テープ版との比較

 冒頭で述べたとおりMSX用「トリトーン」には、ROM版の他、カセットテープ版が存在します。テープ版はROM版の前年1985年に発売されており、MSXではこちらが最初のリリースとなっています。基本的な内容は同じですが、ROM版はカセットテープ版の改良版であるため、両者には様々な違いがあります。その違いについても、大まかに触れておきましょう。
 なお、マップを含め変更点が多いためか、ROM版とテープ版とでは、セーブデータが共有できません。


タイトル画面の追加

リスト2ロード中
テープ版ロード中。ロード待ちはテープソフトの儀式のようなものだ。

 テープ版にはタイトル画面がなく、プログラムをロードし終わるとそのままゲームが始まりますが、ROM版では操作説明兼用のタイトル画面が設けられています。
 ROM版のタイトル画面は、画面右側から一文字ずつ「トリトーン」の文字が現れるという、それなりに凝ったものになっています。


画面がスクロールで切り替わる

ROM版の画面スクロール
ROM版のスクロール切り替え。80年代中盤のPCゲーマーはそれだけでもどよめいた。

 隣の画面に移動する際、テープ版では一瞬で画面が切り替わりますが、ROM版ではスクロールして隣の画面が現れます。当時は「1ドットのエクスタシー」という文句が惹句として通用してしまうほど、スクロール表示は目玉となる技術で、滑らかで高速なスクロールを実現すべく、各ソフトハウスが力を入れていたものでした。
 スクロール式画面切り替えは、見た目がカッコいいのみならず、マップの繋がりがわかりやすいという利点があるのですが、一方で敵に弾かれる等で画面が切り替わってしまった場合、いちいちスクロールしてうざったいという短所もあるので、一長一短です。


敵のステータスが若干異なる

 HPが違っていたり得られる経験値が異なるなど、テープ版とROM版とでは、敵キャラのステータスが若干異なっています。例えばテープ版ではメイジやドラゴンで相当にレベルが稼げたのですが、ROM版では得られる経験値が若干減らされています。ROM版開発にあたり、ゲームバランスの微調整を図ったものと思われます。


音楽周りの改良

 曲自体は同じなのですが、PSGドライバーが改良されたのか、ROM版はテープ版より軽快な音色で鳴っています。テープ版はROM版よりも若干重たい音色で鳴っているため、重厚な印象を受けます。また、剣を振ったときの音やダメージを受けた時等、効果音にも手が入れられたようで、テープ版とROM版とでは微妙に音が違っています。
 BGM数も増えています。追加されたタイトル画面やエンディング用BGMの他、ゲームオーバー用の曲が用意されました。これら楽曲は新曲ではなく、もともとPC-6001版で使われていたものがMSX版にも使われています。


被ダメージ時のエフェクトが追加された

 あまり目立たない変更点ですが、ROM版では敵からダメージを受けると、トリトーンが一瞬フラッシュするというエフェクトが追加され、視覚的にわかりやすくなっています。


WAVERの色が違う

テープ版WAVER洞 ROM版WAVER洞
間違い探し。左がテープ版で右がROM版。

 ROM版ではグラフィックにも少々手が入れられ、一部の敵やアイテムのグラフィックが少し変わっています。一番わかりやすいのはWAVERで、テープ版では明るい青色でしたが、ROM版では濃い青色に変更されています。アイテム類にもいくつか微細な変更点がありますので、興味のある方は調べてみましょう。
 ちなみにトリトーンのドット絵も多少手が加えられてまして、ROM版の方がマンガチックなデザインになっています。


隠しキャラの追加

 ROM版にはテープ版にはない隠れキャラが追加されています。捕まえるとマジックボールが増えるものと、同じく体力が全快するものの二種類が確認できています。
 隠しキャラですので見つけずともクリアは十分可能ですが、これを利用すると通常の上限以上にマジックボールを蓄えることができるので、ゲーム進行が少し楽になります。
 当時はファミコンを中心とする裏技ブームの真っ最中で、ゲームに裏技や隠しキャラを仕込むことがはやっていました。「トリトーン」もその流れに乗ったものと思われます。


