を盛り上げたイメージイラストの存在も忘れるわけにはいきません。「イースII」では、「ロマンシア」のキャラデザを手がけた都築和彦氏によるすばらしいイメージイラストによって、古代イース王国やエステリア、アドル、フィーナ、リリア、ダルク=ファクトなどのヴィジュアルが提示され、プレイヤーの感情移入の手助けとなりました。また作中に出てくる「振り向きリリア」や「涙をこぼすフィーナ」などのグラフィックも、ドット絵だけでは表しきれない登場人物の「表情」を補いました。こうした数々の演出によって「失われし古代王国」の登場人物は、それまでのCRPGの登場人物には見られない「個性」を獲得します。そして発売から20年が経った現在もなお、日本ファルコム屈指の人気キャラとなっているのです。


脚註

注4・Non Player Characterの略。プレイヤーが操作できない登場人物のこと。もとはTRPG用語で、ゲーム進行を盛り上げるため、ゲームマスターが用意した人物のことを指す。

前に戻る文頭に戻る目次に戻るトップページに戻るおまけを読む