黄泉の国を制し地下に帝国を築いた邪悪の王ハデスは、地上にまでその手をのばし始めた、永い間平和だった地上の世界にも、危機が近づいていた。しかし人々が気付いた時、すでに地上は邪悪な怪物たちに占領され、怪物が人間を襲う恐ろしい世界に変わっていた。
平和な世界でおく病になってしまった人々の中、ハデスの侵略を阻止するべく、一人の勇敢な少年が名乗りを上げた。その名はヘラルド。つまり、プレイヤーであるキミだ。
(ログイン'87/7月号より)
なんとマルチウィンドーのロールプレイングなのだ!
〜ログイン87年7月号から
1986年のファミコン用RPG「ドラゴンクエスト」(以下ドラクエと略)の登場は、和製CRPG史上、重大な出来事でした。明快さと遊びやすさを兼ね備えた内容は、それまでパソコン中心でマニア向けだったCRPGのハードルを下げ、広く世間にCRPGなるものを知らしめました。日本におけるCRPGのひな形を示したと言ってよいでしょう。
「ドラクエ」の影響は、もちろん自作ゲーム界にも及びます。フィールドを歩き廻って戦闘を重ねて成長し、魔王を倒す。こうしたスタイルのRPGがとみに増えたのは(「夢幻の心臓」という魁があったにもかかわらず)「ドラクエ」以降だったように思われます。今回紹介する「ログイン」掲載プログラム「グロリアスフォース」は、そうした時代に登場した「ドラクエ風」CRPGです。
「ドラクエ」のゲームシステムの特徴をおおざっぱに挙げると、2Dトップビューのフィールドマップ、ランダムエンカウントとコマンド式戦闘、「経験値稼ぎ」によるレベルアップといったところでしょうか。こうしたゲームシステムを備えたCRPGは、しばしば「ドラクエ風」と称されます。プログラミング技術的にはマップ表示さえなんとかしてしまえば、それ以外は難しい処理なしでも形になってしまうため、自作ゲームとしては作りやすかったのかもしれません。そのうちわけは玉石混淆でしたが、この「グロリアスフォース」は、ログイン誌のプログラムコンテスト「ソフトウェアコンテスト」でグランプリに入賞するなど、他より飛び抜けています。
「グロリアスフォース」でまず目を惹くのは、なんといってもそのヴィジュアルです。MSXの「多色刷りPCG」で美しく描かれたフィールドマップ、単色スプライトながら凝ったモンスターグラフィック、そして何より各種コマンドやメニューの洗練されたマルチウィンドウ表示は、あまたの自作「ドラクエ風」RPGの水準を大きく超えており、市販ゲームにさえ見劣りしないものでした。マルチウィンドウ(重ね合わせ処理をしていないため、飽くまでマルチウィンドウ風のGUIなのだが)のおかげで、見た目がかっこよくなったばかりか、煩雑な操作がなくなり遊びやすくなったことも見逃せません。
ゲーム内容も外見に負けていません。32Kオンメモリという限られた条件ながら、それなりに広いマップ、様々な種類の武器やアイテム、数々の商店、いくつものパラメーターと魔法、BGM、バラエティ豊かな敵モンスターが登場し、相当のボリュームを実現しています。そればかりか、「ドラクエ」以外にも「ザナドゥ」「ハイドライドII」といった人気CRPGまで意識するなど、CRPGの「おいしいところ」が余すことなく詰め込まれています。
このようにヴィジュアル面でも内容面でも面白さを貪欲に追求したぜいたくな作りは、投稿プログラム屈指のもの。そこが高く評価された理由でしょう。
一方、プログラムリストは相当に問題が多いものでした。長すぎるマルチステートメント、多重入れ子になったIF文、入り乱れたGOTO・GOSUB&RETURN、どこをコールしているのか特定しづらいマシン語サブルーチン呼び出し処理、全くないREM文等々、プログラムは典型的なスパゲティ。可読性は劣悪の一言です。容量を圧縮するためと思われますが、洗練された見た目に比して、プログラムはお世辞にも美しいとは言えません。バグも散見されます。
プログラミングの手本としての性格が強かったベーマガ掲載プログラムに対し、ログインは面白さを第一としていました。ログインのプログラムコーナーは、未来のゲーム作家の発掘・育成の場という性格が強く、面白ければリストの書き方は度外視される傾向にありました。プログラムの明快さよりもゲームとしての面白さが優先されたのは、当然のことだったのかもしれません。
ところでこの直後からログインはリスト掲載を取りやめ、当時ブラザーが展開していたパソコンソフト自動販売機「TAKERU」でのデータ販売と、リスト郵送サービスに切り替えてしまいます。「グロリアスフォース」は、ログインにリストが載った、最後のソフコンMSX作品となりました。
「グロリアスフォース」 アスキー「ログイン」1987年7月号掲載
同号ソフトウェアコンテストGrandPrix
第4回ソフトウェアコンテスト87年下半期 優秀賞
対応機種:MSXシリーズ(RAM32KB以上) 作:鈴木一輝
ジャンル:RPG
プログラム構成:BASICリストx2,マシン語リストx1
メディア:テープ専用