小学館のパソコン雑誌「ポプコム」は、「ガンダーラ」の紹介に力を入れていました。短期集中連載攻略記事「同時進行レビュー」を掲載するほか、制作秘話や攻略まんがなども掲載しています。ここでは「ポプコム」87年10月号に掲載された制作者座談会「ガンダーラ制作者『発表できてヨカッタ』座談会」を再録する形で紹介いたします。「ポプコム」の攻略記事担当ベラ子氏を司会進行役に、槙村氏、日高氏、すぎやま氏の他、演出兼プロデューサーであるエニックス高野豊氏が加わり、「ガンダーラ」制作の裏側を語っています。
また、エニックスが電波新聞社「マイコンBASICマガジン」誌上に持っていたPR記事「エニックス通信」87年5月号分にも、制作者のコメントが掲載されています。その制作者インタビューも紹介いたします。
(以下転載。誤字脱字は適宜訂正。荒井のコメントは<>で表記。)
連載最後を迎えて、ふだんみんなが知らなかったことや、知りたかったことを、ぶつけるため、制作者全員に集まっていただいて座談会を開いてみた。最初はキンチョーぎみだったベラ子やほかの方々も、しだいに本音が出て、しまいにはジョーダン大会になってしまいました(でも、きくとこはちゃんときいたぞ)。そして、こんなおもしろいゲームができたのは、やっぱり作っている人間がおもしろいからなんだぞってことと、楽しくなけりゃ人生じゃないってことがわかってもらえるとうれしい。これを読めばまたちがった楽しみ方が味わえることまちがいなしである。
プログラマーの日高徹氏。妻子をかかえて日夜新技術を勉強している。
ベラ子「きょうは、おいそがしいなか集まっていただきまして、どうもありがとうございます。さっそくですけど、素朴な質問。これって、どうして作られることになったんですか?」
日高「え〜、じつは、最初ぼくは”時代劇”調のゲームを作るっていうんで呼ばれたんですよ。でも、そのころ(約1年前)は、そういうのが多かったからやめることにして、急きょこういう内容のものはないねってことになって、作ることになったんです」
ベラ子「へえ〜。そうなんですか。で、作る段になって苦労したことはありますか?」
日高「ある、ある。シナリオやキャラクターやダンジョンなどは、すべて槙村さんが考えてくれたんですけど、できないアイデアばっかり持ってくるんです。あんまりそういうのがあるから途中で、ここまではできるけど、こういうのはできないって規制しました。」
ベラ子「たとえば、できないってんでボツになったアイデアってのはどんなんですか」
槙村「え〜、バジラパワーとか……。大臣とか、今あるのよりデカいキャラとか」
プロデューサー兼演出の高野豊氏。ひたすらスムーズな進行を願う。
ベラ子「はっ? なんすかバジラパワーってのは」
槙村「法力より上のパワーのことです。ダンジョンで使えるようにしようと思って。で、大臣ってのは人間界のエライやつなんでして……」
日高「プログラムが苦しくなっちゃうからやめたんですよ。デカいキャラも。どうすんですか、そんなの(フンフンして)」
すぎやま「まあまあ、すんだことだし。でね、思うんだけどね、やっぱいちばんいいのがボスキャラで、悪いのがボツキャラなわけ」(一同爆笑)
高野「本当は槙村さんのシナリオだと世界が10界ぐらいあったんですよ」
ベラ子「どえ〜。そんなに。今の6界になったってのは?」
高野「ええ、長すぎるからやめたんですね」
槙村「本当はもっと作りたかったし、もっとこわいものにしようと思ってたんですけど、アイデアが尽きちゃって」(笑う)
ベラ子「そうですよね、コレ。内容のわりには各界あんまりこわくなくて。でもいちばんこわいと思ったのは地獄界ですね。だって、あれって赤いのは血の池地獄なわけだし、しゃれこうべばっかり出てくるでしょ?」
日高「そうなんですよ、ぼくなんか夜自宅でプログラミングしてて、こわくてこわくて。そんで、畜生界に移ると妙にホッとしたりして。プログラミングはゲームの順番どおりやっていきましたからね」
ベラ子「わかります。だって、これって本来たいへんコワイことやってんですよね」
高野「そうなんですよ、ぼくなんか何かあるんじゃないかって、みんなでお参りに行きましたよ」(笑う)
すぎやま「ねえ、でもさ、前にみんなでどの世界がいちばんこわいかって話したときに、やっぱり1番は『業界』ってことになったよね」(大爆笑)
原作・ゲームデザインの槙村ただし氏。
ベラ子「ぐわははは。っと、話をもとにもどして。え〜作り手としてはユーザーにどのように楽しんでもらいたいと思いますか?」
槙村「んっと(マジメに)、クリアすることばっかり考えないで、キャラクターや各世界を楽しんでじっくりやってほしいですね」
