神殿のお膝元にはラミアの村がある。村人に話を聞くと、「人間狩り」と称して魔物が村を脅かしているそうで、最近もマリアという娘が連れ去られていた。救助に行こうにも神殿の入口は門番が見張っており、そのままでは侵入できなかった。また、村からはサダという青年も姿を消していた。
村から出る門の番をしている青年ゴートは、アドルのことを知っていた。ゆうべ、夢のお告げでアドルがここに来ることを知ったというのだ。また、ゴートはサダが神殿に向かうのも見ていた。サダの父ハダトにこのことを話せば力を貸してくれるだろうと、アドルに助言した。
サダは恋人マリアを救うため神殿に潜入していた。ハダトはアドルからサダが神殿に行ったと聞くと、サダを連れ戻すようアドルに頼んだ。承諾すると、ハダトは離れた場所でも話ができるという宝物「リラの貝殻」をアドルに渡した。
神殿の前では二匹の魔物が侵入者を見張っており、このままでは中に入れそうにない。アドルは門番を騙し、まんまと潜入に成功した。
ひとまずアドルは魔物が言っていた「ザバ様の部屋」を目指したが、部屋にはいなかった。魔物の情報によればザバは会議に出ている。アドルは北の会議室を目指した。
会議室ではアドルの侵入を受け、魔物たちが議論している最中だった。そこでアドルは、生け贄として捕らえられていた人々が「神殿の鍵」を奪って脱走したことと、封鎖された区画に入るための識別コードを知る。
封鎖された区間には、脱走者が逃げ込んだという地下水路の入口がある。アドルは識別コードのおかげで封鎖区間に侵入を果たした。
地下水路に通じる部屋では魔導師ダレスが待ち伏せしていた。ここから先へ進むなとアドルに警告したが、無視して先に進もうとすると、その魔力でアドルを魔物に変えてしまった。
そのまま地下水路に突入したアドルは、一角で脱走者の隠れ家を発見するが、魔物になっていたため締め出されてしまった。ダレスに魔物にされたと言っても信用してくれない。どうしても中に入りたければ、人間の姿に戻ってから来いと言われた。
人間に戻るためにはダビーの部屋にある杯を手に入れ、ラミアの村のレグに会わなければならない。アドルはダビーの部屋で「聖なる杯」を見つけ、ラミアの村に戻った。
レグは神殿の探索を趣味とする老人だったが、神殿が魔物の手に落ちて以来生き甲斐を失い、すっかりふさぎ込んでいた。レグはアドルの「聖なる杯」を見ると事情を察し、古井戸の水で杯を満たして聖水を作った。
アドルは聖水の力で無事人間に戻り、ようやく隠れ家に迎え入れられた。中には姿を消したリリアもいた。リリアは魔物の人間狩りに遭っていた。脱走者はキースの手引きでここまで逃れてきたのだという。そしてキースに預かった神殿の鍵をアドルに渡した。
そのときダレスの声が響く。ダレスは手下にアドルの後を付けさせ、隠れ家の場所を突き止めていたのだ。ダレスはアドルを苦しめようと、目の前で脱走者をことごとく石に変えてしまった。
残念ながら今の力では彼らを元に戻せない。アドルは手に入れた鍵を使い神殿を捜し回った。
各地で得た情報によれば、神殿には本館があって、そこに行くためにはペンダントが必要であるらしい。探索の末、アドルは地下水路の奥で「銀のペンダント」を発見する。
本館につながる通路には強敵「ドレーガー」がいたが、これを撃破し女神像のある部屋にたどり着いた。像の前に立つとまた導きの巻物が書き換わり、神殿の奥に進むための手がかりが現れた。
ペンダントの力で、アドルはついに神殿の本館へと足を踏み入れた。
アドルが本館に侵入したことは、すでに魔物の間に伝わっていた。本館を進むうち、リラの貝殻でハダトが呼びかけてきた。タルフがアドルを訪ねてきたというのだ。
アドルはラミアの村に戻り、タルフに会った。タルフはその後、溶岩の集落でローブの男がアドルのことを探り回っていたのを不審に思い、尾行するうちラミアの村に来ていた。そして男が神殿に入っていくのを見たという。
再び本館に戻ると、そこではキースの大捜索が進められていた。本館にキースが侵入し、水路調整室の鍵を奪って地下水路に逃げ込んだというのだ。アドルは地下水路でキースと対面する。キースはアドルに女神の王宮に行く方法を教えるとともに、水路室の鍵を渡した。
水路調整室で水路の水を退かせると、それまで水路だったところに通路が現れた。
新しい通路でアドルは女神の王宮にやってきた。王宮にある女神の間では、女神の声が語りかけてきた。そこでアドルはイースの中枢部に入る方法を教えられる。中枢部に行くにはもう一つのペンダントが必要で、それを脱走者が持っているというのだ。脱走者の石化を解くためには「夢見の石像」が必要で、女神はアドルに石像を持ってくるように命じた。
