「悪魔の塔」の名のとおり、ダームの塔は手強い魔物で溢れていた。待っていたのは敵ばかりではない。塔を登るうち、アドルは罠にかかって地下牢へと飛ばされてしまった。
地下牢に飛ばされたアドルは荷物を改めてみたところ、銀の武具が消えていることに気が付いた。
牢には行方が心配されていたゼピック村のルタもいた。ルタは夢遊病で、気が付いたら塔の中で倒れていた。そのとき石像の並ぶ回廊で老人が壁の中に吸い込まれるのを見たという。
閉じこめられたものの、脱出の機会は意外に早くやってきた。塔の中で消息を絶ったという盗賊ドギが、壁を破って助けに来てくれたのだ。ドギは塔に忍び込んだラーバ老人に会い、塔について話を聞くよう助言するとともに、ラーバが失くしたという偶像をアドルに託した。
ルタの言うとおり、ラーバは石像の並ぶ回廊にいた。アドルがラーバに偶像を返すと、ラーバは邪悪な力から身を守ってくれるという青いネックレスをアドルにくれた。
罠を突破してさらに上に登っていくと、再びドギと遭遇した。ドギは昔ジェバから聞いた話として、塔の奥に進むためには、塔のどこかにあるロッドが必要なことを教えてくれた。
探索を進めるうち、アドルは巨大なカマキリの魔物「ピクティモス」と遭遇した。いくつかの銀の武具を欠き、アドルは不利な戦いを強いられたが、苦戦の末これも撃破する。ピクティモスが守っていた部屋には四冊目となるイースの本が置いてあった。
アドルはルタとも再び遭遇した。ルタによれば、女の子が一人、塔に連れ込まれたというのだ。このままでは彼女の命が危ないと、アドルは彼女の救助を頼まれた。
先を急ぐも、途中には不気味な音楽でみるみるうちに命を奪う回廊が待ちかまえており、先に行けなくなっていた。かろうじて回廊にある小部屋に飛び込むと、そこにはラーバが捕らわれていた。ラーバによれば、回廊に流れる殺人音楽を止めるには、通風管となっている柱を破壊して、曲を鳴らしている風の流れを止めなければならない。
アドルは件の柱を叩き壊し、無事回廊を通過した。
悪魔の回廊の先には鏡の間があった。一隅には脱出したラーバがいた。話しかけると、連れ込まれた女の子は上の階にある「ラドの塔」に幽閉されているらしい。そしてラドの塔には呪いがかけられており、邪悪な者しか入れないことも教えてくれた。
鏡の間は袋小路で、このままでは先へ進めない。ひとまず行ける場所に行ってみると、岩石の魔物「コンスクラード」と遭遇した。アドルはこれを退け、魔物が守っていた五冊目のイースの本と、ドギが言っていた「ロッド」を入手した。
ロッドの力で鏡の間を通過したアドルはさらに塔を登り、ラドの塔にさしかかった。塔の奥には邪悪な者しか入れないという閉ざされた部屋があった。
なんとか扉を開け、部屋に侵入したアドルは、そこで詩人レアと再会する。連れ込まれた女の子とは、レアのことだった。しかも驚くべき事に、レアはアドルに伝えたいことがあるからと、わざと魔物に捕まり塔に乗り込んできたというのだ。
レア曰く、彼女をここに閉じこめたのは「黒マントの男」こと、ダルク=ファクトという男だった。ダルク=ファクトの目的は魔物の力を利用して、この国を我が物にすること。そしてアドルには、そのダルク=ファクトを阻止して欲しいと。
それとともに、読む権利があるからと、イースの本を読むために必要な「眼鏡」をアドルに託した。そして自分にはまだやることがあるから先に行ってとアドルを促した。
なぜイースの本に詳しいのか、なぜ眼鏡を持っていたのか、そしてこれから何をしようというのか...レアには謎が多かったが、ひとまずアドルは先を目指した。
塔もだいぶ上の方にやってくると敵はさらに強く、迷宮も複雑になってきた。アドルは探索の末銀の武具も取り戻し、さらに強力な武具を手にしていた。
塔の上階には、また鏡の間が控えていた。その奥でアドルは一双の巨顔魔神「ヨグレクス&オムルガン」と交戦する。いくつもの火の玉を振り回し、攻撃のたびに位置を入れ替わるという動きでアドルを翻弄するが、激戦の末アドルはこれを打ち倒した。
ヨグレクス&オムルガンの間の奥には、最上階への階段が通じていた。しかし最上階への扉は強力な力で封じられていた。
眼鏡を手に入れたアドルは、塔の中で手に入れた本を紐解いてみた。
四冊目の本「メサの章」には、六体の巨大な魔物によって人々が「サルモンの神殿」に追いつめられ、ついにこの地を放棄したこと、五冊目「ジェンマの章」には、なおも魔物が迫る中「女神」が姿を消し、状況が逼迫する中、ジェンマの家系に伝わる青いメダルの力で魔物を食い止めていたことが綴られてあった。
アドルは塔の中で「ジェンマ」を名乗る人物に会っている。「ジェンマ」の名前が気になって、アドルは彼に会いに行ってみた。彼はアドルが「ジェンマの章」を持っているのを認めると、自分の家系に伝わる青いお守りをアドルに託した。
青いお守りには魔の呪いを打ち破る力があった。その力で塔の最上階にたどり着いたアドルは、そこでダルク=ファクトと対面する。
レアの言うことによれば、クレリアの剣なくしてダルク=ファクトは倒せないはずだった。しかしあいにく、これまでクレリアという名前の剣は見つけていない。
そもそもクレリアとは? アドルはこれまでの事を思い返してみた。エステリアで起こっていた事件、街の人々の話、ダルク=ファクトの行動、ダームの塔での出来事、そしてイースの本の謎...