日高「そうですよ。これはせっかく槙村さんが前世で見てきたことを描いたんだから」
ベラ子「えっ、槙村さんって行ったことがあるんですか? 地獄界とか餓鬼界とかに」
日高「あたりまえでしょ。でなきゃあんなの作れるワケないじゃない」
ベラ子「本当ですか? 槙村さん」
槙村「…………」
ベラ子「?????? 再び話が横道にそれましたので、もどします。すぎやま先生は、どういった感じで音作りをなさったんですか?」
ベラ子。なぜか写真が大きいが、お見合い写真ではないです。
すぎやま「制作中の絵を見せてもらって、その雰囲気を自分なりに理解して作りましたね。たとえば菩提樹とかなんか」
ベラ子「そうですね。ええ。出てます」
すぎやま「ぼくはいつも思うんだけど、音楽もそうだけど、絵がキレイとかキャラクターがいいとか、そういったソフトのソフトがよくないといいゲームだとはいえないと思うんだ。だって、今はもう音楽なら音楽、デザインならデザイン、シナリオならシナリオって、映画制作のように分担されているから、ある程度のものはできてあたりまえなんだから」
高野「だからプロデューサーっていうのが、そういう人間をえりすぐってゲームを作る総括者だから、そういう人の質も問われるわけですね」
ベラ子「そうそう、高野さんってこれの演出兼プロデューサーですもんね。大変だったでしょ、こういった個性の強い人たちをまとめたり、スケジュール合わせたりすんのが」
高野「いやあ、そんなことはないですよ。大変だ大変だっていってもゲームを実際に作るのは彼らなんだから、ぼくがどうのこうのいったってしょうがないっすよ。作ってるときはいつも、ちゃんと集まってくれさえすればいいと思ってただけですよ」
日高「それだったら内心ハラハラしてたんじゃないですか? だっていつも次どうするかって感じで進んでいってましたから」
ベラ子「え〜、そうなんですか。さっき槙村さんがシナリオ考えたっていったじゃないですか」
槙村「シナリオがあっても、プログラムでできないところが多々ありましたからね」
日高「最初のシナリオでこのゲームに使われたってとこは、人間界の如来洞の岩を大男がどかすっていうとこだけですよ」
ベラ子「ゲゲッ。そうなんですか」
槙村「まあ、シナリオはそんな感じだけど、キャラクターはほとんどですからね。でも、1つだけ日高さんが考えたキャラがあるんですよ」
すぎやま「へえ〜、何それ」
日高「(テレながら)いやあ、小さいヤツですよ。もう時間がなくて槙村さんにきくのめんどくさくて作ったんですよ。それが鬼子母神の吐き出すブルーのヤツなんで」
ベラ子「ああ、あのブルーの人魂に目とか口がかいてあるヤツ」。
日高「名前もあるんです、だれも紹介してくれないけど。気鬼って」
ベラ子「(話を急に変える)で、みなさん次に何か作るとしたらどういった系統のものを作りたいですか」
日高「ぼくは何でもやりたいです。ただしシミュレーションは性格に合わないのでやらないと思うけど」
槙村「アクション的なものがいいですね。それでやってておもしろくて笑っちゃうようなものがいいですね」
<槙村氏は後にナツメのPC88用アクションゲーム「魔浄理子 淫靡界(インビゾーン)」で、キャラデザとシナリオを担当している。こちらは同氏お得意のお色気路線ゲーム。>
ベラ子「ギャグ的なものですか?」
槙村「まあ、そんなところですね」
音楽のすぎやまこういち氏。バックギャモン協会の会長でもある。
すぎやま「ぼくは注文待ち。だけど、ミュージカル的なものをやりたいなあ、とは思う。そういったのがないから。それと『西遊記』が絵もストーリーもすべていいのだったらやりたい」
高野「売れるものだったら、何でもやりたいですよ」(笑う)
ベラ子「新作は現在何かやってないんですか? このメンバーで作ると聞きましたけど」
高野「だれから聞いたんですか? やってないですよ。ただ、またやろうとは思ってますけど」
ベラ子「えっ、いつごろですか?」
高野「たぶん、来年の末には完成すると思いますが、まだそう思ってるだけです」
ベラ子「逃げましたね。まあいいです。作るっていうのがわかれば。で、内容はどういったのですかね」
高野「しつこいですね。わかんないですよ。でも、ここんとこ『ジーザス』がキリストで、これが仏教だから、もしかしたらそんなのにも……」
ベラ子「いいですね、それ。宗教のゲームをシリーズ化しちゃうの」
すぎやま「ラマ教とか、回教とかね」(爆笑)
<意識したわけではなかろうが、イスラム教を題材にしたゲームとしては、後に日本テレネットが「XZR」を出している。もちろんエニックスや「ガンダーラ」スタッフは関わっていない。>
高野「まあ、わかりませんよ。とにかく」
