「太陽の神殿」はAVGである。舞台は中米に栄えたマヤ文明の遺跡「チチェン・イツァー」。目的は文明の秘宝「太陽の鍵」を手に入れること。とはいえ古代文明繁栄の源とされる至宝が、そう簡単に手に入れられるはずがない。秘宝は何重にも張り巡らされた巧妙な罠によって、厳重に護られている。この罠をひとつひとつ見破り、適切な対処を繰り返すことによってのみ、秘宝への道は開かれる。
その道のりは、失われた古代王国の冒険のようには優しくない。発売当時から難解なことで知られた「太陽の神殿」。まずは探索のために必要なことを覚えよう。
主人公。およそゲームの主人公らしからぬヴィジュアルだ。
当時のゲームらしく、主人公には名前がない。台詞やキャラ付けもなく、個性というものはほぼ設定されていない。作中に登場するグラフィックは小さなドット絵のみ。飽くまでプレイヤーを表す「記号」にすぎないという印象さえ受ける。
にもかかわらず当時の雑誌広告等には、彼のイラストが度々登場している。その姿は妙に愛嬌のあるいかついオッサン考古学者といったあんばいで、ちょっとだけインディ・ジョーンズの影響も入っているような気がする。
どういうわけかMSX2版では別のテキストに置き換わってしまっているが、他機種の取説では、プロローグとして彼が太陽の鍵を探しに来たいきさつが述べられている。それによれば彼は古代マヤ文明に魅了された人物。中米の密林の奥地で、古代文明の末裔たる少数部族の人々から、太陽の神殿にまつわる言い伝えを耳にした彼は、文明の謎を解く鍵を求め、強く心が感ずるまま、チチェン・イツァーを訪れた、と語られる。
ちなみにイラストは当時日本ファルコムに在籍していた漫画家・都築和彦さんの作とおもわれる。同社の仕事では「ザナドゥ」「ロマンシア」「イースII」等のキャラクターイラストが特に知られている。
操作はほとんどがカーソルとスペース・リターンキーで完結する。カーソルキーでフィールドマップ上での移動およびアイコン選択、スペースキーで確定、リターンキーで実行である。しかしアドベンチャーシーンでのアイテム選択時など、スペースキーがキャンセルボタンとして機能する場面もいくつかあるので、わりと混乱する。ジョイスティックにも対応しており、そのときは各トリガーボタンがスペース・リターンに割り当てられる。
セーブ・ロードはフィールドマップ移動中のみ可能である。フィールド上でQキーを押せばメニューが起動する。ついでにSキーを押すとサウンドのオン/オフを切り替えられるが、あまり使うことはないだろう。
探索は遺跡の中央、カラコル前から始まる。遺跡全体は俯瞰視点のフィールドマップとして提示される。まずは主人公を動かし、怪しそうな場所に移動しよう。すると四角い枠が点滅して表示されるところがある。そこでスペースを押すと、アドベンチャーシーンに切り替わる。建物間の移動はフィールドマップで、くわしい調査はアドベンチャーシーンで進めていくというわけだ。
アドベンチャーシーンでは、各種コマンドを駆使して遺跡を調べ、謎を解いていく。取りたい行動を命令アイコンで選び、必要に応じて対象となる場所や使いたいアイテム等を続けて選択する。
操作は至って簡単だが、謎解きはかなり手強い。途中、何度も失敗しては挫折もするだろう。しかし、太陽の鍵はそれを乗り越えた先にある。諦めずに探索を続けよう。
MSX2版「太陽の神殿」は、オリジナルの88版の翌年・1987年に、東京書籍より発売されている。2メガROM・S-RAMバックアップ搭載のカートリッジとして供給された。
当時、移植に際してオリジナルから変更が加えられることはあたりまえだった。それはこのMSX2版も例外ではない。MSX2ではマップやゲーム展開等、重要な部分がいくつか変えられている。オリジナルより改良された部分もあるが、それ以上に強いて手を加える意味が感じられない変更が目立ち、あまりよい移植ではないとおもう。
移植担当はZAP。「ペイロード」「ミッドナイトブラザーズ」等のソニー名義オリジナルソフトでMSXユーザーに知られたデベロッパーである。
「MSX2版はコンパイルが作った」という噂もある。だが造りの甘さが目に付き、かのコンパイル製であるという印象はない。コンパイルが手がけたのは、後に発売されたファミコン版だ(FC版も販売は東京書籍)。おそらくファミコン版とMSX2版を混同して、こんな噂が生まれたのだろう。他社OEM作品を含むコンパイル作品を網羅した書籍「コンプリート・コンパイル」(1998/BNN)には、ファミコン版の記載こそあれど、MSX2版の記載はどこにもない。
MSX2版はいまいちぱっとしないアレンジ移植といったところだが、実はゲーム史上、意外と無視できない位置を占めている。発売元・東京書籍は、後に「トンキンハウス」のブランドで、スーパーファミコン版「イースIII」と「イースIV」を世に送り出すのだ。
MSX2版「太陽の神殿」は、そのトンキンハウスこと東京書籍がはじめて手がけた日本ファルコムのライセンス作品だったりする。東京書籍がイースシリーズに関わるきっかけ、ひいてはシリーズ存続の一翼を担う一因となったのがこの作品だ…と捉えると、その存在は決して軽くはない…ような気がしないこともない(おい)。
「太陽の神殿」は難解なことで知られる。その理由の一つが、数々の複雑怪奇な罠の存在だ。何気なくとったアクションが取り返しの付かない事態を招くことはあたりまえである。
それを防ぐにはどうすればよいか。とにかく慎重に行動することである。行動を起こす前によく観察する。結果を予測して対策を打つ。あらかじめ逃げ道を確保する。タイミングを見誤らない等々…太陽の鍵を手に入れようとするならば、臆病なほど注意深く行動することを心掛けよう。
秘宝を手にするためには慎重さが必要だ。しかしそれだけではまだ足りない。思いきった行動が必要な場面も多々現れる。大胆な行動が事態を打開することもあるのだ。打つべき手がわからないときは、様々なコマンドを試してみよう。ダメで元々。失敗を恐れず試行錯誤しよう。
試行錯誤の大きな味方となってくれるのが、セーブ機能だ。コマンドを実行して失敗した!と気づいても、その直前にセーブしてあれば、すぐそこからやり直しが効く。コマンドを選ぶ前にひとまずセーブ、というのはわりと有効な作戦となるだろう。それを見越したのか、本作のセーブバンクは9つと多めである。このセーブ機能を存分に役立てよう。
ただしどのバンクに何のデータを記録したかは、一見でわからない仕様である。どこにどんなデータを記録したか忘れないようにしよう。
しかしそれでも失敗はするだろうし、何度もにっちもさっちもいかない状況に陥るだろう。しかし行き詰まったことを知らせてはくれない。そのようなときは、潔く現在の探索を諦め、前からやり直すことも必要となる。
このとき、どこが失敗なのか、どうして失敗したのかを把握・検討することが大切だ。同じ轍を踏まないためにどうしなければならないのかを突きとめられれば、太陽の鍵へとより近づけるだろう。