悪夢のようなエビルクリスタルが砕け散っていらい、人々は怪物に襲われる心配もなくなり、平和に暮らしていました。人々は街を広げ、生活を豊かにしていきました。その間に攻撃的な魔法の呪文は、その必要を失い、人々の記憶から忘れられていきました。反面、生活に役立つような魔法の呪文は、人々の生活に溶け込んでいったのです。
この地、フェアリーランドでは人間と妖精とが共存する美しい世界でした。しかし、人々の生活が豊かになるにつれて、妖精たちの姿はだんだんと見られなくなってしまいました。そう、まるで人間だけの世界のようになってしまったのです。
そんなある夜、地響きとともに巨大な火柱が立ち昇りました。そして、何事もなかったように、その夜は終わったのですが‥‥。
翌日、フェアリーランドに不思議なとびらが出現していました。このとびらは、中を通った人をどこか遠くへ飛ばしてしまうのです。それ以外にも、フェアリーランドに地割れが出現するなど、天変地異が起こるはずのないこの地では、絶対に考えられなかったような事態が次々と起こり始めました。
事態を重く見た修道僧たちは、この原因究明を一人の若者に命じたのです。自らの世界を守るため冒険に旅立つ若者、それがあなたなのです。
1987年は、コンピューターゲームが大きく盛り上がった年でした。この年発売のゲームを振り返ればファミコンでは「ドラゴンクエストII」「ファイナルファンタジー」「ロックマン」、アーケードでは「アフターバーナー」「R-TYPE」「ストリートファイター」といった歴史的名作が名前を連ねます。ハードではNECがPCエンジンで家庭用ゲーム機に参入し、新風を吹き込みました。
盛り上がったのはパソコンゲームも同じです。「メタルギア」「グラディウス2」「イース」「ソーサリアン」「ジーザス」等々、この年には今なお讃えられる名作中の名作が数多く登場しました。
「ハイドライド3」は、そんな1987年に現れた歴史的名作のひとつです。
「ハイドライド3」三態。88版・MSX1版・MSX2版。
この3機種は製作決定当初より同時開発されており、いずれもオリジナルバージョンと言えるもの。
ハイドライドシリーズは、レトロゲームファンには言わずと知れたT&Eソフト製作の人気CRPGです。84年に「ハイドライド」(以下「I」と略)、翌85年に続編「ハイドライドII」(以下「II」と略)が発売され、それぞれ大きな反響を呼びました。アクションゲームの操作性、RPGの成長要素、AVGの秘密探しを三本柱としてARPGなるジャンルを確立し、日本PCゲーム史上にその名を残しています。
「ハイドライド3」(以下「3」と略)はその3作目でシリーズ最終作となる作品です。サブタイトルは「異次元の思い出(The Space Memories)」。「II」製作後から作者内藤時浩さんは「もう続編は作らない」とうそぶいていましたが、横山T&E社長(当時)から年末商戦の目玉になる作品を求められたことと、続編希望の声の多さに応え、製作が決まりました。ナンバーがローマ数字ではなくアラビア数字なのは、続編は作らないと言ったことへの申し訳で、「IIIは作らないと言ったが3なら作る」というシャレであります。
「3」は87年2月に製作が決定し、4月より開発が本格化。幾多の困難を乗り越えて10月に完成し、11月21日に88版が、12月にはMSX1・MSX2版が発売されました。当時87年はT&Eソフト創立5周年でもあり、その記念作として大々的に宣伝もされています。
「II」では「I」を越えるスケールと数々の新機軸を実現し、プレイヤーを驚かせました。それは「3」も同様で、前作「II」からさらに進化しています。
まずマップは300画面以上とより広く、怪物は35種類、アイテムも68種類とより多く、グラフィックはより美しくなりました。BGMも一気に増えて全15曲。これまでになく大きくなったスケールは、MSX1・MSX2版が4メガロムで供給されたことに端的に示されています。
MSX2版ROMカートリッジ。スケルトン仕様でこれでもか!と言わんばかりに4メガ ROMチップをアピールするデザイン。
2メガでも大容量と認識されていた当時、4メガという容量は桁外れのものだった。
そのスケールに詰め込まれた舞台も、200階建ての塔、巨大ドラゴンの棲む洞窟といったファンタジーらしいものから、機械がうごめく宮殿、未知の空間等々SFめいたものまで奇想天外かつバラエティに富み、物語と奥行きを感じさせます。戦闘システムはリーチと威力の異なる武器を使い分けるアクション性の高いものへ。より本格的なRPGを指向した「時間」と「重量」の概念や、日本語・英語の二ヶ国語から選べるメッセージ表示など、意欲的な試みも盛り込まれました。
そして何より、シリーズ一番の魅力である、秘密に満ちたフィールド―すなわちフェアリーランドを―アクティブに巡り歩く楽しさはもちろん健在。それを象徴するかのように、本作では「フェアリーランドを覆いつつある危機の原因を究明すること」が目的となっています。
シリーズは元祖にして時代の先端を走り続けたARPGでしたが、それはまた「3」も同じでありました。このように「3」は順当な進化を遂げ、最終作らしくシリーズ集大成と呼ぶにふさわしい内容となっています。それは当時的な「ARPG」の完成形であると同時に、これからの「ARPG」の形を示すものでもありました。(後編に続く)