ベラ子「それっでは、最後にみなさんから何か明日のゲーム作りをめざす少年少女たちにひと言ずつお願いします」
日高「プログラマーをめざす人の場合、ぼくはプログラムの世界だけじゃなく、ほかのいろんな経験を積んでもらいたいと思う。というのも、ひらめきっていうのが必要だから。ぼくなんかプログラマー始めたの34歳からですよ。いくつになって始めても見聞が広ければそれだけおもしろいものが作れますから」
槙村「ゲームデザイナーもそうだと思います。だから絵だけじゃなく小説読んだり、映画見たりといろんな分野をやってみてやったほうがいいと思います」
すぎやま「まさしく、そのとおり、ぼくもゲーム音楽だけでなく、ジャズやクラシックや演歌などのいろんな音楽をきいてからやってほしいと思う。じゃないと世界が狭くなって、幅のないおもしろみのないBGMになってしまいますからね」
高野「プロデューサーもそうです。さっきの続きになるけど、みんなをまとめたりするには、いろんな対応ができなくちゃいけないからね」
ベラ子「なるほど。そうですね。いやあ、なんだかやっとまともな対談らしくなってきましたね、最後のほうになって。で、それ以外に何かいいたいことはないですか」
すぎやま「『ガンダーラ』のLP出ていますのでよろしく」(大爆笑)
っと、いう感じで終わったこの対談、いかがでしたかな。ベラ子はね、いいゲームはやはりいい人間と、いい人間関係がないとできないと思った。で、今回登場していただいた方々はまさしくそういったことが当てはまる人たちだったので、うれしかったのだ。それにさっきのアドバイスにもあったけど、ゲームの内容のわりに人生経験たっぷりある人たちが作ってる(平均年齢42歳なのだぞ。信じられるかな)。そして、移植なんだけど、98、77、X1、MSXは秋から今年の末にかけて出るそうだから、待っていろよ。
近くのお寺でハイ、チーズ。
制作スタッフの方々にガンダーラを作った時のエピソードを語ってもらいました。
●すぎやまこういち先生(音楽担当)
『僕はこういった感じの(たとえばドラクエ)ゲームが大好き人間なので、すんなりとガンダーラの世界に入っていくことができ、スイスイと作曲できました。ただ不思議なことに、一番長いテーマ曲の”ガンダーラへの道”が5分くらいで出来たのに、効果音とか、5秒ほどの節目に入るメロディなどに2日もかかってしまったのにはまいりましたね。
自分としては今までのゲームにまったくなかった世界(オリエンタル・ムードあふれる音楽)を表現してゆくということに興味がありましたし、実際何曲かはガメラ音楽(バリ島を中心として広まったインド圏の音楽)を取り入れました。
とにかく今は一日でも早くこのゲームをひとりのユーザーとして遊んでみたいと、思っています。』
●槙村ただし先生(シナリオ・グラフィック担当)
『今までは自分でプログラムまで担当していたのですが、今回は日高さんがプログラムするということで、初めてプログラムから離れたので、第三者が見てもすぐわかるという形にシナリオを作成しなければならず、そこのところがこれまでとまったく違っていたので苦労しました。しかし大変だったという点ではやはりグラフィックでしょうね。
キャラクターをいかに表現するかということについても、色の制限などがあり、また作パターンについても、色と同様に制限があったため、許される範囲の中でいかにキャラクターを魅力あるものに作っていくか、いかにより生き生きとした存在にまで昇華(しょうか)させていくか、ということが一番難しく、そしてそれとともに一番やりがいのある部分でもあったように思います。
とにかく今みなさんに見てもらいたいところは、各世界(六凡界)の変化や違いについてです。色あいや雰囲気などひとつひとつを、その世界としてのイメージでとらえ工夫をこらして表現したつもりです。』
●日高徹先生
『苦労したことといえば画面のエンド処理ですね。スクロール・マップ自体は比較的簡単なんですが、敵キャラが画面のはじにいた場合、全部一度に消すのではなくて、よりリアル感を出すためにはじょじょに画面のスミから消していくという方法をとらねばならず、この点には本当に苦労しました。
それと、なるべくたくさんの要素を入れてボリュームのあるゲームにしたかったのですべてのデータに圧縮をかけまくりました。
私の目標として、パソコンにしかできない世界を表現したいという思いがあって、たとえばファミコンでは作れないもの(グラフィックにおけるキメ細かさ、文字などは漢字を使い、字体もワープロに近ずける)を、目指しているんです。
作るのはとても大変だったけれど、今はとにかくユーザーの方々に楽しく遊んでもらえたら、そのことだけで大満足です。』