近ごろのアクションゲームというと、スクロール&パワーアップアイテムによる自機のバージョンアップ、というパターンが主流になっている。早い話、”グラディウス”や”ガルフォース”に代表されるあれね。
この”パースペクティブ”は、そんな時流に乗ったスクロールシューティングゲームだ。
論より証拠、とにかく遊んでみてください！ MSXユーザーだったら、プログラムを打ち込んで損はない！ ログイン、ファミ通のゲーマーたちをして「これはおもしろい！」って言わしめたんですもの。
（「ログイン」1987年4月号より）
アクション、パズル、ロールプレイング、シミュレーション。ゲームには数々のジャンルがありますが、投稿プログラムもそれは同じです。中でもシューティングゲーム（以下STGと略）は投稿界でも花形と呼べるジャンルでした。今回紹介するログイン掲載作品「PERSPECTIVE(パースペクティブ)」は、吉田哲馬さんによるMSX用STGです。
本作はオーソドックスな縦スクロールSTGです。時々現れるカプセルを回収して自機を強化し、個性的な敵機を撃墜しながら先の面を目指すというもので、全編カッコイイBGM付き、各面最後にはもれなくボス敵との対決も待っています。まさに王道中の王道を往くSTGなのですが、この作品が発表された1987年当時、「オーソドックスなSTG」とは、まだまだ衝撃的な存在でした。
現在ではもはや定番となった「スクロール」「ボス敵」「BGM」「パワーアップ」「オプション」「バリア」といった要素を全て揃えたSTGは、80年代中頃にようやく登場し、広まっていったものです。パワーアップSTGの元祖とされる「グラディウス」の登場が1985年です。87年にアマチュア制作STGとして、これら要素をことごとく採り入れた「PERSPECTIVE」は、意欲的な作品だったと言ってよいでしょう。
意欲的なだけではありません。本作はほぼマシン語のみで組まれ、快速に動作します。操作性は至って良好。バラエティに富んだステージ構成や敵の攻撃パターンもプレイヤーを飽きさせません。何より「避けて撃って撃墜しまくる爽快感」「敵との応酬自体で魅せること」といった、基本中の基本がしっかりと作りこまれ、非常に楽しめるSTGに仕上がっています。
このように本作はアマチュア制作でありながら、高い技術力とセンスに裏打ちされ、市販ソフトにも決して引けを取りません。その出来は当時のファミ通担当のゲーマーらも称賛し、海外のスペインでは「SHIP」と改題され、勝手に市販ソフトとして販売されたほどです。
吉田哲馬氏の代表作「吉田工務店」と「吉田コンツェルン」。STGコンストラクションの草分け的存在。
「PERSPECTIVE」は同氏のデビュー作にあたる。
作者吉田氏は、後にSTG作成ソフト「吉田工務店」シリーズを制作し、その作者として知られることになります。BASICではなくマシン語からプログラミングを学び、初めて作ったというゲームが本作「PERSPECTIVE」だったそうで、ここにその鬼才ぶりが十分うかがえます。
当時のアマチュアプログラマーにとって、一番なじみのあるプログラミング言語はBASICでした。BASICは理解しやすく習得が容易という利点がありますが、動作速度が遅く、アクションゲームやSTGの制作には向いていませんでした。そこでBASICに不満を覚えたユーザーはマシン語を志向したのですが、低級言語ゆえ習得が難しいものでした。マシン語で自在にシステムが組めるということは、多くのユーザーにとっての憧れであり、ステイタスとなりました。80年代中頃までは、市販ソフトでさえBASICで組まれることもしばしばで、「オールマシン語」であることは技量の高さを示すものとして、作品の売りになりえたのです。
投稿プログラムでも、腕に覚えのあるプログラマーは盛んにマシン語を採り入れました。マシン語プログラムは「ダンプリスト」こと、たいがい膨大な量の16進数で記述されたのですが、傍目には意味不明の数字の羅列に過ぎないため、入力と修正は一仕事でした。マシン語で書かれた大作を入力するということは、あたかも大海を泳いで渡るようなもので、相当の覚悟を必要とする行為でした。そのかわり苦心して入力した末に待っている、BASICでは味わえないスピードやグラフィックに、ユーザーは酔いしれたのです。
「PERSPECTIVE」 アスキー「ログイン」1987年4月号掲載
同号ソフトウェアコンテスト 2nd PRIZE
第3回ソフトウェアコンテスト 87年上半期 選外佳作
対応機種:MSXシリーズ(RAM32KB以上) 作・吉田哲馬
ジャンル:STG
プログラム構成:BASICリストx1,マシン語リストx1
メディア:テープ専用