あなたは、今恐ろしい怪物がたくさん住む巨大地下迷宮の中にいます。ここから脱出するには迷宮内にある七つの鍵を取って扉を開け、はしごを昇らなければなりません。あなたには脱出することができるでしょうか…。
(マイコンBASICマガジン'86/9月号より)
電波新聞社が発行していた「マイコンBASICマガジン」、略して「ベーマガ」は、当時の数あるパソコン雑誌の中でも、最も知名度の高い雑誌でしょう。同誌掲載のプログラムは、面白さもさることながら、リストの短かさとコードのわかりやすさが相当に重視されており、プログラミング入門としてうってつけの性格を備えていました。現在プログラマーや技術者として活躍している方々の中には、ベーマガでコンピューターに親しみ、プログラミングを学んだ向きも多いと聞きます。ベーマガとはプログラマーの登竜門のような存在だったのかもしれません。
さておき、「DUNGEON」は同誌に掲載されたMSX用プログラムです。掲載号は1986年9月号で作者は菊池純氏、敵を倒しながら主人公を鍛え、ピープホール(覗き窓)表示される迷宮を探索し、脱出を目指すというRPGです。
当時のベーマガにはこうしたRPGが多く投稿されていた様子で、編集部が「最近のハヤリのRPGもどきの投稿が多いんですよね。」とコメントするほどでした。アクションゲームほどの高速処理や操作性を要求されないこと、それゆえBASICでも比較的作りやすいこと、好みの世界設定ができること、当時のCRPGブーム等々が理由でないかと編集部では考えていたようですが、一方でそうした作品は独自性が出しづらく、ストーリーや画面構成などがどうしても似通ってくるため、評価も厳しめになっていたようです。
その手のゲームであることに違いはないのですが、にもかかわらず「DUNGEON」は、出来がよいと評価されています。具体的にどこがよいかは誌上では言及されていないのですが、そのテンポの良さやゲームのまとめ方は特筆すべきことでしょう。
「DUNGEON」はゲーム中、カーソルキーだけで全ての操作ができます。クリアにはキャラクターの育成が必須ですが、戦闘ごとに成長する方式を採っているので、面倒な経験値稼ぎをする必要もありません。マップのごく狭い範囲を切り取って表示するピープホール方式のおかげか動作速度も十分です。プレイ感覚は良好で、非リアルタイムゲームでありながら、テンポ良く遊べるように作られています。
また、解法を知っていれば30分ほどでクリアできるにもかかわらず、その中で探索する面白さ、敵を倒す爽快さ、成長させる楽しさがきちんと盛り込まれており、気軽にRPGの醍醐味を味わえます。それゆえ厳しい評価に耐え、ベーマガ掲載を果たしたのでしょう。
ちなみにこの作品には変わった逸話があります。ベーマガ掲載後、作者とは別のユーザーが本作を盗作して「MSXマガジン」誌に投稿したら見事採用され、Mマガでも掲載を果たしてしまったのです。
盗作であることは程なく同誌編集部の知るところとなり、件のユーザーはお灸を据えられたようですが、ある意味本作の出来の良さを示す逸話と言えるでしょう。
「DUNGEON」 電波新聞社「マイコンBASICマガジン」1986年9月号掲載
対応機種:MSXシリーズ(RAM8KB以上) 作・菊池純
ジャンル:RPG
プログラム構成:BASICリスト×1
メディア:ディスク・テープ