王室のマップや解き方が全く異なる

テープ版王室
テープ版の王室。ROM版とは全くマップが異なる。

 ゲームの最終面となる王室はテープ版では6画面で構成されていますが(これでも他の機種より多い)、ROM版では大幅に増え21画面になりました(ループ・重複は含めない)。それに伴い新しいマップを利用した謎解きも設けられ、テープ版はもちろん他機種版と比べても、ROM版はさらに難解になっています。その背景には、より広くより難しくという当時のコンピューターゲーム界の潮流がありました。


ビッグドラゴンの追加

 ROM版では新たにボス敵「ビッグドラゴン」が追加され、大きな売りとなっていました。日本ファルコムの「ザナドゥ」以来、スムーズに動く「デカキャラ」はゲームの華となりまして、ソフトハウスの腕の見せ所でもありました。テープ版のデカキャラは、最終ボスのペイ・バルーサしか登場しません。
 同じ32KBのプログラムであるにもかかわらず、数々の追加要素を盛り込むことが可能になったのは、メモリマップ上のプログラム配置の関係上、テープよりもROMカートリッジの方が、実質的に使えるメモリが多くなるという、MSXのハード特性に由来するものと思われます。


ペイ・バルーサのデザインが違う

テープ版ペイ・バルーサ
噂のテープ版ペイ・バルーサ。当時のプレイヤーに強烈なトラウマを植え付ける。

 ペイ・バルーサのデザインは、ある意味ROM版とテープ版の最大の違いかもしれません。他機種のペイ・バルーサは長剣を振り回す鎧魔人なのですが、どういうわけか、テープ版では槍を携えた蜂の化け物となっています。ギャグマンガに出てくる悪魔のような、お世辞にもカッコいいとは言えないペイ・バルーサは、当時のプレイヤーにとっては相当に衝撃的だったようで、テープ版の象徴のように語られています。
 なぜペイ・バルーサが蜂の化け物になったのか、今となっては不明ですが、数々のホビーパソコンが林立していた当時、ゲームの移植は現在以上にシビアな物がありました。ハード間の性能差が少なくなり「忠実な移植」が可能になったのは、もっと後の時代のことです。同じゲームであっても容量やハードの制約によって、ある機種では実現できたものが別の機種ではできなかったりといったことはざらでして、ハードの性能に合わせたグラフィックや音楽の大幅変更はもちろん、マップや敵キャラをごっそり削ったり、時にはゲーム展開まで変えてしまうという例はあたりまえに見られることでした。
 ただしこの変更は非常に不評だったのか、ROM版では他機種版同様の鎧魔人に戻されています。他の機種では背後に回り込むと一方的に攻撃できるというバグ技があったのですが、ROM版では左右に振り向くよう見直され、正攻法以外では倒せなくなっています。


エンディングの強化

「YOU WIN A VICTORY.」
衝撃のエンディング。「散々頑張ってこれだけかよ!」と。

 他機種版の「トリトーン」では、ペイ・バルーサを倒すと、音楽とともに一画面ほどのメッセージが表示されエンディングとなるのですが、MSXテープ版では「YOU WIN A VICTORY.」の一文が表示されるのみです。当時のゲームのエンディングはあっさりとしたものが多かったのですが、にもかかわらずカッコ悪いペイ・バルーサといい一行で済むエンディングといい、「苦労した末にこの仕打ちはないだろう!」と、プレイヤーを落胆させたものです。
 ROM版ではこれも改良され、他機種に匹敵する内容のエンディングが見られるようになりました。ちなみに「YOU WIN A VICTORY.」は、エンディングメッセージの一節で、テープ版は容量の都合でそこだけ引用したものと思われます。


テープ版攻略ガイドと王室マップ

 王室に行くまではROM版と変わりない。王室の展開は大きく異なるが、謎らしい謎はない。王冠もあっさり手に入ればビッグドラゴンを倒す必要もないので、ROM版よりもクリアは容易だろう。ただし常時上から降ってくるSOULが非常に邪魔なので、これにだけは気をつけよう。
 ROM版と違いペイ・バルーサにも魔法が効く。フラッシュでHPを半分近く削ることができるので、ぜひ使おう。


テープ版王室

テープ版王室マップ

最深部のみ上下にループします。


テープ版ペイ・バルーサの間

テープ版ペイ・バルーサの間

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