冒頭で述べたとおり「ハパザード」はその後シリーズ化され、全3作が作られました。そのシリーズの2作目が「ハパザード2宇宙篇」(以下「宇宙篇」と略)です。
「宇宙篇」は前作から3ヶ月後、1990年3月に公開されました。やはり前作同様、LINKSからのダウンロード形式・フリーでの配布です。動作環境も同じでVRAM128KBのMSX2以降・要ディスクドライブ。遊ぶ前に構成ファイルをダウンロードし、1枚のディスクに収めるという作業が必要でした。
シリーズ1作目「ハパザード」はご覧いただいたとおりのドラクエ式ファンタジーRPGですが、「宇宙篇」ではがらりと変わりました。世界観は剣と魔法のファンタジーからメカと科学のSFへ、ジャンルもRPGからAVGへと一新し、前作とは趣を大きく異にしています。ストーリーは至ってシリアスなもの。時は未来、舞台は宇宙。地球侵略を企むドロイド星人の圧倒的な戦力の前に壊滅寸前となった地球防衛軍。絶望的な状況下、最終兵器を搭載した防衛軍の新鋭艦「i-SPY号」が、人類の命運をかけた戦いに臨みます。
しかしギャグとパロディ満載なのは前作同様です。負けたら滅亡という深刻な状況にありながら繰り広げられる戦いは場当たり的で、登場人物は揃いも揃って人類の命運を背負っている自覚があるのかないのかわからないといったていたらく。主なターゲット層である中高生へのサービスか、お色気シーンももれなく出てきます。
さらに本作には前作のモンスターやアイテム等があれこれ登場します。i-SPY号のクルーは前作に登場した魔物どもですし、助っ人として前作の主人公まで乱入してきます。BGMにも前作のフレーズがいくつか織り込まれ、つながりを印象づけます。ジャンルや舞台設定こそ違えど、全編にわたるおちゃらけたノリは健在です。
隙あらばぶち込まれるギャグの連続。宇宙に行ってもハパザードはハパザードだった。
このように、ジャンルやスタイルこそ違えど、本作は前作を踏まえた上で制作されており、完全に前作をクリアしたプレイヤーを対象としています。ギャグの大半は前作を知らないと理解できないものばかりで、ファンサービスとしての性格が強いもの。それは制作者側も認めるところで、LINKS会報「CHANNEL ZERO」上で公開が告知された際も「第1弾をやっていない人には、面白さ半減でしょうね。」と、併せて前作もやってみるよう促していました。
最終兵器とは「シをマネキのツメ」だった。エンディングがどうなるか危ぶまれつつ、ガイジンは圧倒的な強さでドロイド艦隊を捻じ伏せる。
AVGの体裁を取っていますが、実際のところ、謎解き要素は皆無です。選択肢によって展開が変わるとか、推理しないと先に進めないといったことはありません。本作はほぼ一本道のストーリーを提示されるまま追っていく、いうなれば「コンピューター紙芝居」なので、物足りなさを覚えるプレイヤーもいることでしょう。また、前作をクリアしたプレイヤー向けに作られた「内輪ネタ」の性格が強いため、前作のネタやノリが理解できないプレイヤーが遊んでも楽しめるかは疑問です。ただし一本道AVGになった分、テンポは前作以上によくなり、ヴィジュアルの演出面も強化されたことは見逃せません。
「宇宙篇」は、解くことよりも、物語と世界観を見せることに主眼が置かれた作品になりました。ギャグとパロディだらけの独特な世界とノリを味わう作品という点で、本作はやはり「ハパザード」の続編であると言えましょう。
ドロイドには巨大彗星衝突による滅亡の危機が迫っていた。そのため新たな母星として地球を欲していた。
彗星と戦うと言いだしたガイジンに一縷の望みを見いだし、ドロイド艦隊は彼と共に母星に去って行く。前作やってないとわからん展開。
「ハパザード」は基本パソコン通信のダウンロードコンテンツでしたが、1と2の両方を収録したパッケージ版も販売されました。パッケージ版は90年3月に発売されたようです。発売はベスト電器。「ハパザード」「宇宙篇」の他、ネットワークの拡大を目指すオリジナルボードゲーム「人生ゴロゴロ」が収録されていました。全国のベスト電器でのみ販売されていたらしく、入手できる場所はごく限られていた模様です。価格は3000円ほどで、マクドナルドのハンバーガーチケット付き。ダウンロードに要する電話代やアクセス料金を考慮するとお買い得という触れ込みでした(定額料金サービスがなかった80年代当時、パソコン通信は使えば使うほど、通信料金と電話代がかさんでいったのです)。
「ハパザード3レモン篇」。3作目でもまた大きく内容が変わり、配信方法も変わった。画像は当時のMSXファンから。
その後90年7月には、3作目となる「ハパザード3レモン篇」が公開されました。こちらはダウンロード配信されず、コンパイルのディスクマガジン「ディスクステーション#15」内の一コンテンツとして提供されています。世界観はまたもや大きく変わり、今度は学園物。ファンタジーやSFとも無縁の現代のとある学校を舞台に、主人公の少年が、思いを寄せる美少女レモンちゃんに気持ちを伝えようと悪戦苦闘するという内容のようです。
会報「チャンネル・ゼロ」に掲載されたLemon探偵団と会員プロフィール機能の告知
「プライベートのメールで2ショット」「キミにピッタリのコが現れるに違いない」等々の文句で男子会員を煽っていた。
ところで「レモン」の名前は、LINKSが同年春に始めた「LEMON探偵団」と関係があるのかもしれません。「LEMON探偵団」は、当時学研が刊行していたティーンズ誌「Lemon」とタイ・アップした企画です。「Lemon」読者の女の子200名にモニターになってもらい、LINKSに参加してもらうというもので、彼女らと交流できる専用BBSやチャットが設けられていました。
当時のLINKSには、男女会員どうしの交流を目玉にしようとしていた節があります。「あの子が探せちゃう」を謳い文句に、年齢・居住地・性別等の条件で会員を検索できる(しかも顔写真も付けられる)「会員プロフィールサービス」が始まったのもこの頃でした。今思えばその後の「出会い系」に通じる危うさも感じますが、個人情報に対する意識が今ほど厳しくなく、ネットワークがまだ「閉じられた」空間だった当時だから、LINKSのような青少年向けのサービスでこんなことができたのかなという気もします。
「宇宙篇」の主人公マーク・ヴュエル少尉。揃いも揃ってフリーダムな連中ばかりの本作において、ツッコミ役を一手に引き受ける苦労人。