アドルはクレリアの何たるかを悟った。推測が正しければ、ダルク=ファクトを倒せるはずだ。
イースの本には魔物の謎を解く鍵が記されているという。全ての本を集めようとするアドルの前にダルク=ファクトが立ちはだかった。「謎を全て知られてしまっては、私の計画が振り出しに戻ってしまうのだ。」と。そして最後の戦いが始まった。
炸裂する炎、次々に崩れる足場。ダルク=ファクトとの戦闘はこれまでにない熾烈さを極めたが、死闘の末、アドルはついにダルク=ファクトを倒した。ダルク=ファクトのマントからはイースの本の最終章「ファクトの章」が見つかった。
最後の本「ファクトの章」には、災禍の収束が書かれてあった。そして全ての本を集めた者こそ、平和を導く指導者となると結ばれていた。
六冊の本を揃えたアドルは、一つの冒険を終えた充実感の中、イースの歴史に思いを馳せていた。地上は朝を迎えていた。ふもとにジェバの家を見つけたアドルは、記憶喪失のフィーナのことを思い出し、地上に戻ったらこれまでのことを話してやろうと思った。
祝福するかのように、光がアドルを包み込んでゆく。それはまた、新しい冒険の始まりを告げるものでもあった。
いわゆる「イース」が前編・後編二本からなる作品であることは、ファンの方には説明無用でしょう。荒井は特にこの二本をまとめて、「失われし古代王国編」と呼ぶことがありますが、それはこの二本がアドルの冒険のひとつ「失われし古代王国」を描いていることにちなんでいます。なお、本作の副題「Ancient Ys Vanished」とは「失われし古代王国」という意味です。
「イース Ancient Ys Vanished Omen」(以下「イースI」)はその前編にあたる作品です。駆け出しの冒険家アドル・クリスティンがエステリアを襲う異変の原因を追うという物語で、その過程で、かつてエステリアに栄えた古代イース王国の謎に迫っていくという作りになっています。
「イースI」は二部構成で、地上を舞台にイースの謎が提示される前半と、ダームの塔を舞台にイースの本を巡る戦いが描かれる後半とに別れます。オリジナルのPC88版は、前半部分と後半部分にそれぞれディスク一枚を費やしてまして、全部でディスク二枚組として販売されていました。
詳細は後述するため、今回は簡単に触れるに留めておきますが、「イースI」の魅力を語る上で、何よりもまず挙げられるのはその物語性です。物語に凝った作品は「イースI」以前にも存在したのですが、ここまで絶賛されることはありませんでした。その理由は何より、「イースI」が、CRPGでありながらAVG並に練られたシナリオを備え、しかも優れた物語手法で語られたことが大きいです。
「イースI」以前に出た、物語性を重視した作品は、もっぱら、ヴィジュアルデモや取説掲載のストーリーによって、説明的に物語を「明示」することが大半でした。ところが「イースI」の場合、物語は街の住人やNPCとの会話の積み重ねによって「暗示」されまして、プレイヤー自らが能動的に読み解こうとしない限り、全容が判りません。
実はこの「通常の会話の積み重ねで物語を提示する」という手法は、CRPGではありそうでなかなかなかったものでした。それまでCRPGにおける会話とは、基本的には手がかりを与えるためのものでして、物語手法として使われた例があまりなかったのです。さらに「イースI」では、物語の謎を解くこととゲームの謎を解くことが一体になっていまして、「読み解くこと」が、ゲーム性の主軸となっています。これこそが発売後約20年を経た今もなお、本作を希有なものとしているのです。