キースによれば、これから鐘撞き堂で生け贄の儀式が始まるところだった。鐘撞き堂の鐘は生け贄を捧げる合図を告げるもので、五回鐘が鳴った時生け贄は絶命する。これまで多くの人々が犠牲になっており、今回はラミアの村のマリアが生け贄になっていた。
このままではマリアが危ない。キースに急かされ鐘撞き堂を目指すと、大幹部の一人、ザバ自らがアドルを待ちかまえていた。ザバは別格の強さを見せつけたが、激戦の末、アドルの前に敗れ去る。
生け贄の祭壇にはマリアが捕らわれていた。助け出そうにも結界で近づけない。儀式を阻止するため、アドルは急いだ。刻一刻と時は流れ、無情にも一度、二度、三度、四度と鐘が鳴っていった。
ようやく鐘撞き堂にたどり着くと、そこにはダレスが待っていた。生け贄の儀式の目的は、神官の末裔を抹殺することだった。ダレスは勝ち誇るようにアドルの目の前で五回目の鐘を鳴らすと、不気味な笑い声を残して消え去った。
マリア救出は失敗に終わった。祭壇には動かなくなったマリアが横たわっていた。
アドルは鐘撞き堂を降りる途中、夢見の石像を見つけていた。女神の王宮に持っていくと、石像と黒真珠が揃えば石化を解けることが判った。
右往左往した結果、アドルは神殿内で再び黒真珠を手にした。女神の指示どおり、鐘撞き堂の頂上で石像を使い、アドルは石化の呪いを解いた。
黒真珠を探す途中、アドルはゴートから気になることを聞いていた。イースが地上に降り始めているというのだ。女神も各地に散らばる神官の子孫たちに、神殿の中枢部に集まるよう号令をかけていた。決戦の時は近づいていた。
脱走者の人々は無事元に戻っていた。アドルは脱走者の一人から、中枢部に行くために必要な「金色のペンダント」を入手する。ペンダントはフレアが廃墟で拾ったもので、伝書鳩に言付けてここまで運ばせたものだった。
呪いは解けたものの、なぜか隠れ家にリリアの姿はなかった。
石化が解けたのは脱走者だけではなかった。アドルは地下水路の一角で、石化が解けた剣士と会う。彼こそハダトの息子、サダだった。
サダは恋人マリアを救出するため、家宝クレリアの剣を手にして神殿に潜入していたが、ダレスによって石にされていた。アドルがマリア救出が間に合わなかったことを伝えると、自分にもう剣は必要ないからと、クレリアの剣をアドルに譲った。
アドルはラミアの村に戻り、ハダトにサダの無事を告げた。するとハダトは礼とともにクレリアの鎧をアドルに渡した。
金色のペンダントを手に、アドルは中枢部に向かったが、その前に仇敵ダレスが立ちはだかった。アドルは魔法を封じられ、剣での戦いを強いられたが、その剣の力にダレスは崩れ落ちた。ダレスはファクトの魔法「シールド」を守っていた。六番目の魔法を手にしたアドルは、ついに中枢部に足を踏み入れた。
中枢部ではこれまでに出会った人々が待っていた。タルフ、絶命したはずのマリア、キース、ゴート、そしてリリアまで。女神がいる場所には「魔」の結界が張られ、先へ進めなくなっていた。
リリアは二人連れの女の子から「女神の指環」を受け取っていた。曰く、この指環が自分を守ってくれたらしいと。「女神の指環」で結界を破り、アドルはついに女神がいる部屋へとたどり着いたが、そこで目にしたのは、「魔」の呪いを受け、力を封じられた女神の姿だった。
部屋に「魔」の声が響き渡る。女神が動けない状態では自分を倒せまいと。700年前、女神に封じられた「魔」は、眈々と復活の機をうかがっていた。そして今やその時は来たと勝ち誇ったその時、部屋の空気を打ち破るかのように、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
声の主は、地上にいるはずのゴーバンとルタ=ジェンマだった。イースはすでに地上に降りていた。二人もアドルに加勢すべく、中枢部に乗り込んできたのだ。
ゴーバンから受け取った「銀のハーモニカ」を奏でると女神の呪いが解けた。ついに対面するイースの女神とは、地上で出会ったフィーナとレアだった。
フィーナは自分が女神であることを隠していたことをアドルに詫びるとともに、魔法がなくならない限り永遠の平和は訪れず、そのためには魔力の源である黒真珠を破壊しなければならないと言った。レアは魔の元凶を滅ぼすため、アドルのクレリアの剣にイースを結集した力を与えた。
アドルは皆に見送られ、ついに最後の戦いへと赴いた。
燃える舞台の上、最後の戦いが幕を開ける。魔の元凶「ダーム」。その正体は強力な魔法を操る巨大な黒真珠だった。
アドルは一人で戦っていたが、孤独に戦っていたのではない。アドルは地上と天空で様々な人と出会い、その力を得ながらここまでやってきた。アドルの剣と、人々の想いが一つになった時、平和が訪れると神官ファクトは言っていた。この冒険は人々の想いとともにある。それがアドルの剣に力を与えていた。
