この伝説は、今私たちが住んでいる世界とは全く別の空間での物語です。ここは、妖精の住む王国、フェアリーランド。ここは王様の住んでいる宮殿を中心に広がっている、緑の美しい平和な王国でした。この宮殿には三種類の不思議な宝石が祭られており、その宝石によって王国の平和は保たれていたのです。人間と妖精達はこの世界でお互いに共存し助け合いながら、仲よく暮らしていました。ところがある日、悪心を起こした人間によって宝石のひとつが盗まれてしまったのです。数が足りなくなってしまった宝石は、その輝きが鈍くなってしまい、遂に宝石によって封印されていた、神話伝説最強といわれる悪魔バラリスが目覚めてしまったのです。バラリスの魔力によって残りの宝石もいずこかへと飛ばされてしまい平和であったフェアリーランドも崩壊してしまいました。国王のプリンセス・アンもバラリスの魔力によって妖精にされて、いなくなってしまいました。王国を崩壊させたバラリスは、国のあちこちに怪物を放ち、人々の心を恐怖と絶望が支配したのです。この悪魔の悪行に耐えかねた一人の勇敢な若者が、王国の復興を願ってたちあがりました。彼の名はジム。ジムは人々の希望を一身に背負って、たった一人で怪物に挑戦していったのです………。
1984年12月、名古屋のソフトハウスT&Eソフトから一本のパソコンゲームが発売されました。題名は「ハイドライド」。「アクティブロールプレイングゲーム」と銘打ったその作品はアクションゲームの遊びやすさ、ロールプレイングゲームのキャラクターを育てる楽しさ、アドベンチャーゲームの秘密捜しの醍醐味を融合し、それまでのパソコンゲームにはない面白さを備えていました。
それまでのRPGには「ウィザードリィ」「ウルティマ」「ローグ」等々、動くごとに面倒なコマンド入力が必要だったり、テキスト主体で見た目に地味なものが多かったのですが、「ハイドライド」の革命的なところは、凝ったグラフィックスで鮮やかに描かれた世界を、簡単なキー操作のみで冒険できるところにありました。アクションゲーム感覚で遊べるRPG。その斬新でエキサイティングな内容は当時のパソコンゲーマーたちを魅了し、瞬く間に大ヒットするに至ります。
「ハイドライド」の登場は日本ゲーム界に大きな影響を与えます。これを皮切りに、世にはアクションゲームとの融合を試みたRPGが続々と登場し「アクションRPG」なるジャンルを築いていくことになりました。それゆえ「ハイドライド」はARPGというジャンルを確立した歴史的作品、「元祖ARPG」と認識され、ゲーム史上にその名を燦然と輝かせています。
「ハイドライド」は原作者の内藤時浩氏が手がけたオリジナルPC-8801版を筆頭に、当時の主要パソコン各機種版が発売されました。今回紹介するのはMSX版で、1985年3月にテープ版が、同年11月にはROM版が発売されています。
MSXは当時のホビーパソコンの中でも性能が貧弱な方の機種だったため、開発には苦労があったようです。特にRAM容量の少なさに悩まされたそうで、マップデータの圧縮法を工夫したり、自己書き換え型のプログラムを組むなどしてようやく実現できたと、移植担当の加藤英治氏は語っています。
画面数や怪物の種類が若干少なかったり、グラフィックスが簡素という差違こそありますが、その甲斐あってかMSX版は88版とほぼ同等の内容とゲーム性を実現しています。そればかりかわずかながら容量に余裕ができたのを利用して、PSGによるBGMやメモリーセーブ、画面のスクロール切り替え等、オリジナルにはない改良も加えられており、好移植と呼んで良い作品になりました。