オレの名前はグインウルフ。金さえ払ってくれるのだったら、誰でも殺す宇宙の刺客として人々から恐れられている。
でも、そういつも人殺しをしているわけではないのだ。何しろオレに仕事を依頼するには金がかかるからな。一殺5000コスモドル。このくらいは人殺しを頼むなら常識だぜ。
ある日、差出人不明の小包が届いた。中には現金5000コスモドルと一通の手紙だけだった。「ゲルマを殺してくれ」とだけ書かれてある。どういう形にせよ金を受け取った以上、引き受けねばなるまい。さあ、チャオ、出発準備だ!
無法地帯”ガウスタ”にゲルマは潜んでいるという情報をつかんだグインは、愛機”ブースタード”を飛ばした。
(「ログイン」1986年6月号より)
「ログイン」には市販ソフトを志向した大作プログラムがたびたび掲載されていました。全8リストからなる本作「ザ・グインウルフ」も、そうした大作の一つだと言えるでしょう。
「ザ・グインウルフ」は「ログイン」1986年6月号に掲載された、MSX用SFロールプレイングアドベンチャーゲームです。長くて珍しいジャンル名が示すとおり、本作はAVGとRPGを融合した作品で、それを最大の特徴としています。AVGならではの謎解きと凝った物語、それにRPGならではの戦闘の楽しさ、パラメーター管理の駆け引きを一緒にするという試みは、非常に野心的なものと言えるでしょう。特筆すべきはキャラクターデザインで、PCG機能を巧く使った背景や登場人物のグラフィック、スプライトを使いこなした敵メカ等、センスの良いグラフィックは、宇宙物SFならではの格好良さをゲームに加えています。ゲーム自体は謎解きの難しさはもちろん、全編にわたってシビアな賞金稼ぎとその運用が求められるため、難易度は高めになっています。しかしAVG部分のボリュームの少なさをRPG部分がうまく補い、ちょうどよい遊びごたえになっているところも見逃せません。
このように、本作は非常に欲張りな作りなのですが、一方でそれが裏目に出た部分もあります。AVGパートは解釈してくれる単語も少なく、また当時のゲーム同様ヒントもないため、シビアな言葉探しを求められます。シーン数の少なさゆえ、物語展開に唐突さを感じるところもあります。戦闘モードも敵の機動にバリエーションが少なく、数ある武器も使い分けする理由に乏しく、いささか単調さが見られます。
それはMSX32KB・オンメモリというハードの制約ゆえでもあるでしょうし、ゲームデザインの限界でもあったでしょう。ログインではこうした部分を指して「あれもこれもと欲張ったゲームコンセプトが、まとまりのない作品にしてしまった。」と評しています。
こうした作りゆえプレイヤーを選ぶところはありますが、それでもなお本作には、それらの粗を吹き飛ばしてしまうほどの魅力があります。センスの良いグラフィックはもちろん、MSX32KB・オンメモリという条件に、AVGやRPGのおいしいところをこれでもかと詰め込んだサービス精神や意欲は素晴らしいものです。そして何より、曲がりなりにも破綻なくAVGとRPGの融合を果たしたところは、大いに評価されて然るべきでしょう。
「ザ・グインウルフ」 アスキー「ログイン」1986年6月号掲載 同号ソフトウェアコンテスト 3rd PRIZE
対応機種:MSXシリーズ(RAM32KB以上) 作:永田貴範
ジャンル:SFロールプレイングAVG
プログラム構成:BASICリストx3,マシン語リストx5
メディア:テープ専用