舞台は我がログイン編集部のある大仁堂ビルヂングでのこと。企画のネタにつまった編集者たちは、またもや、”ジャンケンズ&ドラゴンズ”をやってしまった。ここまでは良かったのだが、編集者の悪のりはジャンケンの神、“ジャンケン魔王”の怒りを買い、ビルは魔王とその手の者に占拠されてしまった。
このままではログインが発行されなくなってしまう。この事態を解決すべく社長の命を受けたキミは、ひとり大仁堂ビルへ潜入したのだった。
(「ログイン」1986年12月号より)
パソコン雑誌にゲームプログラムが載っているのがあたりまえだった時代、各誌に数々の名投稿プログラマーが現れ、人気を集めたものでした。彼らの多くはアマチュアながら、誌上であまたの名作を発表して読者を魅了し、今なお伝説的な存在となっています。ベーマガは高橋はるみさんと森巧尚さんにBug太郎さん。プログラムポシェットならYUKIさんとTEIJIROさん、MSX・FANなら米屋のチャチャチャさんとTPM.CO.さん。そしてログインならば、それはなんといっても高原保法さんでしょう。
高原さんは以前紹介した「ミッドナイトチェイス」シリーズの作者です。他にも「スーパービルディング」「テリージャンプ」「地底大冒険」等、優れた作品をいくつも発表し、ログインの常連投稿者としてその名を鳴らしました。今回紹介する「ジャンケンクエスト」も、そうした作品の一つです。
「ジャンケンクエスト」はサイドビュー式のRPGです。戦闘と探索で己を鍛えラスボス撃破を目指すという、一見はオーソドックスな作品ですが、そこはさすが信頼の高原ブランド、個性的なゲームに仕上がっています。本作を個性的たらしめているのはなんといっても題名どおり、ジャンケンを採り入れた戦闘でしょう。
説明するまでもなくルールが知れ渡っているためか、ジャンケンを採り入れたゲームは数あります。しかしこれを巧く料理できている例は多くありません。なぜならジャンケンの面白さはプレイヤーどうしの駆け引きにあるのですが、ジャンケンゲームの多くはそれを再現できていないからです。
人間どうしがジャンケンをする場合、相手の性格や癖、手の傾向から次の手を予想したり、「次はグーを出すぞ!」といった具合に揺さぶりをかけるということができまして、そこに駆け引きの妙が生まれます。一方コンピュータージャンケンの場合、ランダムに三つの手を選んで出すだけになりがちで、駆け引きが介入する余地がありません。駆け引きの余地がないとはつまり、勝負が全く運次第になるということです。どんなに強いキャラでも運が悪ければ負けますし、技で勝つといったこともできませんから、勝負の面白みが薄れてしまいます。
高原作品「テリージャンプ」。シンプルだが楽しい仕掛けが満載のワンキーアクションゲームの傑作!
ルールをそのまま再現しただけでは、コンピュータージャンケンは単調になってしまいます。そこで本作が見事なのは、敵の裏を掻けるようにすることで、駆け引きを再現しているところです。この作品では、敵の攻撃にパターンを設けたり、戦闘に役立つアイテムをいくつも用意するなどの工夫がされ、これをうまく利用すれば格段に有利に戦えるようになっています。敵ごとに裏を掻く手段を用意することで、どの敵にはどう対処するかという駆け引きが生まれ、それがジャンケン戦闘に面白みを与えているのです。
ジャンケンを面白くするためのアイディアはもちろん、ゲームバランスの良さも見逃せません。必要なアイテムが必要なタイミングで手に入るアイテム配置やマップ設計、敵の強さと移動アルゴリズムの設定等々、その絶妙さは高原作品ならでは。個性的なゲーム内容と優れたゲームバランスの両立。それこそが高原作品の真骨頂と言えるでしょう。
「ジャンケンクエスト」 アスキー「ログイン」1986年12月号掲載 同号ソフトウェアコンテスト 3rd PRIZE
対応機種:MSXシリーズ(RAM32KB以上) 作・高原保法
ジャンル:RPG
プログラム構成:BASICリストx2,マシン語リストx2
メディア:テープ専用