魔法の力と想いの力。最後の戦いは総力を挙げてのものとなったが、次第にアドルがダームを圧倒していく。そしてダームはとうとう力尽き、粉々に割れて砕けて散った。
戦いを終えたアドルを迎えたのは、喜びに満ちた人々の顔だった。イースの女神ことフィーナとレア。タルフ=ハダル、マリア=メサ、ゴート=ダビー、キース=ファクト、ルタ=ジェンマ、ゴーバン=トバら神官の子孫たち。アドルを見守っていたリリア。
魔法は滅び、神殿も地上に戻り、700年ぶりに真の平和が訪れた。しかしそれは多くの犠牲の上に成り立ち、ほろ苦い教訓を残すものであった。自分たちが生み出したものに自分たちが滅ぼされる矛盾。喜びの中、かつて魔法を担った神官の子孫たちはその矛盾を噛みしめていた。
これからは女神も神官も必要なく、一人一人が自分を信じて生きてゆく時代が来たのだと、レアは人間の時代の到来を告げた。そして自分たち女神は人の世を永遠に見守ってゆくとも。
そしてアドルがフィーナの前に立つと、二人はお互い見つめあったまま、何も言えなくなってしまった。
アドルと二人きり取り残された部屋で、言葉を絞り出すように、フィーナは語りだした。
フィーナはジェバの家で過ごした日々のことを話した。一人の人間として、人々の間で暮らした短くも楽しい日々。それは女神として生きてきたフィーナにとって、未知にあふれた日々だった。やがてフィーナは悟った。自分の知らない世界に自分の知らないすばらしい人々が生きていること、魔法の国「イース」はすでに人間の国「エステリア」に変わり、女神も過去の存在になっていたということを。
アドルと出会い、初めて「ふつうの女の子」として過ごした日々は、フィーナにとってかけがえのないものだった。フィーナはときどきでいいから自分のような「女の子」がいたことを思い出してほしいと、涙をこぼしながらアドルに別れを告げ、去っていった。
アドルはフィーナの名をつぶやくのが精一杯で、それ以上何も言えず、何もできなかった。
地上では人々がアドルのことを待っていた。ドギも駆けつけ、アドルを祝福した。人々は皆、700年ぶりに訪れた平和を喜びあっていた。過去の遺産は失われ、エステリアの未来は人間に託されたのだ。
アドルがふと空を仰ぐと、サルモンの神殿から二つの光が天に向かって飛び去っていった。光の行く手を見つめ、アドルは一人、もの思う。
廃坑の奥、何もなかったはずの台座の間に二柱の女神像が現れた。女神は永遠に人の世を見守るべく、黒真珠とともに永い眠りに就く。全てを終えたフィーナは、安らかでいて、どこか寂しげな横顔を浮かべていた。
本作は前作「イースI」同様、「Ancient Ys Vanished」の副題が与えられていますが、「イースI」には前編という意味で末尾に「Omen(予兆)」が付いていたのに対し、本作は後編という意味で「The Final Chapter(終章)」の語が付いています。
そのとおり、物語は「イースI」の続きでして、六冊の本を集めて天空のイースに導かれたアドルが、イースの女神やかつての神官の子孫たちと協力し、エステリアの災禍の元凶を討ち果たすまでが描かれます。その過程で、前作で残された謎が明らかにされまして、文字どおり、「失われし古代王国」が完結するという作りになっています。
PC88版のディスク構成に従えば、「イースII」の物語は、サルモンの神殿に至る道のりを描いた前半と、神殿での戦いを描いた後半とに別れるのですが、前半部分は聖域を舞台にイースの本を返還していく場面と、氷壁と溶岩地帯を経て神殿を目指す場面の二つからなりますので、三部構成と見ることもできます。
「イースII」も前作同様、基本的には会話の積み重ねで物語を進めていくという物語手法をとっているのですが、前作のような謎解き要素は薄くなり、その分演出や登場人物の描写が強化され、物語をよりテンポ良く劇的に見せるものに特化されています。その一例が、当時非常に話題になったオープニングデモでしょう。
しかし白眉はなんといっても「テレパシー」の魔法です。魔物に化ければ攻撃を受けないという発想自体は、同社の別作品で既出のものですが、そこに「魔物と話ができる」という要素を盛り込んだところに、本作の発明があります。同じ事件を敵の側面からも眺められるというアイディアは斬新なもので、本作の物語に深みを与えることとなりました。
一つの物事には複数の側面があり、それを総合的に理解するためにはそれぞれの側面からの両面的な認識が必要であるという考えが、シナリオライター宮崎友好氏が好んだモチーフであることは以前述べたとおりです。その源流は「イースII」にありまして、それが後に「破壊と創造」を特徴とする一連のクインテット作品につながっていくのです。
ゲーム本編の紹介が終わったところで、次回は「イース」の大きな魅力である、登場人物について触れることにしましょう。