MSX版開発後記

 「ハイドライド」の取扱説明書には、最後に制作スタッフによる開発後記が掲載されています。MSX版の開発後記は移植担当者である加藤英治氏が手がけています。加藤氏は当時19歳の大学生で、アルバイトスタッフとしてT&Eソフトに勤めていました。制作にあたっては、当時住んでいた下宿に開発機材を持ち込み、ROMやパソコン通信等を使ってT&Eソフト本社とデータをやりとりしていたと、Windows版収録のコメンタリーで述懐しています。古代祐三氏や宮崎友好氏の例を出すまでもなく、80年代中盤まではアルバイトが主要スタッフの一員となってゲームを作ることが珍しくなく、そのまま正社員になるのもよく見られることでした。加藤氏はその後同社の正社員となったようで、「遙かなるオーガスタ」等、同社が十八番とする3Dデジタルゴルフゲームを手がけることとなるのでした。
 さて、MSX版はテープ版とROM版とでそれぞれ開発後記の内容が異なります。ここではその両方を再録して紹介しましょう。


テープ版開発後記

 MSX版「ハイドライド」お買い上げいただきありがとうございます。
 この「ハイドライド」は、59年12月にオリジナルのPC-8801版が発売されて以来、ユーザーの方はもとより、関係各方面から高い評価をいただき、我T&E SOFTとしましても、あの「惑星メフィウス」に継ぐ人気商品となったものです。
 その後いろんな機種への移植がなされてきましたが、中でもMSXユーザーの皆さんからの要望が強く、今回の製品化となった訳です。しかし、「ハイドライド」をMSXで制作するにあたっては、さまざまな問題点が発生してきました。中でも一番の問題点はメモリー容量です。他機種の製品は全て64KのフルRAMで動いているのですが、今回のMSXでは32K以下ということで制作した為、オリジナル版とまったく同様のゲーム内容でプログラムを組むのは不可能に近い作業なのです。一番簡単なのは、マップをオリジナルの2分の1にしてしまえば一件落着となるのですが、それでは僕のプライドと、T&Eの恐ろしい開発スタッフ、はたまたMSXのユーザーの皆さんが許してくれません。苦心の末、マップデータの圧縮・プログラム中で、自分自身のプログラムを書き換えたりする手法等を考え出し、メモリーを32K以下におさめるのに成功しました(この為MSX版も、オリジナル版に比べ、エリア数はほとんど同じになっています。)そればかりか、わずかながらメモリーの空きさえできたのです。ホッと安堵もつかの間、このわずかなスキを他の開発スタッフが見逃すはずがありません。「メモリーへのロード/セーブ機能をつけろ」とか、「画面切り換えは、スクロールにしろ」などと、無理難題をもちかけ、結局これ等も実現するハメになりました。
 グラフィックの方も、デザイナーの中島君の昼夜を徹した協力により、かなりのできばえになったと思っています。  これらMSXへの移植作業は、ほぼ一ヶ月という制作期間にもかかわらず、かなり完成度の高い作品になったと思っています。MSXユーザーの皆さんいかがでしたか? 御意見・御感想等ありましたら、開発部加藤の方まで御一報下さい。
 最後にCMを一言、現在T&E開発部では、あのアドベンチャーゲームの大ヒット作「惑星メフィウス」のMSX版を制作中です。
 カセットテープ3本組で、4,800円。フルカラーグラフィックスで40画面以上という、これまでのMSXソフトには無かったような、すばらしいものになりそうです。発売は60年6月末か7月末頃になる予定ですので、是非買ってやって下さい。
 それでは、皆さんが無事バラリスを退治されることを祈って、サイナラ。

1985.3月吉日 T&E SOFT 開発部
加藤英治


ROM版開発後記

 MSX版「ハイドライド」お買い上げいただき、ありがとうございます。
 この「ハイドライド」は59年12月にオリジナルのPC-8801版が発売されて以来、ユーザーの方はもとより、関係各方面から高い評価をいただき、我T&E SOFTとしましても、あの「惑星メフィウス」に継ぐ人気商品となったものです。
 その後いろんな機種への移植がなされてきましたが、中でもMSXユーザーの皆さんからの要望が強く、今までテープ版(要RAM32K以上)という形で発売されていましたが、電源を入れたらすぐに始められる、また本体のRAMが32Kなくても8K以上あれば動くというROMカートリッジ版を出してくれという要望が強く、今回の製品化となった訳です。
 しかし、「ハイドライド」をMSXで製作するにあたっては、さまざまな問題点が発生してきました。中でも一番問題なのは、メモリー容量です。他機種の製品は全て64K BytesのフルRAMで動いているのですが、プログラム+マップデータ+グラフィックデータを32K以内、動作に必要なRAMは5K以内(3KはMSXシステム用に使われている)で、オリジナル版とまったく同様のゲーム内容でプログラムを組むのは不可能に近い作業なのです。従って、従来のテープ版では、マップデータの圧縮・プログラムで自分自身を書き換えたりする手法等を考え出し、オリジナル版と同様のゲーム内容にすることができましたが、今回のROM版では、データのSAVEにデータレコーダーを使わない、つまり、パスワードによってデータを保存するという方法で開発部の意見が一致し、それを実行することになりました。
 しかし、ただでさえ少ないメモリーに暗号化等のプログラムを追加したりするのは難しく、いろいろなところで苦労しました。しかし、苦労の甲斐があってテープ版よりも、さらにゲーム内容に面白みをつけることができました。たとえば妖精です。テープ版では3人とも白色であるのに対し、ROM版では、ほら、色がついているでしょう。気がつきましたか? その他、ゲームスピードの可変など面白くなっています。
 これらMSX版の「ハイドライド」は、テープ版の頃から関係各方面から「かなり完成度の高い作品だ」と評価されておりスタッフ一同喜んでおりますが、その喜びを全てのMSXユーザーにと、ROMカートリッジ版として再登場しました。
 MSXユーザーの皆さん、いかがでしたか? ご意見・ご感想等ありましたら、開発部加藤の方までご一報下さい。
 それでは、皆さんが無事バラリスを退治されることを祈ってサイナラ!

1985年10月 T&ESOFT開発部
加藤 英治

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